ペルソナのジョーカーのクロスオーバー系の日常番外ストーリーです。
※基本的に練習がてらつもりで書いてます

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輝いた怪盗と輝き始めたアイドル

 

 

 

春の四月。保護観察処分も終わり東京から帰った雨宮 蓮は地元へと戻ってきた。戻ってきてすぐに春休みということもあってか心が落ち着いていた。

そして新学期を迎え、気の桜の花弁が雨に打たれている。

 

蓮は学生鞄を肩に掛け、黒い傘をさして学校へと向かう。こちらの学校は約一年ぶりだ。自分を覚えている人物がどれくらいいるだろうか。そして、いたとしてもどんな風に自分を思っているのだろう、と頭の片隅に置いといた。

両親は冤罪で良かった、と泣いて喜んでいた事を思い出す。だが、恐らくこっちの学校でも噂はたえないんではないだろうか。

 

「なぁ、お前の学校どんなところだ?」

 

鞄からひょっこりと顔を出す黒猫が蓮へと声をかけた。自分は少し視線を上へと向けて考え込んだ。

昔の事を思い出し、前の学校である秀尽学園高校と比べ返す。

 

「で、どうなんだ?」

 

そして黒猫が再び語りかけてきた。そんな猫の言葉に自分は前よりは退屈な学校だ、と呟いた。

言ってしまうのも悪いが前の学校の秀尽学園高校はある活動で忙しかったのだ。

その活動は委員会や部活、生徒会などではない。普通の高校生、いや一般人ではできないような活動だ。

 

それは───

 

「きゃっ」

 

「!」

 

蓮が当時の事を振り返り始めた頃、歩道が交差する道で誰かとぶつかってしまう。顔は赤い和傘で見えないが声からするに女性だと思われた。

細い少女の体が崩れる。自分とぶつかった反動で少女の体が後ろへと跳ね返り、彼女の背が段々と後ろへとそして下へと向かっていく。

 

しまった、と蓮は心の中で呟き後ろへと倒れる少女の片腕を掴んでこちらへと優しく引っ張った。カクン、と少女の体の動きが停止し、ゆっくりと体勢を戻していく。

 

「…………」

 

蓮は少女の顔色を覗きながらゆっくりと手を離す。黒い髪に赤い瞳、そして顔は凛と整っており、まるで大和撫子を絵に描いたような存在だった。背は自分の首あたりと思われるその少女は恐らく仲間であるハッカーの少女と同じぐらいの歳だと思われた。

大丈夫か、と自分は彼女の怪我の有無を確認した。

 

「はい、大丈夫です……その、ありがとうございます」

 

彼女が頷くと彼女が頭を下げてお辞儀をする。

そんな彼女の態度を見て気にするな、と自分が首を横に振った。

 

「ですが……」

 

そもそも相手が悪いわけじゃない。自分が考え事をしながら歩いていたせいだ。前を見ずに歩いていたからぶつかってしまったのだ。その事を彼女に伝えた。

 

「ですが、私も前を見ていれば、ぶつからずに済んでいた、はずです……」

 

彼女が一向に引き下がろうとしない。その様子を見て蓮は意を決する。ならば、お互い様だと。

蓮がそう言って彼女に軽く会釈すると彼女の元を離れてそのまま学校へと登校した。

 

 

 

 

 

午前の授業が終わり、昼休憩は50分の時間がある。大体の人は昼食を取る時間だ。蓮も学校の食堂へと向かう。

 

「知ってるか?今年の新入生。めちゃくちゃ可愛い子が入ってきたらしいぜ。それもあの有名な杜野家のお嬢様らしいぜ」

 

「おい、アイツ。例の元前科持ちの……」

 

「ああ、この間こっちに戻っきたやつだろう?」

 

案の定、自分の耳に彼らの小言が聞こえてくる。だが、蓮に取ってまだこの程度は苦痛ではなかった。

 

学食をカウンターで受け取ると蓮は一番端っこの目立たない席へと座る。自分に取って一番の苦痛は強い権力を持った大人達にいいように使われる事だ。

真実を知らない者達の戯言に付き合う必要はない。

 

