私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
あれから夕飯の時でも、黒狐さんの様子はおかしいままで普段座っている椿に近い場所に来なかったり食べずに考え込んでいたりしているようだった。それに椿も、何処か落ち着かない様子をして顔も憂鬱そうである。
「椿ちゃん、どうしたの?ブスッとして。可愛い顔が更に可愛くなってるよ?」
「ん・・・何でもないよ」
「里子、そういう事言わない。椿もなんか悩んでるみたいだしさ」
里子から味噌汁のおかわりを受け取り、同じく椿もそれを落としそうになりながらも受け取った。
椿も私も、今日は妖術を多用したからか空腹でいつも以上に沢山食べている。きっと沢山入るのは、料理が美味しいからなのもあるのだろう。
――と、椿は味噌汁のナスから吸った熱々の湯を吹きかけられてしまう。今回の妖怪食は那須という水分を取り込んで吐き出すタイプだ。
「あっつい!!」
「おいおい椿、何してるのさ〜」
「椿ちゃんったら、お味噌汁全部"那須"さんに吸われちゃったね〜」
「里子ちゃん、妖怪食に適当な名前をつけるのは止めてね」
「えっ、アレ里子が付けた名前なの!?」
どうやら私はとんでもない勘違いをしていたようだ。私と椿がここに来てからというもの、驚く事ばかりで飽きる気がしない。
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夕飯を終えて椿と風呂を済ませて部屋に戻っても、いつも通りな白狐さんとは違いそこに黒狐さんの姿はなかった。これまで彼女にベタベタしてきていたのが、まるで嘘のように感じる。
私は何故か不安な気持ちに駆られて、黒狐さんの妖気を辿って屋根の上に居るのを確認した。そして小次郎に抱き上げてもらって屋根へ上がると、その光景に思わず息を飲んだ。
――満月の夜空に照らされている妖狐の彼の姿に、どこか現実離れしたような錯覚を覚える。いや、妖怪とか色々今さらな話ではあるが。
『椿か?』
「ううん、私だけど」
『なんだ、綾か』
お酒を1人で飲んでいる黒狐さんがチラと振り返り、私だと判るとすぐに戻る。しかし、その後に続いて椿も屋根へと登ってきた。
「あっ、椿・・・」
『む?どうした?何か用か?』
すると黒狐さんは座ったままではあるが、その声は若干明るくなったようだった。
「別に・・・。今日帰ってからずっと、黒狐さんが僕を避けていたので、もう諦めたのかなって確認をね」
「な、なんか怒らせる事した黒狐さん?私から見たら、思い当たる節めっちゃあるんだけど」
『むっ・・・い、いや。そういうつもりはないんだが。』
どこか不機嫌な椿の様子に、私はジロと黒狐さんを見た。私が知らない所で、この駄狐は何かしでかしたりでもしたのだろうか。
「それじゃあ、何で僕を避けるの?ねぇ?」
「ちょ、ちょちょちょ!椿!?」
急に黒狐さんへ近づいて詰め寄る椿。こちらもまるで普段とは別人のように積極的で不思議になる。それでも、黒狐さんは頑なに椿と顔を合わせようとはしなかった。
「――僕の中に居る、妲己さんが原因?」
『っ!』
椿のその言葉に、黒狐さんが一瞬肩を竦ませた。
どうやら図星だったようだ。
「まさか、そんな事で椿と距離を置いてたの?」
「ねぇ、黒狐さん。妲己さんは僕の身体を乗っ取れないようだし、乗っ取る気もないみたいだよ?」
『・・・』
そんな話は信じないと言わんばかりに少し黒狐さんは黙ったままだったが、椿の呼びかけが効いたのかようやく口を開いてくれた。
『そうか・・・。だがな、それでもお前の中に奴が居ると思うと――少し怖くてな』
「はぁ。それだけでそんなになるなんて、一体あの人と昔に何があったっていうのさ?第一まだ完全に思い出してすらいないでしょ」
