怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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髑髏島編、完結です。


ゆけ!ゆけ!タチバナ=リリセ!!謎の原住民族は実在した!魔境:髑髏(ドクロ)島の奥地に幻の巨大なる魔神(ましん)を追え!! その3

 コングとエビラの対決。

 先手を打ったのはコングであった。

 

 エビラ目掛けて、その逞しい腕を思いきり振りかぶるコング。先程スカルクロウラーをブッ飛ばしたコングの必殺ストレート。

 怪獣もまとめて叩きのめすコングの鉄拳がエビラの甲羅に炸裂。続けてコングは足を振り上げ、エビラの胴体へ滑らかな回し蹴りを叩き込む。

 メガトンパンチとメガトンキックのダブルコンボ。空気の破裂音が轟き、殴られ蹴られた衝撃でエビラの巨体が後退した。

 

 だがエビラには効いていない。

 エビラは後ずさりこそしたものの、ダメージは受けていないようだった。重爆撃にも耐えるエビラ自慢の甲殻には、コングのパンチさえも通用しないのだ。

 コングに殴られたエビラは、反撃に打って出た。自慢の大鋏を、殺人鬼の大ナタさながらに高々と振り上げ、コングの脳天めがけて振り下ろす。

 脳天唐竹割りで頭蓋をカチ割られる刹那、コングは両掌を頭上で力一杯合わせ、エビラによる万トン級の一撃を受け止めた。真剣白刃取りだ。コングの両脚が砂浜へ深々とめり込み、二大怪獣の足元で白い砂塵が爆風のように撒き上がる。

 エビラの縦一閃をいなしたコングは、大声で吼えながらエビラに反撃のパンチを喰らわせた。

 

 激烈な打撃と斬撃の応酬、ますます白熱してゆくコングとエビラの怪獣プロレス。

 パワーは両者とも互角。

 スピードや手数はコングの方が上だったが、防御が硬すぎてエビラにコングのパンチ攻撃が通らず、決定打には至らない。

 一方エビラもクライシスシザースでコングを叩き斬ろうとするが、動作が大振りな上に動きのパターンが薙ぐだけなため、コングに難なくいなされてしまう。

 事態は膠着しつつある。となると決着は体力勝負の持久戦、どちらが先にへばるかというスタミナ勝負になってくる。

 そんな二大怪獣の対決を見守るわたし、タチバナ=リリセ。

 

 ……まずいな、と思った。

 

 この勝負がスタミナ勝負だとすれば、コングの方が圧倒的に分が悪い。

 コングの攻撃はパンチもキックも通用しないが、エビラの攻撃は大振りとはいえ遠心力に乗せた大技であり、スピードも破壊力もある。ほんの一瞬の油断が命取りになりかねない。

 またコングは身を躱さなければならないが、エビラは違う、甲羅で上手く捌けばいいだけだ。これだけで全然違うというのに、おまけにコングは砂場で足を取られ余計に体力を消耗する一方、エビラにとって海辺はホームグラウンド、地形の差も大きいはず。

 

 事実、コングは肩で息をしはじめていた。

 わたしの見立てとおり、著しく体力を消耗しているのだ。

 俊敏な動きでエビラのクライシスシザースを躱し続けていたコングだったが、とうとう疲労が足にきたのか、不意に足元が砂に取られてふらついた。

 その隙をエビラは逃さない。ハンマーよりも重い右鋏の隙間を縫うように、レイピアよりも鋭い左鋏で切りかかる。咄嗟に胸を逸らすコング、だが躱しきれずに大胸筋に皮一枚の切り傷を作ってしまった。

 コングはそのままバック転で身を翻して距離を稼ごうとするが、エビラは容赦なく距離を詰めてゆく。

 それでもまだ戦おうと立ち上がり、挑みかかるコング。もうしばらくは戦い続けてくれるだろうが、それも時間の問題だろう。

 

 コングのために何か出来ればいいのだけれど、とわたしは周りを見回した。

 しかし見えるものといえば広い砂浜と石ころ、そしてジャングルだけ。

 ……メカゴジラⅡ=レックスとメカニコングの対決を思い出す。あのときは咄嗟にモゲラに乗って加勢できたけれど、今回そんなものはない。ちっぽけな人間でしかないわたしに出来るのは、ただ勝負の趨勢を見守ることだけだ。