「あの、相席、よろしい……でしょうか?」

 

そんな蓮の席に近づいて話しかけてくる者がいた。

 

「……?」

 

蓮が学食に目を落としていた視線を上へと向けその人物を見た。その人物は今朝、ぶつかった少女だった。

 

「また、お会いできて……嬉しいです。今朝は、すみません……」

 

少女が軽く会釈して自分を見つめてくる。まだ気にしてるのか、と蓮は思わず呟いてしまった。

 

「いえ、そういう、わけではないのですが……つい、お見かけしたので……」

 

見かけた?誰を?と自分は首を傾げると少女が再び口を開いた。

 

「今朝、お会いした貴方さまに……」

 

自分に……?と蓮は彼女を席に座るように促しながら話を続けた。

 

「はい……言いにくいのですが……わたくし、この学校に、知り合いが、ございません……。それにクラスの人達と、上手く馴染めませんし……」

 

そう言ってまっすぐとした瞳でこちらを見る少女に蓮はなんとなく違和感を覚えるが彼女の話を聞いた。

 

「それで、食堂で今朝、少しだけ、お話した貴方さまをお見かけして……」

 

それでつい話しかけたというわけか、と蓮が納得する。

 

「迷惑、でしたか……?」

 

迷惑ではないが……こちらの方が迷惑にならないか?

 

「そんなはずは、ございません」

 

やはりだ。彼女の喋り方には難がある。まるで片言かのようにも思える。だが、彼女の意思は強い。この言葉も本気で言ってるのだろう。

 

だから、自分の事を少し話さないといけない。前科持ちでもか?と……。

 

「前科、持ち……ですか?貴方さまが……?」

 

そうだ、と自分は短く答え首を縦に頷いた。本当に持っているかいないかはこの際、問題ではない。前科持ちだった、という噂がある自分と一緒に居ていいのかという意味だ。黒い噂を持つ自分と一緒にいるということは彼女にも黒い噂が出てくる可能性がある。

 

「平気です……貴方さまはそんな方ではありませんから……」

 

何を根拠にそう思ったのか自分には分からなかった。因みに蓮が理由を聞いた所……あの時、蓮が転ばないように手を差し伸べて下さったから……だそうだ。

 

「貴方さまが前科持ちでしたら……凛世に手を差し伸べたりなんて、しません……」

 

そんな小さなことで……と蓮が小さく呟いた。

 

「たとえ、それが小さなことでも……その方の、性格が出ると、思います……」

 

だからと言って一緒に昼食を取ろうと考えるとは少し緩すぎないかと蓮が考えた。彼女は見た感じあまり人と話すのは得意とは思えない。まるで双葉と同じ人と接することが少なかったようにも見える。

 

「杜野 凛世です。ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」 

 

彼女の名を聞いた。杜野 凛世……という子らしい。聞くところによるとあまり他人と話したことがないらしい。だから人との距離感も分からない感じだったのか……。

 

「雨宮 蓮、さま……ですか?」

 

自身も彼女に名乗る。呼び方に少々、いやかなり癖がある。いきなり初対面の相手に様付けとはお嬢様か何かか?と疑い固くなるような相手だった。

 

「さまは付けなくていい……ですか……?」

 

彼女の言葉に自分はゆっくりと頷いた。年下の少女に様付けさせていたら変な噂が出てきてしまう。そうなれば溜まったものではない。それにそういう趣味もない。

 

「先輩、とお呼びすればいい……ですか?」

 

自分の呼び名をこちらから提案する。自分は頷いた。わかりました、と凛世が頷いた。その言葉を聞いて連が一息ついた。

椅子に背を預け少し疲れが出てくる。だが、そんな一息も束の間であった。キーンコーン、カーンコーン、と予鈴の鐘が食堂に響き渡る。

午後の授業が始まるまで後10分ということになる。蓮は自身の学食に目を付けた。少ししか食べていない食べ物が多く残っている。

マズい、と自覚して食べるスピードを早めた。

 

 

 

