私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――夕暮れ頃の四条通りにて
私達が受けた依頼の居酒屋は、路地側に入っていった所にある妖怪経営の大衆居酒屋だ。
小次郎の妖術でナイスな感じの大人にしてもらった私はしばらく着ていく服に悩んでいるうちに、見かねた美亜から大人用の衣服を貸してもらった。
そして今は居酒屋の前にある看板を椿と2人で眺めている。
「"コスプレ居酒屋『艶』"?」
「なんかすっごく聞き覚えがあるんだけど、この言葉」
「そっ。カモフラージュの為に、そういう名前の店にしてるんだって。だけどコスプレって程のコスプレではないわよ、ただ耳と尻尾を付けているだけ。私からしたら詐欺よ」
「ああ、どうりで小次郎が耳と尻尾まで・・・」
実は私の身体には今、シベリアンハスキーのような耳と尻尾が生えているのだ。最初に気づいた時は小次郎のミスかと思っていたのだが、どうやら狐2人から一瞬耳打ちされていたからなようだ。
正直、慣れていないものが付いているからか頭の上と尻の辺りがソワソワして落ち着かない。
「それはそうと椿に綾。あんた達、胸もうちょい何とかならなかったの?」
「えぇぇ・・・そこ?」
「主に小次郎のせいです。大人にするので妖気がギリギリだったんだと」
「う〜ん。それに美亜ちゃん達が大きすぎるんだよ」
今の大人な姿の私と椿が並ぶと、どこか女子大生的な雰囲気がしているように見える。椿も私と同じくらいに胸の成長を抑えているから、大きい中でひとりぼっちではない。
「大きい方が受けが良いに決まってるでしょ!」
『確かにな。無いよりはある方が男受けはする』
『そうそう。だから、綾は無理にしても椿ももうちょっと大きくしな』
「嫌です」
「おのれ・・・巨乳どもめ」
そんな事してみろ"持つ者"どもめ、せっかく大人の姿になったというのに"貧富の差"をつけられた私が黙っちゃいないぞ。
「それよりも・・・家でも言ったけどさ、未成年の僕達がこんな変化で年齢を誤魔化して働くなんて、それこそ違法なんじゃないの?」
そんな私の危険を予知したのか、椿が咄嗟に話題を変えようと気になっている事を話す。すると美亜は「何いってんだコイツ」的な苦い顔をしてきた。
「私達は妖怪よ、人間の法律が当て嵌る訳ないでしょ?」
「えっ、あっ、いやでも・・・妖怪の法律とかで、そういう事を決められていたりしないの?」
「あるにはあるけれど、そんなに厳密なものじゃないわよ。妖術を使えば、立派な"妖怪"として働く事が出来るのよ。だから綾だって、一応は妖怪扱いになっているんだから。それにそんな事言ったら、あんた達既にライセンス取って妖怪退治でお金貰ってるでしょ?」
「あっ、そうだった!」
「へぇ〜そうなのか・・・って、私も妖怪扱いなんだ!?知らなかったわ!」
とにかく、これも違法には当たらないという事は十分理解出来た。そもそもそんな話だったら、今頃私達はセンターに捕まっててもおかしくない。
「というかさ、何で私がそれを説明しなきゃならないの?"保護者"が居るでしょう、そっちに狐の"保護者"が!」
「ひててて、ごめんごめん。ひゃなして美亜ひゃん!」
「いひゃいいひゃい!忘れひぇたんだって!」
美亜から椿と一緒に片方ずつ頬を抓られる。悪いのはあの狐2人だろうに、何で私達に当たってくるんだ?
