私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――夕食時にて
妖怪の皆へ、椿が今回思い出した事を話すと、その殆どはあまり驚いた様子を見せていなかったのだが、彼女の祖父だけは何故だか複雑そうな顔を浮かべていた。
椿が思い出した記憶の中で気になっていた言葉を尋ねる。
「あっ、そうだ。白狐さん黒狐さん、"テンコ様"って誰?」
「そういえば私も椿の思い出した記憶が見えたんだけど、同じく気になってたんだよね」
『その名前も思い出したのか。そうだな・・・まず天狐というのは、天の狐と書く。この方はなんと、1000年も生きる稲荷の祖だ。我の更に上の存在だ』
「せ、1000年だって!?」
そりゃあ、白狐さんも黒狐さんも様を付けて呼ぶ訳だ――という事は。
「ん?それじゃあ、白狐さんと黒狐さんが神社の方に居なくても・・・」
『あぁ、神社の事は天狐様が何とかしてくれているはずだ』
すっかり忘れかけていたが、この狐2人は元々神社の守り神(片方は自称だが・・・)だったので少しばかり椿と心配していた。しかし、そういう上司的な存在が居るというのならば、とりあえずは一安心といったところか。
ふと、ご飯を食べている私と椿をまじまじと見てくる里子の視線に気がついた。
「椿ちゃんに綾ちゃん。もうすっかり、ここのご飯に慣れたわね」
「えっ?」
「はぁ・・・?」
言われてみれば、以前よりも妖怪食の攻略難易度が上がってきている感じはするのだが、それでも食べ方さえ慣れてしまえばなんて事のない美味い料理だと思う。たまに失敗して手痛い反撃を喰らう時もあるにはあるけれど。
「確かに難しいけれど、何とか鍛えられましたからね」
「食べるのだって、そこまで大変じゃなくなったし」
「ぬぅ〜それじゃあ2人とも、デザートは何が良いですか?」
「なんで急に?う〜ん・・・プリンとか、かな」
「えっ、じゃあ僕も焼きプリンでお願いします」
「は〜い」
何だか不敵な笑みを浮かべた里子が台所へデザートを取りに向かったが・・・これは絶対ヤバいな。絶対の絶対にヤバい、警戒しておこう。
すると椿が妖怪食について一つ尋ねる。
「それにしても、この妖怪食って不思議だね。どうやって出来るの?」
「あ〜私もそれ気になってたよ。なんか専門の職人が居たりとかってするのかな?」
そう言いながらも周りの水気を吸い取るブリ大根へ汁をたっぷりと吸わせている私達へ白狐さんが答える。
『おぉ、良く分かったな綾よ。お主の言う通りこれはちゃんと職人が居ってな、そいつが作っておる』
「マジでか。その人は結構居たりするの?」
『いや、1人じゃ』
「えっ、全部1人でやっているんですか?す、凄いですね・・・」
「意外だな〜・・・」
『そいつは、分福茶釜が年月を経て更に強力になった奴でな。機会があれば、今度そこを見学でもしてみるか?』
「う、うん。ちょっと気になるので」
「私も、どうやって作っているのか知りたいかな。里子が作る料理への対策にもなるかもしれないし・・・」
「あ、綾ちゃん・・・」
私が苦笑いしながらそう言うと、私の気持ちがよく分かっている椿も苦笑いをする。そこへまるで読んでいたようにタイミング良く、里子がフランベかの如く激しい火柱を上げる何かを持ってきた。
「うん、里子ちゃん。"食べられる"焼きプリン持ってきて」
「あはは・・・2人にはやっぱり無理でしたか」
「どう見ても火に耐性ある人しか食べられないって、こんなの・・・」
里子の妖怪食ジョークに、私は呆れて大きくため息をついた。
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――夕食が終わって
ちゃんとしたデザートも食べ終わり、一息ついた私と椿は1日の疲れを癒すべく風呂に入ろうと廊下を歩いていると、突然玄関から大きな声が聞こえてくる。
「たのも〜!!」
「ん?何じゃ、来客か?こんな時間にか?」
「全くよ、変な時間に来ないで欲しいわね」
椿の祖父が訝しげにブツブツと呟く横で美亜も文句を言うが、完全にその発言は以前夕食時に来た彼女に対するブーメランでしかない。
里子が玄関へ来客の対応に向かってから少しすると、戻ってきた里子が私と椿の顔を見て手招きをした。
「椿ちゃんと綾ちゃん。2人にお客さんだよ」
「へっ?ぼ、僕達ですか?」
「まさか交差点の事とかじゃないよね・・・?」
さっき聞こえてきた声からして女の子であるのは間違いないのだが、とんと私や椿には身に覚えが無い。とにかく、その人物が何者なのかを確かめる為に玄関へ行ってみると、私と椿の姿を見た来客者が何処かおかしなポーズをして挨拶してきた。
「あっ、椿の姐さんに綾の姐さん!初めまして!自分、くノ一見習いの"楓"と言います!ぜひ、お2人の弟子にしてもらいたく伺いました!」
「あ、姐さん!?いやそれ以前に、僕達は君の事を知らないよ!あっ、まさか・・・また僕の封じられた記憶に?」
