私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

67 / 390
第肆話 それでも、私は彼らを守る

 

――翌日、放課後にて

 

私達は下駄箱で湯口先輩が来るのを待っている。

 

それというのも、昼休みに彼の居るクラスへと訪問しに行ったのだが、私達の妖気を察知していたのか彼はクラスの何処にも居なかったからだ。

 

なので、こうして帰る直前を狙って待ち伏せすれば絶対に会えるだろうという私が提案した作戦である。裏口とかから逃げられたらどうするんだ、とか聞かれたらその時はその時だ。会えるまで何度だってトライするつもりでいる。

 

「来るかな?綾ちゃんの作戦、結構穴だらけで心配なんだけど・・・」

 

「へーきへーき。私はかつて果たし状を送ってきた奴らとこの方法でやり合って、7回中4回奇襲に成功してるんだからさ」

 

「奇襲って、何やってるの綾さんは・・・。でも、下駄箱に靴が残っていたから、絶対に来ると思うよ」

 

私達の後ろでカナと狐2人が心配そうに様子を伺っている。ちなみに私の奇襲方法だが、下駄箱から靴を取って履こうとしている隙をついて、ホウキやらチリトリやらを顔面に叩き込んでマウントを取るというやり方だ。この作戦で奇襲して私の攻撃から逃げられた奴は今の所いない。

 

「あっ、来たよ」

 

「よし、逃げられたら困るからとりあえず――」

 

「そのチリトリ持つの止めようか、綾ちゃん」

 

私としては、あんな奇天烈な能力を使える坊主達の一味である事を警戒して、逃げられないようにしたいのだが。暴力で取り押さえるのはダメですかそうですか。

 

とりあえず、椿と一緒に怪しまれない感じに後ろから話しかけてみる。

 

「あ、久しぶりですね湯口先輩!」

 

「湯口先輩・・・」

 

すると彼は驚く事なく私達の方に振り返ると、何を思ってなのか大きくため息をついた。

 

「その姿を見ると完全に女の子だな、"翼"。・・・何だ?もう完全に女の子になっちまったのか?」

 

「まぁ、彼女にも色々あった訳ですから」

 

湯口先輩の言葉に私は愛想笑いを返して、椿は首を横に振ってそれを否定する。

 

「それよりも湯口先輩。その、話があるんですけれど・・・」

 

椿が話を切り出すと、湯口先輩は少し考え込むような顔で答え始める。

 

「お前らが今日俺を探しているのは気付いていたよ。最近、俺がお前らの所に行かなかったからな。あれはな・・・そう、イジメが無くなったって聞いたからな、もう大丈夫だと思っただけだぞ?」

 

「誤魔化さないでください。それなら、僕達から逃げる必要はないですよね?」

 

「ついでに、私がラリアットかました件でめっちゃ怒られるんじゃないかと思ってました」

 

「ああ、アレかなり痛かったんだが・・・」

 

先輩は私達の反論に気まずそうに頭をかく。

椿はとにかく、それを庇っていた私にまで積極的に関わってきたとは思えない態度なのが、私の中の疑念を膨らませていく。

 

「――ここではマズいだろう。人気のない所に行こうか」

 

私達の強気な姿勢に、先輩が折れて屋上に行く階段へと向かう。あまり目立つような事はしたくないという考えなのか、それとも私達にしか話せないような理由だからなのか・・・

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「さてと、ここなら大丈夫だろう」

 

屋上へと出て、私達からある程度距離を取った湯口先輩が振り向いた。その目は私達がよく見知っていた優しさと勇気のあるものから、苦悩と険しさに満ちたものになっている。

 

「それで――どこまで知っているんだ、"翼"。あんな事を言うって事は、ある程度までは知っているんだよな?」

 

先輩の言葉に私達は頷き、滅幻宗の事について、そして先輩がそれに関わっている疑いが強い事について話す。

 

「正直、あまり信じたくはないんだけど・・・」

 

「そうか・・・その情報は、後ろの妖狐2体から聞いたのか?」

 

先輩が視線を私達の後ろにいる狐2人へと向ける。彼がそうしたという事は、やはり初めから椿の耳や尻尾についても見えていたのだろうか。

 

『いや、残念だが我らではない。しかし情報源は言えんぞ』

 

『全く・・・ここまで話す事はなかっただろう。少し迂闊過ぎだぞ、2人とも』

 

「白狐さん黒狐さん、ごめん。でも、この人の事は僕と綾ちゃんに任せて。・・・お願いだから、僕達のやり方でやらせて」

 

「2人とも、本当にごめんなさい。それでも、私と椿は先輩の事について、知らないといけないから」

 

椿がいじめられていた時、私だけでなく先輩もずっと彼女の味方をしてくれていた。だからこそ、今回の件でどうして椿から距離を置いていたのか、その理由を確かめたかった。

 

「そうか。それじゃあ、翼をこんな風にしたのはアンタら2体か?」

 

「えっ、ま、待って。ぼ、僕は最初から妖狐の女の子だったんだよ!」

 

「何!?ほ、本当か・・・?」

 

先輩の言い方、驚きように彼を信頼していた私の心はどんどん辛くなっていく。お願いだから、これ以上は――そんな私の"想い"を先輩の次の一言が貫く。

 

「なんで、なんだよ・・・。お前のイジメの原因も、妖魔の仕業だったんだろ?妖怪は、妖魔は・・・人間に悪さをする奴らなんだろ!?」

 

