社会人八幡とかおりの悲しいお話です。


この作品は #勝手に俺ガイル短編祭り の参加作品です。誰でも参加可能なお祭りなので是非参加してください。

概要は下のTwitterのやーつを見てみてください。
https://twitter.com/popoachan666/status/1271582284009758720?s=19


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さようなら、私の好きな人

 アタシが好きな人には、愛している人がいる。

 

「おーっす比企谷〜。元気にやってる〜?」

 

 仕事終わりに久し振りに見た後ろ姿がアタシの好きなアイツだと気付いてすぐに声をかけて背中を叩く。それにビクってしながらのそりとこちらを見て一つ小さくため息をついた比企谷にぷすっと口から笑いが出てきちゃう。

 

「なんだ、折本か。つーか俺の顔見てウケるとかホント失礼だな」

「違うって。ていうかウケるとかもう古いって。比企谷だけ時間止まってない?」

「おいコラ、お前の口癖だっただろうが。そうやすやすと捨ててんじゃねぇよ。つか、なんか用か?」

「んー? 特に無いけど。比企谷の猫背見つけたから声掛けただけだし」

「なんだよ、そしたら俺もう行くぞ」

「ちょい待ち。せっかくだし飲みにでも行こうよ。どうせ明日は土曜日だしさ」

「あー、すまん。今日はダメだな」

「あれ、もしかして雪ノ下さんと何かする予定?」

 

 比企谷と同じ大学に入ってから知ったんだけど、比企谷と雪ノ下さんが付き合ってて、今も続いているっていう話だ。

 アタシがうっかり比企谷の事を好きになる前からたまに無自覚の惚気を聞いてはいた。でも、自覚した後もずっと聞かされて何度心をズキズキさせたことか。

 

「……いやまぁ、雪乃に対して俺からのだからそうだな。折本なら別に話してもいいか」

「えっ、なになに? 社会人三年目にしてやっと結婚の申し入れでもするの?」

 

 自分で言っていてすごく胸が痛くなる。

 それでもそれが比企谷の知っているアタシで、この気持ちを比企谷に知られないようにしようって決めたアタシの意地だから、このスタイルだけは絶対に崩せない。

 

「……はぁ〜」

 

 そんなアタシの思いを知らんぷりしつつ、比企谷はしかめっ面になりはしたものの、顔を赤らめて頭を掻きながらため息をつく。ため息のし過ぎでしょ。幸せが逃げてくよ?

 

「お前、実は知ってたのか?」

「あ、ごめん。図星だった?」

「……そうだよ。まぁ折本は大学の時からずっと雪乃との関係知ってたから簡単に想像出来るか」

「まーねっ。これでも大学から下を切り捨てても六年も付き合いがあるんだからわかるって」

 

 わかってても、この痛みが無くなるわけじゃないけどさ。

 

「確かにそうだな。そう考えるとだいぶ長い付き合いになったもんだ」

「ひひっ、なーに黄昏てるんだし。ウケる」

「おまっ、人に古いとか言いつつ自分で使うのかよ」

「えー、なんの事かわかんないなぁ」

 

 ケラケラと笑うアタシと、適度に良いタイミングでツッコミをくれる比企谷。この関係が出来たのも、高校時代に比企谷を変えてくれた人達のおかげだと思う。そうじゃなかったら、アタシと比企谷のこの距離感なんて無かっただろうしね。

 

 ──だから、アタシはこれ以上を望んじゃダメだ。

 

 アタシのせいで比企谷は心に傷を負わせて、それを他の人達に癒させて、そのクセ今の比企谷を好きになったから付き合って欲しいだなんて傲慢、許せるはずもない。誰でもない、アタシ自身が。

 

「それじゃあこれから世紀の告白をする比企谷の邪魔しないうちにアタシは早々に帰っちゃおうかな〜」

 

 嘘だ。

 ホントはアタシがこれ以上比企谷と一緒にいるのが辛いから逃げ出したいだけ。うっかり涙流して余計な心配を比企谷にさせたくないし。

 

「そんな大層なもんじゃねぇけど、まぁそうしてくれると助かる」

「ひひっ、どうせ成功しちゃうもんね〜。でも最後の最後で捻くれて笑われるに一票!」

「ホントにやりそうな事言うんじゃねぇよ」

「じゃあおまじないでもしてあげよっか? ちゃんと告白できるように」

「……いや、これは俺だけの選択だからな。他に頼ったらダメだろ」

 

 これまでで一番の高鳴りが来る。

 しっかりと前を見据えた曇りのない眼を初めて見てしまい、つい照れてしまう。元から顔が整ってるから無駄にかっこよく見えてしまうから恐ろしい。

 

「じゃあ行ってきな。失敗しても胸は貸さないかんね」

「あぁ、ってか失敗前提の話を最後にするんじゃねぇよ」

「はいはい、早く行きなって」

「……はぁ、まぁいいか。じゃあな折本」

「うん、じゃあね比企谷」

 

 先に歩き始めた比企谷が一歩、また一歩と遠ざかっていく。

 さて、アタシも帰ってお風呂に──

 

「折本っ」

「ひゃっ! な、何!」

 

 いきなり振り返って張った声を投げかけられて思わず変な声になりながら返事をする。

 少し顔を歪めた比企谷は、言葉を選ぶようにして少しすると、意を決したのかアタシの目をしっかりと見て、

 

「ごめん、ありがとう」

 

 それだけ言って、アタシに背を向けてまた歩き始めた。

 

「……まったく、なんだって言うのさ」

 

 嘘だ。

 

「……ぅ」

 

 本当はわかってる。

 

「……うぁぁ」

 

 比企谷がホントは、気付いてたのを、わかっていたんだ。

 

「……うぐっ、ひっ……うぅぅ」

 

 だから、私が責めるのはお門違いだ。

 むしろ、謝らなきゃいけないのも、お礼を言わなきゃいけないのも、私なんだから。

 もう聞こえはしないだろうけど、言わせて。

 

「今まで、ごめんね……っ。ありがとう、好きでいさせてくれて……っ」

 

 それと、最後にこれだけは言わなくちゃいけない。

 もうこれ以上、ワガママ言ってたら、ダメだから。

 

「……さようなら、私の好きな人」



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