にこっちハッピーバースデー!

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矢澤にこ生誕祭2020

「あ────────っ!!!」

 突如鳴り響いた大声に、ビクッと黒髪のツインテールが揺れた。

 聞き慣れた元気な声。こんな元気な知り合いは一人──いや、二人いれば充分だが。

「にこちゃん、発見にゃ〜!」

 廊下の先で、ハツラツとした笑顔でこちらを指差すショートカットの後輩。

 時刻はまだ朝。HRまではまだ余裕があるせいか廊下の人はまばらだが、ゼロではない。そこへ屋上まで突き抜けそうな大声で名前を呼ばれては、周囲の視線が全て注がれてしまう。

 ただでさえ、μ'sが結成されてからは校内で認知されているのだ。そんな公衆の面前でおバカ代表に絡まれては、どんな風評被害を受けるか分かったものではない。

 三年生であり部長の尊厳は保たなくてはならない。

「…………」

 にこは緩やかに声の発生源に背を向けると、

「──あっ、逃げたにゃ!」

 全力で廊下を蹴った。

「捕まえるにゃ〜!」

「何で追いかけてくるのよ!」

 終業式で朝練もなく、優雅に余裕を持って登校した結果がこれである。

 階段を駆け下り急転換すると、空いていた窓から中庭へ飛び出した。そしてすぐさましゃがみ込む。

「──あれ〜? にこちゃんいないにゃ」

 すぐに凛の声が頭上から降ってくるが、廊下からこの位置は死角になっている。

「このまま移動すればバレずに教室に……」

 屈みながらソロリソロリと歩みを進めるにこに、

「──おや、にこじゃないですか。早い時間から登校とは感心ですね。……ところで、どこか具合でも悪いんですか?」

 弓道着姿の海未が声をかけた。

「げっ」

「あ、海未ちゃんおはよー!」

「凛もいたんですね、おはようございます」

「ねーねー、にこちゃん見なかった?」

「にこですか? にこならそこに──」

 海未が指を差した時には、

「海未! アンタには今日一回も的に当たらない呪いをかけたわ!」

 斬新な捨て台詞を残すにこの背中と、

「見つけたにゃー!」

 それを追いかけるもう一つの背中。

「……何か個人練の最中だったんでしょうか?」

 的外れな予想をした海未は、小さく首を傾げた。

 

 

 

 

 昇降口と部室を避け、十分以上の遠回りをして自らの教室へと到着したにこ。

「やっと着いたわ……朝からとんだ苦労したわね……」

 げんなりと肩を落としてドアを開けると、

「お、にこっちおは〜。やっと来た」

 笑顔でこちらに手を振る副会長。

「希?」

「お届け物やで〜」

「お届け物って……誰からよ」

 小さな紙袋を手渡されたにこは、少し警戒色の目で希を見上げる。

「“プレゼント渡したいだけだったのに、何でか逃げちゃうんだにゃ……”って言ってたよ?」

「…………」

「なーんかやましい事でもあったん? あんまり後輩いじめてると、ウチのワシワシが──」

「……ちょっと行ってくる」

「ありゃ、どこへ? もうあんまり時間残ってないけど?」

「バカで不器用な後輩のトコよ。間に合わなかったら、適当に誤魔化しといて」

 肩をすくめる希を背に、にこはスタスタと歩みを進める。

 

 

 

 

「──凛!」

 ガラガラガラ、っと。一つしかない一年生の教室には、すでにほぼ全員の生徒が着席して担任を待っていた。そこへ小柄な三年生が突撃してくれば、当然注目される。

 しかしにこはそんな事は気にせず、一直線に目的の机の前へ。

「…………?」

 あれだけ逃げて何故今になって教室まで来たのか、そもそも何故仏頂面なのか、凛の分かりやすい顔にはそう書いてあった。

「…………」

 にこは一瞬視線を彷徨わせると、一度深呼吸。

 それから、

「──人にモノを渡す時に大声でダッシュしてきたら、逃げるに決まってるでしょうが! バカ凛!」

「え、ええぇぇぇぇぇ〜?」

 

 

「──ホーント、にこっちも大概だけどね」

 風に乗って聞こえてきた不器用なありがとうに、希は少しだけ広角を上げた。


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