そして数分後、なんとか食べ終わった。ふう、と一息ついて肩の力を抜いた。

そしてふと、凛世の手元を見た。いつの間にか食べ終わっていることに気付いた自分は少し首を傾げた。まさか、話しながらも上品に食べていたのか、と気付いた。

凄い、ペース配分だなと思い彼女の手際の良さを心の中で褒めた。そして蓮が席を立つ。そろそろ教室に戻らねば授業に間に合わない。

 

「あの、先輩……」

 

席を離れようとする蓮を凛世が呼び止めた。なんだろうかと首を傾げて振り返った。

 

「また、お会いしましょう……」

 

その言葉にどんな意味があるのか蓮には分からなかった。ただ、その意味を知るのはその言葉を発した少女のみ。その少女は会釈していきこの場を去っていく。

 

 

 

下校時間となると雨は止み、雲間の間から太陽の光が地面へと照らされる。だが、水分を蒸発させるほどには至らず道の道がまだ濡れている状態だった。

 

「あ、先輩……」

 

傘を左手にぶら下げ、校門を出た蓮に話しかける少女が一人。凛世だ。

まさか、待っていたのか?と蓮は足を止めた。

 

「はい……駄目でしたか……?」

 

駄目と言うわけではないが……何か用事だろうか?そうは思ったが恐らくそれはないだろう。待ってもらう用事に心あたりがない。

ならば、待っていた理由は……一緒に帰る為か?

 

「迷惑でしょうか?」

 

そういうわけではないが……そういうわけでは……と蓮が頭を悩ませる。こんな男と一緒に居て変な噂が立ったらどうする?

 

「その時は、その時です。それにそちらの方がいいかもしれません……」

 

どういう意味だろうか……。とりあえず自分は彼女と歩きながら帰路へとつく。恐らく帰り道が途中まで一緒なのだろう。凛世も自分の横を歩く。

 

「凛世は……生まれが、由緒ある正しい家系、なので少し……周りの人達から良い目?で見られるのです……」

 

少し顔を下へと向けて呟く凛世に自分は静かに耳を傾けた。

 

「凛世は、普通に過ごしたいのですが、そういうわけにもいかないというか……」

 

なるほど……大体、事情はわかった。だが、普通の目で見られたいのになぜ、前科持ちの自分と一緒にいても悪い目で見られるはずだ。

 

「凛世も、最初は、そう思いました……。ですが、先生方に聞いた所、先輩はいわゆる冤罪、だったらしくて……」

 

その言葉に自分から口を出すことはできない。だけど、彼女の言葉を静かに聞くことにした。

 

「先輩は、凛世の事を、普通の目で見てくれるので……先輩と、一緒にいたら凛世も、皆様からの視点が変わってくれるのではないでしょうかと思いまして……」

 

言わんとしていることはわかる。わかるが、本当にそうなるかは分からない。その先は神のみぞ知る、と言うやつだ。

 

「ですから、凛世を先輩のお傍に置かせてください……」

 

聞こえはいいかもしれないがつまりは自分が周りの生徒から変な目で見られる、というわけだ。冤罪でこっちに戻ったばかりの奴がこんな可愛い少女と一緒に行動しているとなると、だ。

自分としては悪い気がしなくもないが周りの目が嫉妬でこちらに向けられるのだ。

 

「ありがとうございます……」

 

仕方ない。これも彼女のためだ、と自分は言い聞かせた。そういう目で見られるのもなれている。杏や真、春、それにすみれと行動を共にしていた際に少なからずそういう感情の目を周りから向けられていたのだ。

それと何ら変わりない、と自分は納得した。

 

「先輩はなぜ冤罪に……?」

 

凛世がそう聞いてきた。恐らく好奇心だろう、と自分は思った。これから一緒にいる仲だ、事情を知らないと可哀想だろう。

蓮はあの日の事を思い出す。夕日が沈み、暗い町中を歩く中、女性と男性が揉め事を起こしていたあの事を。凛世に話した。権力のある男に濡れ衣を着せられた事も、保護観察処分で東京にいた事も。

 

「…………」

 

凛世の顔を横から見るが表情の変化は一切ないと言ってもいい。気にしてないのか、それとも別の考え事をしているのか……。

 

