私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第捌話 唯一の解決法

 

――目の前で幼い椿と私によって繰り広げられる惨劇。

 

それを前に、私は記憶の映像だと理解しながらも、強く拳を握りしめてこの先の出来事を見続ける。

 

……自分の"神妖の力"を完全に扱う為に、そして私や椿を取り囲んでいる状況の真相を掴む為にも、この記憶の全てを思い出していかなくちゃいけないんだ。

 

15本もの尻尾を振り回し、幼い椿が全員を攻撃している中、幼い私は貫いた白狐さんの腹から血塗れの腕を引き抜こうとしていた。

しかし、その腕を白狐さんは強く掴んで地面に足を踏ん張り、これ以上は私が動けないように引っ張っている。

 

『敵性個体の生存を確認、これよりーー当機に異常が発生。術式の発動が不可能……なぜ?』

 

『当然だ、綾とやらよ……本当のお前は、殺したくないと思っていたんだろうな。急所は僅かに外れたぞ。それと、俺には治癒の妖術と防御力を上げる"神妖の力"がある』

 

『攻撃時の状況を分析……直撃寸前、神術による防御があった事を確認。本来の私……理解不能。当機の性能をもってすれば、現在の敵性個体の排除は――』

 

『そんなものはどうでも良い。それよりも綾、消せないのだろう?……その意思を』

 

『理解不能……黙って……!』

 

そうして幼い私が白狐さんに押さえられていた時、椿の方は槍のように飛ばした沢山の尻尾を銀狐さんが弾いたと同時に、金狐さんの尻尾が幼い椿を巻き付けて動きを封じていた。

 

『これは……!?』

 

『大人しくしなさい、椿。貴方がどうやって攻撃するのかくらい、簡単に読めますわ。だって、私は母親なんですから』

 

『くっ……!離しな……さい!!』

 

幼い椿は異様に焦った様子で硬質化させた尻尾を四方八方へと振り回しだし、その切っ先の1つが金狐さんを捉えようとする。

すると……!

 

『ぬ、ぐぅ……っ!!』

 

『大地さん!?ちょっと、何をやっているんですか!?』

 

『取り戻すのでしょう!?貴方がたの大切な娘と、綾を!!ならば……俺とて、指を咥えて見ている訳にはいきません!』

 

そう言ってオジサンは懐から抜いた脇差しで尻尾を防ぎつつ、それを弾いた瞬間に飛びかかってきた幾本もの尻尾も、即座に弓矢を放って軌道を逸らしていく。

 

だけど、それでも1本の尻尾が金狐さんを突き刺そうとしてくる。その時、幼い私を振り払って白狐さんが前へと立ち、金狐さんの盾となる形でドスリと尻尾の一撃を胸で防いだ。

 

『が、は……!』

 

『白狐、何故です!?今の攻撃、私は対処のしようがあったのですよ!それなのに……!』

 

『ふん……稲荷は守り神。どんな者でも、どんな事でも……守るが使命よ。それに……未来の、妻に……自分の母親を、攻撃させるなんて、事……させる、わけには……』

 

そう言い終わらないうちに、白狐さんは尻尾を掴んだ状態でピクリとも動かなくなってしまった。

 

そんな……私と椿は、あの時に白狐さんを……!

 

すると、その白狐さんの身体が青白く光って球のようなものが抜け、社の方に立っている天狐様の手元へと飛んでいく。

 

『ふぅ……魂の方は傷ついていなかったな。よし、また新たな身体を与えれば白狐は……しかしその前に――おっと!』

 

『そうでしたね。稲荷に仕える狐は体が朽ちても、石像等に魂を移して仮の体にすれば、まだ生きながらえるんでしたね。それならば、その魂ごと消し去りましょう』

 

『ふん……暴走しているとはいえ、許嫁をも手にかけようとするか……金尾!銀尾!綾の方はまだか!?』

 

