私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
白金だった幼い椿の毛並みは、金狐さんと銀狐さんが施した封印の術によって元に戻っていく。
しかし、彼女が人間の男の子へと変化していくと同時に、2人の身体は徐々に灰色がかった石の姿に変化してしまっていた。
『パパ~!!ママ~!!嫌だ~!!』
それを目の当たりにした椿は、封印で薄れていく自分の記憶を何とか忘れないように必死に叫ぶ。
『椿、この事は全て忘れるんだ。俺達の事も覚えていたら、きっと思い出してしまうかも知れない。辛いだろうが……全て消させて貰う、ぞ……』
『椿……貴方は、人として新しい生を歩みなさい。貴方をある場所に送るわ……そこの妖怪達は、良い妖怪達ばかりよ。だから、きっと幸せな生活が出来るはず、よ……』
『わかんない!そんなのわかんないよ〜!!パパ~!!ママ~!!』
光の内側から泣き叫ぶ彼女に、石化していく2人は両親としてあらん限りの笑顔を彼女に浮かべてみせた。
『椿、大丈夫だ……二度と会えない訳じゃ、ない。妖界で妖気を失っても……妖界を漂う妖気で、ギリギリ身体は保たれるんだ』
『代わりに石化しちゃうけれどね……でも、大丈夫よ。私達は永遠に石像になろうとも、あなたを愛し続ける、わ……』
あまりの状況に私は何か方法はなかったのか、と社の前に立つ天狐様の方を振り返る。
すると、この人もまた金狐さんや銀狐さんと同じように、足元から徐々に石化していくのが見えた。
『ふっ……さっき、烏森の2人は人間界へと戻した。もう此処は、二度と開かれないだろう。きっと、今生の別れになるやもしれん……金尾、銀尾、良いのか?』
『えぇ、愛する娘の為ですから。だけど、椿……これは貴方のせいでは無いわ』
『そう、だ……こんな辛い事は、お前の為にも忘れるんだ。そして、幸せな生活を送れ……それが俺達の、願いだ……』
『ヤダァ!そんなの嫌だぁ!!わた……"僕"、良い子にするから!だから行かないで、離れないでぇ!!』
そんな……まさか、3人とも妖気を使い果たしていたなんて。クソッ、こんな時に何で私は椿の助けにすら……クソ!クソッ!
『嫌だ嫌だ嫌だ!!戻って!パパとママが……パパとママがぁぁあ!!うわぁぁぁあん!!』
しかし……その私の願いは届く事なく、光の玉に包まれた椿は、天狐様が最後の力を使って開いた空間の裂け目へと飲み込まれ、そして消えてしまった。
◇◇◇
そこからの記憶は、あの長く住んでいた私とオジサンの古い一軒家……時間凍結の術で何十年もかけて暴走を抑えられた、その後の幼い私が目を覚ました記憶だった。
その時の私にはもう、あの世界で知り合った椿達の事や、自分が烏森の一族であった事すら忘れ去ってしまっていた。
――そうして、新たな"烏森 綾"としての私の人生が始まった。
「……どうだった?君の封じられた記憶は?」
景色が白い空間に戻ると同時に、狐の面を着けた子供達が私へと話しかけてくる。
「あぁ……全部、思い出したよ。椿の両親の事や、白狐さんや黒狐さん……それに妲己さんの事。そして……椿の事も、全部だ。あの妖界の稲荷山の事件があったから、そこが空間の狭間に封印されたから……妖界の稲荷山には、ずっと行く事が出来なかったんだ」
自分の心にあったものを全て吐き出すように語り終え、私は酷い自己嫌悪感で頭を掻きむしった。
――幼い私がオジサンと稲荷山に来たのは……烏森の家から雫が盗み出し、そして与えてくれた『鈍色の狐』の力を天狐様に何とかしてもらおうとしたからだ。
烏森家は大昔、妖狐の里から非常に強力な狐の魂が封じられた数珠を盗んで、それを媒体に『自分達に仇なす妖怪を退治する為の妖狐』……すなわち『鈍色の狐』を造り出した。
それを良しとしなかったオジサンや雫、それに人間だった頃の小次郎は、一族を壊滅させる形で全てを終わらせる為に……そいつを私の中に封じ込めて消し去るつもりだった。