「先輩、凛世は、こちらの道ですので……」

 

凛世が足を止めて自分の帰る道を指し示す。その言葉に蓮はわかったと頷いた。

彼女は自分のこんな話を聞きたいのだろうか。自分がどんな事をしたのか。

 

「先輩、また今度は東京に行った時のお話、お聞かせ下さい」

 

少なくとも彼女は自分の話に興味があるようだ。その言葉に自分は首に手を当ててまた今度、と頷いた。

 

 

 

それから半年の月日が経った。凛世との関係も良好で最初の頃は表情の変化は感じられなかったものの最近になると頬が緩くなっているのが見られた。

東京の話でも12月頃の話まで進んでいる。重要な真実は隠してあるがそれでも一部の真実を彼女に語っている。 

 

そんなある日だった。いつものように凛世と下校していた時、彼女がある言葉を口にした。

 

「先輩、凛世はアイドルになろうと思います……」

 

どうしたんだ急に?と自分は首を傾げた。凛世の口からアイドルという単語が出たことにも意外だったがまさかなりたいとは……。

 

実は……、と凛世が事の発端を話し始めた。家の用事で東京に向かった時にある事があってプロデューサーという人物に話し掛けられたらしい。下駄の靴紐を直してくれたその人物は283プロダクションのプロデューサー。

 

「先輩、この間、凛世の将来について聞きました……」

 

あの時か、と蓮は呟いた。あの時は先生達から進路のついての話がクラス全体で話された。就職かそれとも進学か。クラスの皆がそのことについて話合っていた。だが、自分にはやりたい事も目指す所もない。悩んだ自分がその日の帰りに凛世に将来のことを聞いた。

 

「凛世も、将来のこと悩み始めたんです……そんな時、そのお方がアイドルになってみないか、と……凛世は運命を感じました……」

 

凛世もその当時は将来のことを決めていなかった。恐らく家の決めごとに身を任せるつもりだったのだろう。

 

「道を決めていない凛世に神様が導いてくださったのです……」

 

ロマンチックな話だな、と蓮は呟いた。そんな彼女は自分の顔を覗いてきた。

 

「先輩は、どう思います……?」

 

凛世がこちらの顔色を伺っている。恐らく自分の言葉を待っているのだ。

だが、そんな必要はない。彼女の道を決めるのは彼女自身だ。もし、このまま自分が彼女の道を決めたら彼女は間違いなく自分に心酔する。

凛世がしたいことをすればいい、自分は彼女にそう言った。

 

「凛世のしたいことを……はい。ありがとうございます。先輩……」

 

凛世が頬を緩ませ小さく笑った。恐らくこの日が凛世の運命の日なのだろう、と自分は心の中で思った。

そして、その日から凛世はこの学校に来なくなった。

 

 

寂しいとか悲しいとかそういった感情は不思議と一切なかった。なぜなら、彼女が亡くなったというわけではない。また、どこかで会えると自分は信じているからだ。

それにSNSで連絡先も交換してあるので心配はいらなかった。

 

『|Wonder.Idol.Nova.Grandprix.《ワンダーランド・アイドル・ノヴァ・グランプリ》』……通称『W.I.N.G.(ウィング)』。新人アイドルの祭典と呼ばれ、新人である凛世はまずはそのグランプリの優勝を目指しているらしい。

そのグランプリに出場するためには各シーズン毎に人気を得なければいけないらしいく、凛世は頑張っている。

 

「へー、人気を得るために色々とアイドル活動をしてるのか」

 

黒猫(モルガナ)がスマホを覗いてそう呟いた。その言葉に自分は頷く。

 

「アイドルとやらは人気が必要だからな。我輩達と違って」

 

かつて自分達は人気に目を眩んでいた時期が会ったが彼女達は違う。人気があってこその存在だ。

自分達は活動があったから人気が出てきた。つまり、人気はおまけみたいなものだった。

 

「リンゼのヤツ、これから忙しくなるんだろうなぁ」

 

モルガナがそう言って欠伸をした。そろそろ寝る時間か。そんな時だった、凛世からメッセージが来た。

 

