私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾弐話 裏切り者

――体育館にて

 

私達は突入する前に多くの準備や作戦を用意して、中の様子を伺う。誰かが何かを説いているような話し声が聞こえるが、幸いにもまだ大きな騒ぎには発展していないようだ。

 

「恐らく・・・"アイツ"も居るよね」

 

『ああ、あいつの父親"玄空"も居ると考えるべきだろう、綾』

 

『そうだな、白狐。向こうにしてみれば、これは大チャンスのはずだ。学校に潜む半妖と、それを擁護する妖怪・・・これを一網打尽に出来るんだ。下手をすれば、滅幻宗の奴が何人かいてもおかしくはないな』

 

「大丈夫だよ。私達は先輩にだけ集中出来れば良いんだから、周りを抑えてくれるだけでも十分だよ」

 

私達と共に、学校に居る半妖の人達にも集まってきてもらっている。とはいえ、彼らは私達みたく戦闘が得意ではないので無茶はさせられないが。

 

不安そうにしている様子の彼らに、椿が声をかけた。

 

「皆、綾ちゃんの言う通り大丈夫です。少なくても先輩と2人で話が出来ればそれで良いからね。だからもし、他のお坊さん達が居たら、その時はすぐに逃げてくださいね」

 

一応、こちらに来るまでに白狐さんと黒狐さんがメインで戦う事は伝えているけれど、椿がそう言うまで皆が他の妖怪や半妖を救うべく無理しそうに見えていた。

 

『椿に綾よ。"あれ"があるからといって、決して油断はするな』

 

「うん、あくまで"奥の手"としてだからね。それにどんな奴が出てくるかも分からないし」

 

「分かっているよ、白狐さん。それと妲己さん、今回は何があっても出てこないでね?」

 

【はいはい、分かってるわよ。今回はバッチリ勝算があるみたいだしね】

 

私達の準備は完了した。けれども、この戦いが終わった後は・・・私も椿も、もうこの学校には居られなくなってしまうだろう。

 

それでも今の私達は、半妖や妖怪を無闇矢鱈に傷つけるばかりか全く無関係な人をも巻き込む連中を絶対に許さない。――湯口先輩もその"想い"次第では、同じく戦わざるを得なくなるかもしれない。

 

私達が重い体育館の扉を開くと、さっそく湯口先輩が声をかけてきた。

 

「来たか、妖狐椿に"霊能力者"綾」

 

体育館に集められた全生徒が一斉に私達へと視線を向け、椿と私の姿を見てざわめきだす。恐らく、正体について既に聞かされてると見て間違いないだろう。

 

そして湯口先輩の周囲には、滅幻宗の坊主達以外にも最初に私達を襲ったり、木屋町で圧倒的な戦力差を見せつけてきたクソ坊主・・・先輩の父親でもある玄空の姿もある。出来れば居ないでいて欲しかったと思ってはいたが、居たら居たで仕方ない。それも一応想定内だ。

 

「どうだ、皆。あいつの――椿の姿を良く見ろ!人外の禍々しき姿をな!綾の後ろにも居るだろう!」

 

「えっ?いや、でも・・・」

 

「普通の女子だぞ・・・」

 

「とても悪い妖怪には見えないけど?」

 

湯口先輩はまだ椿の、勾玉による効果で耳と尻尾が消えている事を忘れているようだ。後ろにいる皆も普通の姿で、狐2人や美亜も姿を隠して私達の見えない所で"ある作戦"を実行している。

 

「くそっ、まだ姿を隠すか。父上、あいつの姿を皆に晒すには、その体に触れないといけません。協力を」

 

「――良かろう」

 

目付きが完全に父親のそれと同じようになってしまった湯口先輩を見て、私達は悲しそうな顔を浮かべて訴える。

 

「湯口先輩。何で、こんな酷い嘘をつくの?」

 

「皆を危険に巻き込んでまでする必要なんて、無いよね?」

 

「なっ!?お、お前ら・・・くそ」

 

そもそも、妖怪とかそういう"非現実的な存在"は実際に目にしなければ誰も信用なんてしない。

先輩はその考え自体が頭からすっぽり抜けてしまっているから、こんな簡単なミスをしてしまったのだ。

 

「おっと!不意打ちとは、やる事が汚いな」

 

「――っ!?危ないなぁ」

 

後ろから突然飛んできたダンベルもどき・・・独古を回避する私と椿。どうやら、椿の体に触れて姿を見えるようにしようと、体育館の2階に坊主達を沢山配置していたようだ。恐らく結界も張られているかもしれないが、そちらは狐2人に任せておくとしよう。

 

「もらっ――なぁ!?」

 

上の坊主達に気を取られていると思い込んだ湯口先輩が突進して触ろうとするのを、椿は飛び上がりながら先輩の肩を使って空中で一回転して彼の後ろに着地して避ける。

 

椿・・・前にも増して身のこなしが軽くなっていないか?

