私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第捌話 本当の妹みたいだな

 

あれから色々と事情を聞いた所によると、どうやら楓は父親と喧嘩した結果に家出をして来たそうだ。とはいえ、既に彼女の父親の方は怒っておらず、単に楓が変な勘違いを起こして家出をしただけだったらしい。

 

因みに、なんと今現在で妖怪食の職人をやっているのは彼女の父親ただ1人だけだそうで、養子を取ってでも跡を継いでくれる人が必要なのだとか。

 

しかも楓が家出してきた理由というのも、父親からその話を聞いた彼女が"無理やり自身を嫁がせて、その婿養子と間に生まれた子供に跡を継がせる"という、今時のライトノベルでも見ないブラック家庭を妄想してしまったようなのだ。

 

・・・なんて傍迷惑な話でしょう、うん。

 

「だから、自分はあんな家には帰りたくないっす!」

 

「じゃから、それはお前さんの勘違いだと言うとろうに!」

 

そんなせいで、椿の祖父の部屋で彼と楓がずっと今のような言葉のドッジボールを1時間以上続けてしまっている。

 

部屋の前で待たされている私と椿はため息をついた。

 

「僕、もうお風呂入って寝ようかな・・・」

 

「そうだね・・・明日休みとはいえ、センターから仕事とか来そうだし」

 

するとその途端、部屋の襖が乱暴に開かれて楓が飛び出してきた。

 

「あっ、姐さん達!助けてください!このままでは、自分は政略結婚させられてしまいます!まだたった20年しか生きていないのに、もっと色んな事したいのに〜!」

 

「だぁああ!私に抱きつくなって!服で涙とか鼻水を拭うなぁ!!」

 

「落ち着いて楓ちゃん、意味違うから・・・。それに、婿養子を取るって意味じゃないんでしょ?楓ちゃん、ちゃんとお父さんと話し合った方が良いよ?」

 

椿がそう言うと、楓は私に抱きついたまま訝しげな表情になる。

 

「むぅ・・・しかしあの狸オヤジ、裏で何考えているか分かんないっすから、無きにしもあらずなんです」

 

「だからって、そこまで極端な話にはならないと思うけどな〜・・・」

 

なんというか、小さい子供がダダを捏ねている反抗期のようだ。私もそんな事があったような気がするが、思い出せるのはオジサンの事を第一に考えている時の記憶ばかりだ。私に不良のレッテルが貼られてしまった現在だったら、ある意味反抗期をやらかしているのかもしれないが。

 

開いた襖から更に椿の祖父も姿を現した。

 

「おぉ・・・2人とも、すまんな。其奴、中々に言う事を聞かなくての。悪いが熱が冷めるまで、此処で預かる事にした。ついてはお前さん達を慕っとるようじゃから、その子の世話をしてやってくれ」

 

「えぇ!?ちょっと待ってよ、おじいちゃん。この子、僕達の事をくノ一って勘違いしているんだよ?色々と付きまとって来そうで、僕のプライベートが無くなっちゃうってば!」

 

「そ、そうだそうだ!どうして、勘違いして家出している子の世話をこっちが焼かなくちゃいけないんだ!」

 

なにせ彼女、私に抱きつきながらスーハースーハー私自身の匂いを嗅いだり、後ろにいる椿の尻尾を観察しているのだ。それに「くノ一たる者、相手を魅了させる為に身体の手入れはかかせないと」やら何やらブツブツ言っている。正直、勘弁して欲しいです。

 

「まぁ、しばらくの辛抱じゃ。2人とも我慢してくれ」

 

「マジかよ・・・」

 

「えぇ・・・そんなぁ」

 

「その子を説得し家に帰す事が出来れば、褒美として2週間、味噌汁にお前さん達の好物のお揚げを入れ、ご飯も炊き込みご飯にしてやる」

 

「分かりました、やります」

 

「手の平クルリンパ!?いや、私もちゃんとやるけどさ・・・」

 

椿って意外に現金な性格をしていると思った。今時、こんな甘い手で乗せられる程に私は幼くはないつもりなのだが、それでも楓の事は色々と気がかりではある。

 

とりあえず風呂に入って、椿と一緒に何とか彼女を説得する方法を考えたいと思っているのだが・・・

 