 わたしが歯痒さを噛み締めていた、そんなときだった。

 

 

 ジャングルから大喚声が聞こえてきた。

 

 

 雄叫びを挙げ、ジャングルの奥から続々と現れる人影。

 森をくぐりぬけ月明かりの下へと姿を現せば、その正体はさきほどわたしを捕まえた髑髏島の原住民族たちだ。

 ただ先と違うのは皆が背中に籠のようなものを背負っていること、そして軍団の先頭を切っている人物が村長(むらおさ)じゃないことだ。

 原住民軍団を率いる人物、わたしは()()の名を叫んだ。

 

「エミィ!!」

 

 我が麗しの妹分、エミィ=アシモフ・タチバナは原住民たちの先陣に立つと、エビラを指差して号令した。

 

「みんな、やっちまえ!」

 

 エミィの指示に従い、原住民族たちは背中の籠から黄色いものを取り出し、次々と放り投げた。

 標的はエビラである。全長数十メートルの巨大怪獣を狙って、原住民たちはその黄色いものを次々と投げつけてゆく。

 ……まさかエミィはエビラと石礫で戦うつもりなのだろうか? いや、相手は怪獣、それも外殻の頑強さでは上から数えた方が早いと言われるほどのエビラである。そんなもので勝てるはずがない。

 ところが、である。

 

 ギーッ!!

 

 驚くべきことが起こっていた。

 なんとエビラが、甲高い悲鳴を挙げながら後退し始めたのである。

 先程の猛攻っぷりはどこへやら、コングや島のことなどそっちのけでじりじり後退しはじめるエビラ。軍隊の爆撃を受けても気にしないはずのエビラが、ただ黄色い塊をぶつけられただけで怯んで逃げ出そうとする、実に異様な光景。

 

 手品のタネはすぐに割れた。

 エミィたちの指示で原住民族たちが投げつけているのは、籠いっぱいの黄色い木の実だ。

 そこでわたしはようやく思い出した。

 ……獰猛極まりない深海の恐怖として知られる大海老怪獣エビラ。

 だが、実はとんでもない弱点がある。エビラについて書かれた怪獣図鑑ならどんなものにだって載っている、とても有名な弱点だ。

 

 エビラは、果物の汁が苦手だ。

 

 どういう理由なのかはよくわかっていないらしいのだが、エビラはとにかく果物の臭いを嫌う。特に苦手なのは南洋レッチ島原産の柑橘類で、その汁を海に撒いただけで怯んで逃げてしまうほどだと云われている。それと同じもの、もしくは近しい種類の柑橘類がこの髑髏島にも自生していたのだ。

 今にして思えば、わたしたちを追ってきたはずのエビラがジャングルまで攻め込んでこなかったのは、この島の森に自分の苦手な木の実が自生していることを知っていたからだろう。

 

 その苦手な黄色い木の実を、エミィ率いる髑髏島の原住民族たちはエビラ撃退作戦に用いていた。

 ある者は素手で、またある者は投石紐(スリング)で、またある者は弓矢の鏃に括りつけて。各々が工夫しつつ、それぞれのやりかたでエビラへ木の実攻撃を仕掛けてゆく髑髏島民たち。

 黄色い木の実はエビラの赤い外殻へ次々と命中、木の実をぶつけられるたびに柑橘系の酸っぱい匂いが一帯に漂い、同時にギーッと殻を擦り合わせるようなエビラの情けない叫び声が轟く。

 ……今日は思わぬ逆襲に遭ってしまった、()()()撤退して、後日また改めよう。そんなことでも考えたのだろうか、頭から尻尾の先まで黄色い汁まみれになってしまったエビラはとうとう踵を返し、もと来た海へと撤退し始めた。

 

 

 その背後に『巨神』が立つ。

 

 

 戦いの最中に背中を向けるマヌケな(エビラ)を髑髏島の(キング)、コングが見逃してやるはずもなかった。

 コングは丸太よりも逞しい左右の剛腕で、エビラの尻尾を引っ掴んだ。エビラは鋏を振って藻掻いたが空を挟むばかり、コングの怪力からは逃れられない。

 エビラを捕らえたコングは続いて尻尾を担ぎ上げる。エビラの巨体が宙へと舞い上がる。そして力一杯に振り下ろす。

 叩きつける、何度も何度も。

 どしーん! どしーん! どしーん!