『ああ、しかし妲己と何があったかは思い出していないのに・・・か、身体が思い出すなと言わんばかりに思い切り震え上がるんだ。情けないもんだ。酒でも飲まんとやってられん』
とんだくだらない話だ。昔に付き合っていた人と上手くいかなかった経験を引きずっているなんて、傲慢な黒狐さんを知っている私からしたら負け犬のようにしか見えない。
椿もそう感じたらしく、より不機嫌になる。
「ねぇ、黒狐さん。そんな理由で僕を避けていたなら、ちょっと怒るよ?」
「強気で性悪だけど困ってる時に頼りになる、それが黒狐さんらしいはずなのにね〜全く」
『おい、一言余計だぞ綾』
「――なのに、それなのに」
『ん?どうした椿?』
ふと椿が黙り込んだかと思った瞬間であった。
「そんな弱気な黒狐さんは黒狐さんじゃな〜い!!」
『――っ!?』
パーン!と頬を張る音が鳴る。
「うーっわ、いったそ・・・」
なんと椿がいきなり黒狐さんにビンタをかましたのだ。突然の出来事に彼もさっきまでの陰気臭さが嘘のように吠える。
『な、何をする!椿!』
「だって、綾ちゃんの言う通り黒狐さんはそんな性格じゃないでしょ!?僕は必死に変わろうとしてるけれど、まだまだ不安が多いんだ。それなのに、黒狐さんは勝手な思い込みで離れようとするんだもん!僕は僕だよ!妲己さんじゃないよ!」
「つ、椿・・・そこまで黒狐さんの事を想ってたなんて」
そして、彼女は感極まって泣いてしまった。
黒狐さんに対してどう想っていたのか、あまり分からない私はどうすれば良いのか困惑してしまう。
『つ、椿。す、すまん。泣き止んでくれ』
「うぐっ、ぐす・・・じゃあ、僕を避けたりしない?」
『あ、当たり前だ!お前に惚れているのは変わっていない!』
すると慰めようとする黒狐さんへ、椿はとんでもない事を口にする。
「――それだったら、証拠にキスしてよ」
『なっ!?』
「へあっ!?」
それから、数分くらい沈黙しただろうか。
その空気を破るかのように黒狐さんが我に返った。
『つ、椿・・・』
「あっ、ち、ちちちが、今のは違う!間違いました!」
「え、あっ、うん。そうですよね、きっと私の気のせいですよねハイ」
それが椿の一瞬の気の迷いによるものだと分かり彼女をフォローしようとするが、酒が入って酔っているせいか黒狐さんが嬉しそうな顔に変わっていく。
『椿!なんて可愛い奴だ!やはり、俺にはお前しか居ない!』
「わぅっ!?ちょ・・・待って、待ってよ黒狐さん!」
「何いきなり椿に抱きついてやがんだこの駄狐がァ!!」
「わぁ!?綾ちゃんまで〜!!」
いくら酒が入っているからとはいえ、やって許される事と許されない事があるのを分かっているんだろうか、黒狐さんは。この際、一度ギッタンギッタンにしてやるべきだと思った。
『ほほう、黒狐よ。中々手早いが、我の目が黒い内は手は出させんぞ』
黒狐さんの後ろから白狐さんも現れて、私はいつでも小次郎をけしかけて変態駄狐をボコボコにする準備が出来ている。
「ふぎゅぅぅ・・・綾ちゃん、白狐さん助けて。こ、黒狐さんがぁ・・・」
『こりゃ黒狐!いつまで抱き締めとるか!』
それでも黒狐さんは椿を強く抱き締めたまま、微動だにしないでいるので、不思議に思って近づいてみると――
『んっ?お主まさか、酒を飲んだのか!?お主は酒に弱いのに、一体何をしとるか・・・』
「ね、寝やがったよ・・・。どうする白狐さん?このまま屋根に放置しとく?」
『うーむ。酔いつぶれとるようじゃし、とりあえず適当な所に放り込んでおけ、綾』
椿と黒狐さんを引き離しながら、グッスリ眠る黒狐さんを押し付けられる。
私はこの後に納屋へ彼を放り込んで、翌朝に大騒ぎになるのであった。だって寝かせる場所も見つからないし・・・ねぇ?