バカテスの馬鹿たちを無理矢理高度育成高校へと突っ込んだら勝手に暴れ始めた。

*「バカとテストと召喚獣」と「ようこそ実力主義の教室へ」のクロスオーバー小説です。

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最近あまり筆が進まなかったから書きたいのを書いてみた。少し懐かしい感じのクロスオーバーになったと思います。

短編と完結を間違えて投稿してました(投稿歴7年)死にたい。


春とサバトと実力主義

「ここが高度育成高校かあ……」

 

 やっとここまで来た……!

 その実感で僕の拳は自然と震えていた。クラスメイトからは馬鹿だ馬鹿だと言われながらも姉さんにお願いしてオンラインスパルタ授業で詰め込んだ知識は無駄にならなかった! ……ただその代償として要求されたものが怖いけど、この高校にさえ入ってしまえば三年間外部との連絡は取れないらしいし、うん、どうにかなるだろう。願わくば忘れていて欲しい。

 

 気を取り直して校内へと入ってみる。

 

 高度育成高校、国が未来を支える人材を育成するために作った進学校。全国屈指の名門校で、以前の僕ならばとても入学するなんて無理だっただろう。偏差値も県内どころか国内屈指で、この場にいる人たちはみんなそんな鬼門を乗り越えてきてるんだ。そう思っていると気のせいか校内にいる人間全員が知性に満ちているように見えてきた……こんな凄い環境でやってけるかな僕。いやいや、初っ端から怖じ気づくな吉井明久! 僕だって試験をちゃんと通ったんだ、自信を持ってもいいはず!

 

 壁に掲げられたクラス割を見るとFクラスの中に僕の名前が書き連ねっていた。なるほど、Fかぁ……。良い人が居ればいいんだけど。

 

 そうだ、折角だし他の教室を見ながら歩いてみよう。

 他の新入生に紛れつつ静かな廊下を歩きながら左右を見渡してみる。

 

 教室を窓ガラス越しに外からは見てみると、黒板や机や椅子やクーラー、天井にはプロジェクトが据え付けられているのが見える。確かに普通の高校よりは整ってるような気はする。でも思ってたよりはシンプルなんだね。正直名門校だからマッサージチェアとかお菓子バイキングとか個人用ラップトップパソコンとか想像してたんだけどそんな事はなさそうだ、残念。

 

 そしてFクラス。

 ここも他の教室と同じで、敢えて言うなら室内が暑かったのか窓が開いていた。

 

 ……よし、入ろう!

 

 勢い良くガラリと開けて、室内へと一歩。何だか漸くこの高校に合格した実感が湧いてくる。

 

 さて、今日から一年間共に過ごす同級生は一体どんな人たちなんだろう。

 

 

 

 

「よし、燃やせえ!! コイツは新学期から女侍らせて登校してきた唾棄すべき犯罪者だ!!」

 

「ふざけんな!! 俺が何をしたって言うんガァァッ!?」

 

 

 

 

 ガラガラガラ。扉は閉まった。

 

 一瞬見えたのは集団で一人の男子生徒の両手両足を椅子に縛り付けて屠っていた光景。いやまさか教室で拷問しているとは……。ここってカルト宗教専門学校じゃないよね? 国の未来を担う人を育てる高校だよね? 未来を担う人材になるためにこんな無法地帯で3年も生きなきゃならないなら僕は未来なんていらない。

 

 …………………………いや。ちょっと待てよ?

 

 第一に、ここは超名門校だ。その辺の良く分からない不良校ならまだしも、幾ら何でもこの高校に限ってサバト染みた残酷な行為が罷り通るはずない。全国の高校から頭の良い人間が集まったのがこの高校なはずで、さっきのは多分僕の見間違いだろう。なんだ、間違っていたのは僕だったかあ。

 

「おっ。お前もFクラスか? 俺は須川亮、これから宜しくな」

「…………うん、よろしく」

 

 再びドアを開けると爽やかに須川君は挨拶してくれた。───カッターの刃をギチギチと剥き出しにしながら。やっぱり間違っていたのはこのクラスだったらしい。相変わらず束縛された男子生徒は暴れていて「離せぇ! テメエら後で覚えとけウグッ……」と何か言いかけたところでクラスメイトの一人に首を絞められた。白目を剥いたところで解放したそのクラスメイトは良い仕事をしたとばかりに朗らかに額を拭う。これから一年、とても不安だ。

