私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
ひとまず生徒会室でひと騒ぎ終えた私達は、いよいよ本題に入るべくそれぞれ用意された椅子に座った。ちなみに、赤木会長は未だに火車輪で縛られたままである。
「さて、椿君に綾君。君達を呼んだのは他でもない、生徒会に入ってくれと言うのもだが・・・1つ、君達に頼み事をしたいのさ」
「頼み事ですか?」
「・・・話だけは聞いておきます」
赤木会長が続ける。
「そう、これは八坂校長にも言いづらくてね。そんな難しい事ではないよ、ちょっと探って欲しいだけなのさ"ある生徒"をね」
「イライラする話し方ね。早くその人物まで言っちゃいなさいよ」
「美亜ちゃん。会長は会長なりに、気を遣っているんだニャ」
「どういう事よ、凛。気なんか遣わなくても――」
「僕達の知っている人ですか・・・?」
「・・・まさか!そんなはずは!」
私達に心当たりがあると見た赤木会長は、更に言いづらそうに眉をしかめる。
「うん。しかも、椿君がその姿になる前からだ。その生徒の事を調べていると、この学校の事を滅幻宗の奴らに密告していたようだし、学校の結界も彼が解いていたんだ」
「そんな、"あの人"が滅幻宗と関わりがあるなんて」
「赤木会長・・・その生徒って」
呆然とする私達。
いや、言われてみれば確かに椿が妖狐に戻った以降、不自然な点が多かったのだ。だが、それでも私はその事実を簡単には受け入れられない。
「お察しの通りだ。その姿になる前から君達と関わりがあるなんて、そんなの1人しかいないだろう。いや、向こうから無理やり関わっていた・・・と言ったら良いかな?」
「「湯口、先輩・・・」」
椿や私には、半妖や妖怪の皆を除けば普通の人との関わりなど殆どゼロに等しい。そして、椿がいじめられていた頃から関わっていたとなれば、彼1人しかいないのは明白だった。
けれど、それでも椿の事を私と同じくらいに案じてくれていて、彼女へのイジメが無くなって安心して身を引いたのだと――そう思っていた。
「君達なら、彼から何か聞き出せるのではないかと思ったのだけど・・・どうかな?もしかしたら、君達の身に危険が及ぶかもしれない」
だったら、私達はその真意を明らかにする。
たとえ限りなくクロに近くとも、湯口先輩が悪い人ではないという証拠を探すために。
「やります」
「私も椿と同じ。一緒に調べさせてもらうよ」
それは彼の事を気にかけていた椿も同じだった。
「そうか、良かった。では、生徒会の方にも――」
「「あっ、それは丁重にお断りします」」
「2人とも即答!?な、何故!」
「何故って、ねぇ・・・綾ちゃん」
「その答えの人に言われたくないんだけど」
私達はじ〜っと細目で会長を睨む。その視線に会長は納得した様子を見せた。
「あぁ、なるほど。僕の舌技に耐えられないかもしれな――いぶぅっ!?」
「もうやだコイツ」
狐2人の本日2回目の机アタックをくらい、赤木"変態"会長は完全にノックアウトされた。どうして、同じ中学生のはずなのにここまで駄目な事になってしまったのか、これが分からない。正直分かりたくもない。
変態会長を虫でも見るように眺めていると、凛が私達に話しかけてきた。
「椿"先輩"、綾"先輩"。大丈夫だニャ。僕や牛元先輩が、絶対に指を触らせないようにするニャ」
「えっ?せ、先輩って?」
「まさか、この子私達より歳下なのか?」
「何驚いているの?あんた達の事でしょうが、凛は13歳で中学1年・・・あんた達の方が上でしょう?」
色々と情報過多になりそうだ。まぁ、とりあえずは生徒会にも協力してもらえそうなのではあるのだが――
『これ以上俺の椿に色目を使うようなら、その舌引っこ抜いてやるからな!』
『黒狐よ、手緩いぞ。口が開かぬように封印してしまえ』
まあ狐2人がそんな事になるだろうとは思った。
この際、あの変態を本当に封印してしまっても良いのではないだろうか。ついでに女の風呂を覗いた浮遊丸も一緒に。
「あぁ、すぐに返事をする必要はないですよ。じっくりと考えてくださいね」
そんな中、牛元先輩が笑顔を向けてくる。未来を語る妖怪だと椿が言っていたなら、これから私達が何をするのかは分かるはずではないか?
