ーー理想は抱く者の数だけある。
これは人と妖怪の共存を目指した八雲紫とその友であり幻想郷の賢者になれたかもしれない者の話である。

1 / 1
電波受信してから1日で形にしました。短編です。


色褪せた物と色褪せぬ記憶

 ただ何をする訳ではない。ふらっと現れては住み慣れた我が家の様に寛ぎ始める。

 家主が隠していたであろう場所から煎餅を取り出し、お湯を沸かしお茶を入れる。それらを運び我が物顔で居間で食べ始める。暑いのかおもむろに窓を開け風の通りを良くする。風により風鈴が揺れ、綺麗な音を奏でる。

 

「いやはや風流だな」

 

 パリッと煎餅を齧り、外を見る。手には紫色の鮮やかな扇子がゆっくりと彼に風を送っている。

 この男が普通の存在であれば夏見かける事もある光景だ。だが、この男は生憎普通ではない。風鈴の音が人を呼び寄せたのかドタドタを世話しない足音が男のいる部屋へと向かってくる。ズズッとお茶を啜りながら開かれるであろう襖の方を向く。

 パァン!と開け放たれた襖の先には一人の女性が立っていた。綺麗な顔には呆れと怒りが浮かんでいる。

 

「また貴方は勝手に……あっ!それ私が後で食べようと思ってた煎餅じゃない!」

 

「いやぁ他人が隠してた物って美味いよな」

 

 女性の名は八雲紫。後に幻想郷を創設する賢者となる妖怪。今はまだ、数多の妖怪の中に埋もれる無名の妖怪。

 そんな紫を煽る様に煎餅を齧る。すると、ますます起こった様な表情を浮かべるがやがて呆れため息を吐く。長い付き合いなのだ。この男に何を言っても無駄な事ぐらいは彼女がよく理解している。

 

「はぁ……せめて普通に客人として来れないの?(えにし)

 

 名前を呼ばれた男はその言葉に笑みをうかべる。

 

「ぬらりひょんが普通に来たらおかしいだろ紫」

 

 そうこの男の正体は妖怪ぬらりひょん。

 勝手に人の家に現れてはお茶を啜ったりする妖怪。もはや、癖というもの。今更この男に普通に家を訪れるという概念はない。

 

「ほんと呆れる……私の結界に一切探知されずに入ってく貴方ぐらいよ。というか、そろそろ煎餅を食べるのやめて!

 私が食べる分なくなっちゃうでしょ!」

 

 縁の向かい側に座り、机の上の煎餅をひったくる様に取る紫。一口齧ってる間にお茶を出される。

 

「濃い目で良かったよな?」

 

「えぇ。万が一があるから焦ったけど、今日も貴方で良かったわ」

 

「ははっ、紫の場所にわざわざくる阿呆なんて俺ぐらいだろ。結界のせいで普通には来れないし。

 まっ、俺には関係ないがね。いやぁ、お陰で美味い煎餅がタダで食える」

 

「……一度、全力で叩いた方が良いかしらね?」

 

「おぉ、怖い怖い。眉間にシワよるぞ。ただでさえおっと」

 

「ただでさえ…なんですって?」

 

「んー、これは面倒くさそうだ。帰る!」

 

 紫が伸ばした手より早く縁が霞消える。まるで、最初っからこの場所にいなかった様に。

 しかし、お茶が入った湯飲みがしっかりと彼が居たことを告げる。

 

「あっこら……ほんと神出鬼没なんだから……やっぱり話をする時はこっちから呼ばないとダメね。終始あいつのペースになっちゃう」

 

 彼女は妖怪の限界を悟っていた。

 今はまだ妖怪はその名を広く広めている。都に行けばやれ鬼が出た。百鬼夜行を見ただの相次いでいる。しかし、紫には限界が訪れると分かっていた。それは彼女が他の妖怪より人間を見てきたからだ。

 スキマを用いた観察。当初はそんなつもりだった。どうやれば人間がより自分を恐れるか。その為に人間という生命体を少しでも知ろうとしたのだ。結果、彼女の明晰すぎる頭脳は『妖怪はいずれ消滅する』と結論を出した。

 単純な事だ。人は今、暗闇を恐れない。火という暗闇を照らす術を身に付けたからだ。人は天候を恐れない。家という絶対のテリトリーを手に入れたからだ。そう、人はゆっくりとしかし確実に恐れを減らしている。

 恐れを減らすということはつまり、妖怪を恐れなくなる事。恐れられなければ妖怪は存続できない。

 妖怪とは違い、確実に進化していくそのあり方に紫は妖怪の限界を悟った。そう遠くない未来に人は妖怪を忘れ去る。

 だからこそそれまでに作らなければならない。

 

「幻想郷を。妖怪と人が共存できる理想郷を私は作るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、縁は満月の下月見酒をしていた。

 当然、飲んでいる酒はその辺の民家から拝借したものだ。着崩した着物に扇子を扇ぐその姿は世捨て人の様にも見える。

 

「…さて、どうしたもんかね」

 

 普段ならだらし無く頬を緩めるほどの上物の酒。しかし、今の彼はその酒も余り楽しめていない様だ。

 理由は少し前に遡る。いつもの様に民家を行ったり来たりしている時に彼は足元に開いたスキマに落とされた。紫から呼ばれるとは珍しいものもあるものだと思いながら彼はスキマへと落ちていった。出た先は予想通り紫の屋敷。

 

「何か用か紫?」

 

 彼の趣向的にこうして呼ばれるのは余り好きではない。友人と呼べるほど親しい紫であるからこそ許している。

 

「えぇ。貴方に話したい事があるの」 

 

