翌日、雷門イレブンは杉森達と約束した通り、河川敷へと訪れ練習に励んでいた。
「ダークトルネード!!」
「ハイビーストファングV2!!」
空中から打ち降ろされるシャドウの必殺シュートを源田が受け止める。闇を纏ったボールは獣の牙に抑え込まれ、瞬く間に勢いは殺し切られてしまった。
「くっ……やはり俺ではまだ実力不足か……」
「いや、良いシュートだったぞ。どんどん打ち込んでこい!」
あっさりと止められてしまったことに悔しさを露わにするシャドウだったが、源田の言葉で気持ちを切り替え何度もシュートを打ち込んでいく。
相手をしている源田から見てもシャドウの実力は決して低くはない。無論、同じ技を使用する鬼道と比べれば劣ることは否定出来ないが、それでも無名の選手の放つシュートと考えれば破格の威力である。
「行くぜ、杉森!!ワイバーンクラッシュV2!!」
「シュートポケットV2!!」
一方、反対側のゴールでは染岡が杉森に向かってシュートを放つ。杉森の必殺技もかつてフットボールフロンティアの地区予選で雷門と対戦した時より進化していたが、染岡のシュートの威力が上回りあっさりと破られてしまう。
「……流石だな。俺も以前より強くなったつもりだが」
「まあな。けど、こんなもんじゃ満足してられねぇ。俺よりもずっと前を走ってる奴らがいるからな」
そう言って染岡は鬼道を、そしてここには居ない豪炎寺の背中を思い浮かべる。
「ふっ、そうか。……俺も負けていられないな。よし、もう一度頼む!染岡!」
「おう!いくぜ杉森!!」
そして、中央の空いたスペースでは残りのメンバーと西垣がオフェンスとディフェンスに分かれて練習を行っていた。
「スピニングカットV3!!」
「ボルケイノカット!!」
「うおっ!?」
西垣の〈スピニングカット〉を躱した不動だったが、そこを狙った土門の〈ボルケイノカット〉でボールを奪われてしまう。
「ナイスだ土門!」
「西垣も良い動きだったぜ!」
以前は共にサッカーをしていた経験もある土門と西垣の連携が冴えている。見事にしてやられた形になった不動の表情は苦い。
「惜しかったなぁ、不動」
「ちっ……別に惜しくねぇよ。……ボールを少し持ち過ぎだったか?だったら今度は……風丸!栗松!次、俺がボールを持ったら───」
塔子の慰めを吐き捨て、自分のプレーの問題点を省みた上で次の指示を出し始める不動。周りの選手達もそれを受けて、再度練習を再開する。
不動は基本的なスペックこそ吹雪に劣りはするが、それでも優秀なゲームメイク能力を持つ選手だ。先の白恋戦やイプシロン戦を経て、雷門の選手達もそれを十分に分かっている。正直なところ、司令塔としての信頼度で言えば吹雪と不動では圧倒的に後者に軍配が上がる。吹雪本人がそれを聞けば罵詈雑言の嵐が飛び出すだろうが、吹雪が好き勝手し過ぎているのだから仕方がないことであろう。
「皆、良い顔してますねぇ」
「うん、楽しそう」
ベンチに座って練習を見ていた音無の呟きに、木野もそれに同意して言葉を重ねる。
ここ最近の練習の多くは、エイリア学園からの襲撃予告を受けての移動中であったり、吹雪の無茶振り特訓であったりした為、練習中も中々気の休まるタイミングがなかった。余計なしがらみ無く練習に集中できる機会は、選手達にとっても良いリフレッシュになっているようだ。
「そうね。……ところで監督はともかく、鬼道君と吹雪君はどうしたのかしら?」
音無と木野の言葉に相槌を打ちつつ、夏未は鬼道と吹雪の姿が見えないことに疑問を口にする。瞳子は少し前に響木からの連絡を受けて席を外しているのだが、鬼道と吹雪は朝から一度もこの河川敷に現れていない。
「お兄ちゃん達なら、帝国学園のグラウンドで練習するって連絡がありましたよ?」
「帝国学園で?……何故?」
「他の皆の邪魔になるといけないからって言ってましたけど……」
そう言う音無自身も理由を理解している訳ではない為、曖昧な物言いになってしまっているが、鬼道からしてみれば深い意味は無い。文字通りの意味合いで言っただけだ。
そして、鬼道と吹雪が二人で、他の者が邪魔になる練習とくれば後はもうお察しである。
場所は帝国学園の第3グラウンド。本来であれば帝国学園サッカー部の2軍が使用しているその場所を特訓に使いたいという鬼道の頼みを、佐久間は快く承諾した。
