私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私達を倒すと決意しながらも、まだ完全には振り切れていない心の湯口先輩・・・そして滅幻宗の連中が去っていった後に追いかける事が出来なかった私達へ白狐さんが声をかける。怒りが落ち着いてきたからか、私の姿は元に戻っていた。
『椿、綾。あいつはもう駄目だ。完全に敵として、我らの前に立ちはだかるぞ。――もう決心をしろ』
「・・・うん、決心はしているよ白狐さん。絶対に説得してみせるよ」
「2人には悪いけど・・・後味が悪いのは椿が可哀想だし、何より私の好みじゃないからね。たとえ止めろと言われても、諦めるつもりはないから」
『椿に綾、お前達・・・』
その私達の決心の言葉に、狐2人は一瞬呆れたような顔をする。とはいえ、流石は私も認める椿の理解者である彼らは私達に近づいてきて椿と一緒に頭を撫でられる。
『全く、しょうがない奴らじゃ。ならば、いくらでも手助けしてやるわ』
『そうだな、白狐よ。出会った頃の2人に比べれば、こちらの方が俺達の好みだからな』
「なっ、ちょ・・・!」
いつもは椿ばかりしか考えていない狐2人から、不意にそんな言葉を言われた私は頭では違うと思っていても顔を赤らめてしまう。
「槻本君に烏森君。何とかなったようだね」
「あっ、校長先生と・・・皆」
「そっちに怪我をしたりって人は・・・いないみたいだね。とりあえず良かった」
すると校長先生と生徒の人達が私達の後ろへやって来た。校長先生の横から美亜とカナが現れて、それぞれ私達を心配する言葉をかける。
「椿ちゃん!綾さん!大丈夫だった!?」
「ふん、センターに連絡する必要なかったじゃないの。それよりも、妖怪を呼び出していた女と最後に現れたあの3人・・・只者じゃないわよね。あの女は瞬間移動していたのもあるけど、気配が完全に消えてたもん」
そして私達は、今後の事を校長先生へと尋ねる。
私や椿の事、そして半妖の人達の存在が全校生徒にバレてしまったのだから。
「えっと・・・僕達はこれからどうしたら・・・」
「あぁ、半妖の私達は心配しなくて良い。"半妖保護法"というのがあってね、私達半妖の事が明るみに出た場合に記憶を食べる妖怪が出て、私達の情報を消してくれる事になっている。だけど・・・これは、妖怪や元から特殊な力を持っている人間には適用されない」
「なるほど、それで皆・・・ねぇ」
半妖の人達が何故私達へ浮かない顔を向けているのか、校長先生の言葉で大方予想が出来た。私達はどうやら、この学校には居られなくなってしまったようだ。
『2人とも、こればっかりはしょうがない。妖怪というのは時折、人間達にその存在を知らしめ畏怖して貰わないと、住処を乗っ取ろうとするからの。そういった中であの滅幻宗という組織が生まれたのだろう』
「そっか・・・妖怪は悪い事ばかりする訳じゃないけれど、時にはそうやって怖がってくれないと住処を追われるんですね・・・」
ふと私はそこで疑問に思った事を狐2人に尋ねた。
「ん?でも妖怪達の住処って人間の世界とは別にあるから、存在を知らしめなくても大丈夫じゃないの?」
『あの妖怪の世界はな、人間が畏怖する"想い"が詰まった場所だ。人が畏怖しなければ、あの世界は維持が出来ず消滅してしまうのさ』
「えっ・・・?」
意外な返答に私は言葉を失う。
もし妖怪の世界が無くなったりすれば、妖怪は人間の世界で暮らさざるを得なくなるだろうし、それも長続きする事はなくどんどん山奥など人里離れた所へ追いやられるのは簡単に想像が出来た。
『今回こうやって、この学校の生徒達が妖怪の存在を信じて怖がってくれるようになってくれただけで、あの世界は安泰じゃ。・・・だから泣くな、椿。半妖達の記憶は消えんから、香苗達とは会えるんだ』
「あ、あれ?僕、泣いてました?」
