私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――それから10数分後
"亰嗟"と名乗って暴れようとした連中は、その結果ブチ切れた珠恵さんによってボコボコにされ縄で縛られて店の前で警察の方に連れられていった。
その時に来た犬吠崎さん曰く"組織の事を聞き出すつもりだけど、恐らく彼らは下っ端の下っ端でまともな情報は得られないかもしれない"という事だそうだ。彼女と池中さんが居たので、彼らはそのまま捜査零科で取り調べをされるのだろう。
ところで、先に来ていた"田山組"の人達はというと――
「お前、あの玉樹か!叫び声で分かったぞ!」
「あらあら・・・まさかあなただったなんてね、仁吉。人相変わってたから分からなかったわ〜」
仲良さげに会話していましたよ。どうやら強面の人と知り合いだったようで、話からして学校の卒業以来の再会みたいだ。まぁ、珠恵さんが九尾の妖狐であると考えれば、それも目立たないようにという仕方ない話なのかもしれないが。
きっと"玉樹"という名前も本名なのだろうけど気にしたら多分駄目だ。
懐かしげに白狐さんが彼女から聞いた話を私達の前で話し始める。
『そういえば珠恵は、人間達の学校とやらに憧れていて、昔こっそり紛れ込んだって言っていたね』
「そ、そうなんだ。色々あるんだね、色々・・・」
楽しそうに話している2人へと視線を戻す。
「しっかし、お前まだ腕は衰えていないんだな。昔はよく、お前とやんちゃしたもんだな」
「嫌だわ、"若気の至り"よ。今はあんな血気盛んじゃないわよ〜」
ちなみに他の2人は完全にさっきの件もあってかポカーンとして置いてけぼりを食らってしまっている顔をしているようだった。
『珠恵、今日の所はここまでかな?あと1時間で閉店だし、そもそもこんな騒ぎの後だから、お客もそんなに来ないだろう』
「あら、黒狐さん。そうね、今日はもう閉店にするわね。他の皆も、もう上がってもらって良いわよ」
珠恵さんの言葉に変化の妖術でずっと大人の姿をしていた椿と美亜はホッと一息ついた。私はというと小次郎にかけられた妖術は丸一日消えないとの事なので、特に緊張も・・・いや珠恵さんに対する恐怖心はあるが、とりあえず仕事が終わった事に一息つく。
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――閉店後
私達は帰りの支度をして店の外に出ると、まだ珠恵さんとあの強面の人が会話を続けていた。
「それにしても、あの嬢ちゃん達肝っ玉据わってんな。俺達を前にしても怖がらず、平然としてるなんて・・・いや、ここの店員全員に言えるな。そんなお前らに、頼みっつ〜のも図々しいんだが、もし"亰嗟"と名乗る奴らが現れたら、是非教えて欲しい」
「う〜ん、昔のよしみでそうしたいのだけれど、刑事さん達からも頼まれているからね・・・ちょっと難しいわ」
やんわりと強面の人の頼みを断る珠恵さん。知り合い同士でなければ、頼んだ方も仕方ないというような顔をしてあっさり引き下がったりはしてくれないのだから凄い話だ。珠恵さんの人徳の深さというものを感じる。
『さっ。報酬も貰ったし、帰るよ2人とも。後の事は、私達には関係ないからな』
「あっ、うん。黒狐さん」
「へいへーい」
黒狐さんに肩を叩かれて帰る準備をすると、珠恵さんがふと私と椿の所にやって来てコッソリ耳打ちをしてきた。
「椿ちゃんに綾ちゃん、また手伝いに来てね。あなた達、この1日ですっかり人気者だし、もういっその事ここで働いてくれるかしら?特に椿ちゃんはお仲間同士、このお店を盛り上げましょうよ」
「は、はあ・・・ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます。でも、仲間って・・・?妖狐だったら、白狐さんも黒狐さんも居ますよ?」
ずっと私達が気になっていた事を椿が聞くと、珠恵さんは「んふふ〜」と意味深な笑みを浮かべる。
「もう〜恥ずかしがらなくても良いわよ。私もそうなんだから〜」
「??」
「えっと・・・つまり、どういう意味です?」
「だから〜椿ちゃんも、女の子になりきれない男性。つまり、ニューハーフなんでしょ?」
「へ・・・にぁっ!?」
え?珠恵さんも、あの狐2人みたいに両性になれたりするって訳ですか?ちょっと待って、脳に情報が追いつかない。
慌てて椿はそれを否定するけれど、珠恵さんは一歩も引く事なくグイグイと彼女に迫る。
「いや、ちがっ――!!」
「あら、違わないわよ〜。私も神格化している妖狐よ。でも本当は女性が良いから、こんな姿をしているの。だから分かるのよ、"同じ仲間"の匂いがね」
「うっ・・・ちが、ちが・・・」
私が未だに困惑しまくっている横で椿は珠恵さんの追及に表情を曇らせる。
「認めちゃいなさいよ。その方が楽になれるわよ」
「うわぁ〜ん!僕はオカマじゃな〜い!!」
「あっ!ちょっと椿!?」
「ニューハーフよ!!」
私は叫びながら逃げ出した椿の後を慌てて追った。後ろから何か訂正する珠恵さんの声が聞こえてくるけれど、それよりもまず彼女を落ち着かせないと!
