私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第陸話 ズルい人間だな、私は

 

部屋に到着すると、すぐさま椿は自室の真ん中に座らせられて狐2人からジーッと見つめられる。私は狐2人に挟まれて、少しばかり居心地の悪い雰囲気に立たされている状態だ。

 

顔を逸らしている椿へ狐2人がずずいっと詰め寄った。

 

『おい、椿。こっちを向け』

 

「無理です、黒狐さん・・・」

 

『椿よ、正直になれ。我らに惚れてしまいそうになっているんだろう?』

 

「白狐さん、違います。僕はそんなに気が多くないです」

 

一体、椿はどれだけキスをされた件を引きずってしまっているのだろう。いやまぁ、私も彼女の事を言えないくらいに引きずっているのだが・・・。

 

「いっつ!!」

 

すると、突如椿が頭を抱えて苦しみ出す。この感じは、以前に椿と私が昔の記憶を思い出した時とよく似ていた。まさか・・・椿は何か思い出しそうになっているのだろうか?

 

『椿よ、どうしたのだ!?』

 

『椿、しっかりしろ!またか!?』

 

「椿、大丈夫!?また記憶が?」

 

「3人とも、あんまり叫ばないで欲しいです。頭に響いちゃう・・・」

 

椿がそう言い終えた瞬間、私の頭の中には光の噴流が溢れてきて、幼い姿の椿が白狐さんから何かを言われているような記憶――いや、"想い"が流れ込んでくる。

 

【あぁ、約束だ――我と、お前のな】

 

【うん、白狐さん!私、絶対あなたのお嫁さんになるね。だから約束だよ、浮気はだ〜め!】

 

「えっ、何これ・・・」

 

そんな景色が一瞬だけ流れ、ひょっとしなくても椿の黒歴史を見てしまったのではと思っていると、頭を抱えている椿を白狐さんが揺さぶってきた。

 

『おい!椿よ、しっかりし――っ!?』

 

「あっ、ごめっ――!」

 

すると彼女は、今の記憶で恥ずかしくなってしまったのか心配そうに覗き込む白狐さんの頬を凄い勢いで引っぱたいてしまう。

 

あ〜・・・痛そうだな。まぁ、あんな記憶を思い出したら、それはそうなるかもしれないと思う。

 

『ふっ、嫌われたものだな・・・』

 

「あっ、ちがっ・・・ごめんなさい。パニックになっちゃって、あの、昔の記憶がね・・・」

 

「やっぱり今見えたのって、そうなの?」

 

「あ、綾ちゃんも見ていたんですか・・・もう」

 

プクーと頬を膨らます椿に狐2人が慌てて近づいて問い詰める。おい、まだ椿が恥ずかしがっているのに引っぱたかれたいのか駄狐共。

 

『まさか椿よ、記憶が戻ったのか!?』

 

『おい、大丈夫なのか!?』

 

「ちょっとは落ち着け、2人とも〜!」

 

「あっ、大丈夫・・・全部じゃないよ。あの・・・白狐さんとの約束を思い出したの」

 

それを聞いて白狐さんは安心した顔になり、まるで子犬をあやすかの如く耳元近くをサワサワと椿の頭を撫でる。

 

『なるほど、それを思い出しただけか。それでも十分だがな』

 

「えっ?白狐さんは覚えていたの?」

 

『覚えておったというか・・・お主とのその約束は、お主を女にした直後に思い出したのじゃ。だが椿は記憶を失い、しかも箝口令が敷かれていたのでな・・・言って良いのか迷っていたのだ』

 

「これくらいは別に大丈夫だと思いますよ」

 

椿が悩ましげにしていた白狐さんへそう言うと、そこへ先程から悔しそうな顔をしている黒狐さんが彼女にズイと近寄った。

 

『椿よ!ついでに俺との記憶も思い出してくれ!俺はお前との記憶を全て封じられているみたいで、過去の事は何も覚えていないのだ!』

 

「待って、待って!黒狐さん、顔が近いです!」

 

「だぁ〜もう!少しは落ち着けっての!」

 

「うぅぅ・・・まただよ、もう!」

 

すると再び椿が頭痛を起こして頭を抱えだす。そして再び私の脳裏に椿の思い出した"想い"が流れ込んできた。今度は私もよく知っている、千本の鳥居が並ぶ稲荷山の景色だ。

 

空を見ると夕焼けのように紅い・・・という事は、

 

【俺は、ここ妖界の稲荷山の守り神さ。裏稲荷山と言っても良いかもな】

 

やはり私が想像した通り、この景色は妖界にある方の稲荷山の景色で間違いないようだ。

しかし、それにしてはやけに長い鳥居だらけの道であり、人間の世界の方では行った事どころか見た事もない道だ。

 

これは一体、どういう事なのだろうか。

 

【――そして、ここは"天狐様"の元に続く道。妖界の稲荷山にしかない道だ。これから、その"天狐様"に挨拶へ行くのだろう。今は許可を貰っている所だ。ここで少し待つが良い】

 

テンコ・・・?