「椿・・・」
椿の方へ目をやると、彼女は皆と離れ離れになるのが無意識に悲しかったのかツーッと目元にうっすら涙が浮かんでいた。
私が椿にどう声をかけるべきか悩んでいると、カナが優しく彼女を抱きしめる。
「椿ちゃんに綾さん・・・大丈夫。私は2人の友達だもん。今度家に遊びに行くから、他の妖怪達も紹介して欲しいな」
「うん・・・うん。カナちゃん、ありがとう・・・」
尻尾を大きく振る椿を抱きしめているカナへ、私は謝罪の言葉をかける。
「ごめん、カナ。こういう時こそ、私が椿を慰めないといけないはずなのに・・・」
「良いの良いの、綾さん。あなたと椿ちゃんの辛い事、きっと別々だと私は思ってるからね。だから、もし綾さんも辛い気持ちになったら、遠慮なく椿ちゃんや私に甘えても良いんだよ」
「辛い気持ち・・・か。ありがとう、カナ」
彼女にお礼を言って少し感傷に浸っていると、1人の女子生徒が私達の所へやって来た。
「あ、あの。椿ちゃん・・・で良いのかな?それと綾ちゃん」
「えっ?な、何?」
「ん?私に何か用でも?」
「あなたは・・・」
私達が振り返るのと同時にカナも振り返り、そこに居た人物を見て驚きの表情を浮かべる。私もそいつの顔を見て驚きで目が丸くなった。
「えっと、その。私がこんな事お願いするのもおかしいんだけれども、あの・・・その尻尾、触っても良い?」
「へ?」
学園のアイドルだか何だかと有名ではあったが、それでも男子2人と共に椿をいじめていた主犯格の1人で、私はつい警戒心から皮肉めいた言葉を返す。
「亜里砂・・・だったか。椿をいじめていた1人のあんたがそんな事を言い出すなんて、意外だな」
「や、やめてよ綾ちゃん・・・あれは妖怪の仕業だったんだし。それに、あの人だって反省してるみたいだもの」
小声で椿が私の事を宥めながら、手で優しく押しのけるようにして前に出る。そして彼女は自身の尻尾をフワリとそいつへ差し出した。
「えっと、ど、どうぞ・・・あっ。でも、あんまり強く触らないでね。ここ敏感だから」
「本当に良いの、椿・・・?」
「綾ちゃんは少し黙ってて。これは、僕の問題なんだからさ・・・んっ」
亜里砂が椿の尻尾に手を触れる。私はその光景を何ともいえない複雑な気持ちで眺めていた。どうして、椿は自身をいじめていた人物にまで優しく出来てしまうんだろう・・・そんな事を考えた自分に少し嫌悪感を感じる。
「わぁ、フサフサ。触り心地も最高〜」
「なぁ亜里砂・・・そういう感想を言うよりも前に、椿へ言うべき事があるんじゃないのか?」
彼女はそう言われると、酷く申し訳なさそうな顔をして椿と私へ謝罪の言葉を述べ始める。
「うん・・・ごめんね、あなた達をいじめてしまって。何でそんな事をしたのか、自分でも良く分かんないんだよ。だけど、それを言い訳にはしたくないからさ、だから謝るよ。本当にごめん!それと罪滅ぼしって事じゃないけれど・・・あなた達には、この学校から居なくなってもらいたくないの。友達になりたいから・・・」
「えっ?僕達をいじめて・・・あっ」
すると椿はそいつが自身をいじめていた事に気づいていなかったのか、一瞬だけ意外そうな声をあげた。
「ううん、大丈夫だよ。それに、あれも妖怪の仕業だったから――あっ」
「椿のバカ・・・うっかりし過ぎだって」
椿がそんな事を言ってしまったばっかりに、そこへ他の皆が驚いてワラワラと私達の所へ駆け寄ってきた。
「おい、マジかよ!そんなにいっぱい居るのかよ、妖怪ってのは!」
「悪い妖怪がそんなに沢山居るなんて・・・。ねぇ、椿ちゃんと綾さんって、その妖怪を退治してくれるの?"守護妖狐"・・・とか何とか言ってたよね?」
「お前ら、頼むからこの学校から去るなよ!怖ぇじゃねえかよ!」
ゴタゴタとする皆から椿と私は後ずさりした。
「ちょっと待ってよ、皆!僕達が怖くないの!?」
