これまでに世に出回るベルカ戦争の記録を読むと、高い頻度で目にする単語がある。『超兵器』と呼ばれる単語だ。戦前の都市伝説、兵士の与太話、時には戦果の誇張に利用された通常兵器、戦争が生み出した伝説は枚挙にいとまがなく、その中から真実を掬い上げるのも難しい。だが、強いて本物を挙げるとすれば、戦争中期で連合軍を焼き払った”聖剣”しかないだろう。
本土防衛型化学レーザー砲、エクスキャリバーである。
オーシアとユークトバニアの冷戦の煽りを受け、1981年に開始されたベルカのBMD構想、即ち弾道ミサイル防衛のための兵器だ。
世界遺産にも認定されていたタウブルク丘陵で建設する際の反発は、エクスキャリバーを象徴する出来事の1つと言える。それでも彼らは建てたのだ。力こそが全てだと言葉で言い、形で現して。建設はベルカ内外に広く宣伝された。しかし戦争が始まる直前まで、エクスキャリバーが完成しているのかも、試射が済んでいるかも伺い知ることがなかった。
ベルカがエクスキャリバーを実戦に投入したのは1995年5月19日、ベルカ第2次防衛線攻略の日のことだ。そして、切っても切れない縁が如く、名前を連ねる部隊がそこにはいた。
ガルム隊である。
「あの時か?”空が光った”のさ」
“聖剣”を目撃し、「剣を抜いた」彼らは、そこで何を見たのか。
物語が再開すると、彼の目つきが変わった。
ハードリアン線の攻略は、連合軍の大勝利で終わった。
ここを超えて内地へ侵攻を決定した連合軍にとって、最初にて最大の難所とも言うべき要塞拠点であり、ベルカにとってここが落ちれば即本土決戦となる重大な局面であった。伝説の唸る怪物、『グラティサント』と名付けられたそれは、空を見渡す限りの連合軍機の猛攻を前に、ついに倒れることになる。
ガルム隊も参加した。隊では珍しく爆装が用意され、無誘導爆弾を抱えて飛ぶ。ピクシーも久しぶりの爆撃だったが腕は落ちておらず、これを成功させた。この時彼らが放つ対空砲火の弾幕を『津波が押し寄せる』と表現したのは、傭兵仲間からも評判である。
「そう言えばピクシー、何か見たんだって?」
既に出来上がっている仲間に問われた。手元にはホット・ラムだ。
「いや、大したものじゃない。空が光ったんだ」
「空が光った?なんだそれ」
酔っ払いにまともに説明する気は最速で失せた。ピクシーは切り上げるように言う。
「文字通りな。すまん、俺の気のせいかもしれない」
「司令部に報告しとけよ。それはきっと大昔ここで死んだベルカの幽霊だぜ」
「じゃあ幽霊ってことで良いからお前から頼む」
「お、おいおい」
可能な限りの作り笑顔で肩を叩くと、手を振って建物の外に出る。
雪が残るヴァレー空軍基地で白い息を混ぜながら、ピクシーは幾度目かの溜息を吐いた。自分たちは一体どこまで行くというのか。
ピクシーは、手紙の内容がまだ頭に燻っていた。
何が自分の戦う目的なのか。
意味とか、余計なことを考えるのは戦場に赴く兵士には不要だ。傭兵であれば尚更だった。嫌なら降りれば良いだけであり、穴を埋める代わりなど幾らでもいる。疑問を持っていることが分かれば、
導き出しようのない答えが積もった。どこに解を吐き出せば良いのかも、まだ分からない。この空に解き放たれた思惑はひょっとすると制御ができない化け物を生み出すかもしれないのだ。
ピクシーは空を見上げた。
「ピクシー」
目の前に彼が立っていた。全くの無意識のうちに、背後に立たれていたらしい。振り返って応える。
「サイファー、もうお呼びか」
「ああ」小さく頷かれる。
返事があれば良い素振りで、サイファーは踵を返して歩き始めた。その背中を見て、思わず問いたくなる。
「なあ、お前は」
「なんだ」
彼が立ち止まり横顔だけを向かせる。その視線にピクシーは自分で何を問おうとしたのか、一瞬のうちに忘れてしまった。
「何でもない。行こう」
「そうか」
遠ざかる背中が冷たい。
ベルカ軍第2次防衛線攻略、その主力としてガルム隊が参加する。