 

聞きなれない名前だが、あの黒狐さんが様まで付ける程だから、きっと相当位が高い妖怪の人なのだろうか。

 

意識に幻影として映る幼い椿が、同じく幻影である若い時の黒狐さんへ話しかける。

 

【ねぇねぇ。あなた、ずっとここに居るの?】

 

【そうだ、守り神だからな】

 

すると、彼女の表情が僅かに憂いを帯びる。

 

【寂しくないの?】

 

【ふん。そんなものは無い・・・】

 

【嘘!顔に書いてあるよ!】

 

私が知っている椿とは全くの別人のように、幼い彼女はグイグイと黒狐さんへ詰め寄る。なんというか、羨ましいような妬ましいような・・・そんな複雑な感情を覚える。

 

【ぬっ?・・・ふん。小さな妖狐のお前に、何が分かる】

 

【分からなくても良いもん!だったら私があなたのお嫁さんになって、何時でも傍に居てあげる!いつも寂しくないようにしてあげるよ!】

 

【なっ!?】

 

「んんんっ!?」

 

幻影の黒狐さんがとても驚いた顔を浮かべた直後に、それを思い出した椿が恥ずかしさのあまりに布団へと一目散に潜り込んでしまった。狐2人は目が点になって呆然としているが、私も幼い頃の椿に色々ビックリさせられ過ぎてポカーンとしているよ。

 

そしてよくよく考えてみれば、黒狐さんには妲己さんという存在が居たのを思い出した。当時はどうだったのかは知らないが、下手したら黒狐さん・・・ロリコンどころか不倫までやらかしている事になるぞオイ!?

 

椿もそれを認識してか、布団の中から恐る恐る狐2人へ謝る。

 

「うぅぅぅ・・・白狐さん黒狐さん、ごめんなさい!既に昔、2人のお嫁さんになるって言っちゃってました!!」

 

『なんと!?黒狐にもか!』

 

『そうか・・・だから俺も、椿を嫁にしたくて堪らなかったのか。しかしだ、その時俺は妲己の奴とは一緒だったのか?』

 

「そこは黒狐さんでも覚えてないのね・・・」

 

まさか、そこまで箝口令が強く敷かれているなんて、それは椿と妲己さんの間にあった事が関係しているのだろうか。謎は深まるばかりだ・・・

 

『それより椿よ、そこから出てこんか。お主が謝る必要もあるまい』

 

『そうだ。それに、お前も了承済みの事ではないか。今更恥ずかしがるな』

 

「綾ちゃん、白狐さん。黒狐さん殴っといて」

 

「おっけー椿!黒狐さん・・・ちょっと頭を冷やそうか」

 

『うぉ!綾、待て待て、何でだ!?白狐も無言で俺を殴ろうとするな!』

 

「自分の胸に聞いてみれば良いと思うぞ」

 

とりあえず黒狐さんの鳩尾に一発入れさせてもらった後に、白狐さんも布団へ潜る椿に照れながら呼びかける。

 

『ほれ、いい加減恥ずかしがるな。我らは怒っておらぬから、そろそろ機嫌を直せ。それに・・・お主とのスキンシップが無いと、こう・・・なんというか、イマイチ調子が出んのじゃ』

 

そんな白狐さんや黒狐さんの様子を見ている内に、この狐2人も60年前から椿の事に対する想いは変わっていないんだなと思った。

 

白狐さんはちょっと行き過ぎた所があるとはいえ椿の事を最優先に考えてくれているし、黒狐さんも色々と過激な面があるけれど、それでも白狐さんと同じくらいに彼女の事を考えてくれている。

 

なんだか・・・私はそんな2人を邪魔しているという気がして、椿だけの事を考えている後ろめたさに少し自分自身が嫌になりそうだった。

 

「ご、ごめんなさい・・・ずっと避けてて」

 

『ん?いや、椿が我らを避けていたのが無理やりにキスをした時の事であるなら我も謝ろう。すまなかった』

 

『あ〜、そうだな。白狐に取られてたまるかと、ヤケになってしまったな。すまん』

 

先程の後ろめたさを感じた事もあって、私は謝る彼らに掛ける言葉が出てこない。たとえ出てきたとしても、いつものように高飛車で適当に流そうとする言葉しか出てこないかもしれなかった。

 

「白狐さん、黒狐さん。僕の方こそ、露骨に避けちゃってごめんなさい。ちゃんとしっかりと、口で言えば良かったよね」

 

すると、椿は狐2人の様子に思う所があったのか、今度は布団から出てしっかりと謝った。こんな時でも、椿は誰よりも他人の事を考えていて優しいと思えてしまう。

 

「白狐さん黒狐さん、あの・・・す、好きです。あ、愛してるかと言われたら、それはまだ分からないです。だけど、お嫁さんになら良いかなって、最近はちょっと思っているから、えっと・・・あ、愛しているのかな?」

 

「つ、椿・・・」

 

ああ、やっぱり。私は椿の想いに正しい形で寄り添う事は出来ていなかったんだ。こうして、狐2人への愛の告白をしているのを見ると、自己嫌悪感で吐き気までしてきそうだ。

 

本当にズルい人間だな、私は。

 

『それは――』

 

『白狐と俺、どっちとだ?』

 

「へっ・・・あっ!ど、どうしよう。2人とも同じくらい好きだから・・・えっ、あれ、どうしよう?」

 

そんな私を他所に狐2人はまた椿の事で睨み合いを始める。

 

『ふっ、椿が決心しただけでも嬉しい限りだが・・・』

 

『そうだな。まだどちらの嫁になるかは、ハッキリとは決まっていないな。それなら、アプローチはまだまだ続けないとな!』

 

『抜け駆けはするなよ、黒狐よ!』

 

「なんでそうなるの〜!?綾ちゃんも助けて〜!」

 

「あ・・・うん、分かったよ椿」

 

けれども今はこうして、椿に必要とされている事が私はまだ嬉しくて堪らなかった。もし、彼女が私を拒絶するようになってしまったら・・・そう考えるだけで、心臓は簡単に押し潰されてしまいそうだった。

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