ある意味ここからが本当の始まりです。
よろしくお願いします。
東の方角から朝日が漏れる
暖かな日差しが影に染まった大地を照らして行く
自分の身体にも陽が当たり、
少しづつ体温が上がっていくのを感じた
太陽という物は、なんとも美しい物だろうか
その光は全てを照らし、この世の闇をもすら払い除ける
士「お館様…お元気だろうか…」
朝日を見ながら、生命の恩人であり
自身に育手を紹介してくれた方の顔をうかべる
あの方はまるで、神様のような人だ
その眼差しは父親の様に暖かく、
その声は話しているもの全てを優しさの海で包む
対して鬼は、全くもって哀れな存在だ
人の優しさ等は梅雨知らず、
太陽の光でさえ当たる事が出来ない
ただ、血肉を漁ることにしか興味を持たん
そのような事を考えていると、頭の上から耳障りな音が聞こえて来た
カァー、カァーという響く鳴き声
まもなく、自身の肩に漆黒の羽毛を持った鴉が止まる
鎹鴉
主に連絡様の鴉であり、
任務の伝達や鬼殺隊本部の指令を隊士に伝える
先に言うが、俺はこいつがそこまで好きじゃない
「おい、お前、今俺の事けなしただろう?」
士「口が悪すぎる、お互い様だろ」
カァー、とまた一泣きするものだから耳が更に痛い
「指令を伝える、西北西、西北西〜丹波の国へと迎え、異形の怪異との目撃情報あり」
士「丹波の国?異形の怪異か…」
斬り甲斐がありそうな感じだな
次の瞬間、士竜は足に羽が生えた如くの俊足で走り始めた
鎹鴉は士竜の肩から飛び立ち
俺が走り出すや否や何処かに飛び去ってしまった
鎹鴉は、普段指令を伝えに来ると任務地まで案内をしてくれるのだが…
こんな事は初めてだった
もしや、お館様の身に何か…?
いや、それならば任務より先にその事が伝えられるはず
自分は自分の任務に集中すべきだ
鬼の匂いは分かる
しかも異形の怪異ともならば匂いも強いはず
なんの問題もない
士「今度こそ上弦か?」
いずれにせよ、気を引き締めることには変わりは無い
目的地を目指し、足の回転を早くさせた
夜もとっぷりと更けた頃
ようやく目的地に到着した
丹波の国へと足を踏み入れた瞬間、
身体が強ばっていくのを感じる
今まで感じたことの無いような匂い…
もしや、これは…
?「今宵も月が綺麗だな」
突然聞こえた声に心底驚き、後を振り向いた
気配がしなかった…
なんだ?
背後に月があるため、はっきりとした姿形は見えない
懐には刀を刺しており、まるで戦国の世の侍のようなたたづまいだ
そして、この強い血の匂い…
奴の姿を視認した瞬間、強烈な匂いが鼻腔を突いてきた
あの夜
今日の様な、月が堕ちてきそうな夜
あの日、家に入って来た匂い
そうか、
こいつが…こいつがぁ…!
士「貴様、俺の顔に見覚えはないか?」
?「弱者の面など、いちいち覚えてはいない」
奴はくだらなそうに応える
士「この左眼の傷、お前から授かった物だ」
家族、幸せ、色々な物を奪っていった元凶…
傷が疼く
今にも怒りで身体が崩れそうだ
体温が急激に上昇していくのを感じる
?「そうか、お前はあの時の小さき子だったか、未だに生きのびているとは如何ともし難きや」
士竜はカッと目を見開き、充血した眼で目の前の異形の顔を視認する
顔に目が六つ、更に奇妙な痣…
中央の目玉には上弦、もう片方には壱という文字を視認した
士「吾こそは柊士竜、階級柱、龍の呼吸の剣士なり…!」
?「名乗られたからには、私も武士としての作法を全うせねばならぬ、よかろう…我こそは黒死牟なり 上弦の月だ」
両者、脇差の刀に手を賭ける
辺りからは鈴虫の声しか聞こえて来ない
風が一瞬強く吹く
草木のざわめきが収まるのと、両者が動き始めるのはほぼ同時だった
全集中…
龍の呼吸 壱ノ型 轟龍斬
全集中
月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
黒死牟に深紅の轟龍が迫り来る
ところが、
士竜の技は、黒死牟が放った無数の刃によって打ち消されてしまった
刀を一振しかしていないのに、刃が分散して斬りかかってくる
厄介だな…
黒「未熟者、怒りで太刀筋が乱れているぞ」
士「こいつ、こいつ…!」
俺の心境を読み取り、技の粗さを見抜いている、
今のほんの一瞬で俺の全てを見透かしている…
なんなんだ、この生物は…
再び頸を斬らんと刃を向けるが、
黒死牟は轟龍のような剣戟をいとも簡単に交し、
士竜の背後にそろりと迫る
黒「声を出す余裕があるのか?」
士「くそっ…!」
咄嗟に振り向き、それと同時に自分の頭に飛んできた刃を辛うじて受けた
刃と刃がぶつかり合い、赤い火花が散る
士「なんだ、この刀は…」
黒死牟の刃は目玉が幾つも付いており、とても刀とは言い難い代物だ
そして…早い…
こいつ、動きが速すぎる!
