「飲み物とお菓子持ってくるねー!」
そう言って千歌ちゃんは部屋から出て行った。この春から私たちは大学生になり、千歌ちゃんも私も同じ大学に通うことになった。その為二人とも親元を離れ、大学近くのアパートで暮らしている。私が選んだアパートは千歌ちゃん家の割と近く。まぁ本当は千歌ちゃんと同じアパートが良かったんだけど・・・
で、今私は初めて千歌ちゃんの家に来ている。そして今日はなんとお泊り!
千歌ちゃん行ったかな・・・
入り口の方を確認・・・よし!
クンクン・・・
お布団の匂いを嗅いでみる。
千歌ちゃんの良い匂いがする・・・
「てっ‼私何やってんの⁉変態みたいじゃない‼」
ベッドから離れて頭を冷やす。
「・・・もう一回だけ・・・」
誘惑が体を突き動かす。再度入り口の方を、今度はドアを少し開けて外の様子を伺う。
「・・・よし!」
こんな所を千歌ちゃんに見られたら絶対に嫌われてしまう。だから慎重に!
「ゴクリ・・・」
今度は千歌ちゃんの枕へロックオン!あれがいつも千歌ちゃんの使っている枕・・・
「・・・?」
いざ、匂いを嗅ごうとした所で、枕の下に何かが挟まっている事に気付く。
人の物を勝手に見たらダメだ‼
そう自分に言い聞かせる。
「・・・見るだけだから・・・」
しかし、誘惑には勝てない。枕の下に挟まって、少しだけ顔を覗かせているそれを引っ張り出す。
「これは・・・」
写真だった。千歌ちゃんと誰かのツーショット。その相手は・・・
「・・・」
「あれ、曜ちゃんどうしたの⁉」
「ゴメン‼急用が出来たから‼」
「えっ⁉」
私は逃げるように千歌ちゃん家から去って行った。
男の人と二人で写っている写真。あれはつまり・・・
「うっ・・・」
涙が次から次へと溢れ出てくる。
走る、何もかも忘れたくてただひたすら走る。
ぼすっ‼
家に着いて自分の部屋に入るなりベッドにダイブして、枕に顔を埋める。
「千歌ちゃん・・・千歌ちゃん‼」
きっと・・・いや、喜んであげるべきなんだもちろん。でも、そんな気持ちになれない自分の心が醜くて仕方ない。
泣いて泣いて泣きまくって、いつの間にか夜になっていた。
「千歌ちゃん・・・」
スマホを見ると千歌ちゃんからの着信がいっぱい。悪い事したな・・・
でも今はとても返す気になれない。ゴメン・・・千歌ちゃん・・・
「・・・」
寝て忘れようと思ったけど胸がザワザワして眠れない。
カチ・・・コチ・・・
時計の針の音がいつもより大きい気がする。
「明日・・・大学・・・」
千歌ちゃんに会って何と言えばいいのだろうか。いや、そもそも私自身が冷静でいられる気がしない。
プルルルル・・・プルルルル・・・
「もしもし!どうしたの曜?」
「あ、鞠莉ちゃん!実は相談があって・・・」
私は鞠莉ちゃんに電話した。普段は海外にいる彼女だが、今は一時的に帰国している。
「ちかっちの事?」
「え?どうして分かるの⁉」
「まぁ、あなたからの相談って言ったらね」
「・・・明日・・・会えないかな?」
「それは随分と急な話ね」
「電話じゃ多分伝えきれない。どうしても会って話がしたいんだ!」
「私はノープロブレムよ!でもあなた、大学の方は大丈夫なの?」
「う、うん!明日は臨時休校なんだ‼」
もちろん嘘だ。でも今はそれどころじゃない。
「・・・分かったわ。じゃあまた明日ね。場所は・・・」
「うん分かった!」
電話を切る。
「ふぅ・・・」
鞠莉ちゃんの声を聞いて少し心が落ち着いた。とにかく明日だ。鞠莉ちゃんならきっといいアドバイスをくれるはず・・・
・・・
・・・・
・・・・・
「あ!鞠莉ちゃん!」
「チャオ~!久しぶりね!」
待ち合わせの場所にはすでに鞠莉ちゃんがいた。
「とりあえず、まずはお昼にしましょう!」
二人で近くの店に入ってご飯を食べる。それから目的地に向かう。
数分後、到着。中に入り、入場料を払って上に向かう。
「あの時の事、思い出すわね」
「うん・・・」
ここは沼津にある大型展望水門。雄大な海の景色を一望できる絶景地。かつて、私が梨子ちゃんに嫉妬してしまった時、鞠莉ちゃんが相談にのってくれた場所。
「遠かったんじゃない?」
「まぁちょっとね。でも電車だから」
「・・・今日、臨時休校だっていうのは嘘なんでしょ?」