 数万トンの巨体が砂浜および磯へ叩きつけられ、砂と石の混じった爆風が撒き上がる。エビラ自身の巨体と重量が仇となり、地面へ衝突するたびにエビラは悲鳴を挙げて弱ってゆく。

 

 散々叩きのめされてグロッキー状態のエビラに、コングは容赦ない追撃を加える。

 尻尾を掴んだまま今度はエビラの巨体を左右に引きずり回し、加速をつけたところで砲丸投げの選手さながらの大回転で振り回し始める。

 エビラの巨体が浮き上がり、コングを中心に砂浜でひゅんひゅんと風を切って大真円を描く。

 コング必殺、豪快なジャイアントスイングにエビラは為す術もなかった。ただ哀れな悲鳴を挙げながら振り回されるだけである。

 

 そして、コングは手を放した。

 

 エビラの巨体が、時速数十キロ近い加速がついたまま海へと投げ飛ばされる。

 数百メートルも宙を舞っただろうか。エビラは遠い沖合までフッ飛ばされて墜落、海面に激突して豪勢な噴水の水柱を立ち上げた。

 水柱が収まった向こう、目を凝らしてみれば髑髏島に背を向けて撤退してゆくエビラの後姿が見える。ここまで痛めつけられれば二度と近寄っては来ないだろう。

 

 そんなエビラを見届けたコングが吼える。

 髑髏島の王、その勝鬨の咆哮は島中へと響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 戦いが終わり、わたしは砂場を全力ダッシュした。

 向かう先は決まってる。誰よりも大事な妹分、エミィ=アシモフ・タチバナだ。

 エミィもこちらに気づき、わたしの方へと向かってくる。

 

「エミィ!」

「リリセ!」

 

 わたしとエミィは互いに駆け寄り、互いの無事を確かめ合った。

 顔中に白粉だか染料だかを塗りたくられ、リオのカーニバル重装甲スペシャルみたいな派手な衣装に着替えさせられていたが、エミィ本人は無傷そのものだ。

 ……よかった。わたしはエミィをぎゅっと抱き締めた。今度こそ離すものか、絶対に。

 

「! うぷっ!?」

 

 と、途端にエミィが鼻を摘まんで呻いた。

 

「くっさ! なんだこの臭い!?」

 

 エミィに突き放され、わたしは自分の体の臭いを嗅いだ。

 怒涛の展開が続いていたせいか自分では気づかなかったのだが、全身が粘液まみれでベトベト、しかも変な臭いがする。スカルクロウラーに舐められたせいだ、あいつの生臭い悪臭が染み付いてしまったのだろう。スカルクロウラー、思い出すだけで気分が悪くなる。

 

「何があったんだ??」

「……うふふ。聞きたい?」

「……やめとく」

 

 虚ろな目つきと乾いた声で笑って答えるわたしの様子からエミィは何かを察したようで、それ以上踏み込んでこなかった。ホント善い子だ、マジマイエンジェル。

 そのとき、エミィの傍までやってきた女の子――このとき初めて、最初に出会った島の『司祭』の正体が女の子であることをわたしは知った――が顔を上げて叫んだ。

 

「コング! コング!」

 

 彼女の言葉と同時、わたしとエミィの頭上に巨大な黒影が差し込んだ。

 原住民族たちも少女の声に合わせ、その背後にいる『影』へ一斉に跪いた。

 わたしたちもつられて振り向き、影を見上げる。

 

 そこに立っていたのはコングだ。

 

 足元で平伏し臣下の礼をとる、ちっぽけな人間たちを見下ろしながら立っているコング。

 月光に照らされた夜景を背負い、堂々と仁王立ちする威容。

 まさに王者の風格だ。

 

「こいつが、コング……?」

 

 エミィの呟きに、わたしは胸を張って応えた。

 

「そう、彼こそがキング・コングだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでそんな自慢気なんだ、おまえ」

 

