彼女の腕には人魚姫の絵本が。
泡になった人魚姫。そんな彼女を見て、ノーフォークは何を想うのか。
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皆が寝静まった寮舎。
微かな灯りの下をたった一人で歩く人影があった。
ノーフォーク。それが彼女の名前。
少し怯えたように周囲を見回しながら、それでいて何かを期待するかのような表情で、彼女は廊下を進んでいく。その腕に、一冊の本を抱えながら。
しばらく歩くと、彼女は目的の場所に辿り着いた。
指揮官の寝室。
何度も何度も訪れた場所。それでも、やはり緊張してしまう。しかし、不快な緊張感ではない。むしろ、どこか心地良い緊張感だ。
ノーフォークはスゥーっと息を吸ってから、ドアをノックする。
『どうぞー』
中から間延びした声が聞こえてくる。その声を聞いて、ノーフォークの表情から不安の色が消え、ただその声が聞こえたことを喜ぶ表情になる。
「わ、私です」
『お、ノーフォークか。入っていいぞ』
恐る恐るドアを開ける。部屋の中には、机に向かって作業している指揮官の姿があった。
「ちょっと待っててくれよ。ここまで終わらせるから」
そう言って指揮官は手の動きを速める。ノーフォークはいつものようにベッドの上にちょこんと座りながら、その様子を眺めていた。
「……よし、終わった。待たせたな、ノーフォーク」
「いえ、ノーフォークが押しかけてるだけですから……」
「んで、今日も絵本を読んでほしいのか?」
指揮官がそう聞くと、ノーフォークは頷いてから、腕に抱いていた絵本を指揮官に渡す。
「……へぇ、人魚姫か」
「図書館で見付けて、気になって……い、良いですか?」
「もちろん」
指揮官がノーフォークの横に並ぶように座る。すると、ノーフォークは待ってましたと言わんばかりの勢いで指揮官の膝の上に座った。指揮官は「相変わらずだなぁ」と笑った。
そして、指揮官はノーフォークに絵本を読み聞かせる。
それは、遠い昔、とある国の王子に恋をした人魚の物語。
彼女は想いを寄せる王子の側にいる為に、苦痛と声を引き換えに人となる。
しかし、彼女の想いは実らず、魔法の代償で海の泡に運命にあった。
それを避けるためには、王子の血によって人魚に戻るしかなかった。
だが、人魚姫はそれを選ばず、自ら海の泡になることを選んだ。
愛する人の幸せを願って――。
「……と、いう話だ」
絵本を読み終わり、指揮官は本を閉じた。
「う、うぅ……」
ノーフォークはぽろぽろと涙を流していた。
「し、指揮官……」
「はいはい。ほら、こっち向いて」
指揮官はハンカチを取り出してノーフォークの顔を拭く。
涙もろい彼女のことだ。絵本を見た時点でこうなるのは大体予想は出来ていた。
「……王子様は」
「ん?」
「王子様は、泡になった人魚姫を……悲しんでくれたんでしょうか」
「……どうだろうなぁ」
遠い昔に作られた物語だ。それを確かめる術は無く、ただ想像するしかない。
「……指揮官は……指揮官は、私が泡になったら、悲しんでくれますか?」
潤んだ目で指揮官を真っすぐ見つめながら、ノーフォークはそう問いかける。
「……そういうこと言わない」
「あいたっ」
指揮官は苦笑いしながら軽くデコピンをする。そして、ノーフォークを優しく抱きしめた。
「……ノーフォークは俺が泡になったら悲しいか?」
「もちろんです……いなくなっちゃ嫌です、指揮官」
「俺も同じだ。悲しいに決まってるし、だからこそ絶対にそんなことにはさせない。だから、そんなこと言うんじゃないぞ、ノーフォーク」
「指揮官……」
人の姿をしながら、人ならざる存在であるノーフォーク達KAN-SEN。彼女はそんな自分を人魚姫と重ね合わせ、不安になった。指揮官は、その不安を感じ取った。
「安心しろ。ノーフォークにはそんな魔法は必要ない。なんたって、俺がいるんだから」
指揮官はノーフォークの左手をそっと触る。
彼の気持ちを込めた『指輪』。必ず守ると、必ず生きて帰るという誓いの証。
その指輪が、ノーフォークの左手薬指で輝いていた。
「……そう、ですね。ノーフォークも、指揮官のそばにずっと、ずーっといたい、です」
「俺もそうしたい。だから、何があっても、泡になんてなるなよ」
「はい、です。そ、それで……」
「ん?」
「……今日も、一緒に寝ても良い、ですか?」
「まだ暗いのが怖いかー」
指揮官は微笑ましそうな苦笑いを浮かべた。
「いいぞ。っと、ほら」
指揮官はベッドに入ると、自分の横をポンポンと叩く。
ノーフォークは恐る恐るといった様子で指揮官の横に寝転がった。
「……ノーフォーク、少しだけ人魚姫の気持ちが分かります」
「そうなのか?」
「どれだけ苦しくても、想いが届かなくても、それでも、大好きな人には幸せになってもらいたいですから……」
「……」
「でも、やっぱり大好きな人とは一緒にいたい、ですね」
ノーフォークは恥ずかしそうにそう言い、指揮官にギュッと抱き着く。
「……指揮官のそば、暖かいです。……ずっと、こうしていたいぐらいに」
「俺もだ」
2人は顔を見合わせ、笑い合った。
「また明日も、絵本を読んでくれますか?」
「あぁ。仕事がちゃんと終わればだけどな」
「もう……ちゃんと終わらせてくださいよ?」
そして、互いの温もりを感じながら、夢に落ちていった。
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