 

「えーと、早速聞きたいことがあるんだけど」

「何だ? ああ、席順なら黒板に書いてあるからそれを見てくれ」

「ありがとう、でもそれじゃないんだ」

 

 それも気になるけど目の前の地獄絵図には劣る。

 

「この惨状どうしたの?」

「ああ、そっちか」

 

 須川君は死体蹴りされてる男子生徒の方を見ると、何でもないことのように告げる。

 

「コイツ、坂本雄二っていうんだがどうにも初日から彼女連れで登校してきてな。女子がほとんど居ないこのクラスでそんなリア充っぷりを見せられちゃムカつくし妬ましいし殺したくなるだろ? まあ明日には消える同級生(なまごみ)のことを覚えても仕方ないから覚えなくてもいいぞ」

「身に……覚えが……ねえ!」

「おい。まだコイツ息してるぞ、ちゃんと落とせ。抵抗されたら燃やせないだろ」

 

 ラジャー、と訓練された兵隊のように声を上げると坂本君から再び苦悶の声。どこから持ってきたのか木材を焚き火の形へと着々と組み立てていき、遂にはライターと古い新聞紙で点火。どうやら彼らは塵も残さず徹底的に殺るつもりらしい。

 

「おいそこのお前! 冷静に見てないで助けてくれ!」

 

 坂本くんは僕のことに気付くと、ガタガタと拘束された状態のまま椅子をガタガタと揺らしてSOSサインを飛ばしてきた。

 何の事前情報無しならかわいそうと思うけど、事の顛末は須川君から教えてもらったしなぁ。こんな初っ端から彼女と初登校デートしてたんだよね。

 

 結論が早々に出た僕はうんと頷いて、

 

「須川君、それだと燃えカスが出ちゃうよ。証拠も残さず消すならもっとガソリンとか使って火力を上げないと」

「おお、確かに。こんな奴の燃えカスなんて処理したくないからな。アドバイス感謝するぞ吉井」

「おい!! 何で速攻でそっち側に付いたんだ!!」

 

 冤罪ならともかく、彼女持ちに鉄槌を下すのなら良心の呵責は無い。ガンガンやってほしい。

 

「大丈夫だよ坂本君。焚き火はちゃんと集められた石ころの上で燃えてるから火事にはならないよ」

「その心配は今してねえよ!」

 

 決死迫った凄まじい表情をしているからそうかと思ったけど違ったらしい。

 

「クソ……しゃあねえ!!」

「あ、逃げたぞ!」

「アイツ、カッターで縄を切りやがった!!」

「どこにそんなもんが……!」

「とにかく追え! 殺せ!」

「斬るキル斬るキル斬るキル」

 

 坂本君を先頭にバタバタと机を蹴散らしながら激しいチェイスを繰り広げる。そのまま集団は入り口から一気に出て行ってしまった。なんか嵐のような一幕だった。

 

 取り残されたのは僕一人……ではなかったみたいで、良く見れば女の子が教室の片隅で呆れたように手を額に当てていた。

 

「入学早々、全くやれやれじゃのう……お主は行かんのか?」

「うん。あいつは多分須川君が殺ってくれるだろうし」

「何でお主らは初対面の人間相手にそんな殺意が芽生えてるのじゃ……」

 

 そう言って溜息をついた。不意に視線が合う。

 というかこの女の子、ものすっごい可愛いんだけど。しななやかに肩まで流れる茶髪に整った目鼻。ぷっくりと膨らんだ桜色の唇。時代劇風の口調も相まってまるでドラマとか映画の中から飛び出してきたような印象すら受けてしまう。

 

「ええと、僕は吉井明久って言うんだけど君は?」

「木下秀吉じゃ、これから一年間宜しく頼む」

「うん宜しく。へぇ、秀吉って言うんだ。随分男っぽい名前なんだね」

 

 秀吉って凄い名前だなー。

 意外ではあるけど何故だろう、妙にしっくり来る。戦国時代の武将の名前を女の子に与える両親も両親だけど、そんな変わった名前を違和感無く受け入れさせる雰囲気を身に纏っている木下さんも木下さんだと思う。