 あ、あれっ、我ながらここ一番のキメ台詞のつもりだったんだけどな。胡乱な目つきをするエミィに、おもわず肩透かしを食らってしまった。

 まあいいや。気を取り直してわたしはエミィに、これまでの経緯をかいつまんで話した。

 エミィと引き離されたあとジャングル奥にある祭壇へ運び込まれたこと、森で怪獣スカルクロウラーに襲われたこと、そこへコングが現れて助けてもらったこと、などなど。

 

「――というわけよ。コングって凄いんだよ、手先も器用だし、力も強い!」

 

 わたしの言葉に合わせたかのように、コングの方も腕で力瘤を作りながらフンフンッと荒い鼻息を噴いた。コングもなんだか得意気だ。

 コングって案外御茶目なのかもしれない。そういう目線で見ればなんだかやんちゃで若そうにも見えるし。

 

ゴリラ同士だから気が合うのか……?

「なんか言った?」

「べつに」

 

 と、二人でいつものとおりじゃれ合っていたとき、空が急に明るくなった。

 夜明けにしてはまだ早いし、光源がかなり高い位置にあった。

 みんな一斉に頭上を見た。

 

 光っていたのは、小さな蝶々だった。

 

 月夜の中、光を纏って輝く蝶々が海を超え、ヒラヒラと懸命に羽ばたきながらこちらへと向かってきていた。

 その蝶に見覚えがあったわたしは、その名を叫んだ。

 

「フェアリー!」

 

 わたしの呼びかけにモスラの遣い、〈フェアリーモスラ〉は人懐っこく啼いて応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからの話である。

 

 まず、村長(むらおさ)からひどく謝られた。

 エビラ襲撃で大事な跡取り息子が怪我したことや、島の安全が脅かされてしまったことで、つい頭に血が(のぼ)ってしまっていたらしい。

 だからお詫びをさせてほしい、と。

 最初わたしたちは断った。エビラを呼び込んでしまったのは事実だしね、余所者が来て余計なことをやらかしたのだから怒るのは当然だろう。

 しかし、結局押し切られてしまった。フェアリーによれば迎えが来るのは三日後みたいだし、正直なところ髑髏島の人たちにもちょっと興味が湧いてきたところでもあったので、ちょっとだけ御邪魔させてもらうことにしたのだ。

 

 お互いに第一印象が最悪になってしまったが、村長は親しくなってみれば凄く気前の良い立派な人だったし、他の村人たちもみんな善い人ばっかりだった。

 髑髏島は犯罪もない、住人たちは皆謙虚で、外の世界みたいな行き過ぎた欲望とは無縁だ。

 ……あまり思い出したくはないが、ついつい孫ノ手島の怪獣大戦争を思い出してしまう。独善と欲望が入り混じった、醜悪極まりない人間同士の争い。だけどもしも世の中が髑髏島の住人みたいな人たちばっかりだったら、きっと世界だって変わっていただろうに。

 

 髑髏島の巫女:ダヨちゃんの案内で、髑髏島の“他の住人たち”も紹介してもらった。

 髑髏島の他の住人、それは怪獣だ。

 翼竜の変異種(サイコバルチャー)をはじめ竹林の大蜘蛛(バンブースパイダー)巨大な水牛(スケルバッファロー)特大サイズの枯枝蟷螂(スポアマンティス)……いかにも獰猛で凶悪そうな面々だが、わたしたちがコングの客人だと分かると皆歓迎してくれた。

 あ、スカルクロウラーは別よ、あいつらはコングと敵対しているらしい。他にもかつてパリを襲ったことで有名なゴロザウルスの近似種とか、コングにも敵はいないこともないらしいが、コングが島の王様として君臨しているので基本大人しくしていることが多いようである。

 もちろんわたしたちも、島民たちに流儀を習って失礼のないように気を遣った。モスラの森に棲んでいる蟲たちと一緒だ。コングの庇護があるからといって好き放題(チート)するんじゃあ、『虎の威を借りる狐』ならぬ『コングの威を借りる人間』になっちゃうものね。

 

 そんなこんなでそれからの三日間は、楽しく過ごした。

 海で記念撮影したり、地底の大空洞に繋がっているという洞窟を探検したり、美味しいフルーツを山ほど食べたり、エトセトラエトセトラ、沖縄旅行に負けず劣らずのまさに最高のサマーバケーションだった。

