八銀が新宿で買い物デートするだけ

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親愛なる白銀の戦士へ

「彼女へのプレゼント、だとぉ?」

 そうテレビ通話のスピーカーから聞こえる声は、正に何言ってるんだこいつというニュアンスを含んでいた。

「何故我に聞く? そんなもんドラゲキンの方が何倍も知ってるというか、お主が一番知ってるだろうが」

「ま、まぁそうなんだけど、第三者から見て、プレゼントとかが不自然じゃないかなって」

「それこそ我でなくとも聞ける相手は幾らでもいるだろうに……」

 それはそうなのだけど、でもこれは歩夢から聞きたかった。銀子ちゃんのことを一応は昔から知ってる歩夢だからというのはある。

「ちなみに、今までどんなものを上げたのだ?」

 それを尋ねられて少しだけ考えてから口にする。付き合う前はトレードマークとなった雪の結晶の髪飾り。付き合い始めてからは研究部屋であっても困らないようなものをエトセトラ。

「ふーむ、特段不自然ではないように思うが……何か言われたのか?」

「『何も言われずとも私が欲しいと思うかどうか常に考えられているようで寧ろ怖い』だって」

「ノロけるでない!」

「いやー付き合い始めたらちょっとだけそうでない素振り見せるんだけど、ちょーっとだけ問い詰めると素直になってくれて俺もやりやすくていいわ」

「いや……もういい……我は惚気話を聞きたいわけじゃない……」

 勝手に話を打ち切られてしまった。別に内容としてはそこが本命ではないのに、何が気に障ったのだろうか。

「で、何かを祝いたいとか、そのような理由はどういったものなのだ?」

「うーんと」

 まぁ、隠すまでもない理由を正直に伝えるとするならば。

「ないな」

「ないのか!?」

「ないね。でも別に理由なくたっていいだろ?」

「まぁ必然性はないが……」

 強いて言うなら、銀子ちゃんのプロデビューに際して、というところだろうか。

 とはいえ。あれから散々色々なものをあげてる気がするのも事実で。モノ自体もそうだし、時間もそうだし、俺にとっての初めてのものもそうだし、あまつさえ俺から見れば銀子ちゃんの初めてまで……おっと。

「まぁ、サプライズで何かあげるとか、デートするとかあれば、世の女子共は喜びそうなものだけどな」

「ちなみに歩夢だったら?」

「サプライズか? まぁ我は見ての通りだと自負するがな」

「それで、欲しいものは、そのマントに見合うようなお茶とお茶菓子ってとこか。釈迦堂先生とするティータイムで出せるような」

「よくわかっておるではないか。流石はドラゲキンよ、ライバルのことをしっかり熟知しておる」

 別にそのつもりではない。ただ、歩夢がわかりやすいだけだ。

「まぁ、今はモノ上げるより、時間取れる時にデートとかかなぁ。物欲がないとは言わないけど、同年代からすれば相当希薄な方だし」

「でも、その研究部屋か? で置いとけるようなものは喜んでもらえたのだろ?」

「まぁ……それなりには。でもある意味自己満足的な節も強いし、同じ金をかけるなら今はデートの方がいいし、言葉にはしてくれてないけど銀子ちゃんも同じっぽいし」

「だからその自然に惚気るのをやめろと言っておるのだ!」

 歩夢の絶叫を無視して少し考えてみる。銀子ちゃんの性格を考えてみれば、多分最初に思い付いたことはあまり適当ではない。それに、それは目的の主従関係が逆転している気がする。

 どうせなら、銀子ちゃんには楽しんで欲しいし、何より喜んでもらいたい。だから、それを前提に物事を進めないと。

 ひとまず、その前に率直な感想を言えば。

「歩夢も意外と乙女なとこあるな」

「そろそろ黙るのだドラゲキン……」

 

 

 

「――と、いうことで、だ」

「いや何がということで、なわけよ」

 翌日の午後、学校を終えた銀子ちゃんと合流して、銀子ちゃんのワンルームでその時の話を持ち出す。俺の右隣に座って、足をだらんと伸ばす格好は、知る人が殆どいない俺だけの特権だ。

「第一サプライズをしようとしている彼女相手に先にばらすとか馬鹿なの? サプライズの意味知ってる? 馬鹿なの?」

「いや馬鹿なのと無意識に二回繰り返されようとも、俺は下手にサプライズしてミスマッチ防ぐ方が大事だと思ったし、何より銀子ちゃんとデートしたかったし。それとも銀子ちゃんは俺とデートしたくなかったの?」

「うん……それは……私もしたかったけど……♡」

 うーんチョロい。この髪をクルクルいじる仕草も可愛い。

「そりぁ……八一とどこか行けるならそんな不満なんてないし、それに色々なことをしたいって言ったのは私だし……♡」

 えっと、あれ? なんか俺に対しての羞恥プレイになってね?

