私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾参話 私自身が殴るまで

 

滅幻宗の坊主達の他に、新たに現れた謎の女性へ訝しげな視線を向ける私達。

彼女の隣にはスピーカーが人型になったような妖怪がそびえ立って、彼女の横笛の旋律に合わせるかの如く不快な音を垂れ流している。

 

するとその女性へクソ坊主・・・玄空が予想外だと言わんばかりに叫んだ。それに続けて湯口先輩も、裏切られたような様子で狼狽した声をあげる。

 

「貴様!味方のはずだろう!?何故妖怪なんかを呼び出している!!」

 

「"処刑人"!俺達との約束を忘れたのか!?」

 

私と椿が突然の乱入に困惑している内にも、2人はすぐに妖怪へと一切の迷いなく突っ込んでいく。けれども、"処刑人"と呼ばれた女性は苛立たしげに頭を力任せに掻きむしりながら「あぁ〜」とため息をついた。

 

「うるっさいなぁ・・・。こっちは"合理的"に事を進めたいだけなんだから、利害の一致で協力してるだけなんだよ。――やれ、"駄々童"」

 

「ぬぐぁぁあ!!」

 

「うぁぁああ!」

 

女性がそう言うと同時に、スピーカーの妖怪"駄々童"は更に音量の出力を上げ、学校周辺まで余裕で聞こえる程の爆音を発生させる。

 

「ぐぅっ!なんつ〜大音量だよ!?」

 

「これってまさか、ソニックブームですよね!?」

 

私と椿は必死に耳を塞いで、妖怪から距離があるからまだ耐えられるものの・・・突っ込んでいった2人はその爆音による衝撃波をモロに喰らって壁に叩きつけられてしまった。耳から血を流して気絶している様子を見るに、とんでもない程の威力だ。

 

『2人とも、聞こえるか!?』

 

「うわっ!び、白狐さん!?」

 

「わっ!びっくりした〜・・・白狐さん、何処から?」

 

『勾玉だ。そこから話しかけておる。その様子からすると、この爆音の中でも勾玉から直接声を届ければ何とか話せるようじゃな』

 

すると椿の勾玉を介して、白狐さんの声が聞こえてきた。

 

「あいつ、あの妖怪の事を"駄々童"って呼んでたけど一体何なの?」

 

『我らがこいつを調べた結果、付喪神の一種でそう呼ばれているものじゃな』

 

「え?駄々っ子?」

 

『"駄々童"だ、椿。まぁ、その行動は全て駄々っ子そのものだから間違ってはいないがな。とにかく、こいつは構って欲しいだけの妖怪で、使われなくなった道具が使って欲しくて駄々をこねるようになって発生したのが"駄々童"という訳だ。――で、どうする?白狐』

 

なるほど、つまりはその道具達の"想い"を"処刑人"って女が何らかの力を利用して妖怪化させたと見て間違いないだろう。

 

『それなんだが、黒狐よ。おかしいと思わんか?スピーカーだぞ、例えあの女が操っているとはいえ、ソニックブームなど起こせる訳が無い。"駄々童"には能力を底上げする力はないが・・・綾よ、あの女はお主を知っておったようじゃが、心当たりは?』

 

「いや、全然知らないよ。そもそも、あんな奴と会うのは今回が初めてだし。でも、私に小次郎みたいな使い魔を強化する力は無いみたいだから、きっとあの女も同じように自身で力を調整とかは出来てないんじゃない?」

 

『・・・なるほど、もう1体いるのか。それなら、そいつを手分けして探すしか無いか』

 

「じゃあ、私と椿は――って、ちょい待って」

 

妖怪は狐2人に任せて、私達はここに居る生徒の人達を避難させようと考えた時――ふと、駄々童の頭にまた別な妖気を発しているものを見つけた。

 

椿が狐2人にそれを伝える。

 

「ねぇ、白狐さん。あいつの頭、何か付いてない?」

 

『ん?何じゃアレは・・・』

 

「頭に付いてるアレも、多分妖怪だよね?綾ちゃん」

 

「なら、それを外せば駄々童はソニックブームを放てなくなるかも!」

 

「うん、白狐さん黒狐さん!僕、あいつの頭の変なの、ちょっと取ってみるね!」

 

私と椿は互いに頷いて、狐2人へ顔を向ける。すると黒狐さんが慌てて椿を止めようとしてきた。

 

『待て椿、この爆音でどうやって近づくんだ!?』

 

・・・けれど、大丈夫だ。私が思うに、椿はきっと"ある方法"が使えるはず。

 

「大丈夫だよ、黒狐さん。近づかないから――"妖異顕現、影の操"!」

 

そう、影を"物理的に"接触させる事が出来るこの妖術なら、駄々童の頭に付いている謎の物体を外せるかもしれないのだ。椿が影を弾丸の形にして、駄々童の頭を狙って発射する。

 

「お願い、上手くいって!"影の弾操"!」

 

「ふん、簡単に落とさせるかよ!」

 

けれど駄々童の頭に当たる直前に、あの女が背中に担いでいた大鎌を振り抜いて放たれた影の弾丸をいとも簡単に弾いてしまった。

 

「嘘、弾かれた!?」

 

