大気を揺るがす衝撃。それを合図にホウエン地方は激動の時を迎えた。
ルネシティにいても感じる大地の咆哮。えんとつ山の大噴火。それと共に一つの伝説が目を覚ました。
大地の化身グラードン。目覚めただけでフエンタウンとハジツゲタウン、二つの町が灰と火砕流に呑まれた。
時を置いて発生した海からの衝撃。それは彼の者の産声に過ぎない。海の化身カイオーガ。発生した巨大津波は、いとも容易くキナギタウンとカイナシティを飲み込み、命の根源たる海に戻した。
この前代未聞の大災害は、ただ二体のポケモンが眠りから覚めただけで起こった。
グラードンは地面の中を進んでいるようだ。上空から監視しているヒマワキシティジムリーダー、ナギからの報告だった。
曰く、グラードンの進んだ地上は、溶岩が溢れ出し、灼熱地獄のようだと。
カイオーガはグラードンから少し遅れて127番水道で目を覚ました。そこを中心に嵐が広がっている。そんな中を飛べるポケモンはそれこそ強靭なドラゴンポケモンくらいだ。
ルネシティは二体が目指す目的地。故に、灼熱地獄と嵐が混じり合った、この世の終わりのと言ってもいい環境となった。
そんな環境にて二体を待ち構える人影。チャンピオンダイゴ率いるホウエン四天王、ゲンジ、プリム、フヨウ、カゲツ。ルネシティジムリーダーミクリ。そしてバトルフロンティア関係者からリラ、ジンダイ、ネジキ。そして元シンオウ四天王の私。
誰も一言も喋らずただその時を待つ。
ここにいる全員は大人で、それぞれ立場がある。そんな私たちは見送った。
たった10歳の少女に、この地方の、この世界の命運を託して。
私も含め、ゲンジさん、リラちゃん、ネジキくんはまともに休めてもいない中での決戦。ベストメンバーは回復しきってもいない。
それでもここに立たない理由にはならなかった。
街が揺れ出す。巨大な存在にルネシティが怯えているように、振動は激しさを増す。
「来るぞ!!」
チャンピオンダイゴが叫ぶと同時に、二体は示し合わせたかのように同じタイミングで現れた。
ルネシティを囲む岩の壁を軽々と崩落させ、出来上がった穴から顔を覗かせたグラードン。
海から巨体を大きく飛び跳ねさせ、岩の壁を乗り越えたカイオーガ。
二体は互いを認識すると、すぐに距離を詰める。互いに捨て身で身体をぶつけ合わせ、超古代の伝説の幕が上がった。
ただ衝突しただけで津波が発生し、グラードンの足元からは噴火した溶岩が飛来する。
これが超古代の決戦なのだ。
「防衛戦に出遅れたからには!私らが身体を張らねばなぁ!行くぞォ!レジスチル!レジアイス!レジロックよ!皆をまもるのだ!」
ピラミッドキングのジンダイさんは、手に入れたばかりの三体を皆の前に繰り出した。三体はそれぞれの名の通りに、鉄の防壁、氷の防壁、岩の防壁を繰り出し、二体からの流れ弾を防ぐ。
そんなこちらの様子を気にも留めない二体の戦いは、徐々に激しさを増していく。まるで自分の方が上だと言わんばかりに、お互いに周囲の環境を染めあげようとする。
次第にカイオーガとグラードンはぶつかり合う事をやめ、それぞれが空に向かって咆哮を上げる。
カイオーガのエネルギーは上空へと上がり、雨雲をさらに厚く活発にさせていく。厚い黒雲は上空で渦を巻き、太陽光を通さなくなったのか、周囲は徐々に暗くなっていく。
グラードンから溢れたエネルギーはその厚い雲の下で、一点に集約していく。それは遂に光り輝く光球へと変化し、闇に閉ざされたルネシティを再び白く染め上げる。
「咆哮だけで、台風と太陽を再現するなんて……」
私の声は震えていた。目の前の出来事が現実とは思えない。ここはポケモンがいる不思議な不思議な世界。それでもこの状況はさすがに脳が処理を拒否しようとしてくる。
「しっかし、これじゃあ手出しもできやしねぇなぁ。あの二体の力は拮抗してやがるぜ、大丈夫なのかダイゴ」
カゲツがそう軽口を叩くが、拮抗するのは想定通りだ。拮抗の規模が想定からだいぶ外れていることを除けば。
「それに越したことはない。しかし、僅かでも均衡が崩れたら、我々で拮抗状態に戻すしかない。二匹の半覚醒でこれだ。完全な復活だけは絶対に避けなければ!」
豪雨に打たれながら、肌を熱波が灼く。目の前からは津波が押し寄せ、足元からは溶岩が溢れ出す。陸と海がそれぞれの支配圏を奪い合う。世界が塗りつぶされていく。
この時間は随分と続いた。こんな災害には当然、手が出せない、しかし目を離してはいけない。そんな状況は私たち人間からも、ポケモンからも容赦なく体力を奪っていく。
そして、その時は来た。
もう何度目になるのかというほど繰り返された衝突。そのぶつかり合う直前、雨雲から放たれた雷がグラードンに落ちた。狙ったワザとしてのかみなりでは無い、ただ自然の雷。
しかも、グラードンには電気など効かない。しかし、少し意識は逸れたのだろう。その一瞬の隙に、カイオーガのすてみタックルはグラードンの腹に吸い込まれていく。
周囲に衝撃が響く。グラードンの怒りと闘争心に満ちた目から光が消え、巨体がゆっくりと後ろに倒れ始めた。そこにカイオーガは至近距離から止めのハイドロポンプを放とうとする。
「今だ!」
「「「「「「「はかいこうせん!!!!!」」」」」」」
ダイゴさんからの合図で、この場にいるポケモンたちからエネルギーが放たれる。
大勢で、一点に、同じタイミングで、高火力を。その条件にあったワザ。それがはかいこうせんだった。
様々なタイプのワザを撃つと、それぞれのタイプが打ち消しあってしまう恐れがある。その相性を考えるよりも、純粋なエネルギーであるノーマルタイプかつ、四天王クラスのポケモンならば基本撃つことが出来るこのワザが、伝説への介入に採用された。
狙いは、ハイドロポンプを撃とうとする頭。そこにはかいこうせんは重なり直撃した。鈍い音が弾けるとともにエネルギーが炸裂し、爆風がカイオーガを包む。一瞬動きを止めることはできたが、ダメージになっているかはわからない。
煙が晴れると、こちらに向けて眼光を光らせるカイオーガが見えた。そこから放たれる威圧感に、身体の震えが止まらない。そして次の瞬間、邪魔者を洗い流すかのような巨大な波がこちらに向けて迫ってくる。
「なみのりにしては規模が段違いだな」
私たちのポケモン、その多くがはかいこうせんの反動で、行動が遅れている。その中、先ほどの攻撃に参加していないチャンピオンとジンダイ、そのポケモンたちが私たちを守るために行動を開始する。
「レジスチル、ラスターカノン!
