鬼龍院が南雲と桐山と別れた後の妄想小説です。


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彼女にも友人が居ればいいなあとの思いで書きました。


私の親友

「やあ、なっちゃん。お邪魔するよ」

 

 柔らかな微笑みを浮かべながら、弾んだ声を出す

 先ほど別れた南雲と桐山の二人が今の自分を見たら、どういう反応をするか。一瞬だけよぎる思考に愉悦を覚えるが、それは目の前の人物に比べれられない興味でしかない。

 

「あ、ふぅちゃん。グッドタイミング、グッドタイミング。ちょうど出来たとこ」

 

 ひょっとして狙ってたー、と満面の笑みで迎えてくれる親友をみて、再確認する。

 

 軽く返答しながら親友──朝比奈なずなの部屋に入りながらそう思う。

 

 

 

 

「虎だな。あれは」

 

 低カロリーでありながら、味、量、共に完璧な親友の手料理を食べ終え、すずっとお茶を飲み終わるまで、他愛ない会話を広げて待ってくれた親友に感謝しながら、告げる。

 

「そんなに?」

「ああ、今は左手に傷を負っているが、そんなものでどうこうなる相手じゃない。根本から違う。前に立たれただけで自分が食われる存在でしかないと思ったのは、サファリパークで車のそばに虎が来た時と、退役した特殊部隊員と顔を会わせたとき以来だ」

 

 それなりに腕に自信があったが粉砕された。身体能力に関しては虎のような野生の肉食獣で例えるしかない。戦うなら人間と思って戦うべきではない。何らかの装備が必須だ。

 

「それほどかあ。ふぅちゃんのそんな高評価初めて聞いたよ。それに加えて、帆波の件をあっさり解決したから頭の回転も早いよね」

「その上、数学だけとはいえ大学レベルをあっさり解いたな」

「数学だけだと思う?」

「いいや」

「だよね」

「ああ、たちが悪いことに、己の実力を隠している──というより、発揮する必要を感じていないっぽいな」

「必要?」

「腹が減っていない虎は牙も爪も振るわない。寝そべって欠伸でもしているだろう」

「あー、確かに」

「それと同じだ。あいつは、腹が減らない限り無害に近いな」

「空腹になったら?」

「祈れ。自分があいつの腹を満たす対象でないことに」

 

「うわあ」と呻いている親友に「しかし」と呟くように言うと親友が問うような目を向けてくる

 

「正直、助かった。なっちゃんに話を聞いて注視していなければ、あれの危険性に気づかなかっただろうよ」

「あー、うん。私も特殊部隊員と会ったことがあるふぅーちゃんが、あの子どう評価するか興味あったからねー。お相子「で、だ」へ?」

「なっちゃんの評価を聞きたい。なっちゃんはあいつをどう見た」

「んー、勘が混じっているけど、それで良い?」

「君の勘なら信用に足る」

 

 他の人間ならともかく朝比奈なずなの『勘』には信用がおける。

 彼女の勘は勘であって勘ではない。幾つかの細かい兆候──本人ですら気付いていないものを含めて──から論理的に組み立てて結論を出している。

 ただ、その論拠を言葉で説明するのが難しく面倒──後者がほとんどの割合だろうが──だから、『勘』と言っているに過ぎない。

 その勘の精度がどれくらいかというと、表面上何の実績もなく成績も目立っていない頃の綾小路に、一之瀬帆波の救援? を頼むくらいには冴え渡っている。

 だから、信用できる。

 

「私は、あの子のこと、怖いって思ってる」

「怖い? なっちゃんが? 何故?」

 

 驚きのあまり矢継ぎ早に聞いてしまった。朝比奈なずなという少女には人望がある。

 自分のような変り者とも普通に付き合えるし、南雲に口説かれながら傍に居ても南雲の恋人たちとも上手くやれている。

 同級生や後輩に個人的な相談をされている所を何度も見ているから、慕われてもいるのだろう。

 良い意味で賢く空気が読めて義理堅い平等の立ち位置を確保する人物、故の人望の高さ。

 そんな朝比奈なずなが「怖い」と口にだして評価する。第三者が居ない場でも、まず有り得ない。

 

 どうやら今日はよほど腹を割って話すようだ。

 思わず姿勢を正した。

 

「帆波と付き合わなかったんだよね、綾小路くん。立ち直らせて背中を押しても。ぶっちゃけ、落としてたのに」

「一之瀬が趣味に合わなかったんじゃないのか」

「いや、それは無いっぽい。帆波のことは気に入ってるし、女としてもみてる」

「今、彼女を作るつもりが無いんじゃないか」

「いや、同じクラスの娘と付き合ってる。勘だけど」

「君の勘ならそうなんだろうな。なら、何故一之瀬と付き合わなかったんだ」

 