「そうだそうだ!なんで私達にそう近寄るんだよ!?」
すると怖気付いた様子も無く、その疑問に皆は色々と答える。因みに椿は未だ亜里砂に尻尾を掴まれたままだ。
「いや、だって・・・俺達に危害なんて加えてないだろ?確かに2人のその姿に少しは驚いたけど、今はもう怖くないね!」
「それよりも驚いたのは、湯口よね〜!あいつあんな性格だったなんて」
「そうそう。あんな敵意剥き出しでガンガン攻撃してきているのに、槻本と烏森は必死に説得しようとしてたもんな。アレを見たら、どっちが悪いかなんて俺達でも分かるわ!」
先輩達の評判がどんどん下がっていくのを聞いて、相手の考え通りにいかなかった事で私はホッと胸を撫で下ろす。しかし、先輩達は私達――多感な中学生を前にあんな真似をして本当に信用してもらえると思っていたのだろうか。
そんな事を考えていると、椿が顔を赤らめて皆に1つお願いをする。
「それよりも皆・・・僕、今だけ心が読めるのを忘れていませんか?いや、悪い事は考えてくれてないし、皆が言ってるのは全部本心だから素直に嬉しいんだけど・・・。あの、その・・・心の中で告白だけは止めてくれませんか?」
「んだとゴラァ!?椿に不埒な妄想抱いたバカは一体何処のどいつだ!」
私が激昴すると、一斉に皆は私へ視線を向けて苦笑いを浮かべ、椿も恐る恐るながら私に人差し指を向けてくる。
「ちょっと待って?まさかの私の心の声バッチリ?」
「綾ちゃん・・・今の心の声、結構色々危ないからね?それに綾ちゃんや、白狐さん黒狐さんも居るから僕は――あっ!」
そこで更に椿も失言を重ねてしまい、私と椿は皆から質問の雨あられを受ける羽目になり、もはや何がなんだか分からない状況になってしまった。
「ち、違う違う!間違えたの!僕に告白なんかすると、綾ちゃんとか白狐さんや黒狐さんが怒るよって、そう言いたかったの!!」
「あ〜やっばい、恥ずかしいから止めてマジで!今変な質問されると、ウッカリまた椿に妙な事考えたのとか聞かれたりしてマズいから!!」
特に女子からの質問攻めが凄く、目をキラキラさせながら私や椿にあれやこれやと聞いてくる。私は恋愛事には全く縁がないつもりだったのだが、椿に対して"そういう感情"は極力避けようとしていた。それが本人にバレるわ、周りにもバレるわで私はもうパニックなんてものじゃない。
「うひゃぅ!?えっ、ちょっ・・・!」
そんな時、いきなり椿が素っ頓狂な声を上げる。亜里砂が彼女の尻尾を強く握ったのかと思って見てみると、いつの間にやら美亜がその尻尾を握っているではないか。
「あれぇ!?み、美亜、いつの間に代わったのか!?」
「ふふふふ・・・人気者ねぇ椿〜・・・そうよねぇ、あなたの尻尾って触り心地良いものね〜」
「あっ、待って・・・美亜ちゃん。や、止めて・・・あっ、あぅ・・・止め、そんなに弄らないでぇ!」
椿のちょっとエロく感じる声に私は悶々とさせられながらも、興奮しながら触る美亜を止めようとする。しかし、そんな美亜の後ろにも生徒が数人近づいてきていた。
「あ、ちょっと・・・美亜、後ろ後ろ」
「なに、綾?その手には乗ら――ふみゃぁ!?え、ちょっ、な、何!?」
「だ〜ははは!そっちも尻尾触られてら〜!」
ミイラ取りがミイラになる理論で揉みくちゃにされる美亜を眺めて大爆笑する私。・・・多分女子として一番しちゃいけないレベルの笑い方してるな〜我ながら!
「ねぇねぇ、君も妖怪なの?尻尾、触っても良いよね?」
「わぁ〜耳も触り心地最高だよ、この子〜!」
「なっ・・・ちょっと!止めなさい、あなた達!ひ、ふみゃぁぁあ!!」
なんというか、この学校の人は随分と心臓に毛が生えた人間が多い事で。椿がいじめられていた時には気が付きもしなかったが、こんな人達とも私達はこれから付き合っていかなくてはならないのかと思うと気が滅入ってくる・・・。