『先輩、夜分遅くすみません』

 

『どうした?』

 

『あの、先輩は”心の怪盗団”というのを御存知ですか?』

 

ピクリ、とスマホのキーボードを打つ手が止まった。『心の怪盗団』……それはかつて自分が東京にいた時に立ち上げた集団だった。

活動目的は悪人の心を盗み”改心”させることを目的としているアウトロー集団だ。一時期、世界を騒がさていた存在だったが、ある日を堺にその存在は都市伝説になるほどの急変化を遂げた。

それが凛世の口から出るとは思わなかった。

 

『知ってはいるが、どうしたんだ?』

 

『いえ、同じ事務所の子が今日、そのことについて話していたので気になってつい……』

 

なるほど、それで東京に行ったことのある自分に聞いてきたのだ。

 

『わかった。何か困ったことがあれば力になる』

 

『ありがとうございます。それでは凛世はこれで……おやすみなさいでございます、先輩』

 

『おやすみ』

 

自分も彼女に短く送り返す。そしてスマホの画面を落としてベットへと入る。だが、そこで新たな通知だ。

 

『おい。今日、俺の店にお前の後輩だって言うアイドルが店に来たんだが何か知ってるか?』

 

送り主は東京でお世話になった佐倉 惣治郎(そうじろう)だ。自分の後輩のアイドル……まさか……。

 

『凛世が……?』

 

『はぁ、全くお前も隅に置けないな。嬢ちゃん、お前が住んでいた店を一目見たくてこっちに出向いたそうだ。わざわざ、事務所から遠いってのに……』

 

まさか、凛世がルブランに行くとは思っていなかった。何度かルブランの話はしたのだが、そこまで気になっていたとは。

 

『まぁ、そのなんだ……嬢ちゃんのこと少なからず応援するから嬢ちゃんのこと一言よろしくな』

 

惣治郎からのメッセージを見て自分は画面を閉じて横たわった。そこまでして凛世がルブランに行くとは思いもしなかった。もし、自分も東京に行ったら一緒にルブランに訪問しようか、と自分は思った。

 

 

 

最近は彼女はテレビでよく活躍している。その影響もあってか人気は急上昇していき”ウィング”出場は決定だそうだ。

凛世と会わなくなってから更に半年、地元に戻ってからだと約一年は経つ。

自分はふう、と一息ついて電車から降りて改札口を出た。

 

「先輩……」

 

静かでお淑やかな少女の声、誰かを待つように佇む着物の少女が改札口から見える場所で立っていた。

まさか、待っていたのか?とその少女、凛世に問いかけた。

 

「はい。先輩にお会いしたくて……」

 

来る日程や時間帯を聞かれていたのでその可能性を考えなかったわけでもなかったがまさか本当に待ってくれていたとは……。

決勝戦前日なのに大丈夫なのか……。

 

「決勝、前日だからでしょうか……貴方様に会っておかないと心が落ち着きませんので……」

 

不思議な話だ、と自分は少しばかり自分の髪の毛を触る。とりあえず、今日一日傍にいるのか?と自分は訪ねた。

 

「迷惑、でしょうか……?」

 

そんなことはない、と自分は首を横に振って彼女と一緒にとある店へと向かった。

 

「いらっしゃ……って、お前……」

 

喫茶店ルブラン、二年前から一年もの間お世話になった第二の家だ。

その喫茶店のマスター、惣治郎が自分と凛世を見て目を見開いていた。

 

「ったく、嬢ちゃんも来るなら一言言えってんだ……悪いな、何も用意してなくて」

 

「お気になさらず、大丈夫です。おじ様……」

 

「…………。わかってると思うが二階はそのままだ。まぁ、少し埃が溜まってるだろうが好きに使え」

 

惣治郎の言葉に自分は静かに呟いた。そして自分は二階へとあがる。

 

「この部屋も懐かしいなー!」

 

ひょっこりと鞄から出出てきたモルガナがいつもの場所へと着地するとそう呟いた。

それにしてと思ったほど埃が溜まっていない。惣治郎が手入れしてくれたのだろう。

 

