私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
「くっ・・・!やっぱり体育館の時みたく変身出来ない!」
何故こんな時に、あの時の力が使えないのかと焦る。
そして川から飛び出してきたゾンビ達に周囲を囲まれてしまう私達。どうやら川から出てきた割りには意外と素早く動けるようだ。
しかもゾンビ達は私達だけでなく、川辺の周辺に居た人達までも取り囲んでおり、各々が逃げようとしたり発狂したように笑いながら写真を撮りだしたりしていた。
「ね、ねね・・・姉さん達。どうなってるんすか、これ!?」
「し、知るかそんなもん!妖気だって全く感じられないし、妖怪じゃないって事は間違いないだろうけど!」
「とりあえず・・・囲まれていたら何も出来ないし、ここから逃げるよ2人とも!」
「了解っす!」
「言われなくても、スタコラサッサですぜ!」
椿が走り出したのに続いて私と楓も後を追って、ゾンビ達の包囲網から抜けられる所は無いかと探すが・・・所狭しとゾンビが詰め掛けていて抜けられず、しかもまだまだ川から出てきているようだった。
いやいやいや、幾ら土左衛門にしては数が多すぎる。こんな浅い川にそれだけの死体が隠れるのは不可能だと考えると、別な所から何らかの方法で転移してきたのだろうか。一体誰が何の為にそんな事を――
「ふぎゃっ!?」
「楓っ!?」
そう考えながら走っていると、後ろで盛大にすっこけてしまった楓の変な悲鳴が聞こえてきた。そこに泣きっ面に蜂と言わんばかりに、あのゾンビ達が手を前に突き出したままゆっくりと浮遊して近づいてくる。
なんだろう、この動き。何処かで見たような。
「えっ?これってまさか・・・!」
椿もそのゾンビの動きに思い当たる事があったのか、目を丸くして驚いた顔をする。彼女の言葉に続けるような形で私は叫んだ。
「き、キョンシーか!いや待て待て待てって!あれをキョンシーと呼ぶには無理がある!」
「お、落ち着いて綾ちゃん!キョンシーだったら、きっと顔にお札が――」
そうか!椿の言う通り、キョンシーは額に張られた札の力で動いているにすぎない。それを剥がしてしまえば止まるはず・・・!
「「って、顔にお札が無い!!」」
やっだもう!これじゃ楓を助けるのに間に合わないじゃないか!一体どうすれば――
「ぬぬぬぬ・・・くノ一見習いだからって、舐めるなっす!妖異顕現、"狸変化"!!」
「えっ?楓ちゃん、妖術使えるの!?」
椿が驚くのと同時に、楓はポケットから木の葉を取り出して"皆が良く知る狸の変身ポーズ"をとって念を込めた。すると彼女の足元から煙がもうもうと吹き出して、一瞬だけ楓の姿が見えなくなる。
そして、その煙が晴れた場所に居た楓の姿に私と椿は目を見開いた。
「「お地蔵・・・さん?」」
疑問形になってしまった理由・・・それは楓が変化したというのがバレバレな狸の尻尾と耳がお地蔵さんに生えてしまっているからだ。
妖気が足りなかったからかどうかは不明だが、もちろんキョンシー達にはあっさりバレてしまい前に突き出した腕でチョンチョンとつつかれまくっている。
状況が状況なら面白映像になり得る光景だが、キョンシー達の様子から分かった事が1つある。
それは"こいつらを操っている存在が別に居る"という事だ。キョンシーは死体を元に作られた妖怪なのだから妖気や魂も無いが、死体なので自分で考える頭も無いはずなのだから。
こうして変化した楓をつついているならば、絶対に何処からかキョンシー達へ指示を出している奴が居るに違いない。
それよりも、その前に楓を何とかして助けなければ。
「私は地蔵、私は地蔵・・・」
「いや、声に出したら意味ないだろソレ!あーもう、周りの奴をやっちゃって小次郎!」