「映画も一緒に行きたいしショッピングもしたいし、だけどやっぱり八一と公式戦をすることが一番したいし、そのためには強くなりたいし、強くなるために八一と研究会もしたいし、その合間に八一とは色々と触れ合うこともしたいし――」

「ぎ、銀子ちゃん、ストップ、ストップ!」

「――はっ!?」

 正気に戻ったらしい銀子ちゃんが、胡坐をかく俺を横に押し倒す。ごろんと転がるだけだけど、勢いがついて床に強打した左肩が少し痛い。

 見上げるように銀子ちゃんを見ると、明らかに顔が真っ赤に染まっていた。いつもは白すぎる肌が、今だけは健康であるとばかりにその内側の血流を主張している。

「ごめん……痛くなかった?」

「いや、そこまでは。それより、止めておいて言うのもだけど、他に誰もいないんだし、そこまで恥ずかしがることもないのに」

 いや、でもそうすると俺が耐え切れなかった。押し倒してあれやこれやが始まって将棋どころではない。さっきまでの銀子ちゃんの様子的に拒否されなさそうなのがまた。

「それで、これやりたいとかってことある?」

「八一がいるならなんでもいいかな……♡」

「いや……あの、だからさ……それはそれで嬉しいけど……」

 あの……俺専用必至の手、やめてくれません?

 それにしても、これは恐らく贔屓目に見てというところもあるんだけど、封じ手を開封してから、銀子ちゃんの可愛さに磨きがかかってるような気がする。それとなく外面をよくするようにしてて、無愛想をやめ、人から好かれようとする努力をしているように見える。

 それでいて旧知の人しかいない場所でも、だらしなくないような振る舞いを心掛けているように見えて、それが少し背伸びをしているようにも感じられて、そこが本当に愛おしい。なのに他に人の目がない、俺と二人きりの時だけは、こうやってくっついてくれて、俺に幸せの形を教えてくれる。

 はぁ……ずっと銀子ちゃんと一緒にいたい……でも今日はあいには帰るって伝えてるしな……可能な限り健全に……いやもうあれやこれや見たり触れたりしちゃってるとはいえさ……。

 ――いけない。本題を忘れる前に伝えなくては。予定というものは早い者勝ちなのだ。

「そうそう、今のところこの日は銀子ちゃん公式戦も研究会も何もなかったと記憶してるけど、あってる? 学校も急遽入るような日程じゃないし」

「この日? 何もなければ研究会してもとは思ってたけど……というより翌日私も八一も東京で公式戦あるから移動日じゃない」

「そうそう。それで、東京で予定入れてたっけと思って」

「まぁ今のところは問題ないけど……どうして?」

「だったら、これはどう?」

 そして俺は、無言で『それ』を銀子ちゃんに見せる。

「――っ!? そ、それはっ!?」

 新宿の、フルーツパーラーによる時間制スイーツ食べ放題。そのチラシと、俺のスマホに表示された二人分の予約完了画面。

「えっ、嘘、ここ一度は行きたいと思ってた場所なのに!? えっ、えっ!?」

「銀子ちゃんにはね、前もってのサプライズなんて難しいし、だったら予定を入れて聞いちゃう方がいいかなと思ってね」

 駄目とか、外せない用事があるとか言われたら、予約を取り消せばいいだけの事。キャンセル料はかかるが微々たるものだ。

 だから、あくまで駄目元だったのだけど、この様子なら大丈夫そうだ。よし、東京デート、一丁あがり。

「で、行く?」

「行く!」

 

 

 

「あー、おいしかった!」

 俺の右腕が、ご機嫌そうにぶんぶんと揺れる。勿論俺がしているんじゃなくて、繋がれた銀子ちゃんの左手が犬のしっぽみたいにご機嫌だからだ。

 確かに俺からしてもおいしかった、と思う。銀子ちゃん程甘味の機微は理解できているつもりはないが、その銀子ちゃんがこれだけ満足していれば、十分だろう。

「ね、ね! 八一はどれが好きだった!?」

「俺か……俺はメロンのタルトが好きだったな」

「それ! あれおいしかったよね! あとさあとさ! キウイのケーキ!」

「キウイね! 言われてみればそっちの方が好きだったかも。キウイの酸味がスポンジ記事に絶妙に合わさって、甘すぎずよかったなぁ」

「だよね! とにかくフルーツパーラーだけあってフルーツの使い方がほんとよくて! 見栄えもするしおいしいし――」

 こうも饒舌な銀子ちゃんを見るのはいつ以来だろうか。それこそ甘いもののことだから……そうだ、昨年の女王戦第二局前の、俺は天衣に道場で仕込んでいた頃か。

 そっかぁ、それくらい時間が経ったのか。もしくは、未だにそれしか時間が経っていないのか。あの頃は、あいも天衣もすぐに女流棋士界を牽引する存在になるなんて思ってもみなかったよなぁ。

「――なんか握る手が強くなったように思うんですが」

「今別の女のこと考えてたでしょ」

 す、鋭い……!