「え⁉」
「やっぱり・・・」
「鞠莉ちゃんには嘘つけないな・・・」
「・・・それぐらい大事な話があるんでしょ?」
「うん・・・」
私は鞠莉ちゃんに事情を説明した。
「なるほどね。本当にちかっちの事大好きだね、曜は」
「うん、大好き!」
「ふーん。でもあのちかっちがねぇ・・・まぁ、もう大学生なんだし、彼氏ぐらいいてもおかしくないんじゃない?」
「‼」
無意識のうちに鞠莉ちゃんの胸倉を掴んでいた。自分のやっている行動はきっと間違っている。だって鞠莉ちゃんは何もおかしな事を言っていないのだから。
「好きな人が出来ていずれは結婚する。これって当たり前じゃない?私、何か間違った事言ったかしら?」
「やめてよ‼やめてよ・・・」
目から涙が溢れ出てくる。胸倉を掴んでいる手の握力もなくなり、地面にへたりこむ。
「誰にだっていつかはそう言う時が来るのよ?」
「聞きたくない‼聞きたくない‼」
「じゃあ何?あなたはちかっちの事祝福してあげないの?そうやって、ずっと一人で泣いているつもり⁉」
「なんで・・・なんでそんな意地悪な事ばっかり言うの⁉私、怖いんだよ・・・千歌ちゃんが私を置いてどっかに行っちゃうのが・・・」
「その程度なの?」
「え?」
「あなたとちかっちの絆は、そんな簡単に無くなっちゃうものなの?二人で築き上げてきた信頼はその程度なの⁉」
「・・・」
「もっと信じなよ。二人の絆の強さ、私は良く知っているつもりよ!」
「そうかな・・・」
「ほら!」
鞠莉ちゃんが突如、私の後ろを指さす。
「・・・‼」
「はぁ・・・はぁ・・・曜ちゃん・・・見つけた‼」
そこにはこんな所には絶対いるはずのない千歌ちゃんの姿が。
「・・・どうして⁉」
ぎゅっ‼
駆け寄って来た千歌ちゃんに思い切り抱きしめられる。
「ち、千歌ちゃん⁉」
「曜ちゃん、今日大学に来てなかったから・・・私のせいだよね‼ゴメンね・・・」
「・・・どうして・・・ここが分かったの?」
「勘・・・かな?」
「さすがちかっちね。これでもまだ信じられない?」
「う、う・・・私の方こそ・・・ゴメンね」
「曜ちゃん・・・泣かないでよ‼」
「千歌ちゃんの方こそ・・・」
二人で泣きじゃくる。きっと顔は涙で酷い事になっているだろう。
「私、曜ちゃんに酷い事しちゃったんだよね⁉ねぇ、そうだよね⁉」
「それは・・・」
「曜はね。あなたに彼氏がいる事を知って動揺しまくりだったのよ」
「え、彼氏・・・何の事?」
「何の事って‼枕の下の写真だよ‼」
「写真・・・あー‼そこにあったんだあの写真‼飾ろうと思ったら写真立てがなくてさ。そのままどこかに置いちゃって・・・」
「そうだよ‼その写真‼」
「あれ、聖良さんだよ」
「へ?」
「だから‼一緒に写っているのは鹿角聖良さんなんだって‼」
「・・・」
千歌ちゃんが何を言っているのか理解できない。あそこに写っていたのは間違いなく男の人で・・・
「聖良さんね、超人気アイドルだから変装しないとまともに外歩けないの。だから一緒に写真撮った時もその恰好で。前、東京に行った時偶然声かけられてねー。仕事で来てたみたい。私も最初は分からなかったよー」
「じゃあ・・・」
「曜の勘違いだったみたいねー。まぁそんな事だろうと思ったけど」
「そんな・・・」
全身から力が抜けていく。
「曜ちゃん大丈夫⁉」
倒れそうになった所を千歌ちゃんが支えてくれる。
「私、最低だ・・・勝手に勘違いして心配かけて・・・」
「そんな‼私が紛らわしい写真置いてるから悪いんだよ‼」
「ううん。全部私が悪い。私、あの時から何も成長してない・・・バカ曜通り越して大バカ曜だよ・・・こんなんじゃ嫌われちゃうよね・・・」
「嫌いになんかなるわけない‼」
千歌ちゃんにガッシリ肩を掴まれる。
「例えこの先離れ離れになっちゃっても、私がお嫁に行っちゃったとしても曜ちゃんの事、絶対絶対忘れないもん‼嫌いになんかならないもん‼」
「そんなの分からないよ‼だって・・・だって‼」
「もう‼曜ちゃんの分からず屋‼」
千歌ちゃんが凄い力で私を抱きしめる。
「ちょっと千歌ちゃん苦しいよ‼」
「私の気持ち、分かってくれるまで離さないもん‼」