「よっしゃ久しぶりのマトモな運用きたぞ!」
「全くしょうがないな〜。妖異顕現、"影の操"!」
なんかやたらとハイテンションな小次郎が慌てふためく一般人の真上を飛び越してキョンシーに回転斬りを放ち、一瞬出来たスキをついて椿の影の腕が楓を回収して戻ってくる。小次郎も彼女が無事に助かったのが分かると姿を霧散させて私の傍に戻った。
「あたたた〜!な、何っすか!」
途中、椿の手元に引きずられてくる楓が声をあげる。私と椿はジェスチャーで"静かにして"と伝えると、そこで楓も納得して口を噤んだ。
「ふぅ・・・助かったっす。ありがとうございます!では、また逃げるとしましょう!」
私達の下へ戻ってきたと同時に楓が変化を解除して再び走りだそうとするのを椿と2人で引き止める。
「いや、待って。さっき君を助けた時に――見つけたんだよ」
「えっ?何をっすか?」
「あのキョンシー共を操っている札の場所さ。小次郎、細かい動きとかって得意だったりする?」
「ん?まぁ、出来ない事は無いが・・・嫌な予感」
楓を助けている途中に小次郎が見た光景の記憶を掘り起こす。使い魔が見た景色であれば、それが共有可能なものである限りその記憶を使い魔を使う私自身の脳裏にもイメージとして表出させられる事が最近分かってきたのだ。
そしてキョンシー達の僅かに感じられる妖気の場所をそこから探り、そいつらを操っている札が首の後ろ辺りに縫い付けられているであろう事を確認した。きっと椿も、自身の影を利用した妖術からこれを見つけたようだ。
椿が影を再び操って、今度はキョンシーの影を利用して首元の結び目を解いていく。私も小次郎がある程度自在に姿を出したり出来るのを利用し、某Nの付く会社の大乱闘ゲームのラスボスみたく手だけを実体化させてキョンシー達の札を取り出していく。
「うっ・・・緻密な作業は初めてだから、ちょっとしんどい・・・かも」
「あ、主殿・・・私、これでも結構辛いんだが?もっと分かりやすく説明すると、目に遮光グラスを付けて縫い物してる感じなんだが・・・」
「ごめん、そこは気合いで何とかして小次郎。後々の為の特訓にもなるかもだし」
「んな殺生な〜」
小次郎の言う通り、確かに共有出来る視界からは大分見ずらい形でキョンシーの首元だけが映されている。強引に大立ち回りを演じてやろうかとも考えたのだが、それでは周囲の人にも小次郎の姿が見えてしまって大パニックになるのは必至だ。
そうなれば騒ぎはもっと面倒くさくなるだろうし、ここは彼に我慢してやってもらう他ないだろう。
「これ、時間かかっちゃうね。綾ちゃん、楓ちゃん。とりあえず逃げながらやっていくからさ、このまま走るよ!」
「結局走るんっすね・・・」
「綾ちゃんは小次郎さんがやってくれるから良いよね〜」
「椿ったらもう・・・おしゃべりしないで集中して」
「分かってるよ。こうして一般人にバレないように、コッソリと依頼をこなす。くノ一になるには、これも必要不可欠な事なんだよ楓ちゃん」
「はっ!な、なるほど!正体を隠しながら戦う・・・正に忍者!」
なんか椿の解説で楓がおかしな解釈をしていなければ良いのだが・・・不安だ。もっといえば、小次郎も普段の寡黙さが嘘のようにブツブツ小言を漏らしているので更に不安だ。
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「ふぅ。これで――ラスト!」
椿と小次郎によって、ようやく最後のキョンシーの札も剥がされて残り1体の死体も倒れて沈黙する。なんというか・・・逃げまくったせいで延々と手作業していた小次郎よりも疲れた気がする。
