私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――翌日
予想していた通りにセンターから入った依頼で、私と椿は鴨川の上流――加茂川と高野川の合流点辺りの中洲へやって来ていた。全く関係のない話になるが、私は5教科の中でも特に社会の地理が苦手で、こういう川の名前等はよく間違えてしまう。特に特に、これなんか何故鴨川と同じ流れの川なのに同音異義語な名前がついているんだと思う。
・・・閑話休題。今回の依頼は今やって来ている場所にて幽霊とか"そういうもの"が出るという噂があるので、真実の究明の為に詳しく調査をして欲しいというものだ。普通なら京都にはこういった心霊スポット的な場所が沢山あるので依頼が出る事にはならないらしいのだが、今回は被害者が出ているという事なのでセンターも動いたのだとか。
原因が妖怪であった場合ならば、もちろん私達が何とかしなければならない。また変に面倒くさい妖怪でなければ良いのだが・・・。
「ふ、ふふ・・・椿姉さんに綾姉さん、昼間からお化けなんて出る訳ないですよ?」
「か、楓ちゃん。君だって、僕の後ろから出てこないじゃん・・・」
「まぁ・・・こんな明るい時に出てこられても、ちょっとばかしびっくりするだけだもんなぁ」
恐る恐る歩く2人の前を、元からホラー系等色々慣れている私が先導するように歩く。ぶっちゃけてしまえば、椿と最初に奇々怪々な妖怪達を見たせいで、今ではもう何も怖くないのではないかといった自信さえある。・・・うぞうぞ動く毛虫とかは本当に勘弁して欲しいが。
こんな昼間でなければ警察に補導される恐れもあるという問題に加えて、もう一つ厄介なのが――
「あ〜もう・・・皆こんな時に限って、誰も来てくれないんだもんなぁ・・・」
「前みたいな失敗が起こらなきゃ良いけど・・・椿と2人だけじゃ少し心細いね・・・」
「ちょっと綾姉さん、私をはぶかないでください!」
「いや・・・だって、楓は見学したいって着いてきただけじゃん。下手に戦わせるなんて出来る訳ないでしょ」
はぁ、とため息をつく。こういう時、なんだかんだで面倒見の良い美亜が居てくれれば、少しは重苦しい空気もマシになると思うのだが・・・そそくさと別な依頼が入っているからと行ってしまったのを見るに、絶対お化けが怖いから逃げたとしか思えない。おのれ。
「それにしても・・・本当にこんな所で、お化けなんか出たのかな?」
「確か目撃情報から聞いた話によると・・・夕方にこの辺りで友達と話していた女性が、川から伸びてきた手に髪を引っ張られて引きずり込まれかけたんだっけ?」
「うん。でも、僕がこの辺の怪談話で知ってる"失恋で自殺した女の人の霊が出る"っていう話とはちょっと違う気がするよ」
チラと向こうを見ると、その目撃情報から広まったのか物好きな人達やテレビのリポーターの人が集まってきている。噂というのは怖いものだ。こうして何にも知らない人をも危険に巻き込む力を持っているのだから。
「それにしても良かったよ。制服とか、いつも家で着ている巫女さんみたいな服にしてなくて」
「下手に目立つのは勘弁したいからね〜。っていうか、椿もスカート履くようになったんだ」
「茶化さないでください、綾ちゃん。これでも一応は女の子らしく見えるように努力しているんです」
「はいはい・・・全く、椿に自分からこんな格好させるようになるなんて、あの狐共も罪な男ですな〜」
「うぅ・・・恥ずかしくなるから言わないで」
そんな椿の女の子らしい服装とは真逆に、楓はデニムの短パンとTシャツという非常にボーイッシュに見える格好だ。しかも彼女、外見年齢の幼さから似合い過ぎていて違和感がない。
・・・とはいえ、私もミント色のプルオーバーシャツに黒スキニーと着慣れてはいるものの、何処か男子的な格好なので楓の事は言えないが。
まぁ、まだ私の方が長い銀髪をポニーテールにしているので、彼女よりは女子であると分かりやすいと思っている。
「ねぇ、あそこの子供の兄妹達も、幽霊を見に来たのかしら?ちっちゃい男の子の方が年下だから、上のお兄ちゃんとお姉ちゃんが守ってあげているのね〜」
「あらあら、微笑ましいわね〜。いずれ下の子も立派になって、お姉ちゃんの方がたじろいじゃうのよねぇ」
「「・・・」」
「えっ?姉さん達、どうしました?」
前言撤回、やっぱり私まで男の子に見られていたよ。おばさんやお姉さん方から、なんか余計な精神ダメージをもらってしまった気がする。
「それより椿姉さん。戦闘になった時、そのスカートで大丈夫なんですか?」
「ん?大丈夫だよ。ちゃんと下にスパッツを履いてきているから、あられもない姿を見せる事はないよ」
「流石に何があるか分からないのに、そんな無防備な格好をする訳ないでしょ?」
「おぉ、素晴らしいっす!2人とも、女らしさを捨てず、男性を虜にする力をしっかりと身に付ける。くノ一とは、そうでなければいけないんですね!」
「椿はとにかく、私はちょっと怪しい所だけどね・・・」
「いや、えっと・・・」
楓がくノ一を誤解して妙な納得をしてしまっているようだが、今は依頼を片付けてしまうのが先だ。そもそも、くノ一なんて私も椿も詳しく知らないので、彼女に正しく説明出来る自信がない。