そして女はそのまま大鎌を振りかぶって椿に切りかかろうとしたのを見て、私は彼女を突き飛ばして攻撃から守る。右腕に刃先が掠り、ツーっと腕に切り傷が出て痛みが後から湧いてきた。

 

「っ・・・!」

 

「チッ、良い所で邪魔しやがって」

 

「綾ちゃん!」

 

「来ないで、椿!こいつは私が押さえとく。椿はあの妖怪を、白狐さんと黒狐さんの2人と一緒に何とかして!」

 

私を助けようと近寄る彼女をそう一喝した。あの妖怪だけを何とかするなら椿と狐2人でも可能だろうが、そこにあの女が妨害をしてこないはずは無い。

 

「分かった、綾ちゃん!それなら、駄々童の方は僕が影で押さえておくから、白狐さんと黒狐さんは頭のアレをお願い!」

 

『ああ、任せておけ!俺1人でも何とかなるが、確実に処理しないといけないからな。白狐にも手伝ってもらうさ!』

 

『それは此方の台詞だぞ、黒狐!』

 

「あぁクソ!とっととこの失敗作を始末しねぇと・・・」

 

――現に、今の椿の行動に対して反撃をしてきたという事は、"駄々童の頭のアレを狙われたらヤバい"と自分からバラしたようなものだ。

 

ならば、私が少しでもあの女を椿達に近づけさせないように時間稼ぎをするのが最善策だろう。

けれども、それ以上に私はあの女の事を許せなかった。

 

「おい、私は今二つの事でブチ切れてる」

 

「あん?」

 

「一つ、私を"裏切り者"だの"失敗作"だの散々けなしてくれた事。そして二つ目は――てめぇ、なに人様の大切な女傷つけようとしてくれやがったって事だよ!このドグサレ女が!!」

 

「はん!なら私からもブチ切れさせてもらおうか!"不良品"のクセに一丁前に人間らしくしてよぉ、この裏切り者が!!」

 

女が大鎌を槍のように突き出す。私は上体を逸らして避けるが、そこに首へ提げていた覚の御守りが引っ掛けられてられてしまい大鎌の先端でバラバラに引き裂かれてしまう。

 

「どーせこんな小細工で私を何とか出来るとでも思ってたんだろ?舐めてんじゃねえぞ!」

 

「うぉわっ!」

 

突き出した大鎌を横に薙ぎ払う攻撃も、更に逸らしてブリッジの体勢になって避ける。しかし、そこを読んでいたのか、背中をつま先で蹴り上げられて宙に浮かされ、そこから飛び上がってきた女に肘打ちで地面へ叩きつけられてしまった。

 

更にそこを踏みつけられ、壁まで蹴り飛ばされてしまう。

 

「ぐ・・・ゲホッゴホッ!」

 

玄空にボコボコにされた時並みでかなり痛いが、そこで倒れる訳にはいかない私は咳をしながらも立ち上がる。

 

「あーつまんね。てめぇをサックリ殺してからあの狐共と遊んでやろうかと思ってたが・・・気分が変わった。てめぇみたいなクソは散々にいたぶってから、泣きわめいて助けを乞うのを眺めてから足の先からゆっくり切り刻んで殺してやる。――あの"覚"とかいう妖怪と同じようにな」

 

「・・・なんだって?」

 

瞬間、私の中で怒りが急激に膨れ上がる。

 

宗教的な考えで妖怪や妖魔を殺す滅幻宗なんかよりも、邪悪な考えで命を玩具のように弄ぶコイツに私の怒りは頂点をすっ飛ばして"限界以上"を迎える。

 

「・・・来い、小次郎」

 

「あーん?てめぇの使い魔は呼べねーよ。さっき私に切られた時点で、"魔封じの鎌"によって妖気を周囲に出せなくなっちまってるからな」

 

女がそう言って、私を嘲笑う。だが、"小次郎を呼び出せない"程度で諦める私なんかじゃない。だったら、この有り余る怒りを利用して身体の中の妖気で何とかするだけだ。

 

こんな奴なんかの為に、これ以上誰かが傷つくのは見たくない。

 

今の私に出来る事。そして"私が得意としている"事、それは――

 

「――だったら、"私自身が殴る"までだぁぁああ!!」

 

その瞬間。私の身体はいつも以上に軽く動き、渾身の右ストレートが女の腹部へとめり込む。

 

「いっ!?うぐぅぅうう!!」

 

そのまま拳を振り抜いて、女を体育館の端から端まで吹っ飛ばした私に椿と狐2人、そしてカナと美亜が驚いたような声をあげる。向こうはどうやら、既に妖怪を退治し終えたようだった。

 

「あ、綾ちゃん・・・その姿は?」

 

『なんと・・・それがお主の"戦闘形態"みたいなものなのか?』

 

『流石の俺も、こんな力を使える奴は初めて見たぞ・・・!』

 

「え?あ、綾さん?いつの間にそんな格好に?」

 

「あんた・・・私が思ってた以上に、椿と同じくらいにヤバいじゃないの」

 

皆の呆然とする様子に私が振り返って、バレエ用の壁にある大きな鏡を見ると――

 

「・・・え?」

 

そこには、まるでカラスのように彩られた紺色と灰色の、小次郎によく似た装甲を持つボディスーツに身を包んだ自身の姿があった。


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