そう叫びながら天狐様は、幼い椿の放ってくる尻尾の凄まじい連撃を回避し続ける。

それにしても、まさか白狐さんの妖気が回復しにくい理由が、仮の身体になっていたからだったなんて……。

 

『今は妖気を安定させながら、この子の力を極限まで抑えているのです。その間は強力な妖術は使えないので、こうやってしのぐしか無いの。だから急かさないで下さい!』

 

だけど、さっき白狐さんに振り払われた幼い私を尻尾で捕まえていた金狐さんは、狐の形にした両手から様々な妖術を放って自身に飛んでくる攻撃をいなしている状態だった。

どうやら、幼い椿や私に対する強力な封印を展開する為に集中しているみたいだ。

 

そんな中、満身創痍な妲己さんはバッと立ち上がりながら、同じく疲弊した華陽に向かって自身の影を伸ばして殺生石を取り返そうとする。それに気付いた華陽はギリギリで身を翻して避けようとしたけど、その半分がパッキリと割れて妲己さんの腕の中に収まっていく。

 

『くそ!妲己ぃ~!アンタァ~!!』

 

『ふん、良い気味ね!これは隙を伺って、こっちの注意が疎かになったアンタの失態よ!しょうが無いから、半分はプレゼントしてあげるわ。アンタの目的未達成の記念にね!それを見て、毎日悔し泣きでもしていなさい!』

 

そして、妲己さんはそのまま影の腕で薙ぎ払うようにして華陽を突き飛ばし、彼女の後ろに展開されていた妖界と人間界を繋ぐ空間へと吹っ飛ばす。

 

『くっ……妲己ぃぃいい!!』

 

その言葉を最後に、華陽は悔しげな叫び声をあげながら空間に飲み込まれて消えてしまった。

そして、すぐさま妲己さんは天狐様に振り返って声を荒らげる。

 

『天狐!!この扉を閉じて!それと妖気を溜めているのは分かっているわ、だからアンタも早く奥の手を発動させなさいよ!。この裏稲荷山を私達ごと、人間界と妖界の狭間に移すのでしょう?』

 

『フッ、気付いていたか。あぁ、もちろん扉は閉める。しかし、狭間に移すのは少し待て……どうも金尾銀尾が、まだ何か考えていそうだからな』

 

天狐様がそう言いながら顎で指し示した先では、椿の両親である金狐さんと銀狐さんが天狐様を睨みつけていたよ。

やっぱりというか、幼い椿と私を助ける為なら、邪魔する相手は誰だろうと容赦しないといった感じだ。

 

『椿と、その友達の綾ちゃんは助けます。だけど、私達と一緒にこんな所に居させる気はありません』

 

『あぁ、そうだな……ついでに、椿のあの願いも叶えるか?同時に発動すれば可能だろう』

 

『あら、そうね……そうしましょう。さて、綾ちゃん……もう大丈夫よ』

 

『う、うぅ……』

 

私の暴走を何とか押さえ込んだ2人が何かを呟いている様子に、幼い椿は面白くなさそうな表情で空中から見下ろしている。

 

『やれやれ……1人は逃がされ、もう1人は抑えられましたか。しょうが無いですね……こうなれば貴方達を消してから、真っ先にあちらの天狐を消しに行きましょうか。ですが、先程は良い判断でしたね。あの妖狐が本来の姿になれば、その狭間から脱出するのも可能かも知れませんから』

 

幼い椿は吐き捨てるようにブンと尻尾を振るい、もう魂の無い白狐さんの身体を吹き抜けに投げ捨てた。そして、そのまま2人に無数の尻尾の槍を向けようとする。

 

すると、今度は彼女に向かって黒い炎と黒い雷が交差するように飛びかかってきた。

あの妖術は……黒狐さんと妲己さんだ!

