私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第玖話 妖怪と人間を繋ぐもの

 

『くそ!流石にこれではマズい……急いで2人を、仮の体に入れないと』

 

黒狐さんの魂も飛んできて両手が塞がった天狐様は、幼い椿の動きが封じられている現状でありながらも慌てた様子で周囲を見渡している。

 

よく見ると、その両手にある狐2人の魂は徐々にポゥとした輝きを失って消えつつあった。

 

『あぁ、もしかして……その魂、しばらくしたら消えるのですか?』

 

そんな様子を見た椿は嘲笑うような眼差しを天狐様へ向けるが、それでも妲己さんの術からは未だ逃れられてはいないみたいだ。

でも、妲己さんの方も無理に妖気を使っているからか、その表情には焦りと疲れが見えている。

 

『金狐、銀狐!まだなの?!流石にこれ以上はキツいわよ!』

 

『もうすぐよ、妲己!それにしても貴方、その状態で分離の力は使えないの!?』

 

『そうしたいのは山々だけど、自分よりも力が上の者には効かないのよ!だけど、不安定な状態の今のこの子なら、私の精神を中に入れれば何とか分離できるはずよ!』

 

そして、そんな妲己さんの隣に金狐さんも降り立ちながら、椿を縛っている影の妖術に自身の"神妖の力"も流して拘束力を強めていく。

 

なるほど……妲己さんの力も、そういう欠点があったから椿の中に入り込まざるを得なかったんだ。

 

――と、そんな事を考えている間にも、金狐さんと銀狐さんの妖気が感じた事のない程に高まり、それと同時に天狐様へ向かって2人が叫ぶ。

 

『よし!こっちの準備は出来たぞ!』

 

『天狐、そちらは空間の狭間の方を……!』

 

『あぁ、分かっている。だが、その前に白狐と黒狐を……よし、これで仮の身体の方は大丈夫だ。人間界の方の伏見稲荷に飛ばしたとはいえ、とりあえずの急場しのぎにはなるだろう。しかし……やれやれ、新しい身体を作ってやれそうにはないな』

 

天狐様は狐2人の魂に何かの力を与え、それを空に上げて裏稲荷山の方へと飛ばした。

 

あの方向は……かつて椿が人間の男の子として暮らしていた時、いじめられた帰りに通っていた方だ。

 

あっ、そうか!あの稲荷の石像に白狐さんと黒狐さんの魂が入っていたから……って、それにしたっても椿と狐2人が運命的な再会過ぎるような気がするな。

 

こうなると、ますます私が椿と再会した時の記憶が……うん、普通に椿が通ってた学校に転校生として入ってきてた形だわ。普通に悔しい。

 

『くそ……!八坂も閉じ込めようとしたのだが……あいつ、いつ逃げた?!大地、お前の持つ妖具で何か分からんのか!』

 

『むぅ……駄目です。既に遠くまで逃げられたようです、天狐様。私が綾にかかりきりとなっている時間を狙うとは、やはり只者ではありませんね』

 

『概ね、華陽を人間界へ追放した際に一緒に紛れ込んだんだろう。全く……ひどく食えん従者を持ったものだ』

 

ちなみに、完全に無力化された幼い私の方は、オジサンが何やら額に手を当てて術のようなものを唱えていたよ。

術から感じる力から、どうやらアレで私の記憶を封印したみたいだけど……ここにきて蚊帳の外になっちゃいますか。

これじゃあ本当、場をかき乱すだけかき乱しただけで、何の為にオジサンと此処へ来ていたのかは全く分からないぞ。

 

その一方で、幼い椿は器用にも妲己さんの影の妖術を解除し、天狐様や自分の両親に向けて妖術を放とうとしている。

 

『やれやれ……最初に何とかしないといけなかったのは、貴方達でしたか――おっと、危ない危ない。流石は悪の妖狐、不意打ちはお手の物といった所でしょうか?』

 

そこで妲己さんが再び両手から別々の妖術を放って、2人を狙っていた椿の沢山の尻尾の注意を逸らした。

 

