思春期の少女にとって突然に生えてきては困るもの。それは尻尾。しかしながらサイヤ人の血を引く彼女は、父親である孫悟飯同様に突然に尻尾が生えてしまうのであった。
あれは私が12歳になる前の話です。とある夏の日の午後、ソファーの上でスヤスヤとお昼寝していると、腰のあたりに違和感を感じて目が覚めちゃった。
「んん……?」
なんだか真上を向いて寝るのが苦しい。「何か」がソファーと腰との間に挟まっている模様。目をこすりながら、体を横向きにして邪魔なそれを引っ張ってみると……。
「ひゃあっ!」
それに触れた途端、思わず声が出てしまった。今まで感じたことのない、くすぐったい感覚が全身に走ったから。慌ててソファーから起きあがって、体をひねって自分の腰を確認してみる。
(何これ!)
鏡の前でちゃんと確認してみると、キュロットパンツから猿の尻尾のようなものが飛び出している。引っ張ってみたけれど抜けない。誰かにつけられたアクセサリーではなく、自分の一部。尻尾だ。なんで私に尻尾が生えているの!?
「きゃあああああああ!尻尾!」
思わず両手で顔を覆って叫んじゃった。するとママが台所から駆けつけてきた。
「どうしたのパン!?」
「ママ……これ見て……。私に尻尾が生えたの」
「あら尻尾のオモチャじゃない。これ自分でつけたの?」
「違うから!突然、腰から出てきたんだって」
ママは私のキュロットパンツを下げると尻尾の付け根を確認した。
「ま……まぁ!本物じゃない。一体どうしたのよパン」
「分かんないママ!なんで私に尻尾が生えちゃったんだろう」
何を思ったのか、ママは尻尾をモフモフと触りはじめる。
「驚いたわ、本当にパンの尻尾なのね。動かせるの?」
「ちょっと触らないでよ!」
ママがギュウッと尻尾を握ると、突然に私の体中の力が抜けていく。とても立っていられず、そのまま床にへたりこんでしまった。
「ふわぁぁぁ……」
「ちょっとパン!?しっかりして!」
「ダメ……ママ。尻尾を……握らないで」
「あっ!ゴメン!」
床にうつ伏せに倒れながら──これからどうしよう──と途方にくれた。尻尾があるとスカートもちゃんと履けないし。服に穴を開けないといけないかも。そんな格好で外に出歩くの嫌だな。
◆◆◆
夕食の時、パパは信じられないことを言っていた。
「そう言えば僕にも尻尾が生えてたんだよ。小さい頃なんだけどね」
「パパ本当!?」
「うん。サイヤ人には尻尾があるんだよパン。お爺ちゃんにもベジータさんにもあったんだよ」
それ初耳なんですけど!でも皆さん尻尾なんてないですよね。
「でも今はないよね。パパの尻尾はどうしちゃったの」
「それが……僕には覚えがないんだ。いつの間にか無くなっていたから」
「へぇ!自然となくなるんだコレ」
私は自分の尻尾を掴んでパパとママに見せる。でもパパはしばらく考え込むと恐ろしい話を思い出した。
「確かピッコロさんが言っていたっけ。僕が気絶してる間に尻尾を引きちぎったって。全然、僕の記憶にないんだけどさ」
「きゃああっ!」
私の尻尾がピーンと上に伸びる。引きちぎるなんて、なんてことしちゃってるのピッコロさん。鬼だわ。ナメック星人だけど。もうあの人に近づけない!
私は自分の尻尾を前に回して両手で抱きかかえた。
「私はこの尻尾を引き抜かれるの絶対に嫌です!手術で切除してもらいますから」
「泣かないでパン。誰も貴方の尻尾を引き抜かないわよ!」
ママは私の頭を撫でて落ち着かせようとする……。
そう。パパは自分にも尻尾があったくせに、サイヤ人の尻尾のことに詳しくなかったの。何しろ子供の頃の話だったから仕方がないかな。だから一番大事なことを失念してしまっていたのです……。
◆◆◆
次の日。私は西の都に飛んだ。尻尾があっても着こなせる服を探しに出かけたのだ。今の服だと穴を開けないといけなくて、そこから肌が見えそうになるので怖い。お爺ちゃんは平気だったみたいだけど、私は野生児じゃないし。これでも女の子ですから。
「お買い上げ、ありがとうございました〜」
大きなお洋服屋で色んな服を試着してみるけども、尻尾があるとなかなか合わない。それでも3着ほど服を買って外に出た。
「ふぅ……。やっぱり尻尾を腰に巻いてその上から服を着るしかないのかな。すごく変な体型に見えそう」
ちょっと疲れた私。なんとなく空を見上げると、まだ明るいのに月が上っていた。ビルとビルとの間に、まんまるな月が浮かんでる。
ドクン……ドクン……。私の胸の鼓動が強まる。
一体なんなのこれ?不思議な気持ち。
ビリ、ビリリ。
私のお気に入りの服が破れていく……。なんでだろう?