「宜しくお願いします!椿の姐さん!綾の姐さん!」

 

やだこの子・・・一緒に入ってくる気満々ですわ。この調子だと絶対部屋で待ってはくれないよね。

 

それならばと、里子や美亜も連れて一緒に入れば少しは作戦会議の時間も――

 

「ふぅ、良い湯加減だったわ〜」

 

「あっ、2人とも。私達先に入ったから、たまには2人でゆっくりと――って、その子が居たんだね。それじゃ、ごゆっくり〜♪」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp・・・」

 

「綾ちゃんがぶっ壊れちゃった・・・」

 

そりゃあ、他に頼りに出来そうな人が思い当たらないからね。なんでいつもは向こうから誘ってくるクセして、こういう時にはいつの間にか風呂に2人で先に入っているのだろう。

 

「おっ、姐さん達。お風呂入りましょう!背中流させてください!」

 

全く変わらぬ様子で人懐っこいワンコのように楓が私と椿に笑顔を向けた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ふぉぉ〜!檜風呂!大っきいですね〜!流石は翁の家です!」

 

「あんまりはしゃいで、足を滑らせないでよ」

 

浴室に入ってすぐに興奮マックスで風呂場を見て回る楓に声をかけながら、私は先に身体を洗うべくシャワーの方へと歩く。

 

今更ながらよく考えてみれば妖怪はその身に潜めた妖気の強さによって見た目の年齢が変わるので、さっき楓から妖気を感じ取れなかったのは忍術でも何でもなく、単に彼女の妖気が少なかったからだっただけのようだ。20年も生きていて、まだ幼体のような扱いとは人間社会で生きてきた私には驚きしかない。

 

・・・ん?ちょっと待った。

 

元から特殊過ぎる人間の私はまた別として、椿はああ見えても60年生きていて、更に妖気も強いので成体扱いされているから妖怪としてのライセンス取得条件を満たしている。

 

しかし、この子はどうしてライセンス取得条件を満たしたのだろうか?幼体扱いされているのに十級を持っていると言っていた気もする。確かセンターで聞いた話では、幼体の妖怪はライセンスを取得出来ないのではなかったか。

 

「あ〜・・・1つ良いか、楓?なんであんたは妖気が全然無くて幼体扱いされてるのに、ライセンスなんて取れたんだ?」

 

「あ、あれっすか、綾の姐さん・・・えっと、すいません。あれは嘘っす。姐さん達に何とか弟子にしてもらおうと思って、嘘を・・・」

 

「じゃあ、センターで見たって言うのは?」

 

「実は、友達とセンターの見学をしていた時に、姐さん達を見つけて・・・その美しさと妖気の強さに一瞬で一目惚れしたっす。で、コッソリ試験会場に紛れ込んで姐さん達の様子を見ていたんです」

 

ふーむ、この子が何か悪気があって私達に弟子入りを志願していたのではないのは良く伝わった。しかし――

 

「だ・け・ど!嘘はつくんじゃないって〜の!」

 

「あいたたた!綾の姐さん痛いっす!!」

 

グリグリと楓の両こめかみに拳を押し付ける。本当に悪い子ではないんだろうが、その場で吐いて良い嘘と悪い嘘があるくらいは考えて欲しいよ。

 

「分かりました!分かりましたから姐さん!」

 

「ねぇ、その"姐さん"も止めてよ楓ちゃん。僕達、極道の娘みたいになっちゃうじゃん」

 

「えぇ・・・カッコイイのに!じゃ、じゃあ・・・椿"姉さん"でどうっすか?」

 

「ん〜まぁ、それなら良いかな」

 

「あんまり違和感ないしね〜・・・って!ちょっと待った楓!」

 

私が反省した楓のこめかみから拳を離した途端に、彼女は湯船へまっすぐ走ろうとして濡れた床に滑り盛大にすっ転んでしまった。

 

あらら・・・ゴーン!って頭思いっきりいったからアレは痛そうだ。

 

「い、痛いっす〜」

 

「全く、言わんこっちゃない。さっき私がはしゃぐなって言った事、もう忘れたの?」

 

「本当だよ、楓ちゃん。綾ちゃんの言う通り、お風呂場で走ったら危ないんだから」

 