黒死牟は士竜が攻撃を仕掛けると同時、いや
それ以上に早く動いている
攻撃が読まれる…
俺の剣戟は、奴にとっては初見の技の筈なのに何故
やはりこの鬼には、「何か」が見えている…
黒「私には全てが見えている、お前の思考、判断、骨や肉の動き…全て手に取るように分かるのだ」
士「舐めるなぁ!お前に何が見えていようが、当人はただ貴様の頸を斬る、それだけの事だ!」
息をめいいっぱい吸い込み、呼吸を整える
肺の面積を広げ、極限まで全身に血を巡らせる
全集中…
龍の呼吸 弐ノ形型 龍神…
その時、俺の足場が急に崩れた
バランスを崩してしまい、そのまま崖の斜面を転がり落ちる
呼吸に集中し過ぎていたため、足元に意識がいかなかった…
くそっ、くそっ!
目の前に…目の前に 仇が居るのに、こんな事でっ!
その思いとは裏腹に、俺の体はみるみるうちに下へと落ちて行く
黒「少々手を抜きすぎたか、まぁいい、奴が私の前に現れることは金輪際無だと考えてよいだろう」
そう言い残し、黒死牟は後ろを振り返らずにその場を後にした
この私が…二度も同じ人間を見逃す事になろうとは…
なんとも、不甲斐無きや
黒死牟よ、折り入って頼みがあるのだ
主人の頼みとあらば、耳を立てて聞き入れようぞ
「あの方」は不敵な笑みを浮かべると、獣のように縦長の目を細めた
かつて平安の世に存在していた、大極悪を私の血により蘇らせて欲しい
承知…
私にお任せくだされ
まさか、帰路に柱と遭遇しようとは
あの方直々の指令とあれ、構っている暇など無かろうて
黒死牟は今にも落ちてきそうな月を見上げながら、
静かに目を閉じたのであった
どれくらい落ちただろうか
高速で風を切る音が鼓膜に届く
ゴツゴツとした岩肌の地面が近づいてくる事に気づき、
一瞬のうちに我に返った
このままではどうなるかが明確だ
出来る限り息を吸い込む
落下しているからか、風の関係で中々肺に空気が入って来ない
諦めて…たまる、、かっ!
目をカッと見開き、全身に無理矢理力を入れ込んだ
全…集中…
龍の呼吸 壱ノ型 轟龍斬
地面スレスレの所で型を出し
あちこち身体をぶつけながらも何とか動きを止めた
士「はあっ、はあっ…」
体力を使い果たし、仰向けに倒れ込む
危なかった…
足元に気づかなかったのは完全に失態だった
だが…
俺はつくづく、悪運が強い男だ
いや、逆に今回は運に救われたと言うべきか
あの鬼、強さが異常だ…
もしあのまま切り込んでいれば、
間違いなく、逆に俺が斬られていたに違いないだろう
士「まだ…だ、立ち上がれ…」
暗い谷の中で、重くなった瞳が閉じていく
意識が無くなるのと、
手から日輪刀がこぼれ落ちたのはほぼ同時だった
読んでいただき、ありがとうございます。
呼吸は随時登場させていきます。
壱ノ型ばっか使うなよ!って思うかもしれませんが、しっかり登場します。
いわゆる渋りと言うやつです。
大正コソコソ噂話
士「崖から落ちるなんてなんという無様…せっかく仇に巡り会えたと言うのに…
ここで大正コソコソ噂、俺が崖から落ちた時、黒死牟は若干笑いを堪えていたそうです」
誤字、脱字等ありましたらご指摘お願いします。
次回もよろしくお願いします。
つづく