サッカー部の練習スペースが減るのは問題ではあるが、そんな事はエイリア学園との戦いに身を投じる鬼道達の為なら些細な事だ。なんなら、一軍の練習用グラウンドを空けると佐久間は提案したが、それは鬼道に断られてしまった。
曰く、二人で使うだけだし、整備の手間を掛けるだろうから、と。
佐久間はいまいちその言い分が理解し切れなかったものの、深くは考えなかった。
そして、鬼道と共に帝国学園を訪れた吹雪に関しても、挨拶は無視されたが、無愛想な奴だと感じた程度で特に思うところはなかった。むしろ、人見知りだったりして、気まずくさせたのなら申し訳ないなと思っていた程だ。……実際には佐久間のことを見た吹雪が、取るに足らない凡愚と判断して無視しただけなのだが。
そんな佐久間は未だに世宇子中との試合で負った怪我が完治しておらず、リハビリ中ということもあり、鬼道達の特訓を見学することにした。
自身の今後に活かせるものがあればと、そんな軽い気持ちでいた佐久間の顔は、現在────
────盛大に引き攣っていた。
鬼道と吹雪の二人だけということもあり、最初こそ真っ当なボールの奪い合いから始まった特訓は、時間が経ち、互いにヒートアップするに連れ、化身を使ったゴールの奪い合いへと発展していった。
闇と氷、そしてめくれ上がったグラウンドの芝が舞い散る空中を、鬼道の蹴ったボールが恐ろしい勢いで突き抜けていく。対する吹雪はそれを前に顔色一つ変えず、冷静にゲルダの槍で下からボールをかち上げ勢いを殺すと、空中のボールをそのまま蹴り返す。鬼道はこれを真正面から蹴り返しにはいかず、むしろ自身の後方のゴールへ向けて、勢いはそのままにやや角度を変えて右足で打ち出す。その結果、轟音を響かせながらゴールバーに当たり跳ね返ってきたボールを、そのまま踵落としでブルートの斬撃と共に吹雪へと放つ。鬼道の化身技〈鬼神の斧〉、いくら吹雪といえど打ち返すには威力が高過ぎる一撃。故に、ゲルダの槍でボールを受け止めた吹雪は冷静にそれを受け流しグラウンドの外へボールを弾き飛ばす。
化身で相手のシュートを打ち返し合い、ゴールを狙う。鬼道と吹雪の間でだけ成立してしまう意味不明なその勝負の中で、蹴り返すのが難しいと判断されたボールは、二人揃って"ゴールに入らなければ得点にはならない"というどこかで聞いた様な理屈でもってグラウンドの外へと弾き飛ばされていた。
弾き飛ばされたボールは威力をそのままにグラウンド周辺の壁、つまり帝国学園の校舎の内壁に着弾し、校舎を破壊していた。だが、吹雪はそもそもそれを気にしておらず、勝負に集中していた鬼道はその事に気付いていなかった。ちなみに、周りのグラウンドで練習していたサッカー部員達は流れ弾を喰らうことを恐れて避難している。
そして、この弾き飛ばされたボールの1つがグラウンドの直上の天井付近に着弾し、とある箇所のボルトの緩みが発生していた。そこに加えてボールがどこかへ着弾した際の衝撃が連続的に与えられ続けた結果、何が起こるか。
────あの出来事の再来である。
鬼道と吹雪は、自分達の頭上から降り注ぐ数本の鉄骨にいち早く気付いた。驚きはあった。何故という疑問もあった。が、その上で二人共
当たらなければ問題ない鉄骨よりも、目の前の気に入らない相手に敗北を与える方が優先された。
吹雪は、今一度鬼道に敗北を味合わせ、自分の方が上だと改めて証明する為に。
片や鬼道は、目の前の暴虐傲慢の塊に勝利し、その在り方を少しでも改めさせると共に、今までの鬱憤を晴らす為に。
吹雪がグラウンドに突き刺さった鉄骨を使ってボールを跳弾させ、さながら世宇子中のデメテルの放つ〈リフレクトバスター〉の如き出鱈目な軌道のシュートを放ち、鬼道は一度では蹴り返せない威力のシュートに対して自ら吹き飛ばされ、鉄骨を足場にして跳躍し再度蹴り返しにいく。
鉄骨という突如発生したフィールドギミックを互いに利用し、何故か激しさを増す二人の勝負。
その結果生まれたのは、闇と氷と鉄骨が入り交じったカオスな空間。
唯一、何かあった時の為に避難せず、一部始終を見ていた佐久間は後にこう語る。
────あれは、サッカーであってサッカーでない何かだった。