ただの地方国家の傭兵部隊が今や戦局を左右する立場に成り上がり、中でもガルム隊は一番槍に名が挙がった。”ウスティオの傭兵”という単語は、第6航空師団ではなく、ガルム隊そのものの意味として言われていると噂だ。連合軍はウスティオ空軍以上にガルム隊を評価し、持ち上げている。戦場には様々な話が飛び交うものだが、ピクシーはどこか冷ややかに聞き流していた。
しかし正規軍の戦力化が未だに整わないウスティオ空軍は、別にそれで構わないらしかった。結果的に正規軍を急がせることなく、時間稼ぎに使える。
空軍との契約もさらりと変わった。戦争が続く当面の間、無期限に雇用されるとのことだ。なんとも都合が良い。報酬は大して変わらないにも関わらず。
ブリーフィングに意識を戻す。
第2次防衛線は前線への補給を妨げている大きな拠点だ。大規模な機甲戦力を中心とした地上部隊、厚い対空陣地で構成された前線飛行場で構成され、そこに遠方から多数の迎撃機まで飛来する見積もりである。シェーン平原は、これでも足りない程度に、実際に広い。
3本立ての作戦に、アルファ・ベータ・シータと方面が命名された。自ら参加方面を選択出来ると言うが、ガルム隊においては
「では諸君の活躍を期待している」
無骨な指揮官が威勢よく言い放つ。傭兵が揃って立ち上がり、敬礼。
中継地点の正規軍基地に着くまで、サイファーとピクシーは何も話さなかった。静かに2人揃って降り立つ。でも作戦に飛び立てば、いつもの猟犬に戻るだろう。居合わせた傭兵の誰もが、そう思っている。しかし夜の間は、ただ静かな時間が流れるのであった。
テイクオフ。
ガルム隊らウスティオ空軍第6航空師団の傭兵パイロットは、昼頃に離陸した。離陸してからしばらくすれば、各々で決めた方面に散会する。地上での作戦は既に始まっている。ガルム隊とシータ方面に来たのは、1個飛行中隊程度の数で、ピクシーは「そんなものだろうな」と呟いた。
ベルカに入ってしばらくすれば、起伏があまりなく緑豊かな土地に景色が変わる。ここからが作戦区域だ。シェーン平原は自然豊かなベルカの中でもとりわけ広大で、一面が緑色のカーペットが敷かれたと例えれば、理解がし易いだろう。それがどこまでも続く。空から見れば、ベルカを飛んでいる事を忘れさせた。自然のままの姿は、空からでしか分からない。
「サイファー、聞こえるか?良い眺めだ。ここから見ればどの国も大して変わらん」
彼は翼を振って答える。だがそれ以上は答えない。
天候は曇り。いつものことだ。灰色の空が頭上を覆いつくしている。しかし雨は降らない。これは運が良かった。雨が降れば慣れている向こうが有利だ。晴れ、あるいは曇りなら対等、あとは途中で急変しないことを祈るばかりである。
レーダーに映る友軍機の数が増えた。敵は近いだろう。反射的にピクシーはマスターアームを解除する。
複数の反応、敵機だ。イーグルのレーダーは纏まった数を捉えている。機種の識別は、
「ガルム1、
「ガルム2、
武装は短距離のSRMを選択する。
「ベルカの戦闘機が迫っている。全機撃墜し、制空権を確保しろ」
AWACSのゴーストアイから指示の無線が飛ぶ。
敵機はヘッドオンの位置からか。ロックした。ピクシーはミサイルのリリースを押し込み、右翼側のミサイルが放たれる。敵機が急回避、避けられるとは思わなかった。その刹那、火球となっている。サイファーも敵機の片割れを同じように撃墜した。
「今日のエースはサイファーかもな。晩飯を懸けるよ」
近くで見ているのだろう、傭兵仲間が軽口をたたく。
「楽しい空戦と洒落こもうぜ」
「連戦連勝のウスティオ傭兵部隊か。お手並み拝見だな」
オーシア空軍のパイロットからもだ。憂鬱になりそうなのをこらえる。
攻撃をかいくぐった新手のMiGが突っ込んできている。格闘機として名高い
速い。ベルカ勢には明らかな殺意がある。攻める時の攻撃機動だ。時間稼ぎだという甘い考えは、ここで捨て去った。