 

 木下さんは表情を変えずに口を開く。

 

「当然じゃ。ワシは男じゃぞ」

「やだなあ〜。木下さんって冗談上手いんだね」

「本当に男なんじゃ!!」

 

 まだこの学校でワシの性別を真に理解してくれる人がいないんじゃよ! と木下さんのあまりの必死さについついマジマジと見てしまう。

 

「……どう見ても女の子なんだけど」

「そこを何とか……ワシは男なんじゃ……!」

 

 譫言みたいに呟く木下さん。

 だって女子制服着てるしなぁ……。でも姉さんも「思い込みは駄目よ。私だってアキちゃんのことは女の子としても好きだから」とか今思い返したら内容はさっぱり理解できないけどまあそれっぽいことは言ってたし、ここは年長者の発言を真に受けて一応確認してみよう。

 

 女と男の違いと言えば分かりやすいのは胸の大きさ。男で胸が膨らんでいることはないから従って膨らんでいれば女の子……!

 

「むむむ……っ」

「よ、吉井……そんなに見られると恥ずかしいのじゃ……」

 

 微かに膨らんでいるような、膨らんでいないような……! あるように見ればあるし、無いように見れば無いように見えるくらいの絶妙な差異だ! これは判断が非常に難しい……!

 

「……何やってんのよ、アンタら」

 

 本格的に15cm定規で測ろうかなと考えていると背後から声を掛けられた。女の子の声だ。

 振り向くと赤い髪の毛をポニーテールに纏めた女の子がこちらを何とも言えぬ顔色で見ている。

 

 マズい……!

 現状を振り返ってみよう。今僕は木下さんの胸を服の上から血眼で凝視していて、木下さんは顔を赤らめながらも耐えるような様相で僕の前に立っている。

 

「…………ほら木下さん、鎖骨のあたり。こんなところに蚊が止まってたよ」

「あ、ありがとうなのじゃ……?」

「4月に蚊はいないわよ。この変態」

 

 そう言うと女の子は黒板へと行ってしまった。クソっ、誤魔化し失敗か……! あの子の中の僕の第一印象が凄まじい事になってなければ良いけど……。

 ともかく、話を戻して。 

 

「まあそんな可愛いんなら男でも女でも関係ないよね。それより木下さんはどこの席?」

「ちょっと待つのじゃ吉井。ワシにとっては全然それよりで済まない台詞がサラッと流されたのじゃが」

 

 不満そうな表情をする木下さんを宥めようとして、その足元にふと人影を見た。青い髪の毛の小柄な男子生徒が、床に潜らんとするかの如く仰向けで這いつくばって下から木下さんのスカートにカメラを向けていた。

 

 足元を見つめ動かない僕のことを不思議に思ったのか木下さんも下を見て固まった。この人、いつからそんなところに……!

 

 僕と木下さんに見られていたのに気付いたのか、ムクリとその男子生徒は立ち上がると服に付いたホコリを払いながら。

 

「…………見てない」

「僕たち何も言ってないんだけど」

「……俺はやっていない」

 

 完全に崖っぷちに追い詰められた犯人の言葉で、誰がどう見ても黒寄りの黒だった。

 

「凄いムッツリじゃのう……」

「違う……!(ブンブンブンブン)」

「首が取れそうなほど否定されてもじゃなあ」

 

 彼の手にあるデジタルカメラが犯行の意図を物語っていた。多分そのデータの中には先程覗いていた木下さんのスカートの中身の激写もあるのだろう。とても欲しい(なんてけしからん)

 

「俺は無実だ……!(ドバドバドバ)」

「鼻血垂らしながら証言しても全く信頼性無いと思うんだ。ところでその写真って貰えたりするかな?」

「……それでも俺はやってない。1枚800円から」

「盗撮は法律にも触れる悪い事なんだからね? よし買った」

「毎度」

「お主らの意気投合の速さはウサイン・ボルトレベルじゃな」

 

 ガシリと握手を交わす僕らを傍目に最早何も言わぬとばかりに木下さんはジト目で僕らを見ていた。確かに木下さんには分からないかもしれない。男にはエロで繋がる友情ってものがあるんだ。

