私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第弐拾弐話 守れなくて、ごめんなさい

 

あの後、妖界を経由して私達はセンターに戻ってきた。戻ってきた瞬間にレイちゃんから椿と一緒に顔を舐められて、傷ついた私の心がほんの少し癒される。こんな無様な私の姿を見ても、いつもと変わらずに飛びついてくれるレイちゃんを愛おしく思う。

 

それから、意識を失っている美亜は処置室へ運ばれ私達も他に大きな異常は無いかと簡単な検査を受けた。

 

「うん、2人とも大丈夫ですね。白狐さんの治癒妖術のお陰で、ケガの方は治ってますし他に深刻なダメージを受けている所も無いですね」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「そ、そうですか」

 

処置室の医者からそう言われて礼を返したものの、相手があの「のっぺらぼう」なのでどうにも色々と不安になる。いや、検査の結果にケチを付ける性格ではないのだが・・・目や口とか無いと、うん。やっぱり不安になる。

 

『椿に綾よ、終わったか?』

 

「これはこれは白狐さん。ちょうど今終わった所です。2人とも何処も異常はなく、大丈夫ですよ」

 

『そうか、良かった』

 

白狐さんがホッと胸を撫で下ろす。そして処置室から出て移動する途中で、別な処置室からも美亜が出てくる姿が見えたので声をかけた。

 

「あっ!美亜ちゃん!良かった〜、目が覚めたんだね!」

 

「そっちも大きな異常はなかったみたいだね」

 

駆け寄って彼女の様子が大丈夫そうなのを確認して、こっちも安堵したため息をついた。

 

「えぇ、お陰様で。命に別状はないわ」

 

「良かっ――たっ!?」

 

「なっ!み――あだっ!?」

 

瞬間、美亜が椿の頬を平手で叩いたのを見たと同時に私も頬を叩かれる。

 

「な、何すんだ美亜!」

 

「・・・あんた達、何で逃げなかったのよ」

 

「へっ?」

 

困惑する私達へ、美亜は怒気を孕んだ声で強く言ってきた。狐2人がそれぞれヤバいと感じたような反応をしている。

 

「逃げなさいって言ったわよね!?私のせいであんた達が捕まったりしたら、私は自分の無力さを呪いながら死ぬ事になったのよ!何バカな事を考えてるのよ!!」

 

「で、でも。僕は死にかけてる人を・・・」

 

「私達は妖怪よ、そこにいる人間なんかとは違うの!人と同じ情けをかけられたら、それこそたまったもんじゃないわよ!あんたも同じよ、綾!人間のクセして、なんで私達と仲良くしようとなんかしないで!!」

 

「・・・悪かった」

 

私は美亜の言葉にそうとしか言えず、視線を逸らした。

 

『人間なんかとは違う』

 

『人間のクセして』

 

確かに、私は椿や美亜達といった妖怪とは違う――人間だ。

 

それでも、私は普通に分かり合えると思っていた。けれど、やはり妖怪は人間を受け入れてはくれないんだろうか。

 

『金華猫の娘よ、お主の言葉にも一理あろう。だから、叩いた事を咎めはせんが、2人にも2人の事情があってな。それ以上は控えてもらおうか』

 

「ふんっ!」

 

私達を守ろうとする白狐さんの言葉に、美亜は不機嫌な顔をして振り返って歩いていこうとする――が、その先に居た妖怪を見て足を止めた。

 

「あっ、な・・・何で?」

 

私の知っている美亜からは想像もつかない、恐怖と驚きに満ちた声をあげる。彼女の見ている方向へ視線を移すと、美亜の先には4人の猫の妖怪が居た。全員が猫の耳と尻尾の生えた人の姿をしており、年老いた夫婦と思われる2人と美亜にそっくりなツインテールの少女が茶虎な雰囲気だ。

 

残る1人――その美亜に似た少女の後ろに隠れながらおずおずと美亜と私達を見る、蒼い眼をした金髪の長い髪を垂らした少女はペルシャ猫のような雰囲気をしていた。美亜のに似たドレスの上に桃色のパーカーという、よく分からない格好が本人の意思とは逆に周囲から目立ってしまっている。

 

「お、お父様、お母様。美海、美弥子(みやこ)・・・」

 

どうやら4人は美亜の家族のようだが、何処か様子がおかしい。オドオドしている金髪の少女以外は、まるで死にかけた娘を心配している様子が見られないのだ。

 

「無様なものだな、美亜よ」

 

父親と思われる方が、険しい顔で美亜に厳しい言葉を投げかける。美亜は彼が話し始めた瞬間に、耳と尻尾が垂れ下がるまでに恐怖してしまい震えてしまっていた。

 