 いやあ、文字媒体のダイジェストでしかお伝えできないのが残念でならないなー、なんてね。

 

 そして三日後。モスラの手配で迎えの蟲がやってきて、わたしたちは島の人たち一同から見送ってもらえることになった。

 別れ際、村長の息子がエミィを呼び止めた。振り返るエミィに、息子は笑いかける。

 

「エミィ、もし良かったらこの島、暮らさないか?」

 

 ……わーお、プロポーズじゃん。

 エミィが髑髏島の村長の息子と結婚させられかけていた、というのはわたしも後から聞いていた。村長はあとから結婚を取り消してくれたけれど、息子の方は本気でエミィのことが気に入ったらしい。

 「森で摘んできたんだ」と息子は満開の花束を差し出す。

 

「エミィ、きっと良いお嫁さん、なる! そしたらエミィ、この島の女王様! こんなに栄誉なことはない!」

 

 ……でもエミィ、決まった相手がいたはずなんだよね。どーすんだろ。

 村長の息子による一世一代のプロポーズ、エミィは黙って聞いていたが、やがてひとこと。

 

「……ふーん、そうか」

 

 

 

 そしてエミィは息子を張り飛ばした。

 

 

 

 ぱあんっ。

 思いきりスナップを利かせた、とても綺麗なビンタだった。

 エミィ渾身のビンタが頬にクリーンヒット、長の息子は「がぺっ!?」と呻きながら砂浜に引っくり返ってしまい、手の花束は呆気なく散ってしまった。

 あまりに突然すぎて一同、唖然としていた。わたし、島の人たち、村長、フェアリーモスラやコングでさえ呆気に取られている。

 

「な、なにする……!?」

「だまれクソ野郎。おまえなんか嫌いだ」

 

 尻餅を突いて見上げる長の息子を、エミィは氷点下の目つきで睨みつけていた。

 息子が引っ叩かれて罵倒されている、この状況をようやく理解できた村長が飛び出そうとするが、ダヨちゃんと他の村人たちが抑え込む。

 一同が見守る中、エミィは続けた。

 

「わたしはな、おまえみたいなクソバカボンクラウンコ野郎が大嫌いなんだ。おまえみたいな鈍感無神経が許されるのは異世界転生物のハーレムだけだ。ふざけるな、誰がおまえなんかと結婚するか」

 

 言いたいことを言いたいだけ、ひたすら一方的にぶちまけたエミィは、砂浜で転がっている息子に背を向けスタスタと歩き去る。

 長の息子は何を言われたのかはわかっていなさそうだが、エミィから酷く嫌われてしまったことは理解したようだ。

 真っ赤な手形がついてしまった頬をさすりつつ、息子はエミィに問いかけた。

 

「何のことだ、何が不服だ? おしえてくれ!」

 

 追い縋ろうとする息子に、エミィは振り返りながら「うるせえブワァーカ! てめーで考えろ!」と怒鳴りつけた。

 ……気のせいだったろうか。その直後、エミィの視線が髑髏島の巫女:ダヨちゃんと重なったように見えたのは。

 

「「……………。」」

 

 しばらく間があった。

 ダヨと、エミィ=アシモフ・タチバナ。二人とも何も言わなかったけれど、二人だけで通じる何かがあるのか、視線をしばらく交わしている。

 やがて互いに深く頷き合い、ダヨちゃんと何かしらの同意が出来上がったらしいエミィは前へと向き直り、わたしのところへやってきた。

 

「……待たせたな。行くぞ」

 

 なんかあったの?

 わたしが訊ねると、エミィはこう答えた。

 

「べつに。女同士の秘密だ」

 

 ……いや、わたしも女なんだけど。

 後になってからしつこく訊いてみたけれど、エミィは何も教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 こうして本土に帰ることができたわたしたちだけれど、フェアリーモスラを通じて〈フツアの巫女〉からしこたま叱られてしまった。

 曰く『今回はたまたま間に合ったから良かったものの次は助けられるかどうかわからない、モスラもフツアたちも心配していた、二人とも大事な身なのだから自分自身のことを大事にしてほしい』とのこと。いやはやホント申し訳ない、猛省することしきりである。

 