「先輩はいつまでこちらに?」

 

凛世がモルガナの頭を撫でながらそう問いかけてきた。

とりあえず決まってはいないが、大体四年ぐらいはここにいるつもりだ。

 

「四年、ですか……?」

 

その言葉に頷きながら自分はハタキを手に持ち、まずはソファの埃を取り始める。

高校を無事卒業し、まだ将来は何をしたいか決まってない自分はとりあえず大学でしたいことを見つけるという選択をとった。先生の話によると自分の学力ならほとんどの大学も合格するらしく、自分は東京の大学へと進学した。

 

「ということは前よりは会うことができるということでしょうか……?」

 

会うことも可能ではあるが注目度は前よりも更に上がるということにもなる。

現在の凛世の注目度は怪盗団で例えたところ斑目を改心させた時ぐらいの注目度あたりだ。

 

「それなら良かったです……」

 

埃をとったソファに凛世を座らせる。そしてチラリ、も凛世の容姿をもう一度確認する。彼女とは半年も会ってはいなかったがテレビでは活動を度々目にしていた。

だが、やはり実際に見るのとはやはり違う。前よりも逞しくなったようにも見え、可愛くなっているのがわかる。これもアイドルとしての成長なのだろうか、自分には分からなかった。

 

「先輩……?」

 

凛世がこちらの視線に気付いた。首を傾け、純粋な心でこちらを見てきた。自分は首を横に振ってなんでもない、と答えた。

 

「そういえばお前たち、昼飯まただろ。カレーを作ったから食ってけ」

 

そこでタイミングよく惣治郎があがってきた。助かった、と心の中で思いながら頷いた。

 

 

「美味しい、です……」

 

「それはよかった」

 

凛世の言葉に自分も頷いた。一年も食べていない惣治郎のカレーライスは美味しい。元々、五つ星レストラン級のカレーライスだというのに久しぶりに食べるとなるとまるで幻のカレーと言っても過言ではないだろう。

 

「今まで食べてきた、カレーライスの中でも一番……」

 

「そいつはどうも」

 

美味しそうに食べる凛世に惣治郎も顔が綻んだ。因みにこの後、彼女はどうするのだろう。午後もウチにいるのだろうか?

 

「はい。久しぶりに先輩の話が聞きたいです。東京に住んでいたときの話……」

 

「お前、嬢ちゃんにここの話を……」

 

惣治郎がちょっと意外そうに呟いた。まぁ、ルブランにまで来るとは思っていなかったがそれにあの話もしていない。

 

「……?」

 

驚く惣治郎を見て凛世が少し首を傾げるが自分は気にしなかった。

 

 

「先輩、では私はこれで……」

 

昼食をとった後、二階に上がり凛世と楽しく会話した。そして、ふと凛世が外の様子を見て自分に声をかけた。

外はすっかり暗くなっている。凛世がこの時間に帰るとなると心配なので駅まで送ることにした。

 

貴方様(・・・)、凛世は頑張ります」

 

凛世が深呼吸をしてそう静かに呟いた。この時、なんて声をしてかけたらいいかなんとなくわかっていた。

応援してる、と口を開き頷く。その言葉を聞いて凛世が微笑んだ。

 

 

 

その翌日、自分は会場へと足を運ぶ。この日のために昨日に東京へと移住したと言っても過言ではなかった。

凛世がステージの上で衣装を披露し、歌を歌い、ダンスを踊る。周りには熱烈なファンがいて、サイリウムを持ち、ステージが彼女の色で染まり、その彼女を輝かせる。

 

彼女の世界は今、そのステージだ。自分の出せる力をこの世界で披露する。あの話し方に癖があった凛世からはそんなものが一切感じられなかった。

 

アイドルの仕事を通してなのか、それとも別のものを通して彼女は良い意味で変わったのだ。その成長に自分は思わず口元を綻ばさた。

 

 

 

「リンゼのやつ、凄かったな。あんなにもスゲーファンがいてステージの上で輝いて」

 

モルガナの言葉に頷いた。あれが彼女のアイドルとしての熱意なのだろう。

そんな彼女の舞台を思い出しているとスマホにメッセージが届く。

 

