私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――数分後
よくよく考えれば、椿は妖狐な訳で他の店員さんも妖怪だった事を思い出した私は、同じようにその事に気づいた椿と落ち着いて"その道"な見た目のお客さん達の接客をしていた。
これなら何とか大丈夫そうだよ、やったね私!
「では、注文は以上ですか?」
「おぅ。まぁ、とりあえずな。良いか、呼んだら1分以内で来いよ!」
「おい、いい加減にしとけ。みっともねぇ」
「・・・あっ、は、はい。すみません」
椿に無茶ぶりをしようとしたスキンヘッドの人が黒いカッターシャツを着た強面の人に凄まれてペコペコと謝る。
「嬢ちゃん達、すまねぇな。いつも通りに振舞ってくれ。ただ、俺達の話は聞かない方が良いからな」
「そうですか、わかりました〜」
そう強面の人が優しく私達に忠告してくれた。元より注文以外で下手に近寄るつもりもないのだけれど。
「椿ちゃんに綾ちゃん、大丈夫?」
「ええ、平気ですよ。此方の注文お願いします」
「えっと・・・はい、僕も大丈夫です。あっ、これもお願いしますね」
厨房に戻ってきた私達は珠恵さんから受けた注文の表を渡して、ひとまず日本酒一升とビールを二瓶持っていこうとする。
「あっ、2人とも。後は私がやるから」
すると珠恵さんが私達を気遣って、日本酒とビールを持ってその人達の所へ向かっていった。
――更に少しして
私達が他のお客さんの注文を取ったり、料理を運んだりしていると、白狐さんが珠恵さんの向かった方を気にした様子で話しかける。
『椿、綾。やっぱり、あなた達が行った方が良かったんじゃない?』
その方向に私達も目をやると、意外な事に珠恵さんがお客さんに頭を下げているのが見えた。
そして彼女は注文を取って戻ってくると私達に申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「ごめんなさい。あの人達、やっぱりあなた達が良いって。あなた達が他のお客さんの対応をしてる所を、あの人達ずっと見ていたからね」
「そうですか・・・。分かりました、私達で行ってきます」
こうなってしまった以上は仕方ない。相手の機嫌を悪くしないように注意しながら頑張るとしましょうか!
━━━━━━━━━━━━━━━
――それから暫くして
「いやぁ〜やっぱ若い子に持って来させる方が良いっすよね〜兄貴!」
私達が料理を運んで来た時でもスキンヘッドの人はそんな感じに騒いでいたのだが、どうにも他の2人が話しているのを聞かれまいとしているようにも感じる。
けれども、元から妖狐である椿と妖術で変化している今の私は人間じゃないので楽々とその会話が聞き取れてしまう。
「――で、奴らは俺達に喧嘩ふっかけて来てんだよな?」
「はい、間違いないです。何が狙いかは知りませんが、奴ら・・・堂々と俺達のシマを荒らしてやがる」
「ふぅ・・・で、何つった?そいつらの組織」
「それが、よく分からなくて・・・確かこういう字を書いて"亰嗟(ケイサ)"と、そう名乗っているようです」
「こりゃ、昔の字じゃねえか。京都や東京なんかは、昔こんな字を使ってたらしいな。だが、何故こんな字を?」
"ケイサ"か・・・聞きなれない単語だが、ひょっとすると先程刑事さん達が頼もうとしていた案件に関連する・・・のかもしれない。こういう人達の事なので、あまり気にするとまた面倒くさい事になりそうな気もするが。
「しっかし2人とも良く出来た尻尾だな、おい。こんな可愛い子ちゃん達がこんな格好してるなんてな!おい、これ何処で売ってんだ?今度彼女に同じ格好させるとすっか!」
「あ、ははは・・・」
スキンヘッドの人は相変わらずの調子だが、どうしてこんな話をするのに私達の働いているような店に来る理由がイマイチ分からない。きっと、大きな理由が――
「俺達の経営する店、全部ぶっ潰しやがって・・・何考えてやがる」
なるほど、それではそうせざるを得ないのも頷ける。強面の人も相当頭にきているようだ。私達が皿を片付けている間、他の2人はシンと静まり返っている。
「おら、早く日本酒をもう一升持って来い!」
「はい、ただ今お持ちします」
椿が慌てて持って来ようとすると、強面の人が呼び止める。
「待て嬢ちゃん、ゆっくりで良いぞ」
「おい!ゆっくりで良いぞ!」
なんというか・・・まぁ、そちらもそちらで大変そうだというのは分かった。私も椿に続いて片付けた皿を持って戻る。すると狐2人が彼女に心配した様子で話しかける。
『椿、大丈夫だったか?』
『何もされてないね?』
「あーはいはい!私がついてるんだから大丈夫だって2人とも!どんだけ心配性なんだか、全く・・・」
私が狐2人の過保護っぷりに呆れていると、椿もそこにフォローへ入る。
「うん、僕は大丈夫だよ。それにあの人達・・・誰かに喧嘩をふっかけられていて、それでお店を潰されているらしいから、そのお話で必死だよ」
「そうなんだよね。一体何処の誰が怒らせたのやら・・・おー怖っ」
「あら、2人とも。感知能力も高ければ、耳も良いなんてね」