もう一度正面からすれ違う。スロットルを叩きこんで今度は左旋回、息を吸ってGに耐える。敵機は左右に分かれて挟撃のマニューバ。ガルム隊は2機共にぴたりと編隊を維持して左旋回、サイファーが前に躍り出た。行け、とピクシーは呟く。
右旋回をしている敵機はわずかに遅い。サイファーが落として反撃するまでの猶予はある。ただ、チャンスは一度しかない。HUDのGメーターは7から8を指している。とっくにイーグルの限界ギリギリだ。仕留められなければ、失速時の機動性に優れるMiGに食われることになる。
サイファーのイーグルの機首が僅かに持ち上がる。ピクシーは構えた。あいつが撃つ。ガン発射。敵機の翼がもげて錐揉み状態で落ちて行く。見届ける暇はない。警告音。相棒を失った敵機からミサイルが発射される。距離が近い。ピクシーはフレアを、サイファーはダイブして回避する。
敵機がサイファーに追随。いや、お前がやれと言うのだろう。ピクシーは機体をロールさせ背面でダイブ、加速して射程に捉える。ミサイルをロック。
「ガルム2、FOX2!」
翼下の短距離ミサイルが数秒で命中する。派手な火球が咲いた。
「どうやらただの足止めに来たわけではなさそうだ。落とさなければ、落とされるぞ」
激しい息遣いの友軍機から無線が入る。
そうか。ピクシーは不意に納得した。彼らも同じだ。この空に誓った決意がある。そして、ベルカ軍人としての誇りが。戦局が傾こうが、絶対に譲れないもの。空では負けないと叫んでいる。
「決意、誇り・・・ベルカはそれで戦える」
息を整え、レーダーを見やる。明らかに敵機より味方の方が映っていた。ベルカ空軍は2機編成の”ロッテ”など、少数の編隊で来ることが多い。だから一度に見える敵機の数が少ないのは当たり前なのだが、ベルカの空にしては静かだ。
ゴーストアイが新たな敵機を指示した。友軍機を狙っている敵機。
「サイファー、ピクシー!ケツにつかれた!」
「行くぞ、サイファー」
機体を加速させつつ、
胴体のミサイルが1発、あっという間に機体から離れて行った。外れた際に備えてサイファーが後ろで援護位置に着く。
敵機が左にブレイク。気付くのが遅いか、更に反対にと切り返したところで力尽きた。ミサイルが命中する。
敵機は残り少ない。ガルム隊は編隊を組み直し格闘戦に備える。恐らく捉えた彼らが最後だ。来い。ヘッドオンですれ違い、イーグルの推力に任せ素早く上昇し、ループ機動。単純旋回の敵機の頭上をあっという間に抑える。ピクシーは無意識のうちに武装選択をガンに切り替えた。レーダーでロック、不意打ちを食らったようにたじろぐ敵機が見える。
トリガーを引く。機関砲の曳光弾が煌めき、吸い込まれる。1機の翼をもいだ。ブレイクして逃げる片方の敵機は、サイファーが噛み付いた。どうやらエンジンに当てたようで、よろめきながら離脱していくのが見える。
「片付いたか」
「妙だな。ベルカはもっと繰り出せるはずだ」
これだけの覚悟にしては向かってくる戦闘機が明らかに少ない。やはり気のせいではない。友軍機の損害が殆どないことが物語っている。
「ガルム隊、味方輸送機の到着を待ち、護衛にあたれ」
それでも作戦は作戦だ。連合軍はここで勝った。あの輸送機が飛んでいるのが何よりの証拠だ。識別はウスティオ空軍か。機種は
ピクシーはイーグルのバックミラーが少し明るくなっていることに気が付いた。
「ん?なんだ?」
その光は徐々に増している。空が・・・。
「また空が光った!」
青白い、眩い光が飛んできた。思わず目を瞑る。キャノピーに手を付き、機体をバンクさせながら可能な限り輸送機を見ると、息を吞んだ。
機体が赤い線が見える。それも的確に胴体に引かれている。刹那、輸送機の機首と胴体が切り裂かれている。あれは、溶けたのだ。ピクシーは身が震える。3機が撃墜された。炎上し、積み荷をまき散らしながら自由落下で墜落していく。
空が狭くなる。広かった筈の、決意の空が。
あなたの好きなエーススタイルは?
-
マーセナリー (ただひたすらに強く。)
-
ソルジャー (戦場を変える力。)
-
ナイト (強きを挫き、弱きを鼓舞する)