 今付き合っている相手の方により好感を持っている等のありきたりな返答では無いだろうな、という私の期待を親友は肯定してくれる

 

「うーんとね。今、帆波とは付き合うよりも優先することがある。みたいな感じかな」

「優先?」

「帆波と付き合うより、帆波がこれからどうするのか見届けるのを優先してる感じだね」

「モルモットか」

「うん、言葉が悪いけどそれに近い。帆波の行く末を興味深く見ている。善良な娘に光を当て続け困難に立ち向かわせたら、どんな風に輝くのか、それとも曇るのかってのを見たいんじゃないのかな」

「情が無いのか?」

「あると、思う。誰に聞かれても友人だと言えるくらいに人として好ましいし、恋人にもなってみたい。でも、それと同時にモルモットとして見る。ううん、見ることが出来る。いや、見ることが当たり前。そんな感じがする」

「それは、何と言うか」

「怖いでしょ」

「ああ」

「その上さあ」

 

 ペタンと親友が机に顔を貼り付け疲れきった吐息を漏らす。

 

「どうも、自分のことも同じような気がするんだよねー。さっき、同じクラスの子と付き合ってるって言ったでしょ」

「言ったな。誰かは知らないほうが良さそうだが」

「その方が良いよ……その子と付き合ってるのもね。その子を好ましいと思ってはいるんだろうけど。その子が自分との恋愛でどう変わるか、それとも変わらないのか。自分が──綾小路くんがその子との恋愛でどう変わるか、それとも変わらないのか。そんなこと考えて観察してる気がする。両方同時に」

「……ひょっとして、彼女にかなり優しいか」

「うん。彼女の様子見る限り優しい。優しくしようとしてる。出来る限り彼氏らしくして、彼女と自分がどう変わるか観察してる感じがするけど優しい」

「もう一度聞くが、情があるんだよね」

「ある……あるんだよ……もう、訳が分からない」

 

 だから怖くて最近近づかないようにしてるんだー。と呻く友人の頭に告げる。

 

「すまないが、さっきの虎という評価は無しだ。化け物だよ、それは。精神性が違う。人間の形をした化け物だ」

 

 人間の形をした虎ならまだしも、虎の強さを持った形容しようがない怪物を脳裏に描きながら告げる。

 前者と後者の違いは明白だ。

 前者なら急所は人間と同じだから弱点を突ける。

 後者なら急所があるかどうかから探さなければならない。

 どちらが相手をするのが難しいか。考えるまでもない。

 

 まったく

 

「付き合っている相手が居る。その相手が他人に弱点に見えるように振る舞っているかもな」

「かもねー。行動に幾つも意味持たせてそうだしね。易しく無い子だよ。ホント」

 

 帆波と付き合ってくれれば、そこから話持ってけたのになー。まだ私の理解できる範疇なのになー。もう少し易しくして欲しいなー。と嘆きとも愚痴ともつかぬ呻きを続ける親友。

 そんな親友に、私に綾小路を見てくれと依頼してきた親友に、問う。

 

「なっちゃん、あいつに会ってくれって頼んできた時、私に今の話わざとしなかっただろ?」

「言えば、ふぅーちゃん身構えるでしょ。あの子、そういうの敏感そうだしねー」

 

 あっさりと、友人を怖い人間の目の前に前情報無しで立たせたと肯定する親友。

 

「まったく」

 

 野生の虎に等しい存在を目の当たりにした瞬間、背筋が寒くなり頬が強張り唇が凍り付いた乙女の体を何だと思っているのか。こちらには、もう少し優しくして欲しい。

 

「それに、そっちのほうが良いでしょ」

「ああ、感謝するよ、なっちゃん。残りの高校生活がより楽しくなりそうだ」

 

 たまらなくなるじゃないか。

 

 

 

 

 

「でも、助かったよ。ふぅーちゃん」

 

 別れしなの南雲たちとの会話に話をすると、友人は机から顔を離して笑みを浮かべほっと息をついた。

 

「ん? 南雲への挑発か」

「うん。雅にこれ以上なく効果的な挑発だった。あれなら乗る」

 

 それ以外にも、いい加減目の前の親友とマトモな恋愛をしろという意味があったのだが、親友はともかく南雲には通じなかっただろうな。

 

「……一応言っておくが、南雲と付き合いたいのなら、今からでも付き合うと言えば付き合えると思うんだが」

 