 挙句の果てに『今後は監視をつける!』とまで言い出した。フェアリーモスラのうち誰かひとりをつけてくれるつもりらしい。

 無論わたしたちは固辞したけれど、フツアの巫女は『放っておくと何をしでかすかわからない』と言って聞かなかった。わたしが言うのも難だけどさ、あの子も意志が強いというか、結構ガンコだよね。

 かくしてわたしたちの旅に、フェアリーモスラがひとり増えたのだった。

 

 あ、そうそう聞いてくれる? エミィが、あの人嫌いでこれまで友達作りを全くしてこなかったツンデレ気質の偏屈者エミィ=アシモフ・タチバナが、なんとこのたび文通を始めたのである。

 相手は髑髏島で出会った巫女こと、ダヨちゃん。わたしが知らないうちに随分と親しくなったようだ。そういえばダヨちゃんはエミィが提案したエビラ撃退作戦でも一役買ってくれたのだという。きっとそのときに仲良くなったのだろう。

 とはいえ外界と隔絶された髑髏島には、通信設備はもちろん郵便すら届かない。そこでエミィは街で便箋と万年筆用インクをしこたま買い込み、書いた手紙はフェアリーモスラを伝書鳩代わりにして島まで運んでもらうという、これまたアナクロな手段をとることにしたようだ。

 何はともあれ、エミィに初めてできたメル友だ。ぜひとも仲良くやってくれたらいいなあ、なんてオネーサンのわたしは期待しているのだった。

 ふと気になったことをわたしは訊いてみた。

 

「『愛しの彼』には書かないの?」

 

 わたしが茶化すとエミィは「どこのどいつだよ、愛しの彼って」と青筋を立てて答えた。

 ……わかってるくせにー。うりうり、と肘で突きながらわたしは言った。

 

「フツアの『彼』、エミィが音信不通なもんでヤキモキしてるんじゃあないのー?」

 

 フツアの彼。ある事件で出会ったエミィ=アシモフ・タチバナのボーイフレンドにして王子様である。『ある事件って何さ?』って? そういう人は最初の方から読み返してきてちょうだい。

 とにもかくにも、エミィの大切な彼は今もモスラの森で、エミィが帰ってくるのを待ってくれているはずだった。

 わたしのイジリに、エミィは「あいつとはそんなんじゃないから」と前置きしつつ言い返した。

 

「それにあいつ、手紙なんて読めないだろ」

 

 あ、そうだった。

 フツアに文字の文化はない。組紐を手紙代わりにすることはあるし文字の読み書きができる人はいるが、『彼』は生粋のフツア族だから文字なんて使わないのだ。

 

「でも誰かに読んでもらえばいいんじゃないの? 読める人、いるでしょ」

「それだと他人(ひと)に読まれるだろ。それにあいつだったら、一々手紙のやりとりなんかしなくても忘れやしないだろうさ」

 

 それもそうか。大事な手紙、他人なんかに読まれたくないものね。

 ……いや待てよ?

 わたしは、自身の“気づき”にどうしても笑みを浮かべずにいられなくなってしまった。

 独りでにやけているわたしをエミィが睨んだ。

 

「……なんだその生温かい目は。言いたいことがあるならハッキリ言え」

 

 むっふっふ。

 わたしはニヤニヤしながら答えた。

 

「べっつにぃー?

 他人(ひと)に読まれると困るような、さぞ素敵なラブレターを書くのかなぁー、って思ってね」

「んな……っ!?」

 

 わたしの言葉に、エミィは酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせて絶句していた。

 ……エミィってホントに面白い子だなぁ。普段クールぶってるくせに動揺するとすぐ顔に出る。

 動揺を剥き出しにしたまま、エミィは怒鳴った。

 

「だから、あいつとはそんなんじゃねえって言ってんだろ!」

「じゃあ何書くのさ?」

「そっ、それは……天気とか……」

「それだったら読まれても困らないじゃない。ねえ、何書くの? 教えてよ」

「んぐっ……!」

 

 墓穴を掘って口籠るエミィに、わたしは追撃の手を緩めない。

 

「いやあ、お熱いわー。オネーサン二人の熱い愛でとろけちゃいそうだわー」

「い、いい加減にしないと殴るぞっ」

「きゃーこわいわー、恋する乙女マジこわいわー」

「こんにゃろっ」

「あいたあっ!?」

 