レジアイス、れいとうビーム!
レジロック、ストーンエッジ!」
ジンダイさんの三体が波の規模と勢いを弱める。しかしそれでも止まらない波は私たちを飲み込もうとする。
「メタグロス!皆を囲め!ひかりのかべ!」
メタグロスが張ったひかりのかべ。それは私たちが使うものとはものが違った。
通常ひかりのかべは前方に文字通り壁を作り出すワザだ。しかし、チャンピオンダイゴのメタグロスは違う。圧倒的な練度とメタグロスの処理速度を用いたそのワザは、味方全員を立方体の結界で包んだ。
そのおかげで大波が我々に届こうとも、流されることはおろか、濡れることすらない。今回は防御に徹しているこのワザは、実際のバトルではなかなかに恐ろしい戦法に使われる。高火力技を放とうとした相手ポケモンを包み、結界内で自爆させる。あるいは結界で動きを封じ、はかいこうせんを放ち着弾の直前に結界解除。
さすがチャンピオン。やることがえげつない。
「皆!無事か!」
「ダイゴさんのおかげで何とかね……」
この超古代決戦への介入は数回続く。
「なんなのだ……この有り様は……」
「これが俺たちが求めた世界なのか……」
この介入のさなか、遅れてルネシティにやってきた2つの組織の首領は言葉を零す。
「項垂れるとかいいから、早く手伝って……」
もう彼らの犯した罪とかはもうどうでもいい。今は猫の手でも、それこそ主犯格の手でも借りたいのだ。私は堪らず叫んだ。
「早く手伝えって言ってるの!責任を果たして!!私たち大人の失敗を、たった10歳の女の子が今拭ってるんだ!
人類の発展を目指すなら、ポケモンの幸せを願うなら……少しでも日常を取り返しなさいよ!」
2つの組織の首領たちは互いに盗んだ宝玉を取り出し、各々が縋ったポケモンに命じる。
「緋色の宝珠を以て命じる!グラードンよ!もう止まってくれ!」
「藍色の宝珠を以て命じる!カイオーガよ!静まれ!このままではホウエンが沈んでしまう!」
もちろんそんな人間の意思で、超太古の争いが止まるわけがなかった。
「ようこそ!ここが空の柱。私たち流星の民とルネの民が守る神域だよ」
流星の民の伝承者であるヒガナさんと、猛烈な嵐の中をラティアスに乗って飛行すること数時間。私たちは目的の場所空の柱へ辿り着いた。
ここに第3の超古代ポケモン、レックウザがいるらしい。そのポケモンを目覚めさせるのが私たちの使命。このホウエン地方を救う唯一の手段。
「この頂上にレックウザが?」
「そう。龍神様はこの頂上にいるよ。この空の柱に龍神様、つまりレックウザがいる時は、常に強烈な下降気流が起きてね。この柱を歩いて登るしかないんだ。
そしてそれはハルカちゃん1人で踏破してもらう必要がある」
「ヒガナさんは?」
「私は別の場所で空の柱の機構を解除する必要があるんだ」
「言われていたトラップですか?」
「そう。意地悪な御先祖様が作った罠は、伝承者にしか解除出来ないからね」
「......わかりました。私がレックウザを目覚めさせてきます」
冒険に出てまだ数ヶ月。だけど自分しかいないなら仕方ない。やるしかないんだ。喉はカラカラ、体の震えが止まらないでも、やるしかないんだ。
「......ごめんね。本当はチャンピオンの役目を君に押し付けて......そしてもう一つお願いがあるの」
「なんですか?」
そしてヒガナさんは申し訳なさそうに笑った。
「この子達をお願い」
そう言って、ヒガナさんが持っている全てのモンスターボールを私に差し出してきた。
「......え?」
疑問に思い、ヒガナさんの顔を見る。そこには覚悟を持った瞳と寂しさが混じった笑顔があった。
「崇め奉る存在を叩き起す。そんな恐れ多い事を許す宗教ってね、そんなにないんだよ」
|ω•˘ )
|彡サッ!
|ω◉`)
たまには帰ってくるお。