私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾伍話 わからず屋

 

湯口先輩の説得を上手く進められる足がかりになると思ったのが一転、彼の父親である玄空が暴走してしまったせいで説得どころではなくなってしまう私達。

 

玄空の攻撃自体はそれぞれの読心能力で対処出来ているので以前程の苦戦にはなっていないが、誰の言葉も聞こえないくらいに乱心しまくっているわ、生徒の皆もポカンとしているわで滅茶苦茶である。

 

そんな時、いつの間にか壇上へ上がっていた校長先生が高らかに声をあげた。

 

「あ〜、少しこちらに注目してください。生徒の皆さん、大変申し訳ない。本来は今すぐにでもこの体育館から避難して欲しい所ですが、どうもそこのお2人が体育館全体に強力な二重結界を張っているようで、人間でも出られないのです」

 

校長先生の言う、二重結界とやらは私達が体育館に入った時点で張られた事に気づいていた。まぁ、校長先生の話が出る前より体育館から逃げようとした人が見えない壁にぶつかっていたみたいだが。

 

とはいえ、私達はそれ以前に頭のネジが外れて暴れてしまっている玄空をどうにかしないといけない。とりあえず誰か手伝ってくれと言おうとしたのだが、狐2人や美亜の姿が見当たらない。

 

「皆さん、落ち着いてください。今皆が聞いた事や知った事は――全て事実です。そして、今起きている事も現実です。何かの撮影とかではないです」

 

一部の生徒から飛んでくる質問に校長先生が答える。こんな現実離れした、アニメかゲームでしか見た事のない事態を受け入れられないという気持ちは、私はとても理解出来る。

 

「それじゃあ、槻本さんや烏森さん・・・校長先生は、人間じゃなかったんですね。禍々しい妖怪、なんですね・・・」

 

「それはちょっと違う。半妖は妖怪ではなく人間と妖怪の合の子。要はどっちつかずの存在です。だが、槻本君や烏森君はどちらも違う。だけど禍々しいかどうかは、君達のその目で直接確認をし、そして判断をして欲しい。・・・善悪の基準は、人によって違うのだからね」

 

更に飛んできた生徒の言葉へ校長先生がそう返すと、皆はシンと静かになり私達と玄空が戦う姿へ注目し始める。

 

――だが、今の状況からすれば善悪はハッキリと見分けられるはずだ。

 

「滅す・・・滅する、滅してやる!!」

 

目の前の存在にしか意識を集中させず、相手を"悪"であると決めつけて周囲を省みず暴れる坊さん。

 

「よっ、とっ、あっぶない・・・」

 

見た目が可愛らしく、周囲とは違う狐の耳と尻尾がありながらも、皆を守る為に敵の攻撃を受け続ける女子中学生。

 

「父上・・・くそ!一体、一体何が正しいんだ!?」

 

そんな現実を直視し、狼狽える先輩。

彼を歪んだ幻想から助けるなら、今がチャンスかもしれないだろう。

 

「ちょこまかと・・・それならば、これで視界を封じてやる!」

 

私達が攻撃をいなし続ける事に我慢の限界となった玄空は自身の懐に手を入れ、避けながら椿と読心能力で立てていた作戦通りの行動をしてくる。

 

札で"練気"を使って術を発動しようとする瞬間だ。

 

「くらえい!」

 

「――今だ!"妖異顕現、黒羽の矢"!」

 

「予想通りだね、椿!!」

 

椿のこの妖術は、"実体のない存在"や"触れない存在"を射抜く力がある。そして、今の閃光弾程度の光であれば容易く撃ち抜けるという訳だ。

 

「なっ!?」

 

驚く玄空と先輩に向かって、私達は続けて"練気"の正体について指摘する。

 

「ふぅ・・・良かった、成功したね」

 

「さてと、湯口先輩に玄空って人。よく見て、そして感じてみなよ。椿の妖術とそっちの術・・・何か変な所が無いか?」

 

麺の束のようになった発光体が椿の矢に壁へ縫い付けられているのを、私は親指で差して見せる。

 

こうして椿の術と向こうの術を分かりやすい形に見せてやれば、後は説明の説得力もほぼ完璧といえるだろう。

 

「つ、翼に綾・・・こ、これは」

 

「湯口先輩・・・まだ僕の事、"翼"って言うんだね」

 

「まぁまぁ、それよりもさ。これ見て、どう思うよ?」

 

「あ、あぁ。いや、だが・・・はぁ、これは後で良いか。しかしコレはお前らの言う通り、俺達が術を使う時の"練気"とお前らが妖術を使う時の"妖気"――全く同じ性質だ」

 

「うん。つまり、湯口先輩達が使っている"練気"って、妖気の事だよね。それとも、もしかして逆なのかな?」

 

椿がそう言った瞬間に、縫い付けられていた光と矢がパッと霧散して消え去る。

 

それを見て、長らく父親を逆らえない程に怖がっていたであろう先輩は、自分達の矛盾している事に気づいて父親である玄空へと詰め寄る。

元から正義感が強い彼なら、きっとこうするだろうと私達は予測していたのだ。

 

「・・・父上、これはどういう事ですか!?」

 

だが、その先輩の様子に怯む事もなく玄空は私達を睨みつけた。

 

「おのれ・・・悪鬼妖怪共め。巧みな手を使ってくる。その妖気を、我々の使う"練気"と"同じ質"に変化させるとはな。しかもそれを元に、我が息子を誑かそうとするとは・・・だが、そうはいかんぞ!」

 

なるほどね、そうきましたか。

けれども、椿達妖怪にもそういう事が出来るのは限度がある訳で・・・

 

「あのね・・・僕達が変化出来るのは、この身体だけだよ。"気"まで変化させる事なんか出来ません」

 

「そういう事だ、分かったか?」

 

「黙れ、もう良い。悪しき妖怪の言葉など、聞く耳持たんわ!――やれ、靖!!」

 

はい、ダメでした畜生!!