 

私の想像していた以上に軽やかに動く彼女の姿に一瞬だけ心を奪われるも、すぐに目的を思い出して私達は先輩の説得に取り掛かる。

 

「ねぇ、湯口先輩。僕達の話を聞いて、何でこんな事をするの?」

 

「変にしつこい男は嫌われますよ、先輩?」

 

「くっ、うるさい!この妖怪共が!俺を・・・俺を誑かしやがって!!」

 

・・・は?えっ、何?先輩そんな事で怒ってたの?育ちの環境もあるかもしれないけれど、騙されたって感じで襲われるのはちょっと、ねぇ。主にあのクソ親父が悪いと思うんですよ、私。

 

「くっ!この!くそ!・・・うわっ!?」

 

「あーもう、しつこいなぁ。ちょっとは諦めてくれても良いじゃん、先輩」

 

「ねぇ、お願い・・・湯口先輩。僕達の話を聞いてよ・・・僕達は何も、自分から悪い事をしている訳じゃないよ」

 

いまだに椿の体に触ろうとする湯口先輩の足を引っ掛けて転ばせる。もう目の前の事にしか意識が集中していないようだ。

 

「ちっ、愚息が・・・やむを得ん、奴の動きを止める。とっとと其奴の正体を暴き、その悪しき姿を一般の奴らに晒せ!そして居場所を奪え!心折れば、後は容易く滅する事が出来る!」

 

クソ坊主が数珠を縄のようにして投げるのも、全て読んでいた私と椿は身体を僅かに逸らしてそれを回避する。やっぱり、よく動きを見れば他校の喧嘩をふっかけてきた連中よりも単調で分かりやすい。

 

「なにっ!?」

 

「当たるかよ、バーカ」

 

更に続けて投げられる1本も、先に投げたものを引き戻す動きも全然余裕で避けられる。

 

「こ、此奴ら・・・まさか!」

 

「悪いが、あんた達の仲間はここに居る全員捕まえたよ」

 

「ねぇ、湯口先輩。3人でちゃんと話そうよ。だからさ、正直な本音を聞かせて。もう他の仲間は捕まっているから、勝機はないんだよ」

 

「バカな!?いつの間に!くそ、"アイツ"は何をしている・・・早く奴らを!」

 

「・・・」

 

連中が私達に夢中になっている間に、カナや半妖の人達、狐2人に美亜も頑張ってくれた結果だ。

 

どうしてコイツらは、半妖が何も出来ないと思い込んで動いていたのか・・・全く、これじゃまるでお笑い芸人だ。

 

湯口先輩もクソ坊主も信じられないといった様子で驚いているが、私達がそれ以上に驚いているのはそっちの連携が全くなっていない事の方だ。これだったら、私は寄って集って喧嘩を仕掛けてきた不良の奴らの方が手強く感じる程だ。少しはアイツらの"プライドは抜き"な勝てば良かろうな戦術を見習え、当時は割とマジで大怪我しかけたんだからな。

 

「湯口先輩・・・」

 

「もう、十分だろ?」

 

「ち、近寄るな!」

 

ひとまず、これで説得する準備は整った。

私達はゆっくりと湯口先輩に近づいていくが、彼はまだ怒鳴ってくる。けれども、私と椿には先輩の心の中が葛藤に塗れているのを感じているから何にも怖いとは感じない。

 

「湯口先輩、悩んでいるの?」

 

「一体何が、そこまで先輩を追い詰めるの?」

 

「――っ!?椿、綾、お前らまさか・・・」

 

私達が"覚"の心の声の聞こえる能力が使えると思っている事に、ゆっくりと首を縦に振って肯定する。

実際には、どういう訳か学校中に散らばっていた覚の毛を作戦直前にオジサンへ頼んで妖具にしてもらい、御守りという形で一時的に使えるようにしているのだが。

 

こんな形で妖怪の恐ろしさを教えなければ、連中もきっと諦めてはくれないだろうという私達の考えだ。

 

「くそ!止めろ、止めろ!俺の心を読むなぁ!!」

 

動揺する先輩に、私達が畳み掛けて心の鎖を解こうとした瞬間――突如として私達の耳に異様なまでに不快な音が響いてきた。

 

「きゃぁぁああ!」

 

「何だこれ、耳がぁ!」

 

皆は一斉に耳を塞いだが、この黒板を引っ掻くようとも鉄を刃物で引っ掻くともとれない不快な音は全然収まる気配がない。

 

カナが私達の後ろを指差して何事か叫んでいるのを見て振り返ると、そこには大量のスピーカーで形作られた人型の物体と、ボサボサで手入れのされていない長い黒髪をした上にスポーツブラと下にホットパンツのようなものを着た、左腕が私のオジサンの腕のようにゴツゴツとした女性が大鎌を背中に提げながら横笛を吹いているのが見えた。

 

そいつは私の方を見るとニヤリと笑って横笛を吹くのを止めて、話しかけてくる。

 

「な、なんだお前は!?」

 

「・・・まさか、2人一緒に来るなんてね。久しぶりだね、会いたかったよ――"裏切り者"」

 

突然現れた見知らぬ女性から言われた言葉に、私は訳が分からない顔をした。"裏切り者"だって?私はこんな姿の奴を見た事も無ければ、聞いた事すらない。

 

・・・彼女は一体、何者だ?

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