重たい内容じゃないけどクロスオーバーだよ
私は今日も、立ち止まる。
その歩幅が、今はきっとちょうどいい
私には、好きな人がいる。
その人は、私を好きでいてくれている。
じゃあなんで付き合わないんだって言われたら、それまでだね。
私は、どうしても一歩踏み出せないんだ。
好きの気持ちに偽りはないし、今でもそれが薄れているわけじゃない。
けれど、過去は変わらないんだ。
だから、ずっとそれに囚われて、鎖のように縛り付けられて、また今日という日が過ぎていく。
私は弱い、女だねぇ...。
そんなことを毎日思っていると、いつの間にか私の誕生日になっちゃうんだから、世の中早いものだよ。
今年で17。ぴちぴちの高校二年生。
時がたつのは早い、と心から思う。
私が、瑚太朗君を好きになったのは、もう5年以上は前の話だっていうのに、そこから何も進展がない。
焦りたくもなった。
それでも、なにも動けないのは、何も変わらないから。
それでも、今、こうして瑚太朗君と過ごす毎日は、正直楽しい。
友達でいてくれるのなら、それでもいい。
...本当は、彼女になりたい、もらってほしいんだけどね。
それはちょっと、無理みたいだ。
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たまたま今日は休日だった。
とはいえ、私の両親は基本仕事に行かせるから、二人に祝われる、なんてことはない。
瑚太朗君は何かしてくれそうだけど、それでも今日は、いたって普通の一日でありたかった。
私は携帯に一度目を通す。
案の定、連絡が一通入っていた。瑚太朗君からだ。
『誕生日おめでとさん、小鳥』
いたって端的なそのメッセージに、私はふっと微笑んだ。そのままメッセージを返す。
『ありがと。あたしゃまた年とっちまったよ...トホホ』
あえてお茶らけた言葉を送って、それ以上は何も言わせない。
瑚太朗君は、きっと何かをしてくれるつもりなんだろう。
けど、今はその気遣いはいらなかった。
私の誕生日くらい、好きにさせてほしいからさ。
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結局、普段の週末通り家の植物をいじって、少し休んで、買い物に行くことにした。
普段通りでいい。
こうして、いつも通りの生活が出来たなら。
私は、きっと幸せなんだから。
そうして、スーパーの店内をぐるぐると回って、必要な食材だけ買って、踵を返す。
すると、ふと、見慣れない暖簾が立っていた。
『出張カウンセリング所』
その横には、あなたのお悩み教えてくださいとまで書いてあった。
「なかなか風流なことするんだねぇ...」
私はそう呟いてみたものの、なぜかその店が気になって仕方がなかった。
実際、悩みがないわけじゃ...ないし。
気が付けば、足はふらふらとその店に近づいて行った。
「お、おお...足が勝手に」
そして、いつの間にか私はその店の前に立っていた。これは入れとの神のお告げだろうか。
「...ま、いいか」
話して減るもんでもないし。
私は、その扉を開けた。
中には、30前とみえる、美人の女性が座っていた。
その大人びた風格に、私は感嘆の声を漏らす。
「おぉ...セクシー...」
「...おや?」
女性はこちらに気づいたのか、私に声を掛けてきた。
「悩みですか?」
「え? ...まあ、はい」
入ってしまった以上、いいえとは言えなかった。
私はちゃんとはいと言葉にし、用意された椅子に座る。
「あの...神戸小鳥と言います」
「神戸さん...。高校生ですか?」
「はい。高校二年生で...今日17になりました」
「誕生日なんですね。それはおめでとうございます」
物腰柔らかいその女性の態度に、私の肩の強張りもだんだんとなくなってきた。
一つ息を吐いて、改めて女性に向きあう。
その艶めいた唇。
何かをともしている強いまなざし。
その風貌に、やはり私は飲まれそうになった。
「...早速ですが、悩み、聞かせてもらってもいいですか?」
「はい...。...私、好きな人がいるんです」
「それは、ライクなんかよりもはるかに強くですか?」