 

『無茶をするな、妲己。さっきの戦いで、お前はマトモに動くのもキツいハズだろう?』

 

『あら、お気遣いありがとう。でも、私の心配なんてしなくて良いわ。こんな性悪女、今回の件が片付いたらとっとと忘れなさい』

 

2人共にフラフラな状態でありながら、それでも妖術で椿の尻尾の注意を引いて、金狐さんや銀狐さんのサポートをする。

 

『もうよせ、妲己……お前、死ぬ気か?』

 

『だから、忘れなさいっての。こんな悪の代名詞たる私なんて、嫁にするだけ損よ。だから……』

 

『それなら何で、あの時に華陽と一緒に逃げなかった!』

 

そんな妖術の支援をしている最中でも、妲己さんの投げやりな物言いに黒狐さんは心配そうな声色で叫ぶ。

それに対して、妲己さんは平然としていながらも、溜め息を吐くように視線を俯かせた。

 

『ちょっと、ね……単なる気まぐれよ。あの子の泣き顔……今住んでいる所で、私と仲良くしてくれていた子と一緒だったのよ』

 

それから妲己さんは少しだけ悲しい表情を黒狐さんに浮かべ、その後に口元へ小さな笑みを作ってみせた。

 

『ごめんなさい、黒狐……あんたとの新婚生活、本当はちょっと楽しみにしていたわ。けれど、どうやら無理みたい……』

 

すると、そう妲己さんが言い終わらない内に黒狐さんはギュッと片手で彼女を抱きしめる。

 

『なっ……!?』

 

『妲己、何もお前が犠牲になる必要は無い。こんな……誰かの為に動ける奴が、完璧な悪人なわけが無いだろう』

 

『黒狐……』

 

『大丈夫だ。俺も一緒に、椿を止める。お前を死なせはーーっ?!』

 

『く、黒狐!?!?』

 

だけど、その互いに抱き合おうとした瞬間に黒狐さんは後ろから椿の尻尾で貫かれ、まるで2人の仲を裂くようにブンと空中へ投げ出されて地面に叩きつけられた。

 

『が、は……っ!』

 

『黒狐!しっかりして、黒狐!!』

 

その突然の奇襲に、ようやく黒狐さんへ心を開きかけていた様子だった妲己さんは、椿の尻尾を払い除けながらも酷く取り乱して叫ぶ。

 

すると、そんな彼女を嘲笑うかのように片手に白金色の炎を宿らせた椿が、ゆっくり妲己さんと倒れ伏す黒狐さんとの間に降りたってくる。

 

『最後のお別れが済んだ様ですね。では今度こそ、その魂ごと……』

 

『ふざけないでよ……椿!それなら、何であんたも泣いているのよ!』

 

『なっ!?これは、何故……また?』

 

『いい加減、目を覚ましなさい!本当のアンタは、嫌だって言っているのよ!こんな事はもう、やりたくないって!!』

 

『くっ……!大妖狐の分け身の分際で、うるさいですね……』

 

その妲己さんの必死な叫びで、幼い椿は攻撃の手を止めて再び頭を抱えて苦しみだす。

そんな隙を突いて、妲己さんは自身の影から何本もの腕を伸ばし、彼女の手足や尻尾の根元を掴んで身動きを封じた。

 

『どうしても無理みたいね……それならーー金狐、銀狐!予定通りに封印しなさい!ついでに私の精神も、一緒にこの子の中に封印しなさい!この子の力を抑える為に分離してあげる!』

 

『なっ!妲己、そんな事が可能なのか?!』

 

『私には特殊な力があるのよ、銀狐。そう、華陽も気付いていない力……それが『分離』の"神妖の力"よ!ただしこの場合だと、私の精神をこの子の中に放り込まないといけないけどね。だから、ついでにそのまま封印もして私の身体を空間の狭間に置いて貰えば、もう華陽が目的を達成する事は二度と出来なくなるわ』

 

そう妲己さんは、黒狐さんの魂が天狐様の手に向かって飛んでいくのを見届けながら、既に事切れた彼の身体に寄り添って、その瞼を閉じさせた。

 

そっか……なんで妲己さんの魂が椿の中にあったのかずっと疑問だったけれど、こういう事だったんだ……。

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