 

「……吉井だな。俺は土屋康太。宜しく」

「うん、またこういう写真撮ったら買うから教えてね」

「分かった」

 

 財布を取り出して、写真と800円を交換すると土屋君は去って行った。最初はただの不審者かと思ったけど実際は有能な不審者だったみたいだ。

 

 木下さんと言い土屋君と言い、教室には当初の想像とは違って中々愉快なクラスメイトばっかいるなあと感心していると、唐突に窓枠にゴツイ人の手が掛けられるのが見えた。「よっと」という声と共にライオンみたいに赤髪を立てた見覚えのある男子生徒が室内へと飛びこんできた。

 

「はぁ……はぁ……よし。巻けたか」

「あ、さっき椅子に固定されて焼かれそうになってた坂本君だ。どう最近」

「お前は確か……吉井だったか? ぶっ殺すぞ」

 

 何て奴だ。今日の調子を聞いただけで殺害予告をしてくるなんて、見た目と同じくとんでもないチンピラ野郎だ。

 

「まあいい。それよりその後ろ手に持ったシャーペンを下せ、もう本鈴が鳴るぞ」

 

 チッ。バレたか。運の良い奴め。

 仕方なしに不意打ち暗殺作戦を諦めて自分の席に座ると、坂本君の言った通りすぐに授業の始まりを告げる電子音が校内に響き渡った。それと同時に坂本君を追いかけていた須川君たちが教室に戻ってくる。

 

「坂本……! よくもこの場にのこのこと戻って来れたな……!」

「どうでも良いが授業時間が始まってんだ。さっさと座れ」

 

 その言葉を聞いて渋々と須川君たちも席に座る。これは遺恨が残るなあ。次の休み時間もまたチキチキ坂本(なまごみ)殲滅チェイスが始まりそうだ。

 

 殺伐とした空気の中、本鈴が鳴ってから一分としない内に教室の扉が開く。入ってきたのは恰幅の良い、まるで野生のゴリラみたいに筋肉質な先生だった。

 

「よし、全員いるな。俺がこのFクラスの担任となる西村宗一だ。……ところで早速だがお前らに聞きたいことがある」

「なんでしょうか西村先生」

 

 代表して答える須川君に西村先生は厳格な眼差しを向ける。

 

「その焚き火は何だ」

 

 瞬間、場に緊張が走る。

 前に座る女の子や木下さんなどを除く男子生徒全員が目を背けた。当然のようにスルーされてた蛮行だけどやっぱり校内で焚き火はダメだよね。考えてみたら当たり前だ。

 

 須川君はどう言い訳したものかと考えているのか、視線を右に左にとフラフラ彷徨わせていたけど遂に意を決したのか正面に目を向ける。思えば初めてこの高校に入ってきた生徒の知能レベルを見る事が出来るのかもしれない。サンプリングが須川君って言う点が少し気になるけど、もしかしたら参考になるかも。

 

 須川君は息を吐いて、家電量販店の店員みたいなスマイルで言った。

 

 

 

「──────これはですね、ゴミを焼くために作りました」

 

 

 

 それは無理があると思う。

 

「はぁ。……まあ良い、これが終わったら片づけておけよ」

 

 眉間を揉み解しながらも西村先生は小さくそう言った。正直意外だ。もっとこう「何やってんだお前らは……」と呆れて見せるか「馬鹿もん! 校内でキャンプファイアーする学生がどこにいる!」と怒って見せるかの二者択一だと思ってたからこう、あっさり流されると逆にやりづらい。須川君も戸惑いつつ「は、はい」と返すのみだ。どういうことだろう。

 

 奇妙な場の空気に呑まれつつも無言で僕たちは聞く体勢を作った。それから西村先生はこの学校について説明し始める。

 

 大きく分けると話は3つに分かれた。

 