「変なこと言ったらそのまま握りつぶす」

「いやさ、甘いもの好きって前に銀子ちゃん言ってたのいつだったけなって思って、そしたら一年以上前で、その頃は今みたいな関係になれるなんて思ってなかったから、感慨深いなぁって」

「――許す」

 情状酌量、というか嫌疑不十分で不起訴になったようだ。これ自体は一切嘘はついていない。

 というより、その頃は、俺も含めて誰をも歯牙にもかけず、独りでにプロへと行くものだと思っていたから。ずっと好きだったけど、銀子ちゃんがそうなら、俺は一生独身かな、ぐらいのことは考えていたわけで。

 銀子ちゃんの弱さを知ったのは前回の竜王戦の時だ。思っていた以上に俺も銀子ちゃんに依存していると気付かされたのは蔵王先生に負けた時だ。絶対に銀子ちゃんから離れないと決意したのは銀子ちゃんの三段リーグの三連敗の時だ。そして今に至ったこの関係を、どこかでまだ信じ切れていない俺がいる。

「あ、そうそう、ところで店員さんに何尋ねてたの?」

「あぁ、あれは紅茶を知りたかったんだ。フレーバーとかのブレンドは社外秘ってことだったけど、類似品はその場で売ってたからつい買っちゃった」

「あぁ、その紙袋はそれなのね。にしても、八一が紅茶に拘るとはねぇ……」

 俺が拘っているわけじゃない。どうせなら、ご相伴にあずかれれば、と思っただけだ。銀子ちゃんがスイーツを楽しみたいなら、いい茶葉を添えられればいい。ついでにうちにも少し持って帰ってあいに淹れてもらえれば楽しめる機会も増える。

「……やっぱり別の女のこと」

「今のは日常生活の質向上を考えてただけだから!」

「まぁ、小童のことをないがしろにするわけにもいかないわよねぇ……」

 あれ、珍しく理解が早い。いつもならすぐにでもこきおろしそうなところなのにな。

「今の私はね、八一に取ってもらった予約のお陰で気分がいいの」

 そして、その俺の考えを見透かすかのように、俺の顔を覗き込んできた銀子ちゃんはいつになくドヤ顔をしていた。

「だから、カノジョの機嫌を取りたかったら、ちゃんと私を一番だって認めること。いい?」

 ――どういうことだ? そりゃあいだとか天衣だとかの面倒を見ることはあるし、そうじゃなくても付き合いはあるけど、付き合いは銀子ちゃんも一緒だし。そもそも銀子ちゃんをないがしろにしたことなんて……あったわ。前回の竜王防衛戦だったわ。

 ともあれ、そんな俺の彼女に対して、ぶつける疑問はただ一つ。

「昔から銀子ちゃん一人が好きで、ずっと銀子ちゃんしか見てなくて、今後も銀子ちゃんしか見えないんだけどなぁ?」

 周りがなんと言おうが、俺からすればこれが真実だ。そりゃ弟子のため誰かのためはあるけど、それを男女の仲と考えるのは早計だと俺は思う。

「というか、そこまで心配させるようなことってあったっけ?」

「あったじゃない!」

 急に、銀子ちゃんが腰に手を当てて俺の前に立ち止まるようにする。それは、今更ながらに少しだけ年下の姉の風格を漂わせていた。

「いっつも目を離せば幼女に囲まれてるし! 八一が無自覚な間に誰か女性が近寄ってるし! そして八一はそれを歯牙に掛けるどころかそもそもそれに気付いてすらいないし! どんだけ私がやきもきしなきゃいけないと思ってるのよ! 私が知らないとこでも色々してるんでしょ! もう言うのも諦めたのとかいるけど! 八一から近づかせるわけにはいかないでしょ彼女として! ほっとくと何するかわからないし! それを全部私に向けなさいよ! 心も体も隅から隅までまた見せてあげるわよカノジョとして!」

「わかった、ストップ、ストップ! 人目、人目っ!」

「はっ!?」

 何か既視感があった。路上だから押し倒されるなんてことはなかったろうけど、でも同じことされたらたまらないから、そうなる前に今回は俺から銀子ちゃんを引き寄せる。

「はーい、落ち着いてー」

「えーっと、ひっひっふー」

「いやなんでそれ……」

「八一との子供は早めに欲しいし、練習できる内に……」

「あのね……あのねぇ……」

 思うんだけど、絶対銀子ちゃんって天然だと思う。そうでなければこうも悩殺されそうな言葉をいとも容易く吐けない。

 それともあれか。俺の前でだけ天然なのか。これまで時にはきつく当たってきたことへの反動なのか。そうだとするならば嬉しい。嬉しいけど、後が怖い。主に俺の理性が。

「――うーっ!」

 そんなことが脳内で巡っていると、恥ずかしくなったのか、急に銀子ちゃんが可愛い唸り声をあげる。

「じゃぁ! 買い物! 私が満足するまで八一持ち!」

「突然暴論だな!」

 突然突きつけられるにしては割と無茶苦茶な条件だ。そんなもの普通なら駄目と返すとこだ。そうなんだけど。

「でもまぁ、それくらいならね」

「え、本当にいいの?」

「いやまぁだって、元からそのつもりだったし……」

 お生憎様。俺は竜王だ。竜王戦の賞金を中心に、年間収入が五千万を超すトッププレーヤーだ。それを抜きにしても、なんだかんだお互いの総資産額は把握しているような仲なので、銀子ちゃんもある程度はわかってて口にしているとこはある。