『今から先輩の所に行ってもいいですか?』

 

凛世だ。あのグランプリ直後にすぐにこちらに足を運んできてもいいのだろうか……。

 

『事務所の方にはいいのか?』

 

『はい。プロデューサー様にはもう伝えてあります』

 

プロデューサーがそう言っているのなら大丈夫なのだろう。

 

『わかった』

 

『今からそちらに向かいます』

 

 

そして彼女がルブランへとやってきた。まぁ、外で会うとなると人目につくからこちらの方がマシだろうとは思うが誰かに見られたら心配なのだが。

ルブランは閉店時間となっていて店にいるのは自分と凛世だけだ。惣治郎も家と帰っている。

自分は久しぶりにコーヒーを入れて彼女へと差し出す。

席に座る凛世に祝いの言葉を捧げて。

 

「ありがとうございます。先輩には感謝しています……」

 

感謝と言われてもそこまでした覚えはない。凛世がアイドルになってからは特に会っていない。

 

「それでも貴方様があの日、凛世の背中を押してくださったから……」

 

コーヒーカップをゆっくりと傾け、口へと含み飲む凛世に自分は首を横に振った。

自分は最初の一歩を支えただけだ。凛世のプロデューサーやファンに比べるとそこまでしていない。

 

「キッカケ、というのはとても重要です。凛世はそのキッカケが貴方さまで良かったと本当に思っています」

 

確かにキッカケというのは重要かもしれないな。自分がここにいるのもキッカケというものがある。そのキッカケが良いものか悪いものか別だが、凛世は自分と違って良いキッカケとなったのだ。

 

「凛世の止まっていた時計の針を動かしたのは紛れもなく貴方さまです。あの言葉を言ってくださったから凛世はこうして輝いています」

 

その輝きを胸へと手を当てて感じている凛世に自分は彼女の成長を感じていた。

かなり眩しい輝きだ。

 

「これもプロデューサーさまや同じ事務所の子のおかげです」

 

ニコリ、と微笑んだ。最初の頃のぎこちなさが消え、彼女が自身の夢へと向かっている証拠だ。

自分はどうだろうか、と不安になるがとりあえず今は彼女の優勝を祝おう。

 

「欲しいもの、ですか……?」

 

まずは凛世に何か欲しいものがないか聞いておこう。

 

「凛世は特にありません。貴方さまが入れてくださった珈琲だけでも充分です」

 

凛世が視線を落として両手で握ったコーヒーカップを見て笑う。よほど、美味しかったのだろう。それで良かったのかと聞き返した。

 

「…………」

 

少し凛世が何かを言いたそうにこちらを見てきた。自分はすぐに彼女に言いたいことがあるなら言ったほうがいい、と言った。

 

「一年前に先輩にお傍に置いてほしいとお願いしました。そしてその半年後、凛世が自分から貴方さまのもとを離れました……」

 

確かにそうだ、と自分は頷く。

 

「最後に一つだけお願いしてもよろしいですか?」

 

?と自分は首を傾げて意を決してこちらを見つめる凛世の瞳を見た。

 

「今度こそこれから、ずっと、ずっと、凛世をお傍に置いてくださいませ」

 

凛世が真剣な眼差しでこちらを見つめてくる……。

 

ここは慎重に言葉を選んだほうが良さそうだ……。

 

 

 





雨宮 蓮……ペルソナ5の主人公。東京での出来事の後、地元へと帰ったところ杜野 凛世と出会う。人間パラメータは全てMAX。あと0股。あと、ダンスがめちゃくちゃ上手い。

杜野 凛世……アイドルマスターシャイニーカラーズのアイドルの一人。まだ、プロデューサーと出会う前に地元はと帰ってきた蓮と遭遇する。この世界線ではプロデューサーより蓮に想いを寄せている。

続きを書いた方がいい?

  • 凛世で続きを頼む!
  • 同作品で別のキャラで続きをお願いします。
  • 別の作品からお願いします。
  • お好きにどうぞー。
  • 書かなくていいですよ。


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