 まずSシステムについて。初めに僕たちにはそれぞれの学生証カードが配られた。この学校は学生証カードを利用して色々なものを買い物ができるようだ。学校の周りには様々な商業施設があってさながら一つの町みたいになっているらしく、不便は無いということだった。驚いたことに最初から僕たちは買い物の際に使えるプライベートポイントを十万ポイントほど学生証カードに入っているらしい。西村先生曰く「この学校は実力主義を重んじている。お前たちにはその価値がある……多分な」と何故か自信なさげに言っていた。何で難しい顔でそんな不安なことを言うんだろう……ともかくこの十万はゲームに突っ込むのにはたった今確定した。あとプライベートポイントについては毎月一日にクラスポイント×100のポイントが与えられるらしい。……うん。その辺は良く分からないけど僕は神妙な顔で聞き流した。

 

 次に試験召喚戦争について。これは僕もパンフレットを見て知っていたけど、この高度育成高校では学生のテストの点数がRPGゲームで言うレベルに換算された試験召喚獣というのを操って他の生徒と戦う事が出来る。それをクラス単位で行い疑似的に戦争するのが試験召喚戦争、通称試召戦争だ。これについてはこの学校だけではなく全国の進学校で導入され始めているので、クラスメイトで知らない人は少ないと思う。

 

 最後にその他の諸事情について。学校周辺には大抵の店があるという話や、クラスは担任の先生を含めて卒業まで変わらないという話、全寮制で外部とは連絡制限があるという話。加えて学生生活の心得とかについて触れていた。いやー、クラスが変わらないだなんて……えっ。もしかして僕このクラスで三年過ごすの? ものっすごい不安になってきたんだけど。

 

「先生、幾つか聞いておきたいことがあるんだが」

「何だ坂本?」

 

 一抹の憂慮が胸に去来している間にも一通りの説明が終わって、質疑応答の時間になると僕の右横に座っていた坂本君が徐に手を上げた。

 

「試験召喚戦争、試召戦争だったか? さっきの説明じゃこの試召戦争を起こす意味が分からない。まさか、ただのお遊びとかじゃないよな」

「ほお、良い質問だ。それについては今から説明しよう。試験召喚戦争はクラス対クラスの大規模な戦いだというのはさっき言った通りだが、当然互いに賭けるものが存在する。何だか分かるか?」 

 

 僕にはさっぱり分かりません。

 坂本君は急な問いかけに数秒思案するように黙り込んで、顔を上げた。

 

「…………恐らく賭けるものは個人の何かではなくクラスの何か。つまりクラスポイントなんじゃないか」

「良く分かったな、その通りだ。この試験召喚戦争ではクラスポイントの全額を賭けて総力を挙げて戦うことになる。負ければクラスポイントがゼロに、勝てば総取り。一発逆転の手段と言う訳だ」

「クラスポイント、ねぇ。今は1000ポイントあるからもし俺たちが何処かのクラスに勝てば2000ポイントってことか」

「正確には1800ポイントだ。何故なら戦争を申し込んだクラスは手数料としてクラスポイントを200失う。この話になったから言ってしまうがこの試験召喚戦争を申し込んだ側が負けた場合はペナルティーとして三ヶ月間試験召喚戦争を行えなくなる」

「ならもう一つ。試召戦争での決着をクラスポイント以外で支払うこと、或いは要求することは可能か?」

「条件付きで可能、と言えば正しいだろう。事前に別の景品を決めて互いが了解するか、もしくは試験召喚戦争に勝てば相手からクラスポイントを受け取らないという選択肢も増える」

「了解した、俺からは以上だ」

 

 満足そうに頷くと坂本君は足を組んだ。あんな町で小学生相手にカツアゲしてそうな見た目なのに頭は少なくとも須川君よりは回るらしい。

 他に質問も無かったから西村先生は「では今日の授業は終わりだ、明日も遅刻せず来るように」と言って教室から去ってしまった。まあ入学初日なんてこんなもんだよね、ラッキー。明日もオリエンテーションくらいしかないようだから気が楽だ。

 

「中々複雑なシステムじゃのう」

「あ、木下さん」

 

 難しい説明に頭を使っていると女性的な声が耳を打った。何時の間に木下さん、僕の席まで来てたんだ。

 コンパス片手に迫る須川君と対峙している坂本君の横で僕はうんと頷いた。

 

「そうだよね。僕にも全然分かんないや」

「Sシステムに試験召喚戦争……一波乱ありそうじゃな。それにクラスも三年間変わらず一緒とはの……」

 