こういったらなんだが、楓は危なくて目を離せない妹みたいに感じる。歳だって20年と私よりも長く生きている割りには、見た目や性格が私よりも幼く見えて狸の耳や尻尾も――

 

「姉さん達、どうしました?」

 

「い、いや?な、何も」

 

「ほ、ほっといてください」

 

どうやら、椿も私と似たような事を考えて恥ずかしくなってしまったらしい。

 

私だって別にやましい事を考えた訳ではないのだが、ここまで無防備過ぎるとかえって庇護欲やら何やらがそそられまくって暴走しそうだ。

 

「ふぅ・・・さて。楓ちゃん、先に身体を洗ってからだよ」

 

「分かったっす!」

 

「頭打ったばかりなのに、元気あるなぁ・・・」

 

それから私達は互いに身体を洗って、湯船で温まりながら楓の事について色々な話を聞いた。最初こそ彼女を説得する為の情報収集のつもりだったのだが、"何故くノ一になろうとしたのか"という椿の問いで「姉さん達を見たから」という言葉に続けて何かを言い淀む。

 

そんな様子からすると、どうやら何か私達にも話せないような事情がありそうだ。

 

それから私達の事についても楓にあれやこれやと答えて談笑していたが・・・流石にずっと湯船に浸かったからだろうか、頭がボーッとしてきてのぼせそうだ。

 

「姉さん達、ちょっと見てくださいっす。てぃっ!水隠れの術!」

 

「「・・・」」

 

ええ・・・なんで風呂場にストローなんて持ち込んでいるのかと思ったら、そんな事をしたかったの?

この子が忍術やら何やらとやっているのを見ていると、本当に小さい時の私を見ているみたいで恥ずかしくなってくる。

 

「よいしょっと」

 

「ほい」

 

なので、私と椿は少しイタズラ心で湯から出ているストローの口に指で蓋をしてみた。

 

「・・・」

 

ん?意外と耐えるな、と思っていると――

 

「ぶはぁあ!な、何するんっすか姉さん達!!」

 

「いやいや。忍者たる者、水中で息を止めながら沢山の距離を進まなくちゃならないんだよ」

 

「そうだよ楓、これくらいでギブアップしてたらダメじゃん」

 

「嫌なら帰ったら?」

 

「いえ、頑張るっす!これくらいでは、自分めげないっす!!」

 

「わ〜お・・・い、良い心がけだね」

 

ううむ、これならいけると思ったのだが・・・忍術の甘さを指摘して自身の未熟さを気付かせ説得しようという試みは、彼女にはむしろやる気アップとなってしまうようだ。

 

【あらあら、良い感じじゃない2人とも。その意地悪な顔付き】

 

「久しぶりの妲己さんですか、何してたの?」

 

「全然声が聞こえなかったから、てっきり何かあったものかと思ってたけど」

 

1週間ぶりに聞く妲己さんの声に、危うく驚きかけた私と椿は楓に怪しまれないよう小声で話しかけた。

 

【寝てたのよ。調子に乗って話しかけ過ぎたからね。だから、これからは程々にしておくわ〜】

 

「はぁ、変な邪魔とかしないでよ?」

 

【まさか〜!そうそう、あの子を家に帰す作戦だけど、意地悪な事をメインでやるならもっと徹底的にしないとダメよ〜。それじゃ、おやすみ〜】

 

なるほど・・・流石に喧嘩慣れしている私でも、そういうのだったらノーサンキューだ。

 

「2人とも、スキありっす!」

 

「わぷっ!?」

 

「うぷぉっ!?」

 

すると突然楓の声が聞こえたので顔を向けると、私達の顔面に勢いよくお湯がかけられてビックリする。

 

「へへへ〜水遁の術〜!どうです?上手いっすか?」

 

「これは水遁の術じゃなくて、ただの水鉄砲です!お返し!」

 

「え、ちょ、つば――あばぁ!!」

 

「どわぁ!椿姉さん、量が違います!やりますね!」

 

「待て!2人とも、ちょっとは私にも気を遣ってぇぇえ!!」

 

ダパーン!ドパーン!と繰り返される水鉄砲の応酬を耐えながら、私は2人に注意の声をあげた。椿も楓もこうしてワイワイやっていると、2人共まるで本当の妹みたいだな。

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