 一方の銀子ちゃんは、いくらアイドル的な人気を博そうとも、当の銀子ちゃんが拝み倒されても連盟の広報活動すら出てこないとなると、案外収入には開きが出てしまう。俺の竜王の矜持というのもあるけど、学校生活も兼ねた銀子ちゃんの懐事情は、皆が思う程いいわけではない。

 そりゃね? 早い内にね? これらを一つの『幸せ』という形にしたいとは思うけどね? でもそれまでに為さなきゃいけないことも、守るべきものもあるから、まずはそれを着実に遂行できるように。

「で、でも、欲しいものは色々あるんだけど……」

「まぁそこはほら、彼氏による彼女へのプレゼント代わりってのと、プロ昇格記念ってのとで」

「……甘える」

 素直になってくれてるなぁ。それだけで俺は、もう何してもいいって思えるよ。

 それからは、ゆったりと散歩をした。西新宿のビジネス街に大阪の中之島との違いを見て、都庁の展望台登ってみて東京の広さを実感して。あまりゆっくり東京を歩く機会がなかったから、これだけでも俺たちにとってはする機会のなかった普通の東京観光だ。

 右手に温もりを感じて、どうでもいいことでおしゃべりをして。将棋のしの字は、二人きりの誰にも邪魔されない幸せな時間のしの字となって。

 思えば将棋以外の話をここまで延々としたことはなかった。将棋で繋がった関係だったから、将棋の話をしていなければ途切れてしまいそうだと思い込んでいたのかもしれない。

 もう、そんなことを気にしなくてもいいんだよな。将棋は生きるために必要だけど、それだけしか語らない必要もない。だったら、俺から色々聞きたいな。銀子ちゃんの好きなこと。俺でも気付かない内に変わっていた趣向とか。

「――で、あれだけ食べて、そこからアイスねぇ……」

「食べたいものは仕方ないでしょ!」

「まぁ付き合うけどさ。どうせなら同じことしたいし」

 そして俺は二段、銀子ちゃんは三段のアイスを注文する。俺が頼んだ味が銀子ちゃんと完全に被ったのは想定外だったけど、案外味覚も似た者同士なのかもしれない。

 それにしても、アイスが三段も重なると中々壮大だ。一つは大きすぎないはずなのに、縦に重なることにより『圧』が生まれる。誰かに写真撮ってもらえばわかってもらえ――ないだろうな。さっき風景写真撮ってる人がちらっと見えたけどすぐにどっか行っちゃったし。広い新宿の街の片隅に写る三段のアイスはどのように写っているのだろう。

 とりあえず、俺のは二つにして正解だった。さっきまでの食べ放題で割と腹は膨れていたし、三つだったら厳しかった。アイスはなんだかんだカロリーが高いし、勢いで買っちゃったけど結構いっぱいいっぱいだ。

「よくあれの後で三つも行けるね……」

「だって甘いのは別腹だもーん」

「さっきまで別腹に入れてたんじゃなかったの?」

「あれは主食だから」

「パンがなかったからケーキを食べたって?」

「そうそう。あってもケーキ食べるけどね」

 流石甘党だ。ダイエットもしてないから、食べたいだけ食べれるだろう。俺としてももうちょっと肉と体力をつけた方が健康としてもいいと思うから、是非とも食べられるだけ食べて欲しい。

 と、そこまで思ったところで、銀子ちゃんの持つアイスの、俺が頼まなかった色のアイスが目に入る。

「そういえば、その最下段のアイスってなんだっけ」

 抹茶より色が薄く、だけど独特の緑色をしたアイスは、寡聞にして記憶から出てこない。

「これ? これはピスタチオ」

 ナッツの一種、だったか。そういえば最近夙にアイスで出てくるようになったのをどこかで見かけたんだった。

「そういや味知らないかも、俺」

「――食べる?」

 それは、中々魅力的な提案だ。気に入ればまた別の機会に頼めばいいし、そうでなければそれがないだけに出来る。

「それじゃぁ、お言葉に甘えて」

 そう言って、銀子ちゃんからコーンを受け取ろうとする。だけど、手を伸ばすと、コーンがすっと離れていった。手を降ろしてみると、今度は口元にそのコーンが伸びてくる。

「ほら……あーん……」

 なんだろう、彼女にあーんしてもらえるって一つの夢みたいなとこがあるのに。しかも銀子ちゃんにしてもらえるだなんて全く思ってなかったのに。

 正直に言おう。少し怖い。何が怖いって、明らかに銀子ちゃんが緊張でガチガチに固まっている。だけど、恥ずかしいんだ、と認識することによって、寧ろすっと楽になった。

「ちょっと失礼」

 念のため、そう念のため、銀子ちゃんの右手に俺の左手を添えてアイスを一口齧る。すっきりとした甘みが口いっぱいに広がった。また頼むかは――その時の気分次第か。これ以上はご遠慮、というわけではない。

