私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
雪の突然の来訪に加えて、彼女からただならぬオーラを感じた私達は先程椿が混ぜ合わせたどどめ色に近い色となったかき氷を食べる。
なんというか・・・メロンシロップの風味と宇治抹茶の苦さがものの見事に噛み合わない。とはいえ、椿の案にノリノリでOKを出してしまった私も悪いと思うので我慢して食べる事にした。
正面の椅子に座った雪が、そんなヤバいかき氷を食べている私達へ話しかける。
「それ、美味しいの?」
「いや、その・・・」
「ぜ、全部食べますんで・・・」
こればかりは流石に残す訳にはいかない、と私の中の本能がそう囁いている気すらある。雪の眼差しは"お残しは許しまへんで!"とでも言いたげだ。
「もう、椿ちゃんったら。綾ちゃんもどうして乗っかっちゃったの・・・。それで、雪は何でまた此処に?」
「別に。いつも此処で、かき氷を食べて帰るのが日課だから」
「ほーん、よっぽど此処のかき氷が好きなんだね。なんて言えば良いのか分からないけど感想が出ないくらい美味しくて、私も此処のかき氷は好きになりそうだよ」
「・・・それなら、良かったかな」
雪がボソリと呟いた後、ふと椿の方を見つめてくる。椿は雪の視線に何か思い当たる事でもあったか、と耳をピクピク動かして警戒してしまっているようだ。
「如月さん、椿の耳をジッと見てどうしたの?」
「・・・その耳、触りたい」
「えっ?」
「ここの新作。奢るから、耳触らせて」
「えっと・・・どうしよう、綾ちゃん」
「新作って、アレの事かな」
雪に指差された方角を見て、そこにある店の看板を見てギョッとした。看板には――
【当店オリジナル!"辛さ"と"冷たさ"の夢のコラボ!激辛かき氷!!】
それを見た瞬間に、雪以外の全員の顔が真夏にも関わらず青ざめる。
「あの・・・如月さん?私達何か悪い事しましたっけ・・・?」
「何あれ・・・激辛シロップに、ハバネロとか入ってるじゃん」
看板に飾られている写真から、辛さの追い討ちといわんばかりに氷まで赤いように見える。
「なになに・・・氷にも唐辛子を大量に混ぜ――って、止めてください!これってコラボも何も、ただの罰ゲーム用じゃないですか!?」
「あんなん食べたら卒倒するぞ!?」
「おすすめ」
「「何処が(ですか)!?」」
な、なんという事でしょう・・・雪はこういう辛い物が好きなのだろう。きっとそうだ、そうじゃなきゃここまでキラキラした目でオススメなんて言わないもんね!
「好きな物が合体するなんて、正に夢のよう。絶対おすすめ・・・だから奢る。代わりにそっちの耳、触らして」
「うぅぅ・・・」
「2人とも、チャンスなんじゃない?」
「まぁ、そりゃあ仲良くなれるチャンスなんだろうけどさ・・・」
せっかく雪からオススメしてもらって、更に奢ってもらえるというのに、それを無碍にするのは避けたい。
しかし・・・辛い物に多少耐性がある私でも、こんな見るからにヤバい物は流石に未知の領域だ。私がギリギリ耐えられるのだって、キムチとかそういった物くらいである。
「だ、大丈夫、私も少し手伝ってあげるから」
カナもそんな私達に嬉しい言葉をかけてくれたは良いものの、彼女も手汗がダラダラと流れている。でも3人であれば、ひょっとしたらこの地獄絵図のようなかき氷も完食出来るのかもしれない。
「わ、分かった。ありがとう・・・カナちゃん」
「よ、よし!如月さん、ご厚意に甘えて・・・い、いただきます」
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――数分後
雪が手に最早かき氷なのかとも思える程に真っ赤っかな例の品物を持って、テーブル席に座る私達の元へと戻ってきた。
「んっ」
雪が私達の目の前へそれを置く。
既に香りや目にチクチクと滲みる所から、これの尋常ではない辛さがじわじわと伝わってくる感覚がした。
少しニヤニヤしている彼女の表情から、この後私達がどんな反応を見せるのかは多分予想しているのだろう。これでは好かれているのやら、嫌われているのやら分からないな・・・
「さ、さて・・・た、食べますか」
「ふぅ・・・い、いただきます」
ジッとかき氷を見ていても仕方がない。私と椿はそれぞれスプーンの先端でちょこっと掬う程度の量を食べてみた。
――その瞬間、
「っ、ア゙ア゙ダァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
「っ〜〜!!!!」
あかん!これ絶対あかん奴だ!!