 返答がわかり切っている問い。今までも何度か繰り返した問いを問う。彼女の本気度を知りたいがゆえに。

 

「付き合えるね。でも、それじゃ駄目」

「駄目とは?」

 

 親友は静かに自分の内に潜り始めた。

 

「私はね、雅を見てた。傍で見てたから、誰よりも傍で」

 

 こちらの問いに応えるのではなく、己の内から心を響かせる。

 

「だから、より深くより強く理解した」

 

 優しく透明とさえいえる笑みでこちらと目を合わせる。

 

「雅は、遊んでるだけだよ。恋愛してない。トロフィーみたいに女の子を飾ってるだけ。だから付き合っても長く深くは続かない」

「皆、高校卒業と共にハイサヨナラ、か」

「有用って思う子とは卒業後も使える間は付き合うし、別れる時には其れなりに上手く別れるだろうけどね」

「他の恋人を宛がったりか」

「そ、どっちにしろ、遊んでいるのには変わらない。周りの女の子も雅は遊んでるだけだって承知して付き合ってる。それでも……モテんだけどね」

「ルックスに優れ、文武両道、ポイントも豊富に持つ甲斐性持ち、その上でクラスを勝たせ続けたという実績もある──生徒会長の肩書を除いても、ぶっちゃけ、モテない方がおかしいな。遊ばれてると分かっても、万一を狙うには充分だ」

「……私みたいに遊びじゃ付き合わないって、言っている子にも、声かけてるんだよね。その子達も大抵上手くいってる」

「話し上手で場を盛り上げるのが上手く、多少拗ねたりむくれても鷹揚に受け止める包容力がある。その上、車道側を歩いたり、店の席をさりげなく確保したり、映画の料金を払ったりする気配りを嫌み無く自然としている『してやっている』などという気配さえ出さない……だったか」

 

 恋愛経験のない私でも効果が高いということは分かる。あれだけのスペックを誇る男にそうされれば、お姫様気分を味わえるだろう。

 そして──

 

「そ、だから、皆気を許しちゃう。大抵の子は初デートでキスとボディタッチまでいってるね。色んな子の話聞き比べたんだけど、相手によって細かいところは変えてるけど大筋は一緒。で、初デートでそこまでいかない子にだけは手を替え品を替えて口説いてる。多分、この相手は、どれだけすればどのくらいで体を委ねるか。最近の雅は自分の読みが正しいか試してるんじゃないかな」

 

 ──素の南雲雅に本気しかない親友のような相手には、逆効果を通り越して、最悪だということも分かる。

 

「確かに遊びだ。ゲームだな」

「そう、雅にとって、女の子との付き合いは、もうゲームになってるんだ……私ともね」

 

 不味いな。キレてる。

 変わらぬ笑みを浮かべ、口調に淀みさえなくとも、理解できるほど目の前の少女との付き合いは深い。

 

「君はデートしても手を繋ぐ以上は断り続けているからな。言いたくないが、南雲にとっては──」

「気を使ってくれてありがと。そうだね。少し難易度の高いゲーム、それが私」

 

 言葉を切りゆっくりと茶を嚥下する親友からは色気さえ感じられた。

 

「私は、雅とそんな付き合いをしたくない」

 

 一瞬、ほんの僅かに表情を強ばらせはしても、なっちゃんは静かに己の意思を宣言した。

 

「そうか……今の奴では望めないな」

 

 他の誰よりも南雲雅が今の自分を肯定している以上、どうしようもない。諦める以外には外から変える以外にはない。前者を選ばないのならば、変えるためにはどうすべきかを考えるしかない。

 

「そうだね。誰も雅に勝てなかったから、周りは全て自分より劣っていると確信しちゃってる。だから、意見なんて聞く必要はなければ、おもちゃにしても誰も歯向かわないし、歯向かわれても勝てると確信している。実際勝って屈服させてきたからね……私も含めて」

「劣った人間は優れた人間に従うべき、優れた人間の道具であるべき、か。一つの事実だね。少なくとも私は間違っているとは言わない」

「私は言う」

「何故?」

「私がそんな事実に浸った雅が嫌なだけだよ。それで十分でしょ」

「確かに十分すぎる……そんな南雲を壊すに値する理由だな」

 

 これ以上の理由などこの世には無いだろう。ふむ、とすると。僅かに稚気を刺激された。

 

「私が南雲を倒すというのは? 難しいが、僅かなりとも可能性がある」

「ふぅーちゃん」

 

 はあ、とため息をつく親友。

 