「あ、あの、牛元先輩。もしかして、この後僕達がどうするか知ってて・・・」
「あら、件の力でって事?残念ながら、私は妖怪の血がそんなに濃くは出なかったのよ。だから、私が分かる未来は明日の天気だけよ」
椿の言葉に残念そうな顔をして返す牛元先輩。
そこにニュルリと猫のような感じで凛が割って入ってくる。
「ちなみに僕は木登りが得意だニャ。それと、真っ暗でも周りを確認出来るニャ」
「それ、まんま猫やんけ!」
「凛、あんたは黙ってなさい・・・」
私がツッコミを入れるのを他所に、美亜は何処から取り出したのかカマボコを放り投げる。そして凛はやはり猫みたいにそれへ一目散に齧りついた。この子、何処からどう見ても猫の半妖だと分かりやすい子である。
「用事はこれで全部かな?」
「もう僕帰りたいよ・・・」
「そうしましょう、2人とも。用事は全部終わっているみたいだし、これ以上ここに居ても意味ないわ」
カナが一刻も早く生徒会室から出ていきたそうにしていた。私達もあまりここに長居したくないのでもう帰りたい。
というか、生徒会室をよく見ると色々アウトな道具が飾られているのだ。多分あの変態会長の趣味なのかもしれないが・・・やっぱり消えちまえこんな生徒会。アウトだアウト!!
「ねぇ、綾ちゃんにカナちゃん。生徒会の状況、校長先生に報告した方が良いかな?」
「そうね、そうしましょう。以前より酷くなっているし、流石に報告しておかないとね」
「以前はもっとマシだったんかい・・・」
中で狐2人やら誰やらが未だに騒いでいるが、これ以上は付き合えないので捨て置こう。なんというか、こう・・・ドッと疲れた。
私達が帰ろうとしているのに気づいた美亜が戻ってくる。
「やれやれ・・・椿、あんたの周りにはこんな変な奴らしか集まらないの?」
「うぅ・・・やっぱり、皆変なんですね」
「それ、私まで入ってない大丈夫?」
「「な、何の事かな?」」
椿と2人して声を被らせるな、おい。完全に私まで狐2人や変態会長と同じ括りにされてるみたいで悲しくなってくるじゃないか。
そんなこんなで生徒会室から出て、校門まで戻ってきた所でやっとひと仕事終えた白狐さんと黒狐さんも戻ってきた。
『椿よ、安心せぇ半殺しにしておいた』
『あんな変態野郎が生徒会長とはな、この学校危ないぞ』
「うん、それは分かってるわ」
「それに白狐さんと黒狐さんも十分変態です。こんな僕を嫁にするって言ってるもん」
椿の言葉にガビーン!という擬音が見えそうなくらいに驚く駄狐2人。まぁ、その・・・頑張れ。
それよりも湯口先輩に明日にでも話を聞こうと思っていたのだが、何か頭に引っかかっている事がある――というか、かなりヤバい事を思い出した。
「「あぁぁ!!」」
「ど、どうしたの!?椿ちゃんに綾さん?」
すっかり忘れていた。最後に湯口先輩と会った時、それはちょうど学校で電磁鬼を捕まえた後であり・・・
「ぼ、僕・・・湯口先輩にこの姿、見られてる・・・」
「と、咄嗟にラリアットかまして逃げたっきりだけど・・・ば、バレてないよね〜?」
『『あっ!』』
狐2人もようやく思い出したようだ。
そう考えれば、初めてあのクソ坊主に襲撃された理由も説明がつくし、あれからずっと私達に彼が話しかけてこなかったのも頷ける。
「ど、どうしよう・・・」
「むしろ病院送りになってたってなら、私が色々怒られるだけで何とかなりそうなもんだけど・・・」
とにかく、結果的にどうなるか分からないで足踏みし続けるよりも、まずは明日湯口先輩に話かけてみるしかないのだろう。
・・・ラリアットの件、根に持たれていないと良いのだが。