しかし、その瞬間に妲己さんは尻尾を変化させた縄のようなもので、椿に縛り上げられてしまったよ。妖術すら使えなくされている様子からすると、ただ縄のじゃなく注連縄(しめなわ)に変化させたっぽいな。

 

『あの2人の邪魔は、させないわよ……ぐぅっ!?』

 

『全く、貴方はもう限界でしょう?だから、もう死んで下さい』

 

そうして椿が妲己さんを尻尾で締め潰そうとした時、どこからともなく飛んできた一筋の光が、縫い針のように沢山の尻尾を1本1本と掴んで解きだした。

 

『銀雷線(ぎんらいせん)!椿、大人しくしているんだぞ!』

 

なんと、その正体は銀狐さんが物凄い量の妖気を使って、自分自身を雷そのもののように変化させた姿だった。

 

『くっ!ちょこざいな……!』

 

『大丈夫よ、椿……すぐに終わるから!』

 

『なっ!?――うぐっ!!』

 

そして、それに驚く間もなく尻尾を封じられた椿は一瞬にして、彼女の影から自分の分身を出した金狐さんに取り押さえられてしまった。

 

流石は夫婦といった感じで一瞬の鮮やかな連携プレーだと感心していると、そこで妲己さんが叫んだ。

 

『天狐、今よ!私の魂を肉体から剥がして!!』

 

『呼び捨ては止めろ、妲己!まぁ良い、遠慮無くいくぞ!!』

 

そう言った天狐様は紫色に輝く左手から妖術を発動し、青白い魂を妲己さんの身体から抜き取る。

すると、あらかじめ意図して動いていた為か、そのまま魂を失った妲己さんの身体は、あの底の見えない吹き抜けへと落ちていったのだ。

 

つまるところ、それは華陽の計画が二度と成就する事はない事を意味していた。妲己さんが自分の身体という、とてつもない代償に……。

 

『妲己……貴方、そこまで徹底的に……』

 

『さて、次は俺達だな。椿にはもう、二度と会えなくなるだろうが……』

 

『そうね、あなた。でも、椿をこのままにしておく訳にはいかないわ。この子の明るい未来の為に、親が体を張るのは当然の事よ』

 

金狐さんと銀狐さんが椿を挟むように降り立つのを見届けた後、天狐様は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

『すまぬ、2人共……今回ばかりは、この私も償いをしないといけないな』

 

『えぇ、本当よ……天狐』

 

『あぁ、そうだな……だから、この裏稲荷山全体を狭間にし、そして私はその中で、番人に徹しよう。二度と此処に、人が来ないように……な』

 

そうして天狐様は、両手を広げながら術を詠唱し始める。

 

感じる妖気の量や質からして、どうやら此処ごと空間を切り取る形で椿の力を封印するのだろう。

……でも、そんな中でも金狐さんと銀狐さんは、抵抗して暴れる幼い椿に優しい笑顔を向けていた。

 

『くっ!貴方達は、このままで良いと思っているのですか!?この醜い世界を、一から作り直そうとは!』

 

『もちろんよーーと、ハッキリとは言えないけれど。だけど、この世界はそこまで弱くないわ。きっとまた、綺麗な世界になるわ』

 

『だから、俺達はこの世界を……そこで生きる人々を信じている。裁きを求めるお前の意志は、まだ早い』

 

世界を信じる、か……ここまで大きなスケールで誰かの為を想えるなんて、やっぱり椿の両親と言う他ない凄さだ。

 

そう私が思っている内にも、金狐さんと銀狐さんは幼い椿の額に手を当てて、封印の術式を発動させる。

 

『『封鎖封印(ふうさふういん)』』

 

その言葉を唱えた瞬間、光る鎖みたいな形となった金狐さんと銀狐さんの尻尾が、スゥッと透り抜けるかのように椿の身体へと突き刺さった。

 

『かはっ……あっ……』

 

『大丈夫よ、椿……痛くないわ。ちょっとあなたの中の力を、私達に移して封印するだけだから』

 

『しかしマズいな。かなり内側から抵抗される。早く妲己の魂を!』

 

