不老の身を持つ伝説の冒険者は野外の測量調査会社に就職していた。
邪悪なる竜が善良な竜を殺した事件が起こる。
その調査に向かったのは1,800年前の伝説の冒険者集団で「聖堂の騎士」と言われた女傑の子孫。
かつての仲間の子孫に頼られ、伝説の冒険者は捜査に協力する。
という話の一幕。
妄想デトックス!
剣と魔法の時代から1,800年後。そこは火薬と法と電脳と魔法と科学の世界であった。
不老の身を持つ伝説の冒険者は野外の測量調査会社に就職していた。
邪悪なる竜が善良な竜を殺した事件が起こる。
その調査に向かったのは1,800年前の伝説の冒険者集団で「聖堂の騎士」と言われた女傑の子孫。
かつての仲間の子孫に頼られ、伝説の冒険者は捜査に協力する。
という話の一幕。
妄想デトックス!
「竜の同盟」からの全権大使は中年の人間男性を模した姿で応接室で待っていた。
ソファに腰かけた後ろ姿。
黒髪…元の姿はブラックドラゴンなのだろう。
「君ら」
細面で神経質的な眼差し。性格がうかがい知れる。
振り向き、冷淡な言葉を言おうとした瞬間にゼスが大股早歩き近づき無言で男の顔を蹴る。
ソファに座ったままなのでその蹴りは前蹴りとなり全権大使の鼻面に大きな足跡を残す。
「貴様!私に」
「黙れ、殺すぞ」
突然のことに怒声を上げるのを遮りゼスは冷淡に言葉を発す。
室内の人間の心拍数はあがり、緊張と恐怖で一人を除いて汗が止まらなくなっていった。
それは炎に炙られながらの喉元に氷の剣突きつけられる相反する恐怖をイメージさせた。
1人だけ緊張と無縁、変わりに恐ろしい殺気をとどめることもせずゼスは全権大使の胸倉をつかみ、ソファから持ち上げ床に叩きつける。
一瞬、大使は魔法を行使しようとしたのか魔力の波動を室内に放出したがゼスはその波動を気にせず一度、二度、三度と殴る。
口元を開いた大使は酸の息を吐こうとしたが、ゼスは開いた口に右手を突っ込み、左手で気にする様子もなく大使の腹を殴り続ける。
片や野外調査会社の作業員、片や生物でも最強と名高い竜。
その全権大使を任されるほどの実力者が突然の暴力、それも常に先手を取られて恐怖で身動きが取れていない。
何とか口からゼスの手を吐き出し床にうずくまり、頭を抱え嵐を去るのを待っている。
うずくまった全権大使の後頭部を3回強く踏みつけゼスの動きは収まった。
「俺が誰だかわかるか」
同僚たちも初めて聞く腹の底から出て来る冷たい、重い、暗い声。
「…あの方」
うずくまったままの全権大使は恐る恐る答える。
「俺は竜が嫌いだ。特に黒いのは」
「はい」
暴力から身をすくませ去るのを待つ弱者の返事。
「要求は連れが話す。お前はそれを認めろ」
そう言ってゼスはもう一度竜の後頭部を強く踏みしめた後、部屋を出る。
「エレベーターホールで待ってる」それだけを告げた。
「大使殿」
残された5人の中で事件の中心にいるラインハルトが大使に声をかける。
大使は言葉を遮るようなジェスチャーをすると後頭部を抑えながらソファに座り直す。
「君らは…あの方の協力者なのか」
黒龍の言葉に返事をしたのはブッホルトだった。
「遺憾ながら」
言葉通りの感情だ。
傭兵でありながら無理やりこの場に同席させられた身としては文句の一つも言いたくなる。
「私に求めるのは」
端的な言葉。大使は事件の背景には興味がない様子だ。
ラインハルトがソファに座る大使の後ろ姿に答える。
「国立公園内の同盟保護区への立ち入りと、殺人事件の犯人と思われる竜の殺害許可」
「許す。いや、あの方にとっては許可などいらないはずだ。これは君たちの為の形式だ」
どんな感情で言ったのか5人は理解できなかった。
恐怖に対しての虚勢なのか、それとも見下すべき人間たちへの威圧感のある声圧か。
【あの方】
名前を言うだけでも竜族は恐怖する存在。
冒険旅団の最後の一人は、若いころ最愛の妻を悪名高き「リュストルハツの黒竜退治」で亡くしている。
その後竜を忌み嫌い、人生ですでに200に近い竜を屠っている。
中には当時最強と言われた白銀竜「ルオアテオア」さえも含まれる。
息吹きで嵐を呼び、翼の羽ばたきで木々を吹き飛ばし、尾の一撃で山を削る。
その体長は巨人族でも最大と言われる山雲族の勇者よりも二回り大きい。
そんな巨竜を最後の一人は素手で引き裂いたとも伝えられる。
2,000才を超える竜族は今でも最後の一人を忌み嫌い、1,000才前後の竜族は生まれてから「最後の一人の怒りには耐えるのみ」と教えられている。
竜からすれば彼は意思を持つ暴虐の嵐なのだ。
人の姿をした自然災害。いや彼の意思次第ではいつでも竜狩りを再開すること考えれば自然災害よりもたちが悪い。
「竜の支配地域に入るのにあの方には許可など必要ない。勝手に入り、勝手に件の竜を殺せばよい。そうされても我々竜族はあの方へ復讐するつもりはない」
(それは復讐に正当性がある訳ではない。ただ怖いのだ。復讐することで存命する677頭の竜が全て殺される可能性があるのだから)
大使は言葉の真意を自答した。
この40年で新しく55頭も竜族は増えた。ここ3,000年の中でも快挙だ。
いつかは最盛期の2,500頭を超え、地上の支配者に返り咲く日を待っているのに一匹の竜のつまらない行いで種の消滅など迎えるわけにはいかない。
「報告だけしろ。そしてさっさとこの部屋からいなくなれ」
黒龍が吐き捨てるように言うと、アリスとラインハルトだけが礼をし5人とも退室した。