 本当にそれは思う。まさか、三年間も同じクラスのままだと朝の時点じゃ思わなかったよ。でも他のクラスメイトならともかく木下さんなら大歓迎だ。

 

「珍しいよね。改めて、これから三年間よろしくね」

「よろしくお願いするのじゃ。あ、そうじゃ。この後学食に行ってみようかと思うんじゃが一緒にどうじゃ?」

「あ、うん。是非お供させてもらうよ……って危ない!」

 

 咄嗟に身を屈める。するとひゅんひゅんと頭上で何か飛んでいく音が聞こえた。ずぞっと聞き慣れない音と共に壁に穴を開けて突き刺さる。見ればボールペンだった。

 ……横から僕に対する邪悪な気配!

 

「吉井ぃ……お前まで女子と二人きりでランチデートかぁ? 許せねえなぁ、許せねえよなおいおい」

 

 マズい! どういうことか坂本君だけに向かっていた敵意が僕にも剥いた……!

 クラス中から闇のオーラが漂い始める。

 

「須川……あいつが女子とランチという俺たちの禁忌を破るとか本当か?」

「本当だ。俺はこの耳で聞いた」

「そうか……なら殺さないとな」

 

 ジメジメとした空気が僕の周りで漂い始めてきた。これは上手く切り抜けないと朝の坂本君の二の前になる!

 僕はハッと思いついて大声を上げる。

 

「そうだー! 木下さん、坂本君と土屋君を誘うのもアリなんじゃないかなー!」

「………………!?!?」

 

 バッ!! と懲りずに木下さんのスカートの中身に興味を示していた土屋君が慌てたように立ち上がる。坂本君も「はあ!?」と声を荒げていたけど気にしない。

 

「裏切者……!!」

「土屋ァ……それに坂本……既に命は惜しくないようだな」

「待て! これに関しては俺は何も関係ねえ!!」

「問答無用。さて、土屋に坂本。我々からの最初で最後のプレゼントだ。死に方を選びたまえ」

 

 よし、上手く巻き込めたみたいだ。これで僕への注目は外れたはず……!!

 僕は他の皆にバレないように忍び足で教室から出ようと「聞けお前ら!! 吉井が逃げようとしている!!」坂本ォ……!! バラしやがったな……!!

 仕方ない、逃げよう!!

 

「吉井、坂本、土屋ァ! 今止まれば首をねじ切る程度の半殺しで済ませてやる! 止まらなかったら焼いて殺す!」

「それどっちにしても死ぬから!?」

「なんだ。大した問題じゃないだろ」

 

 思考を巡らせながら廊下を疾走する。

 本気で僕のことを殺すつもりみたいだ。さっきから思っていたけど僕のクラスメイトは頭がおかしい。どう考えたら同級生を焼いて殺そうだなんて思うんだろう。僕には微塵も理解できない思考回路だ。

 

「クソ……! 吉井、テメエ俺をだしにして逃げようとしてたな!!」

「そっちこそ最後の最後で裏切ったじゃないか!」

「最初に仕掛けたのはそっちだろうが……!」

 

 須川君に追い立てられた坂本君は僕と並んで走っていた。その横には土屋くんもいる。

 全く、自分が悪いのに僕のせいにするなんてとんだ野郎だ。

 

「吉井…………この借りは必ず返す」

「あはは。顔が怖いよ土屋きゅん☆」

「……絶対に殺す」

 

 ユーモアで誤魔化そうとしたけどダメだった。坂本君はともかく、土屋君は本当に巻き込んだ形だから僕としても多少の罪悪感が無くもない。

 

「コロスコロスコロスコロスコロスコロス」

「圧死横死餓死溺死獄死惨死骨折死焼死窒息死縊死凍死討死爆死」

「キル斬るキル切るキル斬る」

 

 そろそろ背後からの圧がヤバい。気のせいか真後ろにピッタリと付いているような感覚すらある。

 坂本君は後ろを振り返って「このままじゃ埒が明かねえ!」と声を荒げると、

 

「吉井、土屋! 一つ作戦がある!」

「……聞こう」

「同時に三方向に逃げて敵の攪乱と分散を狙う!」

 