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――椿の祖父の家にて
「はぁ、はぁ・・・つ、椿ったら、速すぎるっての・・・私人間だぞ・・・」
何とか椿の後を追いかけて、家まで戻ってきた私は椿が居るであろう自室に戻ろうとする。でも、どうして珠恵さんの話で彼女が暴走したのか、私は道中で色々と考えてみる。
椿は"男の子"として振る舞いたかったけれど、諸々の事情から自分が元から女の子の妖狐であったと知ってしまった。
もし私が逆の立場であったなら、きっと彼女と同じように悩んだりしたのだろうか。女の子として育ってきたのに、実は男の子だった・・・ダメだ、全く想像がつかない。
そして椿には心が女の子になっていく度に封じられている記憶が解放されていく、という事もある。
これもやはり・・・私にはサッパリ分からないのだ。例え封じられた記憶があったとしても、それで何かが決定的に変わるとは信じられないし、そこで今更変えようとはしたくない。それがどんなに重い過去であってもだ。
――だって、"過去"は"過去"でしかないし、どうやっても"今"にはならないから。だから、私はただ前だけを見て生きていく事を望んでいる。
気づけば、私は椿が居る部屋の前に立っていた。
こんな椿の心すら理解出来ない私は、彼女にどう声をかけたら良いのだろう。けれど、何かを言わなければ始まらないと思い、真っ先に頭に浮かんだ言葉を口にする。
「椿・・・大丈夫?珠恵さんの話でそこまで逃げなくても・・・。ごめん、やっぱり気にしてるよね。ひとまず、私は下で夜食とか用意してくるから――」
「分かっているから、早くこっちに来てよ綾ちゃん」
「えっ?」
一旦椿が心を落ち着かせられる時間を作ろうと離れようとした時、布団に寝転がる彼女から呼び止められて手招きをされる。全く椿の事を考えられない、私自身の"親友"としての後ろめたさもあり、私はゆっくりと彼女の所に歩み寄る。
「・・・あのさ、珠恵さんに言われた事。あまり気にしない方が良いと思うよ?」
「うん。それもあるけれど・・・ちょっと確認したい事があるの」
隣に寝転がった私の顔をジッと見てくる椿。彼女の頬は僅かに赤くなっているが、白狐さんや黒狐さんが何かをした時とは違って、まだ何処か心が落ち着いているようにも見える。見られている内に私まで恥ずかしくなって、つい視線を逸らしてしまった。
なんでだろう・・・私は椿の事をずっと弟のように感じていたのに、ずっと守ってあげようと強く振舞ってきたのに、椿の顔を見ていると心臓の鼓動が早くなる。
ずっと見られているのが我慢出来なくなって、私からやや長かった沈黙を打ち破った。
「椿・・・ちょっと、本当に大丈夫?」
「ん・・・ねぇ、綾ちゃん。僕、頑張って女の子になってみるよ」
「えっ?でも、椿。それは――」
「何?僕が白狐さんと黒狐さんに気に入られるのがイヤなの?」
「そういう訳、じゃないけどさ・・・」
どうして椿がそんな事を急に言い出したのか、私には理解出来ない。
出来ない、のだが・・・それでも彼女が"それを選んだ"のだから、彼女の意思を尊重したい私からは何も返す言葉が見つからない。
――それなのに、心の何処かで"まだ今の椿と一緒に居たい"と思ってしまう自分が居るのだ。
「でも、記憶の方は?もし戻って、何か起こったりしたら椿は平気なの?」
「綾ちゃんはとことん心配性だよね、やっぱり。だって、僕はすぐに完璧な女の子になれる訳じゃないんだし、何かあったとしても僕達には白狐さんや黒狐さん、それに他の皆もついているんだよ。もう、昔の時とは違うんだよ?綾ちゃん」
「そっか・・・そう、だよね」
私は更に椿から顔を逸らす。
"守る"だの何だの言っておいて、結局私は彼女を自分の手元から離したくなかったという事に気づいて自身がとてつもなく嫌になってくる。
けれど、そんな私に椿は優しい声でお願いしてきたのだ。
「ねぇ、綾ちゃん。ギュッて、して・・・」
「あの狐2人じゃなくて、大丈夫なの?本当に、私なんかで」
「いいから、僕を安心させてよ」
「わ、分かった・・・」
椿の言う通りに、私はぎこちないながらも腕いっぱいに彼女を抱きしめる。ふわりとした感触と彼女の性格と同じくらいに優しい温もりが触れている部分から伝わってきて、荒んでいたはずの心がとても落ち着く。
ふと、椿が私に"1つの質問"をしてきた。
「ねぇ、綾ちゃん。僕の記憶が戻って、今の僕じゃなくなっても、ちゃんと昔みたいに好きでいてくれる?」
それは――きっと彼女も不安だったんだろう。ずっと自身を縛るように過去の重みを感じ続けて、押しつぶされそうになっていたのかもしれない。
「大丈夫だよ、椿。ずっと椿の事を見てきた私が、今更そんなヤバそうな過去とか、そういうので嫌いになったりしない。私にとって、椿は椿だもの」
「ほんと?ほんとにほんとだよね?それじゃあ、ちゃんと女の子になれたら、僕の・・・」
「ん?椿?」
椿はそこまで言うと、疲れが限界に達してしまったのかスヤスヤと腕の中で眠ってしまった。
私は"やっぱり変わらないな"と苦笑いしつつも、彼女が冷えないよう布団を首元まで上げてあげた。
「お休み、椿・・・私は椿の事、本当に好きだからさ」
多分聞こえていないだろうと思い、静かにそう呟いて私も眠った。