『そうね、天狐!お願い!』

 

『なるほど……分かった!――はぁっ!!』

 

天狐様は自身の手の上にあった、黒く光ている妲己さんの魂を向かわせる。

そして、椿の身体へと魂が無事に入ったのを見届けた2人は、息を切らしながらもホッと一息をついた。

 

『流石は大妖だな。たとえ魂だけになっても、しっかりと自分の意識があり、自ら向かって行くとは』

 

『言葉は発せ無くても、ね。だけど、あなた……これ以上はもう、私達の妖気が……』

 

『あぁ、信じられないな……まだ、半分しか術がかかっていないのに……』

 

良く見ると、金狐さんと銀狐さんの鎖は何か黒い液体みたいなものを椿へと送り込んでいて、それは術をかけている2人をも蝕んでいるようにも感じるよ。

 

そんな様子の2人に対して、ゆっくりと瞼を閉じながら幼い椿は小さく鼻を鳴らす。

 

『愚かな事を……人は、妖怪は、世界は……この妖界の存在によって、その命運を左右されている。妖怪達の力、それが何よりの証拠……でしょう』

 

すると、術を維持するのも精一杯な状態でありながらも、その言葉に対して金狐さんと銀狐さんは穀然とした表情で答えた。

 

『確かに……人間界にいる妖怪達は存在を忘れられたら、妖気があろうと無かろうと力が出せなくなり、最悪消滅する』

 

『逆に妖界に居る妖怪達は、妖界のあり余る妖気で、たとえ人間界での存在を忘れられたとしても、その自らの存在を維持できるわね』

 

そうだったんだ……これでようやく、ずっと気になっていた事の1つが理解出来たよ。

何で人間界に妖怪の為の妖怪センターがあるのかと思っていたけど、自分達の存在が消えないようにする為の方法の1つでもあったんだな。

 

それで過去に悪い妖怪が暴れたような事件が起こらないように、センターは厳しく人間界で暮らす妖怪達に制度を設けていた訳だ。

 

『そんな不安定な世界……いずれ歪みが生じます。あの、烏森などといった家系のように……!』

 

『だから俺達はな、世界はそれ程弱くないと信じている。ひっそり人間と妖怪が関わる世の中も、きっと変わるとな』

 

『決して、何かが起きるなんて事は無いわ。世界が……人々が自ら変わろうと動く事こそが、私たち妖怪と人間を繋ぐ架け橋になるのだから……!』

 

その希望に満ちた2人の訴えを受けた椿は、少し動揺しながらも何処か安心した表情を浮かべた。

 

『そうですか……まぁ、精々そう信じていなさい。世界は……いずれ……ですが、私は……諦めませんよ……!』

 

しかし、それでも椿は身体の中に妖気を集中させて、自身を縛る鎖ごと金狐さんと銀狐さんを吹き飛ばそうとする。

 

『くっ、ダメだ……まだ抵抗するか!? 仕方無い、分離された力を半分だけ俺達の中に封印する!椿を暴走させている力を、それぞれに分けるぞ!』

 

『そうね……こうなったら後はもう、あの子の中に入った妲己に賭けるしかないわね。それと、あの妖術も!』

 

『分かっている!』

 

そう言うと、2人は椿に向かってそれぞれ片方の手のひらを突き出し、封印を完成させる為の妖術を発動した。

 

『『性別変化(せいべつへんげ)!記憶封鎖(きおくふうさ)!』』

 

妖術が発動した瞬間、金狐さんと銀狐さんの尻尾の鎖がサラサラと砂のように崩れて消えていく。

 

『くっ、力が……!私の、身体が……うぅ、あぁぁ……!!』

 

それと同時に、術をかけられた幼い椿の身体は、宙に浮かびながら優しい光を放つ玉に包まれていった。

 

『女の子のままだと、華陽や八坂に狙われるかも知れないしな……』

 

『そう、ね……。だから椿、あなたが慌てて言ったあの願い、叶えてあげるわ……』

 

そして、その姿は男の子の姿……彼女が"槻本 翼"だった時のものに変化していった。

 

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