 

なんでこう頭の硬い大人っていうのは、自分の信念にここまで忠実なのか・・・正気を疑うね。いや、この場合は滅幻宗という組織の正気を疑うべきなのかな?

 

「そうか・・・そうでした、父上。相手は妖怪、しかも妖狐。変化が得意で、誑かすのも得意。危うく落ちるところでした・・・申し訳ありません」

 

「・・・って、はぁ!?」

 

しかも、よりにもよって今の玄空の言葉で先輩まで揺らいでいた気持ちを元に戻してしまった。

 

"妖狐は変化が得意で、誑かすのが得意"

 

確かに世間一般ではその通りかもしれないが、私にとって椿は"不良だった私を友達として見てくれた存在"なんだ。お前らの考えとは違うんだって・・・!

 

「違う、先輩・・・僕は――」

 

「うるさい!人を惑わす悪しき妖狐"椿"!!俺を惑わしやがって!絶対に許さん!!」

 

「ふざけんな!もう少しぐらい話を――」

 

「黙れ!俺を惑わすな・・・俺を、惑わすなぁぁあ!!」

 

「「――っ!?」」

 

私達の言葉を跳ね除け、先輩は目の前に錫杖を振り下ろしてきた。咄嗟に椿を抱えて後ろに飛び退いたから当たらなかったものの床に錫杖がめり込み、かつて見た下っ端の坊主達の攻撃とは比べ物にならない程の威力だ。

 

そこから先輩は更に懐から札を取り出して、錫杖を持つ手に巻き付けて術を唱える。

 

「喝!!」

 

「ぐっ!」

 

「うわっ!」

 

すると床にめり込んでいる錫杖の先が爆発を起こして、その衝撃波が私達へと襲いかかった。

椿は白狐さんの力を解放し、私も戦闘服による防御効果のおかげで爆発のダメージこそないが、凄まじい爆風に吹き飛ばされて危うく体勢を崩してしまいそうになる。

 

「くそ、このわからず屋が!」

 

「いったた・・・もう、話を聞いてよ!湯口先輩!」

 

そんな私達の叫びにも先輩は完全に耳を閉ざしてしまい、次に札を付けた独古を沢山飛ばしてくる。ちなみにここまでたった数秒である・・・その特技、もっと別な所に活かして欲しいです。

 

「うぉわっ!?」

 

「うっ!?」

 

それが私達の近くの床へ刺さった途端、それも爆発を起こした。どうやら先輩はこういう爆発系の術が得意なのかもしれないが、そんな事をすれば生徒の人達がケガをするぞ!

 

私は正直、人間も妖怪も特に気にかける事もない冷めた人間ではあると自覚しているが――大切な椿を悲しませたり、誰かが傷ついて涙を流す姿は、私は絶対に見たくない。

 

だが、先輩は攻撃の手を休める事なく私達との距離を詰めて錫杖を突き出してくる。

 

「せやっ!!」

 

「うっ・・・!」

 

「ぐっ・・・!!」

 

後ろにいる生徒の人達を守る為に、私達はその攻撃を受け止める。話を聞いてくれない、こんな状況になってしまったら先輩を説得するのは無理なのだろうか。

 

「湯口先輩・・・もう説得は無理なんだね。それならせめて、この学校の人達だけでも守るよ!――そして、僕が悪い妖怪じゃないって事を・・・行動で示してみせる!!」

 

「私も同意見だよ。これ以上、こんな馬鹿げた事で人に迷惑かけるのは――絶対に見過ごせない!!」

 

私達はそれぞれの決意を先輩に叫ぶ。

 

「ふん、無理だな。お前らがどれだけ善行を重ねようと、俺を騙していたという罪は・・・俺の善意を踏みにじったお前らの行為は・・・到底許されるものではない!!」

 

「それは・・・僕の記憶が封じられていたからだよ!そんな事すら聞こうとしないで、勝手に"悪"って決めつけないで!」

 

「誰にだって、そんな見解の違いは存在するよ先輩!ってか、そんな押し付けがましい"善意"なんて・・・お前の怒る理由は安いもんだな!!」

 

私達と先輩は互いの剥き出しの感情をぶつけ合う。信頼していた人が・・・椿を私と同じくらいに心配してくれていた湯口先輩が、こんなふざけた理由で牙を剥いてくるのが許せない。

 

「僕は・・・悪い妖怪じゃない!この学校の半妖を・・・そしてクラスの人達を、悪い妖怪や悪い人達から守る――"守護妖狐"の椿だ!!」

 

「私だって、こういうの好きでやってるって訳じゃないけれど・・・お前らみたいな連中のせいで悲しみを背負う人達が出るのは許さない!私は、この"烏森 綾"は――そんなお前らを"断罪"する!!」

 

私と椿の心からの叫びが、体育館へこだました。

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