「私はまぁ、色々あってなんですけどね・・・」
私はそう言って珠恵さんに苦笑いを浮かべる。時間が経って慣れてきたとはいえ、やはり妖怪の耳で不用意に話が聞こえてしまうのは気持ちの良いものではない。美亜が私達の代わりに接客をしてくれているお陰で、とりあえず此方での会話がバレるという事はないのだが。
すると、白狐さんがやけに真面目そうな表情で私達に尋ねる。
『椿に綾、その喧嘩をふっかけている奴らの名前も聞けた?』
「えっと・・・"ケイサ"?って名乗ってたって」
「そうそう、私もそう聞こえたよ」
『やっぱりな。それ、今私達が追っている組織の名前よ』
「あら〜刑事さん達が追っている組織も、確かそんな名前だったわね〜」
「なんだって?じゃあ、私達に頼もうとしたのも――って、ちょっと待って」
白狐さんと珠恵さんの話に耳を傾けていると、ふと外から妙な妖気を感じた。椿もそれを感じたらしく、私と顔を合わせてから互いに頷く。
「・・・皆。このお店に、何か向かって来ているよ」
「たった今私と椿が感じ取れたから、多分間違いないと思う」
その妖気の元が此方に近づいてくるより前に伝える。ひょっとすると、例の"ケイサ"に関わる連中なのだろうか。
『2人とも、そいつら何処から来ているの?』
「四条通り・・・西から来てるよ」
「今は路地に入って・・・数分くらいでこっちに来るね」
私と椿の言葉に珠恵さんが驚いた様子を見せる。こうして妖気を探知するのなんて、学校の事件ぶりだろうか。木屋町での方は殆ど戦闘に集中していたようなものだし。
「凄いわね、椿ちゃんに綾ちゃん。その人達、暴れそうとか分かるの?」
「ごめんなさい、そこまでは・・・」
「ちょっと分かんないですかね〜、すいません」
相手の精神状態まで探れれば確かに楽だと思う・・・実際はそこまで感知する事が出来ないのだが。そうしている内にも、妖気の元である人達がこの店に到着したようだ。しかし、この妖気の少なさからすると、どうやら半妖の人らしい。
――次の瞬間、扉が力任せに開かれ怒声が店内に飛んできた。
「おらァ!!ここに田山組の奴らが居るやろう!出てこんか!!」
おう、完全に893さんのカチコミやんけ!これもうお客さんじゃないね!めっちゃ怖いよ!!
・・・と思っていると、なんと珠恵さんはその人達を急いで止めに向かった。私達も彼女1人でやらせるのは危険だと判断して、一緒に止めに行こうとするとどういう訳か狐2人から止められる。
『2人とも、行かなくていい』
『そこで見ときな』
「でも、あのままじゃ・・・」
ひとまず椿と他のお客さんを避難させたが、それでも私は珠恵さんが心配だ。本当に大丈夫なのだろうか・・・?
「あの、すみません。お店で騒がれると、他のお客様のご迷惑に――」
「あァ!?んだお前は!店員に用はねぇよ、すっこんでろ!おら、出てこい!!」
お座敷に目をやると、今の叫び声が聞こえたのか神妙そうに話していた3人が立ち上がり、店の入口にいる連中を睨む。
待って、いや本気で珠恵さん1人で大丈夫なの?
正直、私すっごく心配になってきましたよ?
怒鳴り散らす奴らに珠恵さんは怖気付く事なく対応する。やっぱり店長をやっている人は違うな・・・私だったら、この時点でもう半泣きだと思う。
「これ以上は、警察を呼びますよ」
「うるっせ〜な!引っ込んでろ!この店潰されて〜のか!?」
「いえ、ですが・・・明らかにあなた達の方に非が――きゃっ!?」
「引っ込んでろって言ってんだろ!俺ら"亰嗟"に逆らうとどうなるか、その目に焼き付けさせてやるわ!!」
珠恵さんがそいつらの1人に殴り飛ばされる姿を見て、私はすぐに助けに入ろうとするが狐2人の青ざめた顔を見て立ち止まる。
『あ〜あ、やってしまったか』
『そうだね、白狐。仏の顔も三度まで、珠恵の説得三度までに聞け――だね』
「えっ?」
「それって、どういう・・・」
私と椿がキョトンとしていると、ふと珠恵さんの妖気が急激に高まってきているのを感じ取る。
なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。
「ふ、2人とも。ゴメン、ちょっと隠れさせて・・・あの妖気怖い」
「えっ、ちょっと。美亜ちゃん!」
「か、隠れるなんてズルいぞ!?」
私達の後ろに隠れる美亜にドギマギしながらも、私達は事の顛末を見届ける。
立ち上がった珠恵さんからはとんでもない程の妖気と怒りの雰囲気が出ていて、ミシミシと店が軋むような音まで聞こえてくる程だ。
「てめぇら・・・私が"3回も"説得しているのに、聞かねぇのか・・・おい」
「あァッ!?って、な、なんだ・・・?」
「――人様に迷惑かけるような暴れ方してんじゃねぇぞォ!ごらぁぁああ!!」
「なっ!?」
珠恵さんが男の人がブチ切れたみたいな怒声を上げた瞬間、その入口に居た連中がボーリングのピンが飛んだように吹っ飛び、気づけばポンポーン!と奴らを1人ずつ頭から掴んでは投げ、掴んでは投げをしてダウンさせていく。
その光景を見た私の脳内はもうおかしくなる寸前だった――もう、やだァァァ!お家帰るぅぅぅ!!助けてオジサ〜ン!!!