「そしたら、雅はふぅちゃんに執着して夢中になるよね。そんなのやだよ。私はふぅちゃんとは親友でいたいんだからさ。ずっとね」

「わかっている。冗談だよ親友」

「知ってし、気分転換してくれたのは分かるけど、釘刺しだよ親友」

 

 うふふ、と影一つ無く笑い合う。

 ああ、これだよ。何をすれば親友では無くなるかハッキリと言い合える。それ以外なら、どれだけの言葉をぶつけてもプラスに捉えてくれる。

 こんな関係は他の誰とも築けなかった。

 

「では、やはり綾小路をぶつけるか」

「うん。誠心誠意頼み込むよ」

「土下座でもするか?」

 

 からかいの言葉になっちゃんはくすりと笑った。

 

「そんな意味のないことはしないよ。ふぅちゃんに預けてるポイントを使う」

「ほう、幾らだ」

「全額」

 

 南雲から隠して貯めるために私に預けていた全額を使う。期待通りの発言に、意図せず笑みが深まった。

 

「勝負に出るか。堀北先輩の時には出さなかったポイントを吐き出して」

 

 口は出しても(ポイント)を出さなかった時とは違い、(ポイント)を出す価値がある。綾小路をそう判断したか。

 まったく同感だ。

 

「うん。帆波の件の解決法とふぅちゃんの評価を聞いて決めた。貯めたポイント全て吐き出して誠心誠意頼み込む。雅を倒せるとしたらそれは彼しか居ない。堀北先輩は強かったけど正統性を重視しすぎてた。だから、雅の在り方を肯定する。でも、綾小路くんには良くも悪くも正統性を重視しない」

 

 ゆっくりと茶を飲み干すと親友は言葉を続ける

 

「利さえ積み上げることが出来れば――きっちり、雅を壊してくれる」

 

 その言葉を受け、同じくゆっくりと茶を飲み干し吐息とともに言葉を返す。

 

「綾小路は受けるかな」

「今なら受ける可能性がある。勘だけど、雅は理事長代理と組んで綾小路くんに何か不利になることをしたっぽい。何なのか具体的には分からなくとも、今の綾小路くんに纏まったポイントは価値があることだけは確か。だから、今なら可能性がある。ううん。今しかない」

「失敗すれば、南雲とは絶縁だな」

「今の雅とだらだらするよりはそっちの方が良い。一晩泣けば済むからね」

「その時は言ってくれ、胸を貸す」

「うん、貸してね」

 

 どこまでも優しい笑みを浮かべてくれる親友に、そんな趣味が無いのにぞくぞくする。

 

「今回は違うけど、他の時は私は何時でも雅の味方。それだけはちゃんといわないとね。あの子相手に何か頼むなら、すべて明かした方が一番マシな結果になる」

「上手くいったとして……分かっているだろうが、南雲は完膚なきまでに負けて潰れると、全方位から叩かれるぞ」

「雅は敵を作りすぎたからね。でも、私は傍に居る」

「例え、南雲が敗北に傷心して壊れ周囲から人が居なくなってもそばに居続け、南雲に裏切り者と罵られても笑みを浮かべて受けとめ、そんな南雲の傍に居ないほうがいいと好意から忠告されても笑顔で断りながら、南雲を建て直そうと奮闘する」

「うんうん」

「その為に、自分にとっての好ましい男に戻し、愛されるために、勝負に出るか」

「やるよ、私。雅と、出会った時の雅と、私が好きな頃の雅と一緒になる」

 

 ああ、恋愛経験が無い私でも理解出来る。

 

「──まさに、愛だな」

「でしょ」

 

 今の親友を突き動かすものが、愛でなければこの世に愛など無い。

 しかし──

 

「惜しいなあ」

「何が?」

「私が女であることがだよ。この美しい顔に抜群のスタイルは自慢であり誇りであるが、なっちゃんと付き合えるなら、男に生まれても良かった」

「私は同姓で良かったけどね」

「むう、そうかね」

「そうだよー。ふぅちゃんと私が異性だと、性格の相性あんまり良くないからね。どっちも我慢することに成ってた。んで、上手く噛み合わなかったら流血沙汰までいっただろうからさ」

「ああ、確かにそうだな。刃傷沙汰に成り得るな」

「何より、今、ふぅちゃんと親友じゃないこと想像したくないしね」

「まったくだね」

 

 ああ、やはり、君は私の親友だよ。




私の中で朝比奈なずなという少女はこんな感じです。
鬼龍院のフルネーム分かったので文書修正しました。

ご覧いただきありがとうございます。

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