◆◆◆
その時、私の家にピッコロさんが遊びに来ていました。あの恐ろしい尻尾引き抜きナメック星人さんが。
「な……なんだと悟飯。パンに尻尾が生えただと。それは大事だ!なんで先に言わない」
「ええ。これが可愛いんです。写真を見ますか?」
「いや、そういうことじゃなくて!」
家に私がいないと知ったピッコロさんは焦っていた。
「それでパンは今どこにいる」
「西の都ですよ。服が欲しいって。もうすっかり女の子ですね」
ピッコロさんの顔から冷や汗が垂れる。何故か大急ぎで応接間のテレビのスイッチを入れました。
「どうしたんですかピッコロさん?ずいぶん慌てちゃってますが」
案の定、テレビでは緊急ニュースが流れていた。『謎の怪物が西の都を破壊している』ってアナウンサーが必死に伝えていたの。怪物の映像にパパもビックリ。
「な……なんだこの怪物は」
でもパパにはどこかでみたことある怪物だったのです。思い出せないパパに代わってピッコロさんが説明をはじめました。
「おそらく、これがパンだ。何しろ今日は満月だからな」
「こ……このビルを破壊している大猿がパンちゃんなんですか!?そんなバカな」
「お前も大猿になったベジータの姿をみたことがあっただろう。月が真円を描く時、サイヤ人は大猿の化物となって、その戦闘力は10倍にもなるという」
パパは自分の頭を抱えた。
(そ……それ忘れてた!)
「やむを得ん。月を破壊しよう」
「名案っ!その手がありましたか!」
ピッコロさんは外に出ると、月に向かって手を広げます。でもパパには1つの疑問がありました。
「ちょっと待ってください!月がなくなっちゃうと、パンちゃんはどうなるんですか?」
「すぐに元に戻るんだ。人間の姿にな」
「でも、大猿のパンちゃんは服を着てないですよね」
「そ……そうだな」
2人の頭に、一糸まとわぬ姿になってしまった私の姿が浮かびます。
「ダメです!絶対にダメです。パンちゃんの裸が全世界に中継されるなんてあってはダメ!」
「し……しかし悟飯。このままでは西の都が壊滅してしまうぞ」
パパの顔には、セルと対決した時にも見せなかったような険しい表情を浮かんでいます。
「ピッコロさん。破壊された地上はドラゴンボールでもとにもどります」
「だ……だが人が死ぬかもしれんのだぞ」
「大丈夫です!それもドラゴンボールで生き返ります」
ピッコロさんは思いました。
(マジだ。悟飯の奴はマジだ)
パパの本気に焦ったピッコロさんは、対案を用意します。
「分かった悟飯!こうしよう」
◆◆◆
その頃、大猿になっていた私は西の都で大暴れしていました。顎が外れるほどに口を大きく開けて、ビームを出して大爆発を起こしたり。(これは遠い砂漠で炸裂したので死傷者でなかったけど)ビルにパンチを入れて叩き折ってみたり。記憶はあまりないのだけれど、なんだか楽しくて愉快でした。
たまたまベジータさんも、トランクスさんも西の都にいなかったので、私を止めることができる者は誰もいなかったのです。軍隊がやってきてヘリコプターから銃を撃っていたけど、そんなの効きません。(通常時でも効かないけど。)
ドーン!
大猿の拳でヘリコプターを叩き潰して、墜落させました。愉快愉快。
「ひぃぃ。脱出!」
乗組員達はパラシュートで脱出したので、良かったです。その時です。変な格好をしたヒーローが折れたビルの頂上に現れたのは。
「待てーい大猿!グレートサイヤマン見参」
なんだから良くわからないコスプレをした謎の男。しかしサイヤ人の本能のままに暴れている私にとっては関係ありません。口からビームを出してその男に叩きつけたのですが……。
「とうっ!」
簡単にビームを蹴り飛ばされました。その男は簡単に大猿の私を持ち上げると、そのまま空へと飛び立ってしまいました。
その様子を見ていた軍隊の人たちも、マスコミの人たちも皆さんキョトンとされています。
「すげぇ。大猿を担いで飛んでった」
「な……なんだったんだアイツ」
飛んで飛んで。西の都から5000キロは離れた海上へ。グレートサイヤマンは絶海に囲まれた無人島を見つけると、そこに私をドスンと下ろしました。それでも暴れようとする大猿ですが……。
「ちょっと痛いけど、我慢するんだぞパンちゃん!」
「ギィッ!」
グレートサイヤマンが手刀を振るうと、私の尻尾を切断。大猿だった私はどんどん小さくなります。そして大猿は消え失せ、スヤスヤと眠る裸の私が、地面の上に横たわっていたのでした。
「ふうっ。やっと元に戻った」
グレートサイヤマンがヘルメットを脱ぐと、中からパパの顔が出てきました。そして私を抱きかかえます。
「んん……。ふあ……?パパ……」
「起きたかい、パンちゃん」
パパに抱きかかえられて目を覚ました私。でも自分が裸なことに驚いて、慌てて胸を隠しました。
「きゃあっ!なんで私が裸なの」
「あはは。何も知らないんだね」
パパは私を下ろすと、背中のマントを外して渡しました。私は赤い布で必死に自分の体を隠します。
「ねぇ!パパってば。ここどこなの!?」
「さぁ。僕も知らないんだ」
なんだかお尻の辺りが痛くなってきました。手で触ると尻尾がありません。
「痛たたっ。尻尾がないっ」
「パンちゃんが意識を失ってる間に僕が切っちゃったんだよ」
「切っちゃったの!?」
私のパパは、実はピッコロさん並に怖い人だったのでしょうか?もちろんすぐに誤解は解けましたが。
◆◆◆◆◆
大猿だった時の記憶はほどんどないんだけれど、実はちょっとだけ残っている。なんだか、とっても楽しかった気がするの。もう一回ぐらいなら大猿になってみてもいいかな?って思います。でも西の都の人達にはとんだ災難だったし、あの後でドラゴンボールを集めることになったパパも大変だったから、その事はナイショにしています。(終わり)