「それで椿、レイちゃんの様子は?」
椿の首元に巻き付いているレイちゃんへ視線を向ける。パッと見ではかなり暑そうに見えるのだが、どうやらレイちゃんの毛は通気性がバツグンならしく椿が暑さを気にしている感じはない。
「う〜ん・・・レイちゃん、どう?何かいる?」
「椿姉さん、その首の子は何っすか?」
「えっ、この子?霊狐のレイちゃんだよ。僕と綾ちゃんのペットなの」
それを聞いた楓が、またキラキラとした尊敬の眼差しを私達へ向けてきた。
「く〜流石っす!くノ一たる者、使いの獣は必ず作るべし・・・あの話は本当だったのですね!」
「えっ?」
「はっ?」
まーたこの子は、何処からそんな変な知識を仕入れているのやら・・・。
それよりもレイちゃんの方が気がかりだ。先程からずっと唸ってばかりで、前の時みたく自分から飛び込んでいこうとする様子が無い。これは・・・霊は居ないという事なのだろう。もし居たら真っ先の突っ込んでいって、学校の時や前回のように霊を浄化しようとするだろうし。
「レイちゃん、ここに霊はいないの?」
「ム〜」
「う〜ん・・・レイちゃんがこんな様子だとするなら、ひょっとしたら霊の仕業じゃないのかも。川のここら辺って、確か浅い所と深い所があったし・・・妖気が感じられない事を考えると、その時に元凶が深い方に隠れたりしていたのかな?」
椿と共に橋の上から川を覗き込む。反射して映る景色が美しく、水の中を泳ぐ魚や川岸に佇む野鳥も相まって――至って平和そのものだ。
もしこんな騒ぎが無ければ、楽しく此処でのんびり景色を眺めていられるだろう。
「姉さん達!これ、出来ますか!?」
そんな事を考えた時、ふと橋の下の方から楓の声が聞こえてきた。彼女はいつの間にか川岸まで降りていたらしく、そこで平たい石を水平に川へ投げ入れてはそれが水面で跳ねるのを楽しんでいる。
――つまりは彼女が遊んでいるのは"水切り"である。
「全く楓は・・・そんなの、私だったらもっと跳ねさせられるよ」
「楓ちゃん、ちょっと力み過ぎだよ。これはね、力を入れすぎないように気をつけて飛ばさないと駄目なんだよ」
そんな楓の様子を見て、気が張り詰めてきていた私と椿は風船の空気が抜けたように緊張が解け、ちょっとの休憩のつもりで彼女の傍へ降り立った。
そして適当に足元へあった使えそうな石を拾い上げて、椿とほぼ同時にそれを絶妙な力加減で水面へ投げた。
投げられた石は、椿のものは楓が投げた時よりも数回多く跳ね、私が投げたものは大きく1回2回跳ねてから反対側の川岸へと飛んでいった。しまった、今のは少し力が強すぎただろうか。
「ふぉぉ〜!椿姉さんは7回で、綾姉さんは反対側まで2回跳ねさせて飛ばすなんて・・・す、凄いっす!!」
それでも楓は椿と同じくらいの尊敬の眼差しを私に向けてくれて、目をキラキラとさせて喜んだ。かつて椿から助けられた事とかに感謝されたりしたのは幾度もあったのだが、楓のこういった反応は私の人生では今まで一度も無かったので、彼女にどう対応すれば良いのか少し困惑する。
よく分からないとはいえ、やっぱり楓は活発的な妹が出来たような感覚だ。普段大人しいが、根っこはしっかりとしている椿もそんな感覚が芽生えたせいでもう1人の妹みたく感じてしまう。
「よ〜し、力を先ず集中する。ほっ!」
「うぁっ・・・」
ん?何だ今の音は?
楓が私と椿の水切りを見て、リベンジとして再び石を投げたのだが、それが跳ねている途中で川にある"何か"にぶつかって声が聞こえた気がする。
「姉さん達、あれ何っすか?あれのせいで、折角の新記録が台無しですよ〜」
楓が指さす方向へ目を向けると、そこには何者かが頭を出して血を流しているのが見えた。一瞬、怪我をさせてしまった事を謝ろうと思ったのだが、よくよく考えてみればこの辺りは遊泳禁止なばかりか屈んだとしても潜りきれない程の浅い所のはずだ。まさか・・・
「か、楓ちゃん・・・に、逃げよっか。あれ、多分・・・」
「よーし椿、皆まで言うな。とっとと行こう」
「ね、姉さん達・・・自分にも分かりました。はい、逃げましょう」
そうやって逃げようとする私達を察知したのか、水から頭を出していたそいつがどんどんと身体を水の上に現してきた。
「ね、姉さん達。やっぱりあれ、人間じゃないですよね?お、お、おば――」
「楓ちゃん・・・違うよ。あれはお化けじゃない、これは――」
水から現れたそいつは、頭から血を流しているどころか目玉が腐り落ちて片方無くなっておりもう片方もちぎれかけている。身体も蛆虫やら何やらが湧いてこそいなかったものの、その肌の色は到底生きている人間のものとは比べ物にならないくらいに青冷めていた。
つい呆然としかけるも、我に返った椿が叫んだ。
「――死体が動いているんだよ!」
「そ、それって・・・ぞ、ゾンビじゃねーか!い、幾らホラーに慣れてるからって、リアルなゾンビは勘弁して!!」
しかもそいつだけではなく、次々と川から似たようなゾンビが姿を現した。ああもう・・・レイちゃんが反応しなかったり、妖気が感じられなかった理由は分からないが、まずはこいつらを何とかしないといけない!!