私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私が自身の姿が変わっている事に驚いていると、今度は生徒の皆が起き上がって私達を見て仰天した様子を見せている。
「流石は、腐っても"烏森の傑作"か・・・!」
"処刑人"と呼ばれた女はそう言って立ち上がると、テレポーテーションでも使ったように瞬く間に姿を消してしまった。
そして、皆が驚いているその理由は私達の後ろにいる人物を見てすぐに分かった。全て、湯口先輩が仕組んだ事だったのだ。
「ご苦労さま。まさか、"処刑人"が妖魔まで呼び出すとは思わなかったが、まぁ良いだろう」
「湯口先輩・・・」
「まんまと一杯食わされた、という事か」
「さぁ、皆。今の2人を見てどう思う?この異形の姿・・・こいつはずっと、俺達を騙していたんだ!」
妖術を使った事で狐の耳と尻尾をさらけ出してしまっている椿と、身体の中にある妖気を怒りの感情で戦闘服として具現化させた私に対して湯口先輩が指を差す。
「椿ちゃん、綾さん・・・」
「カナちゃん、大丈夫。想定内だから」
「こんな形でバレるとは、思ってもみなかったけどね。ついでに私もなんか変身してるみたいだし」
私は別にこんな学校に居れなくなっても、ちょっとオジサンを心配させるくらいで問題はないのだが、椿や半妖の皆は違う。
出来れば彼女や彼らには、普通に人と話したり遊んだりという平穏な日々を過ごしていて欲しかった。
「妖狐、椿!霊能者、綾!その禍々しい悪しき姿が、お前らの本当の姿だろう!」
悪態をつく先輩に、私は色々と気になる事を聞いてみた。
「その前に・・・何で皆はあの爆音が平気だったのかを説明してくれる?」
「ふん、この特製の耳栓を渡していたからだ」
「なんか変な力を感じるんだけど」
「当然だ。こいつは"練気"という、人の気を練り上げたものが込められている。俺達は、この練気を使って術を行使し、妖怪を討伐している。――こんな風にな!」
説明の途中で湯口先輩は不可思議な模様の札を取り出したかと思うと、それに何かを唱えて札から風の塊を私と椿に向けて飛ばしてきた。
「あだっ!いきなり何すんだよ!」
「うわっ!っと、びっくりしたぁ」
私は頭でゴンという音と共にそれを弾き、椿は咄嗟にジャンプしてそれを避ける。この戦闘服の防御力を試すついでではあったけれども、とりあえず今の衝撃からしてそこそこ強めの妖術ではあったようだ。というよりもこの服、ほぼ無意識で出してしまったとはいえ結構な防御力があるようだ。
そんな私達の今の様子に生徒の皆がまたざわつきだした。
「ふん、お前は普通の妖狐ですらないのか?何だ、その尻尾と耳は。綾も変身ヒーローにでもなったつもりか?」
「別に、そこまで意識した気は無いんだけどなぁ・・・でも、これはこれで動きやすくて良いかも」
「ん?あぁ・・・これはね、白狐さんと黒狐さん。そのどっちかの能力を使うと、こんな風に色が変化しちゃうんだよね。普段は普通の狐色だよ」
私達が皆に自慢するように堂々と姿を見せびらかしていると、先輩がそれに苛立ちを感じたのか険しい顔で怒鳴る。
「何なんだ、さっきからのお前らの態度は・・・開き直ったのか!?おい!悪い妖怪だって事がバレて、堂々と悪事を働く気か!!」
・・・とはいっても、覚の御守りが無くなったのにも関わらず、どういう訳か先輩の心の声がダダ漏れで聞こえるので、あまり気迫は感じない。
『何でだ、俺の知っている翼と綾じゃない』
『こっちが本当の翼と綾なのか!?』
『・・・けど、何で暴れている妖怪や"処刑人"を倒して、殺さずに捕まえようとしてんだ?あいつらと協力して、ここで暴れるのかと思ってたのに!』
うーわー・・・これは本人にバラしたら大変な事になりそうですよ。しかし、たまにノイズのように掠れて聞こえる時があるが、それはきっとあの"練気"とかいう力を放っている首にかけた数珠によるもののせいだろうか。
でも、この"練気"・・・妙な事に私達が使っている"妖気"と性質が似ているばかりか、ほぼ同一のように感じるのだ。
『2人とも、無事か!?』
『やれやれ、やはり正体がバレているようだな・・・綾のその姿については未だよく分からんが』
「あっ、白狐さん黒狐さん」
「お、そっちの妖怪の処理は終わったみたいだね」
捕まえた証拠としてしっかり紐の結ばれた巻物を見せてくる白狐さんの姿を見て、更に先輩は語気を荒らげる。
「くっ、だから何でだ!何で妖怪や妖魔を捕まえているんだ!?お前らも同じだろうが・・・その捕まえた妖怪や妖魔と!」
「なーんで先輩は頭が硬いかねぇ・・・」
「まさか、そう教えられたの?湯口先輩」
「――っ!」