じんわり辛さが来るとかそういうレベルじゃない!包丁で指切ってしまった時みたく、一瞬だけ大丈夫だけどすぐに痛いのが来るのに似てるアレだ!というか、既に口の中の感覚が消えかけてる!!
「2人とも大丈夫!?店員さん、水お願いします!」
私は椿と共に足をばたつかせて何とか口の中の辛さを誤魔化そうとしたけれども、一向に辛さが口の中から消えずに酷くなる一方だ!
「はい、2人とも水だよ!」
「んっ・・・ぐ・・・くっ、はぁぁぁ!な、何じゃこのヤバい辛さは!」
「ん、んぐんぐんぐ・・・ぐっ、ゲホゲホ!し、死ぬかと思った〜」
カナから水をもらって、それをすぐさま2人で一気に飲み干した。しかし、それでもまだ辛さがヒリヒリと舌に残っている。本当にこんな物を食べられる人なんているんだろうか・・・。
「ぐっ・・・え。なんか喉とかまでヒリヒリしてきた気がする・・・」
「うぅ・・・胃の中も熱い・・・お腹壊しちゃいそうだよ」
「やっぱり、駄目か」
「えっ?如月さん、"やっぱり"って何ですか?」
「まさか、これって――」
「そう・・・実はこれ、私が考えた」
マジですかよ・・・。
流石にジョークか何かかと思ってかき氷屋さんの人へ視線を向けると、皆困った表情をしていたので雪の話は多分嘘ではないようだ。
そして、私達の傍からはオーバー過ぎるかもしれないリアクションを見たカナもスプーンをとり、私達よりも結構多い量を一口食べる。
「カナちゃん、や、止めた方が・・・」
「そ、そうだよ!キムチが食べられる私でも駄目だったんだから絶対無茶だって!」
「いや、私は綾さんよりも辛いのは平気だよ。ハバネロのポテトチップス、食べた事あるもん!」
「なるほど・・・そしたらいけるかもしれないね!」
――だが私の期待も虚しく、カナも一口食べてすぐに私達と同じようになってしまった。
「カナちゃん、はい水!」
カナが食べる前に予め持って来てもらっていた水を椿が渡す。すぐに彼女はそれを受け取って、こちらもやはり先程の私達のように一気飲みした。
何処か椿が恥ずかしげに顔を赤らめているが・・・あっ、そういえば今カナが使ったコップは椿が使っていた物だったか。ううむ、まさか間接キスをしてくれるとは・・・無意識とはいえ、羨ましいぞカナ。
「はぁ、はぁ・・・雪、これハバネロだけじゃないよね?この氷に入れた唐辛子、何なの!?」
「ジョロキア」
「「いや死ぬわ!!」」
雪からとんでもない一言が飛んで、ついカナと同時にツッコミを入れてしまう。辛い物好きな人なら知らない人は居ないだろうが、ジョロキアはハバネロの2倍くらい辛く下手したら色々ヤバい代物だ。
・・・そりゃ道理であんなに辛い訳ですわ!