『いや・・・私達は椿を嫁に出来れば良いから、別にそこまで知ってなくても良いと思って』
『白狐の言う通りね。別に愛でてるだけで良かったから』
「甘やかすな!」
「っていうか、完全に私の事頭にないぞコイツら!」
「ちょっと綾ちゃんも美亜ちゃんも、今お店の前だしさ。あんまり騒がない方が良いよ」
「うっ・・・すいません」
ふと周囲を見ると、お店の人やら通行人やらが私達に奇異な視線を向けているのがわかった。私はそれに恥ずかしくなって小声で謝る。
すると店の中から、狐の耳と9本の尻尾が生えている女将さんらしき女の人が現れる。
「あなた達・・・もしかして、今日お店を手伝ってくれる方?って、あら〜白狐さんに黒狐さん。ご無沙汰〜」
『あぁ、今日は宜しく頼むぞ珠恵』
「ふふ、こちらこそ白狐さん。お2人が来られるとは思わなかったから、助かるわ〜」
その会話を聞いて、そういえば狐2人はここで何回か働いた事があったというのを思い出す。それにしても、普段の私達と話している時以上にフランクな態度だ。お互い、結構仲が良いのだろうか。
黒狐さんが女将さんの紹介をしつつ、私達に挨拶するよう促してきた。
『この人は店長の珠恵。私達と同じ妖狐、しかも九尾ね。珠恵、この3人も今日は手伝いという事で扱き使ってくれ』
「金華猫の美亜よ、宜しく」
「み、身なりはこんなんですが、人間の烏森綾です!き、今日は宜しくお願いします!」
「あっ、えっと。妖狐の椿です、宜しくお願いします」
きちんとしている2人に比べて、私は緊張で言葉が固くなってしまう。さっき騒いだのを椿に咎められた事もあるのかもしれないが、やはり目の前に居る珠恵さんが狐2人以上に綺麗過ぎてドキドキしてしまう。
ふと、珠恵さんが美亜や私を見た後に椿の事をジッと見ていた。
「・・・ふ〜ん。そっちの子はちょっとアレで、そこの子は緊張しているみたいだけど、あなた・・・ふふ。宜しくね、椿ちゃん。私の方が色々と"先輩"だから、困った事があったらいつでも頼ってね」
「??」
椿の顔が困惑の色を見せる。珠恵さんの言う"先輩"とは妖狐としての経験の話なのだろうか・・・とはいえ狐2人も居るので、そこの所はよく分からない。
『ほら。開店までに覚えておく事があるから、急いで着替えるぞ』
考えていると、白狐さんから背中を押されて私達は店の中へ入っていった。私の抱いたそんな疑問は時間があればいつでも聞ける、今は仕事の事だけを考えよう。
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店内に入ると、他の従業員2人が開店の準備を忙しなく行っていた。店内のカウンター席やお座敷、2階にある大宴会場といった設備の充実ぶりから、予想以上に本格的でしっかりした居酒屋だ。
「本当に助かったわ〜!いきなり5人も風邪でダウンしてね、慌ててセンターにヘルプを依頼したのよね〜」
珠恵さんがカウンターに入りながらニコニコと私達にそう話してくる。
季節の変わり目によるものだろうか。ここ最近は急に暑くなったり、かと思えば前日より3度も気温が下がったりだから、確かに体調を崩す可能性は高い。それでも5人も休むとなれば、かなり大変そうなのは厨房で料理を一生懸命作っている男の人を見れば明らかだ。
「白狐さんと黒狐さんは、今日は調理補助に入ってもらおうかしらね。あとの3人は接客業務ね。着替えは従業員室にあるから、着替え終えたらここに戻ってきてね〜」
珠恵さんがテキパキと指示を出す。しかし椿は狐2人が料理出来るのかと心配そうな視線を向けていた。
『そんな不安そうな目で我らを見るな、大丈夫じゃ』
「本当かな?」
「2人が料理出来るの、ちょっと意外に感じてるんだけど」
『そんな事よりも、3人の方が大変だから気をつけるんだよ。一応、お尻は触られないようにね』
「・・・なんだって?」
黒狐さんの不穏な一言で、一気に私と椿の顔が引き攣る。まさか、そんな事は・・・ねぇ?
そういえば、やけに静かだと思い隣を見ると、美亜がブツブツ何事かを呟いていた。
「納得いかない。何で椿や綾ばっかり目を付けられるの・・・」
美亜が嫉妬しているようだが、私と椿は初めてここで働くので仕方ない話だと思うが。ひとまず、従業員室で店の制服に着替える。
居酒屋の雰囲気を残した茶色の作務衣であるが、可愛らしく花柄が入っていて少しオシャレな感覚がする店独自のアレンジのようだ。
『ふむ。似合ってるね、2人とも』
「あ、ありがとう白狐さん。」
「なんか照れるな・・・」
普段と違う容姿で、こうして褒められるのは意外と新鮮な感じがする。狐2人がいつもと違う美女になっているのもあるかもしれない。
『それじゃあ3人とも。接客とか雑用とか、ここで3人がやる仕事を簡単に教えておくね』
「「はい!お願いします!」」
そんな雰囲気だからか、私と椿は新入社員になったような感覚で元気よく返事をした。
でも、いまだに緊張しているよ私・・・