「情けなく敵の術に捕まり、死にかけて足手まといになり、しかも自ら状況を打開する事も出来ず、オマケに成り立ての妖狐と少し妖術が使える人間などに助けられるとはな。無様以外の何物でもないわ!――この、一族の恥さらし者が!!」

 

「――っ!?」

 

「ひぅっ!!」

 

父親の怒鳴り声に、美亜も金髪の少女も激しくビクッと震え上がった。

 

親と呼べる存在がオジサンしか居ない私からしても、ここまで叱るなんて何処か異常だ。

 

椿もそう思ったようで、2人で美亜を弁護しようと動くも何故か狐2人が前に立ってそれを妨害してきた。

 

「そこをどいて、白狐さん黒狐さん。」

 

「ちょっ・・・何で?美亜ちゃんがあんなに言われる必要は――」

 

『残念だがな、他人の家の事情に首を突っ込む事はするな』

 

『あいつの家系は、妖界でも名門中の名門。その中でも、あいつは妖気が少なくマトモに妖術も使えないんだろう。あの家族が言うように「出来損ない」という事なのだ。俺達がどうこうしてやる事は出来ない、家柄の問題だ。・・・そうやって、優秀な血筋というものを守ってきたのだろう』

 

私達は狐2人の言葉にも納得がいかず無理やり押し通ろうとするが、続く白狐さんの言葉で身体が止まる。

 

『椿に綾よ。覚に言われなかったか?椿は優しさが時に人を傷つける凶器になる、綾は細かく考えないで行動すると取り返しのつかない事になると』

 

「っ!」

 

「あっ!で、でも――」

 

『椿、その優しさはお前の取り柄だ。俺達も誇りに思う。だがな、それも時と場合によるんだ。綾も同じだぞ、行動力だけではどうにも出来ない事もある。その優しさと行動力が、時に人を傷つける事もある。今回のように・・・な』

 

それでも何かを言い返そうとして、黒狐さんに諭されて完全に私達は止まってしまった。

 

・・・確かにそうだ。

 

ここで私達が美亜を助けたとしても、それは本人にとって何も嬉しい事は無い。かえって無駄に自分自身が辛くなってしまうのだ、と気づいてしまった。だけど、私と椿はそんな自分の力を認めて貰おうと努力する美亜を何とかしてあげたかった。

 

――美亜が涙目になりながらも大声をあげた。

 

「えぇ、そうよ・・・その通りよ!私は一家の恥さらしよ!出来損ないよ!そんな私なんか、もう娘だとも思ってないでしょう!?」

 

「あぁ、そうだ」

 

美亜の父親が何の感傷も無くぴしゃりと言い放つ。

 

ふざけんな・・・私は今すぐその鼻っ柱をへし折ってやりたい思いに駆られる。しかし、それと同時に頭の中で「出来損ない」という単語が何故か私の頭から離れず、意味も分からないままただグルグルと気持ち悪いくらいに巡っていた。

 

「――っ!?だったら・・・それだったら、もうこんな家なんか出てってやる!縁なんか切ってやる!!」

 

「み、美亜姉さ――」

 

金髪の少女が慌てて美亜に声をかけようするが、すぐに彼女の父親の言葉に遮られてしまった。

 

「それは大歓迎だな。ならば金輪際、貴様は私達の家に近づくな。そして、我々の家系だと名乗る事も許さん!!」

 

「えぇ、せいぜいするわよ!こんな腐った家から出られるなんてねぇ!」

 

嬉しそうに放った悲しみも一切も見せない非情過ぎる言葉に、美亜は心が折れてしまったのかボロボロと涙を流し出してしまった。

 

――お前らは美亜の家族なんかじゃない。美亜にそんな言葉をかける権利なんて微塵もない!

 

私は心の中で叫ぶ。

 

「ふふふふ、これから忙しくなりますわ!ようやく、邪魔者が消えてくれたのですからね。あぁ、私がしっかりと家の方はやっておきますので、ご心配なく。美・亜・さん!」

 

ツインテールの少女が美亜にトドメを刺すかのように言う。姉妹とすら思っていないそのイカレっぷりに、私はもう思いつく言葉も見つからなかった。

 

「行くぞ」

 

「は〜い、お父様!ほら美弥子、さっさと行こうよ〜!」

 

父親にツインテールの少女が着いていったのを見てから、金髪の少女がすぐさま私達の元まで来て謝るような言葉を言った。

 

「あ、あの。私、美亜姉様の事・・・守れなくて、ごめんなさい」

 

「えっ、ちょ――」

 

それだけ言って、私が返事をしようとするのも聞かずに、その子はスタスタと両親と姉の後を追って走っていった。そして、霞のように消える直前に美亜の母親も、何処か悲しそうな顔をして振り返っていたのを見る。

 

後に残されたのは、自身を認めて欲しかった肉親を失った美亜――ただ1人だけだった。

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