 それより、今の事を思い出しそうだ。うん、やっぱり迂闊には頼めないかもしれない。

「……どう?」

「思ったよりさっぱりしてる、かな」

 まぁ、味に関しての率直な感想としてはその通りだ。勿論、俺の頭にはそれ以上のことが渦巻いている。

 で、これなら、逆に俺がやらない義理もなくて。そして俺が持つは、食べ残しに近い一口で放り込める程度のコーン。底にはアイスが溜まっている。

「ほら銀子ちゃんも。あーん」

「え、ちょっと、残りのコーンをあーんって、えっそれって、それって……!」

「――多分銀子ちゃんが思ってる通りじゃないかな」

 そう、多分。このままだと、恐らく絵面としてそうなるけど、俺だって恥ずかしくなるのを我慢してそれを口にしているんだ。

「えっとそれじゃぁ……」

 一口残ったコーンが、銀子ちゃんの口にぱくりと吸い込まれる。必然的に、俺の指先までが生暖かいものに覆われる。

 少しだけ、じゅるりという音が聞こえた。それと共に、人差し指に少しだけざらついた感触が走って、背中を電流が走り抜ける。

「……左手でよかったぁ……」

 飲み下してから、うわ言のように呟いた銀子ちゃんが、あまりにも艶めかしい声を出すので、それからしばらくは、その衝動を抑えるのに必死だった。こんな表情と声、絶対に誰であっても見せるわけにはいかない。

 でも確かに、右手じゃなくてよかった。右手だったら多分銀子ちゃんが完全に欲情してた。脇に『そういう』ホテルもある環境だから、それも含めて歯止めが利かなくなるところだったろう。誰もいない室内なら間違いなく襲っていた。

「かっ、買い物よね、い、行くわよ!」

「お、おぅ!」

 無理にでも気合を入れて、買い物へと向かう。人目が多いなら、変なことにはならないだろう。変な空気になる前に、まずはそういう場所に身を置かねば。

 それにしても、改めて新宿を歩いてみると、案外緑が広がるポイントが散らばっていた。西新宿の先には新宿西口公園。東口は新宿御苑。少し離れた南側には明治神宮と、どこかに緑が集積するポイントがある。大阪は、あまりそういう場所のイメージがないから、中々新鮮だ。

 そしてそれらの真ん中の新宿東口は、どこを歩いても買い物をするにはいい店が広がっている。正直、まとまり方という意味では難波心斎橋界隈の方が歩きやすいようには思うけど、人口も多い分広がるのは仕方ないのだろう。

 よく危ない街と言われる歌舞伎町も昼間は普通の歓楽街なんだなぁとか、ちょっと地下潜ってみたら確かに迷いやすいけど梅田程じゃないなぁとか、銀子ちゃんと一緒に足跡を付けていく。それはさながらかつて道場破りを一緒にしに行った時のようで。そしてあの時と変わらず同じように、手を繋いでいる。

 そうして、幸せな時間が過ぎるのはあっという間だ。前にもこんなことがあったように思うけど、今日はそれまでより何倍も短く感じる。付き合い始めという関係性と、ここが大阪ではなく東京だからというのもあるのだろう。

「と、いうことで、ぼちぼちいい時間だけど、そろそろ向かう? あまり遅くなりすぎても悪いし、将棋はやっぱちゃんとしないとだし」

「そうね。そろそろギア入れないと明日が勝てないもんね」

 二人きりの時間は、ゆっくり作っていけばいい。だけど、まずは目の前の一戦に勝てなければ、そんな時間を作りたくても作れなくなってしまうんだ。

 オンオフの切り替えも大事。それは、孤独な戦いに身を置く者に必要不可欠な技量。

「ということで、はい、これはプレゼント」

「あれ? これ八一がさっき自分のために買ったものじゃなかったっけ?」

「あぁ、いいんだ。普通に銀子ちゃんとデートもしたかったけど、理由としては後付けでさ。だからそれは、別に特別なことは何もないけど、彼氏からのプレゼントってことで」

「あ、ありがとう……」

 そもそも今日の買い物がほぼ俺持ちだから、ある意味では全部プレゼントだけど。でも銀子ちゃんが好きなように買ってったものだから、どうせなら、俺が銀子ちゃんのために考えて買ったものぐらいもらってほしい。