 かくしてふざけ合いながら、わたしたちは次の目的地へと向かった。

 南は制覇した、次は北に行こうかなあ、なんて期待に胸を膨らませながら。

 

 

【挿絵表示】

 

206x年 髑髏島にて撮影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪獣黙示録が始まる前。

 先代コングの時代の髑髏島に、『怪物』が上陸したことがある。

 

 

 怪獣王、水爆大怪獣、キングオブモンスター。その『怪物』はのちに様々な名前で呼ばれることになるが、髑髏島ではその持って生まれた破壊的な力から〈破壊の王〉という名前で呼ばれていた。

 突如現れた破壊の王に、怯える島の住人たちを髑髏島の王、当時のコングは宥めた。

 ……無闇に恐れることはない、(ふる)い知り合いだ……といっても言うほど仲良くもないけれど。

 破壊の王は、歴代のコングとも互角以上に渡り合ってきた名うての実力者だ。過去のコング一族と破壊の王による怪獣大戦争、争いは白熱し熾烈を極めたが決着はつかず、今現在は互いに不可侵不干渉を貫いてきている。

 

 そんな宿敵、破壊の王による突然の来訪。

 最低限の礼節と最大限の警戒を保ちつつ、コングは髑髏島にやってきた破壊の王を出迎えた。

 ……何の用だ。

 コングがぶっきらぼうに問うと、破壊の王は唐突に『おまえの世界、この島は素晴らしい』と言った。

 

 ――誰も争わない、誰も傷つけあうことがない。みんな正直で善い奴ばっかり。

 自然と調和の取れた世界、そして皆から敬愛されるキング。怪獣、人間どもでさえ()(わきま)えて、皆で仲良く笑って楽しく暮らしている。

 ここには素晴らしいものしかない。これぞまさに楽園(paradise)だ。

 そう思わないか。

 

 ……突然やってきて何を言うかと思えば。似合いもしないおべっかを並べ立てて、いったい何のつもりなのやら。

 コングが訝しむ中、破壊の王は続けた。

 

 ――それに引き換え外の世界の人間ときたら、欲深で、浅はかで、そして底無しに愚かだ。

 奴ら、いずれこの島にも踏み込んでくるぞ。そして文明とかいうくだらんもののために、何もかも滅茶滅茶にしてしまうのだ。

 おれはそれが恐ろしい。恐ろしくてたまらない。この素晴らしい世界が踏みにじられ、食い潰され、消え去ってしまうことが。

 

 外の人間が愚かなのはコングも知っている。だからコング筆頭に髑髏島の住人は外の世界に干渉せず、小さな島でささやかな暮らしを続けてきた。

 もし外の人間たちが攻め込んできたら、コングは島の王として力のかぎり戦い、身命を捨ててでも守り抜くつもりだ。

 そう力強く豪語するコングを、破壊の王は鼻で笑った。

 

 ――そんな覚悟など何にもならない。

 おまえもたまには外の世界にも目を向けてみろ。小さな島で暮らしているおまえは知らないかもしれないが、外の世界の人間たちは文明とやらを突き詰めた果てに、恐るべき力を手に入れた。

 

 恐るべき力とは? コングが聞き返す。

 

 ――凄まじい光熱で何もかもを焼き尽くし、猛毒の瘴気で世界は長い冬に包まれる。

 あれはまさに、『悪魔の火』()()()……

 

 『だった』? まるで今見てきたかのようだが。

 コングは、滔々と語り続ける破壊の王がおかしいことに気がついた。

 破壊の王の姿をよく見れば、酷い火傷や裂傷など致命的な深手が癒えた痕があちこちに残っていた。火傷、裂傷、以前会ったときはいずれもなかったものだ。しかも猛烈な瘴気――外の世界で呼ぶところの放射能――を全身に帯びている。

 そもそも破壊の王といえばその常識外れなほどに頑強な肉体、そして不死身の再生能力が自慢だったはずだ。そんな体にこれほどの手傷を負わせるものとは一体……?

 疑念を抱いたコングに、破壊の王は恐るべきことを言い出した。

 

 

 ――どうだ。この素晴らしい島を、全世界規模にしてみないか?