 なるほど。確かにそれなら一瞬誰を追うか迷う時間も出来るし、一人当たりの敵の人数も減るはず。

 

「やる価値はあるね!」

「……合点承知」

「なら決行だ。ここを抜ければ分岐路に出る。俺は正面、土屋は左、吉井は後ろに思いっきり走れ!」

「ちょっと待って坂本君! 僕だけ捕まって死ねと言ってるように聞こえるんだけど!」

「そう言ってる」

 

 なんてゴミみたいな人間なんだ。一瞬でも仲間と思った僕が馬鹿だった。

 

「……我儘なやつだ」

「ったく、しゃあねえな。なら外に出てからが勝負だ。ここから走ればすぐに下駄箱を過ぎる。一気に散開するぞ」

 

 まるで駄々っ子を相手にするような発言はとても気にくわないけど今は四の五の言っている状況じゃない! 今度こそやるしかない。

 坂本君の言う通り下駄箱は直ぐに見えてきた。ここからが勝負だ。

 

「よし、行くぞお前ら!」

 

 トップスピードで外に出た瞬間、坂本君は正面に、土屋君は左に、僕は右にそれぞれ方向を変えて駆け出した。

 

「なっ!? 奴ら別々に逃げやがった!」

「畜生、どれを追えば……!」

「どれでも良い、とにかく追うんだ!」

 

 作戦は成功。何とか引き離せる距離を稼げた。これなら曲がり角を何回か曲がれば勝手に見失ってくれるだろう。

 

 更に角を曲がって走っていると、左手に建物の入り口が目に入る。よし、ここに入って完全に巻いちゃおう。

 中に入るとどうやらコンビニのようだった。校内にコンビニがあるなんて何だかオフィスビルみたいだ。なんて思いながらまたいつ見つかっても良いように息を整えつつ棚に身を隠す。

 

「……どうしたんだ?」

 

 顔をそっと棚の隙間から覗いてると後ろから男子生徒に話しかけられた。振り返ると、そこにいたのは見覚えの無い男子生徒。茶色の髪をセンター分けした何処となくダウナーっぽい出で立ち。違うクラスか学年か、そこはちょっと分かりそうにもない。

 

「ハハハ……ちょっとばかり過激な人に追われててさ。もし聞かれても僕のことは黙っててくれないかな?」

「それは構わないが……もしかしてアレか?」

 

 そう言って男子生徒が首を向けた視線の先。店の外。

 

『どこ行った吉井! ぶっ殺してやる!』

『サーチ&デストロイ!!』

『おーい吉井! 野球しようぜ! お前ボールな!』

 

 先程の焚き木の木材で武装した集団が通りを闊歩していた。どれも見覚えのあるクラスメイトの姿だ。あんなヤバい人たちに追われてたんだ僕。

 

「…………アレか?」

「……あはは」

 

 乾いた笑いしか出てこない。他のクラスの事情は知らないけど、入学初日から僕のクラス以上に荒れていないのは間違いない。

 追手はどうやらコンビニには入って来なかったようで、ふうと一息つく。生まれて初めて生死を身体で感じた気がする。

 

「行ったみたいだぞ。災難だったな」

「うん、ありがとう」

「ところで何をしてあんな集団に追われたんだ?」

「可愛いクラスメイトと学食に行こうとして」

「……どういうことだ?」

 

 さっぱり分からないんだが、と言いたげな表情で男子生徒はこちらを見返した。うん。それが普通だと思う。

 どう説明しようかと俊巡していると横から「貴方は……」と声が聞こえた。男子生徒と一緒にそちらへと顔を向ける。

 

「驚いたわ。貴方に話し相手なんていたのね」

「俺にもそれくらいはいる。会ったばっかだけどな」

 

 そこに立っていたのは釣り目がキツめの女の子だった。長い黒髪に沁み一つない相貌は美人と言っても良いんだろうと思う。ただ全体的にトゲトゲとした雰囲気で、気軽に話しかけたら無視されそうなほどだ。当然僕の知り合いじゃないからこの男子生徒の知り合いなんだろう。

 