 そりゃこれくらいのお金には困ってないのもあるけどさ。折角だからそれ自体は大事にしてほしい。

「それにしても、こんないいもの急に私になんて、いいの?」

「いやまぁ、実を言うとおまけなんだよねそれ」

 実際、買い物自体は、銀子ちゃんに関しては後付けだ。そして俺は、三つ程の紙袋を下げた左手をひょいと掲げる。その紙袋一式に、目的の品が全て入っている。

「本命はこっちだからさ」

「――あぁ」

 それを見て、銀子ちゃんも納得がいったようだ。銀子ちゃんも納得の上でのもう一つの目的。

「それなら絶対外さないわよ」

 銀子ちゃんも中身を把握してるなら大丈夫だろう。失望される心配がないだけ気が楽だ。

「さて、それじゃぁ行く準備、っと」

 改めて紙袋を持ち変える。今のままでは負担が片側によってあまり宜しくない。

 そして掛け替えが終わって顔を上げると、銀子ちゃんがわなわなと震えている。

「わ、私は、いつの間にこんなに八一に持たせて……っ」

 確かに重いかもしれないが、我慢できない程じゃない。だけど、確かにこれは動き回るには不自由かもしれない。

 左腕に紙袋三つ。右腕に紙袋四つ。そして右手にはタピオカ。歩き回るのでタピオカミルクティーは小腹には案外丁度よかった。ともあれそんなわけで確かに腕にはいろいろと負荷はかかっている。かしゃかしゃと、紙袋の音と誰かが誰かに向けるシャッター音が混ざって、それが都会の喧騒の風景の一つに紛れていく。

「つ、繋げない……っ!」

「あぁ、手を?」

 そっちか。確かに少し寂しい感はあるけど、でもそこまで拘るほどのことでは――。

「なんて馬鹿なの……! 買い物なんていつでも出来るじゃない……! だけど八一の右手は唯一無二なのよ! それを紙袋で占めるわけにはいかないじゃない……! 刻一刻と変わるものを、どうしてそんなもので埋めてしまったの私は! どうして! どうして……!」

「おーい、銀子さーん? 銀子さーん!?」

「――はっ!?」

 今回は別の意味で危なかった。というより俺の右手そんなに変わるのか。第二次性徴も終わったし、もうそんなに変わることもないと思うんだけど。それともあれか、銀子ちゃんは俺でも気付かないごく僅かな変化も知ってるのか。寧ろ怖いな。

「えっと、今、私どこまで……?」

「俺の右手萌えってことを社会に発信しようとしていたかな……」

 新宿の空に、銀子ちゃんの絶叫が響き渡――る前になんとかして左手で口を塞いだ。危ない危ない。

 

 

 

 ぶらぶらと歩けるかな、ということで、明治神宮にお参りをして、そのまま原宿まで辿り着く。千駄ヶ谷の方まで行くと流石に遠回りだし、何より明日顔を出すのだから、どうせなら行ってないところを歩きたかった。あとあっち行くと知り合いに会って気まずそうだし。気まずくなくともおちょくられるのは目に見えている。

 新宿から原宿までは、案外遠くないのだな、と思った。イメージ的には梅田から本町ぐらいだろうか。そりゃ、いつもの移動なら電車に乗る距離かもしれないけど、彼女とゆっくり歩くだけなら丁度いい距離かもしれない。銀子ちゃんもこれくらいなら疲れすぎず、だけどしたいと以前口にしていた軽い運動になってよさそうだ。二人きりの時間も簡単に捻出できる。

 原宿は、目的地になることが多かったから、買い物は原宿以外、というのは銀子ちゃんたっての希望だった。だから、食べ放題の予約も新宿にした節があったし、買い物も新宿メインにしていたのだけど、これなら次も同じようにしてもいいかもしれない。

 そして辿り着いた先――シュネーヴィットヒェン。特に時間指定はしていなかったけど、午後辺りに訪問するとしていたから、丁度いい時間だろう。

「待っておったぞ、銀子。そして若き竜王」

「ご無沙汰しております。釈迦堂先生」

 そして入れば、俺たちにとっては聞き慣れた、慇懃な声が響く。

「余の城に二人して訪れるのは昨年以来であるな。それこそ暑い日であったか。ひとまず、二人の関係が変わって何よりだよ」

 釈迦堂さんは、あの時あの場にいたから諸々の経緯は全て知っている。というより俺が銀子ちゃんを迎えられた立役者の一人だ。

「あの時の銀子は今思い返しても傑作であるな……!」

「ちょっと、先生……」

 釈迦堂さんに言われて、前回ここを訪問した時のことを思い出す。こうも語るということは、あの時銀子ちゃんが着せられていたドレスのことだろう。

 確かにあれは可愛かったし、先日ちょっと着てもらったけどさ。そしたら可愛すぎて人事不省になりかけたよね。こんな可愛い彼女残して俺の亡くなった祖父に川挟んで再会しかけてたよ危ない危ない。

「言っておくが、ドレスのことではないぞ」

 だけど、そんな俺の考えを見透かしたのか、釈迦堂さんはそれをすぐさま否定する。隣では銀子ちゃんも同様になんのことだか考えを巡らせていた。

「余が傑作だと申したのは、その前の――」

「せ、先生っ!」

 途端に、銀子ちゃんが必死になってその後の言葉を否定しようとする。何かあったっけと思ったが、咄嗟には出てこない。

「あれ、その前って、えーっと」

「いい! 八一は思い出さなくていいから!」

 と言われたところで。その前と言うと。歩夢と研究してたのは恐らく別で。その前は銀子ちゃんと釈迦堂さんが一戦交えて銀子ちゃんが負けて。あれ、確かその際の釈迦堂さんの言葉って。