そして剥がした札の妖気の質を椿と一緒に改めて感じてみると、どうやら湯口先輩達が使っていた札から感じられた妖気とほぼ同じものである事に気がつく。
「う〜ん・・・湯口先輩達の札と同じ妖気なのは間違いないんだけど・・・」
「うん、綾ちゃん。書いてある文字の形も全然違うし、これは一体どういう事なんだろう・・・?」
「あっ、姉さん達・・・マズいっす!あれ、警察が来たっすよ!」
2人で首を傾げている所に楓が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「しょうがないなぁ。一旦退散――しなくても良いかな。楓ちゃん、大丈夫。向こうに知り合いがいるから」
「へっ?」
そしてやって来た警察の中に、あのホスト風な見た目をした捜査零科の杉野さんと、ポニーテールで上着を着ていない格好の犬吠崎さんを見かけた。
羊っぽい一角獣な妖怪と聞いている"獬豸"の半妖である杉野さんが、何処かにある角を隠すべく盛った髪型にしているのは分かる。しかし"人狼"の半妖な犬吠崎さんはというと、今のところ椿や楓のように狼の耳や尻尾といったものを見ていないので何とも妖怪っぽい感覚がしないのだ。普通に強くて優しい婦警さんといった雰囲気である。
パトカーから降りてきた2人が私達に気づいて近寄ってくる。
「やぁ、椿ちゃんと綾ちゃん。久しぶり」
「2人とも、あれから元気にしていた?」
「あっ・・・どうも、こんにちは。今はもうこの通り、大丈夫です」
「どうも、お久しぶりです。私も椿と同様、すっかりピンピンしてますよ!」
そして私達は、先程起こった出来事と今の状況に至るまでの経緯を簡単に説明した。
「――ふむ、なるほど。いや〜、君達がこの場にいてくれて助かったよ。ひょっとしてセンターからの依頼かい?」
「ひょっとしてもこうしてもないでしょ、杉野君。なら、後はその"死体を操っていた真犯人"とやらを見つけるだけね」
「あ・・・それとついでに、この死体が何処から来たのかも一緒に調べて欲しいです」
「今や日本じゃ遺体は火葬されるのに、これだけの死体が何処から集まったのかが分からないですからね・・・お願いします」
椿と共に頭を下げる。
椿から問題の札を渡された杉野さんが眉をひそめる。犬吠崎さんも、心做しか悔しそうな表情で運ばれていく死体に目を向けていた。
「・・・分かった。しかし彼らは、この札で操られていただけで、証拠となりそうなのは今聞いた特殊な出現方法だけだからな・・・俺達だけでは分からないかもしれない」
「ごめんなさい、あまり力になれなくて。その代わりとしては何だけど、彼らの遺体はちゃんと調べて、ご遺族の方に送り届けるから」
「いえ、ありがとうございます。杉野さんに犬吠崎さん」
ボロボロになってしまっているとはいえ、この死体の身内の人達もきっと彼らが何処にいるのかを探しているって事を考えると、本当にキョンシーとして操っていた奴に怒りが湧いてくる。
人の命を弄ぶどころか、死体を冒涜するような行いなんて犯人が何者だろうと正気を疑うような話だ。
「ん?楓、どうしたんだ?そんなに目をキラキラさせて」
そんな事を考えていると、また楓の"あの尊敬の眼差し"が此方に向けられている事に気づいた。
何だか嫌な予感・・・
「さ、流石っす〜!半妖の刑事の部下を持っているなんて、一流の忍者は違うっすね!」
「え、ちょい待て楓!勝手に変な誤解しないでもらえるかな!?」
「あのね、この人達は部下じゃないよ!僕に協力してくれているだけ!」
椿と必死に否定するが、そこへ更に不意打ちが――
「えっ?違うのかい?」
「杉野君・・・」
やだもう杉野さんまで〜!なんでそんな椿と私の部下って言葉に反応するの!?犬吠崎さんも呆れているじゃんか!何なんだよ、この展開・・・