「美味しいのに」
「如月さん、それって・・・」
「いやいや!まだ何かかけるつもりなの!?」
雪が激辛かき氷を自身の手元に持っていき、鞄から取り出した赤い瓶からペースト状の何かをかけだした。
「うん、唐辛子ペースト・・・通称デスソースって名前。辛さ足りないから」
「おぅ・・・マジでか」
これには一同呆然である。
そして特に辛いといった様子も見せず、表情を変えないままパクパク食べていく雪は何処か幸せそうにも見える。
やだ、この子・・・本当に雪女の半妖なの?
ふと私は、クスクスと私達が悶絶していた時から聞こえていた笑い声が気になって後ろの席を振り返る。
すると・・・なんとそこには、美亜が自身の様子を伝えて欲しいと頼まれていた子――金髪で蒼い目をした可愛らしいシャム猫のような女の子、美弥子が座っていたのだ!
「あっ!君は!」
「ひっ!ご・・・ごめんなさい!」
美弥子は私の事に気がつくと、怯えた表情で必死に謝りながら逃げようとする。咄嗟に私は彼女のパーカーのフードを掴み、美弥子はステーン!と椅子から滑って尻もちをついてしまった。
「どうしたの、綾さん!?」
いきなりの出来事に驚いて私を見るカナ。すぐに私は美弥子へ無理やり引き止めた事を謝る。
「あ・・・ご、ごめん!」
「あぅぅ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「綾ちゃん、その子ってまさか」
「うん。実は美亜から"自分の今の状況を伝えて欲しい"って頼まれていてね・・・その相手っていうのが、この子なんだよ」
私が椿に簡単な説明をすると、美弥子は怯えていた表情から一瞬で驚愕と心配の混じったような顔に変わった。
「えっ!美亜姉様は無事なんですか!?」
「ちょ、今から話すから落ち着いてって・・・私は烏森綾。えっと、今君のお姉さんは私達が住んでいる所で一緒に暮らしているから大丈夫だよ」
美弥子は私が妖怪フォンで見せた美亜の写真にホッと胸を撫で下ろし、その表情のままコクコクと頷く。そして本人に直接電話したいと言うので少し妖怪フォンを貸すと、少しの間「ごめんなさい」とか「どうしても心配で」とか話した後に電話を終えて私に返す。
「電話も終わったみたいだね。以前に君と君の家族を見た時にお姉さんの事を結構心配していたようだったけど、ひょっとして仲が良かったりしたのかな?」
「はい・・・でも仲が良かったかと聞かれたら、美亜姉様が私の事をいつも心配してくださっているというばかりで・・・。それでも、姉様が無事だという事が聞けて嬉しかったです!」
「なんつーか、美亜も相当この子に慕われてるんだな・・・。美弥子ちゃん、君のお姉さんはいつもどんな感じなの?」
「美亜姉様は本当に優しい人なんですよ、綾さん!一人で眠れない時は一緒に寝てくれたり、家の大切な花瓶を割ってしまって辛い時は慰めてくれたりしました!・・・あの、えっと、私がさっき笑った事を怒っているんでは、ないですよね?」
再び美弥子が私の機嫌を伺うようにオドオドし始める。私はそんな彼女を見て、ある提案を思いついた。
「そんな訳ないよ。あっ、そうだ!美弥子ちゃん、そっちで1人で食べるのも寂しいだろうし私達と一緒にこっちで食べよっか!」
「えっ、はい・・・ありがとう、ございます。み、美弥子です・・・皆さん、宜しくお願いします!」
私の勢いに若干押し切られてしまった感じではあるものの、それでも嬉しそうに美弥子が椿達に頭を下げて挨拶した。
「・・・綾さんってさ。こんなに幼い子を口説き落とすなんて、将来誘拐犯になったりしないよね?」
「そういう話をするんじゃない、カナ。私だって好きでやっているんじゃないんだから・・・」
小声で訝しげにカナから心配されたが、私は至って普通な恋愛観ですからね?美弥子みたいに可愛い子に手を出したりなんかしたら、それこそ色んな意味でアウトですから。