ぎゅうぅぅぅ‼さらに強い力が加わる。
「痛い‼痛いよ千歌ちゃん‼ギブアップ‼」
「あ、ゴメン‼」
千歌ちゃんの凄い力から解放される。
「ち、千歌ちゃんこんなに力強かったっけ?」
「それが想いの強さなんじゃない?」
鞠莉ちゃんが言う。彼女に一部始終を見られていたかと思うと少し恥ずかしい。
「想いの強さ・・・」
「そうよ。ちかっちも曜の事、あなたに負けないぐらい大好きなんだよ。だから、こんな所まで追っかけてきたんだし」
「そうだよ‼私、曜ちゃんの事大好きだもん‼もし曜ちゃんがいなかったら今の自分はいないと思うし‼だからさ、曜ちゃんの事嫌いになんかなるわけない‼」
「私面倒くさいよ?また今日みたいになっちゃうかも・・・」
「面倒くさくなんかないよ‼その時は今日みたいに、曜ちゃんがギブアップするまで抱きしめるから‼」
「千歌ちゃん・・・」
私は最高に幸せ者だと思った。私の事をここまで想ってくれる親友がいるからだ。ここまでして貰えて、どこにそれを疑う余地があるだろうか。
「いつか何かの形で、別れの日は必ず来る。でもね、この空はつながってるから!だから大丈夫だよ!例え離れていても心はつながっているんだよ!」
「鞠莉ちゃん・・・ありがとう‼」
「ねぇ曜ちゃん‼」
「どうしたの?千歌ちゃん」
「写真撮ろうよ‼この日を忘れない為に‼そしてこれからどんな事があってもお互いを大好きでいれるように‼」
「オー!ナイスアイデアねーちかっち!マリーが撮ってあげましょう!」
パシャッ!
私たちの姿を眩しいぐらいの夕日が照らし出す。キラキラと輝く二人の笑顔。最高の時間。もうこの先の不安など気にする余地もない。
「今度はちゃんと飾るのよちかっち?」
「あははー面目ない・・・」
「じゃあ今から写真立て買いに行こうよ‼」
「うん‼」
手をぎゅっとつないで走り出す。この先の未来に一体何が待ち受けているかは分からない。辛い事もたくさんあるだろう。でもきっと大丈夫だ。この手の温もりが私にそう思わせてくれる。
ずっと大好きだよ‼千歌ちゃん‼
・・・
・・・・
・・・・・
「あぁ、そんな事があったんですか。ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ありません」
「いえ・・・そんな」
「では私はそろそろ仕事に向かいますので」
「ええまた。お会いできる日を楽しみにしています!それでは!」
電話を切った私は玄関に向かう。
「姉様、もう行っちゃうの?」
「もっとゆっくりしたかったんだけどね・・・」
「私、頑張るから‼今年こそは絶対ラブライブで優勝する‼だから姉様もお仕事頑張ってね‼」
「ありがとう・・・理亜‼」
理亜の体を抱きしめる。少し見ない内にまた少し背が伸びたのではないだろうか。
「ねぇ、姉様?」
「何?」
「今度はどれぐらいで帰ってくる?」
「分からない。今回は大きい仕事だから暫くは無理かもしれないわね」
「・・・」
「寂しい?」
「うん・・・でも大丈夫!例え姉様が遠くにいても心はつながっているから!だから泣かないよ!」
「理亜・・・」
背が大きくなっただけではない。心も大きくなったんだ。
「ちょっと!姉様が泣いてどうするの⁉」
「ホントにそうね。でもあなたの成長が嬉しくてつい」
「絶対‼絶対優勝するからね‼」
「うん‼楽しみにしてる‼」
「行ってらっしゃい‼」
私の姿が見えなくなるまで理亜は手を振っていた。
「よし頑張ろう‼」
そう気合を入れる。そしてこの広い空の下、私は歩みを進めるのだった。
完
ここまで読んで頂いてありがとうございます。今回はようちか物語です。少し内容重くなっています。曜ちゃんの明るい部分が好きなんだと言う方は申し訳ありません。しかし、僕は曜ちゃんのこういう人間臭い所がとても好きですね。それを受け入れ明るく照らしてくれる千歌ちゃん。本当に二人が出逢えて良かったと思います。
そしてセイントスノーの二人にも少しですが登場して頂きました。少し無理やり感があるかもしれませんがご容赦願います。
曜ちゃんと千歌ちゃん、聖良姉さんと理亜ちゃん、それぞれ二人の未来が明るいものである事を祈って締めとさせて頂きます。
二〇二〇年 六月二〇日 津地こう