「それで、こうして話すのは二度目なんだから自己紹介でもしないか。隣の席だしな」

「拒否しても構わないかしら」

「拒否するってことは自分の名前に対して忌避感でもあるのか?」

「貴方に教える必要が無いってだけよ」

「オレは綾小路清隆だ。それとも自分の名前に自信がないのか?」

「はぁ……。堀北鈴音よ」

 

 綾小路君と堀北さんと言うらしい。恐らくクラスメイトなんだろう、凄い会話がぎこちない。

 

「堀北か、よろしく」

「こんな会話に時間を浪費するのは無駄と感じただけよ。他意はないわ」

「そうか」

「それでそこのぼけーっと棒立ちしてる貴方は?」

「え、僕?」

 

 堀北さんの厳しい視線が綾小路君から僕へとスライドした。

 

「私たちの名前を勝手に聞いといて自分は名乗らないなんて不公平よ」

「それもそうだな。名前を聞いて良いか?」

 

 綾小路君も堀北さんと同じ意見らしい。まあ別に名前くらい良いけどさ。

 

「うん。僕は吉井明久、一年Fクラスだよ」

「そうか。吉井はFクラスなのか。オレたちはDクラスなんだ」

「なるほど~」

 

 道理で見かけなかった訳だ。教室も位置的にEクラスを挟むから少し遠いしね。

 堀北さんは用は済んだといった表情で僕たちから距離を取って別の棚の方に移動した。……実はあんまり人と話すのが得意じゃないとか、そういった事情があったりするのだろうか?

 ともあれ、一人になりたいなら態々話しかけに行くのも失礼かもしれないね。

 

「このコーナー、無料らしいぞ」

 

 コンビニの商品を綾小路君と確認していると、唐突に綾小路君がそう言った。僕もそのコーナーに行ってみる。

 ワゴンには如何にも安物っぽい商品が入っており、一ヶ月三つまでと注意書きがなされている。

 

「無料……? 綾小路君のクラスも十万ポイント配られたよね」

「ああ。恐らくポイントを使い過ぎた人間への救済だろう」

 

 毎月十万ポイントもあるのに使い切る……?

 どうなればそんな状況になるのか想像つかないけど、ただ僕にとっては大変ありがたい救援物資には間違いない……!

 

「早速それ買うのか?」

「うん。十万ポイント、ゲームに注ぎ込む気だからこういうところで節約しないと」

「吉井、絶対それポイントの使い方間違ってるぞ」

 

 まあ来月もポイント来るからどうにかなるはず。

 少し悩んで歯ブラシだとかハンドソープを手に取った。ティッシュやトイレットペーパーは要らないプリント用紙で済ませれば良いし、食品は砂糖と塩と水があれば十分。よし、これなら行ける!

 

 綾小路君も色々買う気みたいで日用品を買い物カゴの中に幾つか入れていた。

 会計を済ませている間に外が騒がしくなっているのに気が付いた。

 

「どうした吉井、突然這いつくばって」

「し~っ。綾小路君、外」

 

 その言葉で綾小路君も外のただならぬ様子に気付いたようだ。

 

「……アレはウチのクラスの人間だな。多分大丈夫だぞ」

「あ、ホントだ。ありがと」

 

 てっきり僕の事を追ってる連中かと思った。危ない危ない。でもあまり気を抜いていたら見つかっちゃうかもしれない、気を引き締めないと。

 変装用にレジ横にあったマスクを入れて会計を終えると、既に外の騒動は収まっていた。何があったのか、コンビニの外にあった乱雑にゴミ箱が倒されてゴミが道に散乱している。

 

「何があったんだろう?」

「分からないが、何やら揉めてたみたいだ」

 

 ゴミを拾い始めた綾小路君に「あ、手伝うよ」と告げて僕も道に屈む。全く、自分で散らかしたゴミくらい自分で始末をつけて欲しいよ。

 ゴミを拾い終えると僕は綾小路君と連絡先を交換してそのまま解散した。綾小路君は今日はそのまま帰るらしいから家電量販店に向かおうとしている僕とは別方向だ。

 

 さて、まずはゲーム機を買わないと話は始まらないよね! と胸に期待膨らませて早足で向かう。

 

 結局その日はゲーム機とソフトを買ったところで帰宅。夕飯は水のみだった。

 

 

 




焼肉定食下剋上がもう懐かしい時代ですね〜。


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