「そんな・・・」

 

「湯口先輩、妖怪はそんなのばかりじゃないよ!だから――」

 

「うるさい!!」

 

「うっ・・・」

 

その言葉に私が先輩に呆然とする中、椿が反論しようとするも怒鳴り声で一蹴されてしまう。

 

私に椿を守るという自信を持ち続けさせてくれたのも、先輩の背中を見てきたからこそだ。きっと彼にも、守るべきものがあるからこうして私達にも強く言うのだろう。

 

けれど、私はそれでも立ち向かわないといけないんだと、椿が"自分の意志で"先輩に反論したのを見て決意した。

 

「先輩、お願いです。この学校にいる半妖の人達を、狙わないでください!ぼ、僕達は先輩と戦いたくなんかないです!」

 

「私も、椿が仲良くしている友達を失いたくない!だから・・・先輩、お願いします!」

 

私達の必死の訴えに先輩が困った顔をするが、その後に放たれた言葉は私の希望を打ち砕くものだった。

 

「――俺の親父は、滅幻宗の幹部でな。日々妖怪退治に勤しんでいる。先日も・・・お前らと会ったと言っていたよ」

 

「えっ?ま、まさか!」

 

「先輩、その人は――」

 

「そうさ。木町通りで戦ったのは、俺の父。滅幻宗の"玄空"こと、湯口玄丈さ」

 

その言葉に、私の頭の中が恐ろしいほどにかき乱される。嘘だ、椿や美亜をあそこまで傷つけた・・・あの人を人とも思わないような奴が、先輩の父親だなんて。

 

「翼と綾は、この学校に居る半妖を守っているんだよな?」

 

「そう・・・だよ。鞍馬天狗のおじいちゃんに・・・ううん、今はもう――僕の意思でここの半妖の人達を守っているよ」

 

「ええ・・・私も椿と同じです。でも先輩がどんな考えだろうと、それを変えるつもりはありません」

 

私達がそう答えると、先輩が今までにない程の恐ろしい雰囲気を纏って近づいてくる。心做しか、その顔は彼の父親――あの坊主を思い出させた。

 

「俺もな・・・お前らとは戦いたくないよ。だからさ、真剣に答えてくれ。お前は"人間の翼"なのか?それとも"妖狐の椿"なのか?そして綾、お前は果たして"どっち側"につくつもりでいるんだ?」

 

私は先輩の真っ直ぐな視線から目を逸らす。

 

この質問に答えてしまえば、もう引き返せない気がする。椿を守る事を告げれば先輩を、先輩に同調するような事を告げれば椿を・・・どちらかを失ってしまうのだろうか。

 

「お前が"人間の翼"で、後ろの妖狐によって妖怪にさせられていると云うなら、お前らと戦わずに済む。そいつらを殺し、お前らを元に戻すだけだ。だが、違うと云うなら・・・分かるよな?綾も、正直に答えてくれ」

 

先輩の顔がより苦悩に歪む。やはり、さっき椿が言った事すら信じられないと思っているようだ。彼の中では私達にどう答えてもらいたいのか、それすら容易に想像がつくが――

 

私と椿の答えは、たった1つだ。

 

「ぼ、僕は・・・僕は――"妖狐の椿"です!!『妖異顕現、影の操』!!」

 

「それでも、私は――彼らを、半妖の人を守る!!お願い、力を貸して――『鉄烏の小次郎』!!」

 

私達はそう答えを告げて、それぞれの決意の証として先輩の目の前で妖術を発動する。もちろん戦うつもりなど一切なかったのだが、その行動の前に先輩は少し後ずさった。

 

何故そう答えたのか、私には私の"守りたいもの"を見つけたからだ。先輩の"守りたいもの"とは違う、椿と笑って生きていける"幸せな未来"を私は選んだ。

 

その選択に後悔はない――そんなはずなのに、どうしてか涙が後から出てきて止まらない。

 

「そうか・・・確かに操られていたなら、2人とも妖術なんて発動出来ないしな。本当に・・・残念だよ。――それなら、次会う時は敵同士だ。覚悟しておけよ・・・妖狐、椿!綾!滅してやるからな!」

 

先輩はそう吐き捨て、私達をとんでもない目で睨みつけながら通り過ぎていった。私達も彼に気圧されないよう、それぞれキッと睨みつける。

 

私は絶対に折れるつもりはない。だから先輩の事だって何度も話していけば、きっと何時かは理解してくれると思っている。

 

そう信じているけれど・・・涙は止まらなかった。

 

「う、うぅ。うぅぅぅ・・・」

 

「ひっく、ぐす・・・うぁぁあああ!」

 

先輩が居なくなった屋上で私達は手を繋いで泣き叫ぶ。そうしないと、ずっと不安で堪らなくなりそうだった。

 

「椿ちゃんも綾さんも、頑張ったね。大丈夫、思いっきり泣いたら良いよ。今だけは、白狐さんも黒狐さんも見逃してくれるから」

 

いつの間にか屋上の入り口に居たのか、私達の様子を見ていたカナが駆け寄ってきて肩を抱いてくれる。とても暖かい手の温もりが、私達の涙を包んでくれるかのように感じた。

 

「「うわぁぁぁあん!!」」

 

その日の夕暮れの空は、妖界で見たものよりもずっと綺麗に見えて、ずっと哀しく感じた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。