「ラっ...! ...ラブ、と言えば、多分そうです」
一瞬アガりかけたが、なんとか声を押しとどめて、瑚太朗君への思いがラブであることをちゃんと口にした。
「けど、そのラブは、言葉にできないんです」
「どうして、ですか?」
その相談相手は、眉をピクリと動かせた。
「詳しい事情は言えません。...けど、過去に大きな出来事があって、それがぬぐえない限りは告白しちゃだめだと思って...。そうして、中学の時、一回振ってしまって...」
「それは...。...なるほど」
女性は何か分かったようにうんうんと頷いて、私の目をまっすぐに見つめ返した。
「...好き、なんですよね?」
「はい、好きです。...好きだから、何もできないんです」
「...でも、何もできないまま終わったら、それ以上に悔しいことはないですよ?」
「え?」
否定されたことにまず驚いた。
けれど、次に湧いてきた感情は、否定されたことへの怒りなどではなく、何故、という心からの驚きだった。
「これは私の話ですけどね」
そういって、今度は女性の方から話が始まる。
「私は、高校を卒業して、ほどなく結婚しました。それまで、いろいろなことがありながら、でも楽しい日々を送ってましたが、結婚する時には、もう二人きりでした」
いろいろ、というのが何かは聞かなかった。
「けど、そうしているうちに、夫は一週間で記憶がなくなる病気になりました。その時、私はたまらなく絶望していましたね」
「一週間で...そんなこと、あるんですか?」
女性は黙って一度縦に頷いた。
「けど、結局私は夫に最後まで寄り添うことに決めました。...そうして、いつか別れが来ることを分かっていながらも、一緒に歩くことこそが幸せだと思ったから。そうして、夫が手術を受けて、眠るまでは、ずっと寄り添いました。...結局、一人にさせられちゃいましたけど」
つまり、死んだ、ということだった。
それでもなお、目の前の女性は笑っている。
懐かしむように、いつくしむように。
「だけど、私はその歩いてきた道を後悔しない。...だって、振り返れば素晴らしい人生なんですから。これは私の個人的な意見ですけどね。...きっと、結ばれて一緒に後悔する方が、結ばれなくて一人で後悔するよりずっと楽だと思うんです」
「結ばれて一緒に後悔...ですか」
私が、もう一度ちゃんと瑚太朗君と結ばれることが出来たのなら。
その時、ちゃんとあの時の、木の下の思いに戻れるのかな。
それなら...うん、そっちの方がいいかもね。
「ありがとうございました。...ちょっと、すっきりしました」
「そうですか。なら、何よりです」
「あっ、そういえば」
「?」
「最期に...名前だけ」
私は、女性の名前を知らなかった。
どうせ生きたアドバイスにするなら、ちゃんと名前を知っておきたい。
たとえ、この後世界がどう転ぼうとも。
「私は、坂上智代。覚えておいてくれたら、嬉しい」
「智代さん、ありがとうございました」
そうして私は店を出た。
きっともう、会うことはないかもしれないけど。
きっと私は、さっきまでの数分を忘れないだろう。
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家に帰って夕方。一人でテレビでもとリビングに向かう。
その時、家のインターホンが鳴った。その鳴らした先の相手は、大いに予想がつく。
あぁ、いつも通りだ。
でも、やっぱり今はこのいつも通りが心地いい。
アドバイスをくれた智代さんには悪いけど。
それでも、許される限りは、このいつも通りを好きでいさせてほしい。
恋人は...そのあとでいいかな。
だから。
私は、その玄関のドアを開けた。
扉隔てた一枚向こうには、見慣れた顔。私の好きな顔。
瑚太朗君は笑いながら、朝の言葉を今度はちゃんと声にして伝えてくれた。
「誕生日おめでと、小鳥」
「うん、ありがと。瑚太朗君」
クロスオーバーは智代でした。
カウンセラーって、結構使いやすいポジションでは?と。
ちなみに、舞台設定はRewrite本編前の小鳥です。
このあとどうなるかは...お好みでどうぞ。
というわけで、今回はこの辺で