だが、その先輩の矛盾する考えを椿の図星の一言が貫く。そのおかげか、先輩は彼女達妖怪に対する一方的な考えが揺らいできているのが感じられた。
――まぁ、そう易々と"あのクソ坊主"はそれを見てはいなかったのだが。
「わっぶね!まだ戦うつもりかよ、こいつ!」
「おっと!」
『こいつ・・・!椿、綾!説得するなら早くしろ!』
『我らがこいつを押さえている間にな!』
湯口先輩の父親でもある玄空が、私達に向かって独古を投げてきた。投げてくる事自体は読めていたので簡単に避け、狐2人は私達と玄空の間に入って戦闘態勢へ移る。
そもそも先輩をそんな危ない考えから完全に改心させるには、私達の言葉を尽く否定して聞く耳すら持たない、あのクソ坊主がどうしても邪魔になる。だが、そいつもただ倒すだけでは、きっと何度でも懲りずに襲いかかってくるだろう。
「ちょっとタンマ、狐のお2人さん!椿から話があるから、聞いてあげて」
「うん、綾ちゃん。2人とも、僕達はこいつとも話し合わないと、湯口先輩の考えを覆せない。この玄空って人の考えが全部間違っているんだって証拠を、先輩に見せないと」
『椿、綾。何か策でもあるのか?』
「まぁね」
「実は、さっき気が付いた事があるんだよ。多分綾ちゃんも気づいたみたいだから、僕達はそこを突いてみる」
これは、一か八かの賭けだ。
あのクソ坊主は、絶対自分の意見が正しいと思い込んでいる奴なので下手に挑発するのは良くないだろうが――私達は"敢えて"そうしてみようと思ったのだ。
玄空が湯口先輩へ怒鳴りつけた。
「"処刑人"が撤退した程度で、何を躊躇している!」
「くっ・・・しかし、父上。本当に椿は、いや・・・翼と綾は"悪"なのか?さっきは、"処刑人"が勝手に呼び出したあの妖怪から皆を守っていた。悪しき妖怪なら、そんな事は・・・」
すると、先輩はようやく自分の抱えていた疑問の"想い"を父親へとぶつけ始める。私達の"想い"が伝わってくれたと心で喜んだのもつかの間、玄空は揺るがない自身の"信念"を先輩に突きつけた。
「"悪"だ、紛うことなき"悪"。人を誑かし、時に殺め、己の欲望のみを突きつける――"悪しき存在"なり!」
それを聞いた椿は少しばかり頭にきたようで、玄空の言葉に皮肉を返した。
「ねぇ、それってさ――人間にも居るよね?」
「ぬっ!?戯れ言を!」
「あのさ・・・妖怪って、何も悪い妖怪ばかりじゃないんだよ。そりゃ、さっきの駄々童みたいに悪さをして、それで手配される妖怪もいるけどさ――人間だって同じような人がいるでしょ?指名手配されたりさ。さっきの奴は、それと一緒なんだよ」
椿の言葉に私も乗っかって、玄空へと詰め寄った。
「そこの子は、妖狐の椿。でも、悪い妖怪なんかじゃない。ついでに、そこの白狐さんなんて稲荷の守護者なんだぞ。人を見守っている存在だぞ、おい?なぁ、何とか答えろよ。どうして妖怪は全部悪いなんて言い切るんだ?」
椿と2人で玄空の目の前に迫り、それでも怯まず凄まじい視線で睨みつけるそいつを見上げる形で睨み返す。
そんな理屈で理不尽に妖怪を殺して良い理由なんて、この世界には必要ないって事を解らせてやる。
「妖怪は"悪"・・・"悪しき存在"。"あの方"の言う事は、正しい・・・はずだ!!」
その瞬間、私と椿は玄空から強い"想い"を感じ取る。滅幻宗の教主の名前――「奈多姫」という名前を。
けれど、私の戦闘服による読心能力はそこで途切れてしまい、次には玄空がバグったゲームのように叫び出す。
「ぬぉぉぉおお!!悪!悪!あぁぁあくぅぅう!!"悪"は、"悪しき妖怪"は――滅するのみ!!それこそが・・・滅幻宗の在りし姿だぁあ!!」
そして玄空が手にした杖、錫杖を私達に振り下ろしてきたが、その行動は読めていた此方はそれぞれ受け止める。
「わっ!?と――あれ?」
「ありゃ?全然痛くないな、今の」
あの時よりも強くなったからか、割と簡単に受け止められた事に加えてダメージも全く感じない事に私達は驚く。
「ぬ、おぉぉおお!」
「わっ、わっ、わっ、とと・・・」
「よっ、ほっ、せっ、と。ブンブン振り回しやがって、危ないなぁ」
攻撃が受け止められた事に玄空は手を止める事もせずに次々に錫杖を振り回して連撃を繰り出してくるのを、椿はギリギリで避け続け、私は肘や膝で攻撃を逸らす。
そして、今の私達の言葉でクソ坊主の心も揺らいできているようだが、強い"信念"のおかげかまだ全然戦う気力は失っていない。
けれども、私達が気づいた妖気と"練気"の性質が全くの同一なものである事を伝えれば、幾ら奴でも戦う心も理由も無くなってしまうはずだ。
――散々虐めてくれた礼だ。お前のそのイカれた考え、何もかも間違っていると証明してやるよ!