 

 

 いきなり何を言い出すのだ。

 おどろくコングに、破壊の王は楽しげに笑いながら続けた。

 

 ――なあに、簡単なことだ。

 この髑髏島の秩序、怪獣を頂点とし人間たちは仕える、その構図を世界規模に拡げればいい。

 世界中の誰もがおれたちを(おそ)れ、身を寄せあって仲良く暮らすのだ。

 そうとも、おまえが人間どもを治めればいい。おまえたち一族は、こんな小さなサル山のボスに収まっているような器じゃない。きっとみんな、おまえを世界の王者と讃えて崇めることだろう。

 おまえが手を汚すのが嫌だというならこのおれが代わってやってもよい。おれは素晴らしい力(荷電粒子ビーム)を手に入れた。きっとみんな、おれの力の恐ろしさに震え上がるだろう。

 実現できる、おれとおまえ、二つのキングが手を結べば、きっと楽園だって。

 

 ……コングは呆れのあまり溜息を洩らした。

 破壊の王は、人間が欲深で浅はかで底無しに愚かだという。だが、破壊の王もたいがいだ。

 まず破壊の王は、人間どもが『悪魔の火』なるものを創り出したと言った。そんなものが本当にあるのかどうか知らないけれど、もしそれをこちらに向けてきたらどうするつもりなのだろう。

 

 ――だからこそさ!

 外の連中が創り出したのは悪魔の火だけじゃない。それに匹敵する危険な代物、文明の力とやらを欲望のままに、自分たちでも扱いきれないほど次々と造ってやがる。あいつらどうせ救いがたいバカだから、そのうちその文明の力をボカスカ撃ち合って自滅するに違いない。

 奴らが自滅するだけならいいが、それだけじゃあ済まない、いつかこの星すべてを喰い尽くすぞ。そうなったらこの島も無関係ではいられない。そうなる前に手を打たねばならない、そうだろうが。

 

 だとしても、とコングは反論した。

 髑髏島の環境は極めて特殊なものだ。髑髏島の調和は、人間が文明を育む余裕すらないほど苛酷な環境に最適化された結果に過ぎない、外の世界とは違う。もしこの島の秩序を世界規模に拡げるとなれば、ついてゆけない人間たちが膨大に出てくるだろう。

 ついてゆけない人間たちはどうなる。そう尋ねると、破壊の王は誇らしげに語った。

 

 ――根絶やしにしてやれば良い!

 身の程知らずに自分たちこそが霊長だなんて勘違いして、環境破壊も戦争もなんでも好き放題にやって、挙句の果てに周囲を巻き添えに自滅してゆく。

 そんなやつらなんてどうせゴミさ、生きるに値しない。そんなこともわからんカワイソーな奴らには、速やかに苦しまないように引導を渡してやる方が慈悲というものだろう?

 

 コングは最初、破壊の王がなにか悪い冗談を言っているのかと思ったが、すぐに考えを改めた。破壊の王はそういう洒落を言うような性分ではなかったはずだし、その目に焦点が合っていない。なにより瞳には尋常でない光が爛々と灯っている。

 こいつは本気だ。

 破壊の王は言った。

 

 ――でなかったら徹底的に恐怖を植え付けてやればいい。

 その名を記すことすら指が震え、汗が滴り落ちるほどに。

 この星を支配すべき霊長は果たしてどちらか、徹底的に教えてやればいい。

 そうなれば誰も争いはもちろん、くだらん火遊びすらできなくなるはずさ。

 そしてすべて終わったらそのとき出来上がるのは素晴らしき新世界。

 怪獣が支配する世界、そう、すなわち〈楽園(Paradise)〉だ……!

 

 大量殺戮、粛清、恐怖政治、その果てにあるという『楽園』。

 それらを夢見心地で語る破壊の王。

 コングは悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊の王は狂ってしまったのだ。

 おそらくは『悪魔の火』とやらが原因で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、コングと破壊の王の会談は決裂、熾烈な一騎打ちが繰り広げられた。

 勝敗は誰も知らない。

 




コングといえばジャイアントスイング。このコングは代替わりして日が浅い設定です。なんとなくアニメ版のイメージがあるかも知れない。
101話の感想を基に思いついた話。89話にもうっすら繋がっています。

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