……だけど結果は失敗したどころか、椿が狐2人を酷い目に合わせた挙げ句、両親からも離れる原因になってしまったんだ。
「これで分かったと思うけれど……椿ちゃんは妲己の力によって、その力を分離された。だから、その強力過ぎる天照大神の力よりも、天狐に与えられた天津甕星の力が、強く表に出るようになった」
「そして、天照大神の力に惹かれた『鈍色の狐』は、機械的で不完全ながらも君の意識を乗っとって、それに付き従おうと烏森の植え付けた欲望のままに動いてしまった……という訳だよ」
そんな絶望で崩れ落ちそうな私に、狐の面の子供達は淡々と事実を突きつけてくる。
だけど……今の私には、それ以外の感情もフツフツと湧き上がってもきていた。
「ふふ……本当に君は、椿の事しか頭に無いね」
「サラッと人の心を読んでんじゃねーよ。だって、あんな昔から友達だって言いあったのに、それを全部忘れてたなんて……そんなの親友として失格だろ」
だからこそ、余計に自分の情けなさにイライラしてるんだ。
――本当は椿の元気で優しい笑顔に、同じ女の子でありながらも私は恋をした。
だけど、それが叶わない恋なのは幼い頃から何というかだけど理解していたんだ。
だから、自由に性別を変えられる白狐さんや黒狐さんに嫉妬したし、「私の方が先に好きだったのに」って変なライバル心もあったんだ。
「それで?君は全てを思い出したかな?僕達の事も……」
そういえば、確か使命が何とかって話もあったような無かったような……正直、そこはどうでも良い感じかな。
「そうか。つまり、それはまだなんだね……」
「それじゃあ……」
「まだ、使命の時では無いって事だね。だけど、今の君なら……この『烏森の力』を、完全に使いこなせるハズだと思うよ」
そう言って、狐の面の子供達は同じ方向を一斉に指差す。
――そこには小次郎の魂を喪った、『鉄烏』としての使い魔の残骸が横たわっていた。
私は無言で子供達に頷き、それに優しく触れた。
◇◇◇
――目を覚ました早朝。
近くで看病してくれながらも、布団を敷いて眠っていた皆。
それを脇目にも降らず、私は玄関から自室の窓の外側に向かう。
「えっ?綾、ちゃん……なんで、此処に……?」
すると、ちょうど外に飛び降りてきた椿がキョトンとした目で、先を読んで待ち構えていた様子の私を見てくる。
「やっぱり1人で行こうとしてた。椿の事だから、どうせアレだろ?自分がやらかした事で皆に迷惑をかけたとか、これ以上は皆を危険に晒したくないって……そんな感じの」
「綾ちゃんに、何が分かるんですか……」
少し俯きながら暗い顔をする彼女に、つい私は溜め息を吐いてしまった。
「そーいうの、分からなくても"分かるモン"なんだよ。私は烏森の家の都合とか、そういうのでオジサンや皆に迷惑をかけ続けてきてた。だけど、私は椿を止める気はサラサラ無いよ」
「じゃあ、何の為に?まさか、一緒に戦うなんて言いませんよね?これは僕の問題……僕1人で片付けます」
「悪いけど、嫌と言っても着いていくからな。あんな事を思い出した後で色々と考えてみたけど、やっぱり私には椿しかいないんだ。だから、何があっても一緒に戦い続けてやる」
そう言いながら私は手を前にかざして、『烏森の力』で生まれ変わった自分の使い魔を呼び出した。
「何、これ……バイク、ですか?」
「これが私の新しい力――鉄車輪烏(てつしゃりんがらす)だ」
だけど、そのゴテゴテとした黒い改造バイク然とした鉄車輪烏を見た椿は、どういう訳かプッと吹き出して笑いだす。
「ふっ、ふふふ……あはは!何ですか、その変てこなネーミング!まさか、綾ちゃんが付けた名前なんですか?あんまりにも安直すぎますよ〜あはは!」
「おまっ……笑うなよ!これ割とガチで目ぇ覚めてから、かーなーり悩んだんだからな!?あ〜もう!騒いでたら皆にバレる!椿、早く行こ!」
そうして私は半ば急かして椿を鉄車輪烏の後ろに乗せ、まずは地獄を呼び出した茨木童子を何とかするべく、日が昇るよりも速いスピードで旧妖怪センターへと向かった。