「――あー……」

「あーって何よあーって! だから忘れなさーい!」

 ごめん銀子ちゃん、もう手遅れ。ついでにたった今脳裏に深く刻まれたよ。

「くくくっ、やはり銀子も若い娘と言うことだな」

「先生も煽らないでくださいっ!」

「ほぅ? 竜王とデートをするために、以前ここで撮影をした際の衣服を送ってくれと連絡したのはどなたであったろうな? それをたった今着ているのは誰であろうな?」

「ちょっと! その話は!」

「これ、俺聞いてていいの……?」

「駄目に決まってるでしょ早く忘れろ忘れなかったら八一を殺して私も死ぬっ」

「死ぬな殺すな早まるな!?」

 我ら生まれた日は違えど死ぬ日は同じ――って流石にこの理由はやだよ勘弁してよ。そりゃ銀子ちゃんと共に死ねれば最高だろうけどさ。それは何も今じゃない。

「ふっ、白雪姫をこうも骨抜きにするとは、流石我がライバルよ」

 やいのやいのしている内に歩夢が二回から下りてくる。白いマントを翻させながら下りてくる図は、棋士ということを抜きにして他では中々見ないはずなのだけど、どうにも見慣れてしまっているところに感覚の麻痺を感じる。

「随分と遅かったが、彼女とデートしていたのか?」

「そうだな、たまには将棋のこと忘れて頭空っぽで歩き回ってたわ」

「ふむ……それでその荷物か。まぁなんだ……それでいいのか?」

「何がだ? 寧ろオンオフはしっかりしたつもりだけどな」

「まぁそれならそれでいい。あのような二つ名を勝手に授与されるなら心配にも及ばぬだろうが……」

「何か問題あったか?」

「いや、既に我に週刊誌ばりの密着取材的な連絡が入っててな」

「はぁ?」

 歩夢にSNSに送られてきた画面を見せてもらう。うわ、二人でアイス舐めてる場面がばっちり写ってんじゃねぇか。

「なんっっっだこれ!? 全く気付かなかったぞ!?」

「八一も!? 何これ、私達追っかけられてたってこと!?」

 違う――写真撮ってる人見かけたけど、あれがその人ってことか! 全然意識してなかった!

「黒い小童の連れなんかより普通に隠れてたよね!?」

「いや、あくまで見かけて写真撮っただけだそうだ。我は知らぬが本当にたまたまだったらしいぞ? 真意は当人に尋ねてくれ」

 もう一枚見せてもらう。いや何これ。銀子ちゃんがあわあわしてる中俺が紙袋持って頭に『?』浮かべてんじゃねぇか。手繋げないってなってた一幕だなこれ。そういえばシャッター音聞こえてたわ。あれか。

「ちなみにやり取りしてる相手の欄の通り撮影者は鳩待五段だ」

「よし次当たったら意図的に二歩打たせるように仕向けよう」

「ドラゲキン! それはあくどすぎるぞ!」

 口笛を吹きながら視線を右に逸らす。その先にいるのは銀子ちゃん。

「何よ、何か顔についてる?」

 お前だお前。意図的に『そういう差し回し』をして相手を反則負けにさせたのは先にやってただろう。俺の弟子相手に。

 そりゃ鳩待五段の二歩は俺にとっては大助かりな場面だったけどさ。でもそれとこれとは話が別だ。

「まぁいい……さてドラゲキン、いい加減その紙袋群を置いたらどうだ? ずっと持っているのも辛かろう」

「あぁそうそう、手土産をね、一応な」

 中身をそれとなく確認し、銀子ちゃん向けのそれとそれ以外とをわける。いや、半分以上が銀子ちゃん用の紙袋じゃねぇか。こうして見るとまたたんまり買ったな。

 そして、その内の一つを手に取った時、釈迦堂さんの目の色が変わる。

「竜王。これは我への手土産とは違うな?」

 ――流石に釈迦堂さんの観察眼の前にはバレるか。

 まぁ、もうここまで来たら隠す意味もないから言うしかないか。どうせもうそのタイミングだし。

「釈迦堂さん、すみません、その紙袋だけちょっと失礼します」

 紙袋を受け取った俺は、『それ』を袋から出して。

「はい、これは歩夢に」

 その全てをそのまま手渡しする。

「今更手土産か? 我のことはそこまで気にせずともよかろう。それならまだ馬莉愛に――」

「そうじゃなくてさ」

 そうじゃないんだ。だって、それはおまけなんかじゃない、謂わば本命なんだから。『これのために予定を全て調整した』んだぞ。

「まぁ、特別な理由があるか、と言われたら、ない、とも言えるけど――」

 そう、歩夢との関係は、銀子ちゃんと供御飯さん・月夜見坂さんに次いで長い付き合いだ。そして、俺からすれば銀子ちゃんを別にすれば一番密に付き合ってきた同年代の相手でもある。