「落ち着いて椿。流石にこんなインパクトある子と過去に出会っていたのなら、間違いなく記憶に残ってるから・・・じゃない!」
赤茶色のポニーテールに狸の耳と尻尾を生やした、本当にくノ一のような格好の幼げな子に目をやる。その子は何故か私と椿に向かってキラキラとした純粋そのものな尊敬の目をしていた。
椿が妖狐である事を考えると、多分この子は化け狸なのだろうか。
「おぉ、椿の姐さんは記憶が封じられていると・・・か、かっこいいっす!・・・あっ、すみません、自分とは初対面です。だから、不躾なお願いと知って――それでも弟子にしてもらいたく、こちらに参上しました!」
「お、おう・・・」
すると彼女は、なんか任侠物とかで見た事のあるような兄貴分への挨拶っぽいポーズで腰を低くして手を差し出してきた。
「あのさ・・・僕達はヤクザじゃないし、忍者でもないです。弟子とか、そういう変な事は言わないでください」
「いやいや、しっかりとこの目で見ました!あのライセンスの第3試験の時、その時の姐さん達の華麗な身のこなし!」
「あの時に居たの!?っていうか、それならそっちもライセンスがあるだろうし、今更な気も・・・」
「いやいや、綾の姐さん。自分十級ですし、まだまだペーペーです!それに比べて、姐さん達は五級・・・もう雲の上の人っす!」
「はぁ・・・」
どうしたものか、と椿に目線で語りかける。すると彼女は何か思いついたように、弟子入りを志願し続ける楓へ提案した。
「ちょっと待って。それならさ、僕達の後ろに居るこの2人に弟子入りを頼んだ方が良いと思うよ。僕達より級が上だから」
しかし、それでも楓は一向に変わらぬ態度で「謙虚な所もあるなんてスゲー!」的な眼差しを向けてきている。やだこの子、思い込んだら一直線に突っ込んでいきそうなタイプだよ・・・。
「いやいや・・・やはり、くノ一の弟子となると姐さん達の方が良いんです。今日の事件も偶然そこに居合わせて、拝見させてもらいました」
「なんだって?あんたみたいな人の妖気なんて――ありゃ?」
ふと、楓から妖気が全く感じられない事に気がついた。なるほど、自分で言うだけあってくノ一らしく妖気を隠したり出来るのか。
「あ〜・・・それならさ、今日の僕達の失態を見てたよね?綾ちゃんはとにかく、とてもじゃないけれど僕は・・・」
「サラッと私を売るなよ」
「いえいえ!そんな事ないです。あの"手魔根木"の不幸の妖気を浴びておきながら、あの程度の不幸で収まっているんですから!普通なら、ガムを踏んづけた後に鳥のフンにやられ、犬のウ〇チに顔面から突っ込んでそのままトラックにドッカーンですから。だから、姐さん達は凄いですよ!」
その子の話を聞いて、確かにそんな目に合うのが普通だったのなら私と椿は非常にラッキーだったんだなと感じる。幾ら何でも親であるオジサンに、色々と酷すぎる死に姿は晒したくない。
「とにかく、あの場に居た誰よりも、椿の姐さんと綾の姐さんの実力の方が上だったのです。姐さん達が居なければ、あの妖怪は捕まえられなかったでしょう!」
「随分と持ち上げてくれるなぁ・・・」
「う〜ん、そこまで褒められると困るんだけど。それと、その"姐さん"は止めて。僕、ヤクザの娘とかそんなんじゃないから。綾ちゃんはどうなのか知らないけれど」
「なんかさっきから私に対して酷くないですかね、椿サン?」
なんだかんだで楓を私に押し付けようとしている椿に苦笑いを浮かべていると、玄関でワイワイ騒いでいるのを見かねた椿の祖父がやって来て眉をしかめた。
「何じゃ、やかましいと思ったら。楓・・・お前さんか」
「あっ、鞍馬天狗の翁。夜分にお邪魔しております」
「え?椿のお爺さん、この子の事知っているの?」
意外そうな顔をして私がそう尋ねると、彼はため息混じりに呆れた様子で楓に向き直った。
「まぁ、色々との。それにしてもお前さん、まだ"そんな事"をやっとるのか。父親にも言われているだろう――跡を継げ、と」
「い、嫌です!あんなの・・・あんなのは、やりたくないです!自分は、くノ一になるっす!」
楓の慌てた様子からすると、どうやら彼女の両親は忍者には一切関係してないのではないだろうか。
訳が分からない・・・一体どういうつもりで忍者になろうと目指しているのだろう。
「姐さん達、お願いです!弟子にしてください!」
「だから・・・僕達は忍者じゃないし、"姐さん"も止めてってば!」
「幾ら懐が広い私でもねぇ・・・ちょっと怪しいのは勘弁して欲しいかな。本当に悪いけど」
「そうじゃ、いい加減にせんか。父親に連絡して、お連れの方に連れて帰って貰うぞ」
妙な親子関係だな・・・そう思っていると、同じく気になった椿が質問する。
「えっと・・・この子の父親って、何をしている人なの?」
「あそこまで跡を継ぐのを嫌がるなんて、ちょっと私も気になるよ」
「そうじゃったな。こいつの父親は、ついさっき白狐が言っていた"妖怪食を作る"職人。分福茶釜の変異体"妖食茶釜"じゃ」
「はぁぁああん!?」
あまりの衝撃の事実が椿の祖父から放たれた事で、私は今日一番女の子らしからぬ酷い絶叫を上げてしまった。