「でも、帝位戦の第一戦の時、副立会人を歩夢が務めてくれたのって、つまりはそういうことなんだろ? 俺と銀子ちゃんが、すぐにでも気持ちを伝えられるようにって」

 そしてそれは、俺が於鬼頭二冠に勝つということをみんなが信じていた証左でもあった。そうでもなければ、あぁも俺に対して親しい人ばかりが集まるわけもない。

 勿論、みんなへの謝意はあるけれど。まずは、一番の立役者にありがとうを。

「ありがとな親友。だからこれは、俺と銀子ちゃんのせめてもの、ほんのささやかな気持ちです」

「我への……か……?」

 歩夢が目をぱちくりさせている。少なくとも、サプライズは成功したと見てよさそうだ。

 本当にたまたまだったのだ。食べ放題の店で使っていた茶葉は、スイーツにも合うように調合された最高級品で、だから紅茶をどこで買おうか悩んでいた俺には渡りに船だった。

 だから、本当は、ショッピング自体はそれが前提だった。極論、銀子ちゃんとのショッピングはおまけだったのだ。

 食べ放題の店で買い足せた紅茶と、それに合いそうなティーカップのセットと。そして歩夢に似合いそうなその手の衣装一式と。矢継ぎ早に歩夢の手にそれら紙袋を握らせる。目が白黒している内に、事態を理解させる前に。

 特に衣装は大変だったんだぞ。俺が実際に着せられることとなって、それを銀子ちゃんがパシャパシャ撮ってくから。だから今一番人に見せられないのは銀子ちゃんの携帯のアルバムだ。あれが流出したら名実ともに魔王のあだ名を認めることとなってしまうだろうし。

「受け取るのだ、ゴッドコルドレン。好意は無碍にするものではない」

「わかっておりますマスター。いや、しかし……我はそれまでのことをした覚えは……」

「あーもう! 覚えなんてなくていいから!」

 どうやったらすんなり受け取ってくれるか頭を悩ませてると、すっと銀子ちゃんが一歩前に出た。

「これ自体は八一からの提案で、私は便乗しただけに過ぎない。だけど、確かに私が歩夢くんにしてあげられたことなんて殆どなくて、それでも感謝の気持ちは伝えたかったから――」

 少しだけたどたどしいそのコメントは、銀子ちゃんの精一杯ということがわかって、そしてそれが故に伝えようとすることは実にシンプルで。

「だから、ありがとうね、『歩夢くん』」

 そう、俺ですら数年ぶりに聞いた呼び方でそれを締めくくる。

 それは、初めて歩夢が清滝家を訪れてから暫くの間銀子ちゃんが呼んでいた呼び方で。それが、将棋なんて関係ない、素直な感謝の気持ちであるという証明だった。

「お二人共、満足か?」

 釈迦堂さんが俺たちに声をかける。少なくとも、伝えたいことは伝えたつもりだ。

「――まずは紅茶の味を見させて頂こうか。マスター、お茶会の準備をしても宜しいでしょうか?」

 歩夢の第一声はそれだった。それでいい。ゆっくりと、俺たちの感謝の意味を咀嚼してくれればいい。

「そうであるな。我も是非ともこの紅茶の毒見をしたい。竜王、ご相伴に与ってもよかろう?」

「ええ、是非とも」

 だから、感想はそこでゆっくりと聞くことにしよう。将棋で繋がったみんなと、たまには将棋を交えない話を以てして。

「馬莉愛ちゃんもいるなら呼んでやってください」

「――やっぱり」

「いや違うからね? 幼女云々じゃないからね?」

「そうだよねー。八一は私の事だけ見てくれるって誓ってくれたもんねー?」

「いや待って言った覚えないよ!? まぁそのつもりだけどさ!? というか突然素直になるのなんなの!?」

「我は準備だな……砂糖は今日はいらぬな……」

 あぁほら、歩夢が完全に呆れ返ってるから! 釈迦堂さんも意味深な笑顔浮かべないで!

「だって八一は私のためにこうやって色々買ってくれるもんね」

「お金なの!? 俺の愛は金額換算でそんなもんなの!? あと銀子ちゃんが別途払う機会作るって話だったでしょ! というか金換算しないでよ悲しくなるから!」

「んー? 私が欲しいものは他にもあるもの。指輪とか指輪とか指輪とか」

「あぁもうわかったよ買えるもんならなんでも買ってやるから!」

「成程、ならば我もドラゲキンの財布にたかってもいいのだな?」

「ええいいわよ。彼女特権で私が許してあげるから」

「そこで歩夢出てきて便乗すんのなんなの!? それと銀子はあとでお仕置き!」

「お仕置きって、もしかして、私にあれとかこれとかするつもりっていう……」

「違うそうじゃない顔を赤らめるな!」

「――やはりバカップルというのがふさわしいな、この二人は……」

 

 まぁ、二人へのプレゼントのためのような感じで、結局六桁行くぐらいのことにはなってしまったわけだけど。

 でも、いいよね、たまには。こんな感じで散財したって。

 だって、二人共、俺のかけがえのない人なんだから。


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