 いつにもなく真剣な様子の紫に驚きながら対面に座る縁。事前に用意されていたお茶を飲みながら紫が話し出すのを待つ。緊張しているのか何か覚悟を決める素振りを見せている紫に対し、雑に座り片手で酒を煽る様にお茶を飲む縁。お茶を飲む音だけが響き漸く紫が話し出す。

 

「縁。私はこれから妖怪と人が共存できる幻想郷を作ろうと思うわ」

 

 その言葉に縁は動きを止める。

 しばらく石像の様に固まっていた縁だが、驚きに満ちた顔と声で動き出す。

 

「はぁ!?正気かよ紫」

 

「正気よ。私は作ってみせるわ」

 

 未だに驚いた表情の縁に縁は淡々と幻想郷の仕組みを説明していく。どことなく業務的に説明していくその姿は、自分にとっての最悪を想像しない様に仮面をかぶっている様にも見える。幻想郷の仕組みを説明していけばいくほど縁の表情は険しいものへ変わっていく。

 当然だ。彼の思想と紫の思想は合わないのだから。

 

「……紫。俺は妖怪は人に恐れられる存在であるべきだと思っている」

 

「えぇ。だから幻想郷では」

 

 言葉を遮り縁が口を開く。紫に対して今はお前が話す時ではないという態度だ。

 

「人の進化を止める?はっ!ざけんな、そこまでして俺らを残して何になる?

 お前もよく知っているだろう?妖怪は何も変わらねぇ。生まれたその時から歩みを止めている。それに対して人はどうだ?

 次々と数を増やし、自然を切り開き自分たちだけで進化していく。人が妖怪を忘れ去るのならそれが運命なんだよ紫」

 

 彼はよく見てきた。スキマを通してじゃなく直接人の生活に触れてきた。

 だからこそ、人という種を紫以上に理解している。人は未知を恐れるが故に未知に踏み出す生物だと。自分達がどうしようもなく弱い事を理解しながら。いや、弱いからこそ彼らは躍進する。縁はいずれ、星の未知は全て人によって解明されると予測していた。

 

「運命に争いたいとは思わないの?」

 

「思わない。人が俺らの元を去るならそれはそれだ」

 

「私は嫌よ。人と妖怪は共存できる。諦めていたらその未来はこないもの」

 

「なら言ってやる。そんな未来はねぇ。人は弱い、だから俺たちを受け入れられない」

 

「…いつまで過去に縛られてるつもり?紛いなりにも貴方は人を愛した筈よ」

 

 かつて縁はたった一人の人間の女性を愛した。ぬらりひょんという事もあり人間社会には溶け込みやすく、性質上侵入した家の人間は縁を侵入者と思うことはない。だが、それが通用しない女性がいたのだ。物珍しさから縁はその女性にちょっかいをかけゆっくりとだが関係を深めていった。しかし、訪れた結末は残酷なものだった。

 一人の陰陽師に全てが壊され、妖怪の近くにいたというだけで縁が愛した女性は処刑された。冷たくなった彼女を抱きしめながら彼は理解した。人と妖怪は種として共存する事など出来ないと。

 紫は知っている。この時期から縁が人の家には侵入するが長居は決してせず物を盗ったり食べたりするだけで人と関わる事をしなくなったのを。でも、紫は賭けたかった。人を愛することの出来た妖怪としての彼を。

 

「…愛していたからこそだ。なぁ、紫。

 俺は人に忘れられて消えたいんだよ。愛した女のいない世界ってのはな、虚しくてな。人が妖怪を恐れなくなるのならもう俺は必要のない存在になるし、妖怪が人を飲み込むのなら正直、ざまぁみろと言いたい気分だ。でも、お前の言う共存だけは認められねぇ」

 

 紫は選択を間違えた。

 

 後にも先にもこれほど大きく選択を間違えたことはない。

 

「帰る。少し色々と考える時間をくれ」

 

「え、えぇ。分かったわ。じゃあ、三日後に答えを教えてくれるかしら?」

 

「随分、急だな。まぁ良いわかった」

 

 紫は決死の思いで縁を引き留めるべきだった。

 もしくは自身の思いを素直に口に出すべきだった。友人を失いたくないと。縁と共に在りたいと。

 だが、それをこの時の彼女はしなかった。素直に霞と消えていく縁を見送ってしまった。覆水盆に返らず、彼女はそれを味わうことになる。

 

 月を見上げ都を見下ろす。

 紫から別れ、しばらく一人で考え縁は結論を出した。

 

「………勝っても負けても俺は消える。は、ははっ、盛大な自殺だなこれは。

 紫。悪いな、友としてお前に協力してやりたい気持ちはある。だが、譲れない。人が妖怪を忘れ去るのならそれが自然の摂理だ。

 幻想郷は認められない。俺はお前の敵となっても幻想郷を認めない」

 

 三日後、縁が紫の元を訪れる事はなかった。

 

「……そう。それが貴方の選択なのね縁」

 

 代わりに紫はスキマから見えていた。

 幻想郷のある場所へ妖怪の群れを率いる縁の姿を。とても話し合いをする雰囲気ではないその姿を。

 

「藍。戦える者を集めて。戦になるわ」

 

「はっ」

 

 彼女の式神が幻想郷各地に御触れを出す。妖怪同士の戦になる旨を、戦力が必要だから集ってほしいと。

 紫側の戦力はそこまで多くないが、大半が強力な妖怪だ。ちらほらと人間も混ざっている。それに対し、縁側の戦力は木端妖怪が大半だ。数こそ多いが一つ一つの戦闘力は乏しい。

 

「妖怪が引き籠る必要なんて存在しねぇ!俺たちは最強なんだよ!!妖怪天下最高ー!!」

 

 縁の軍の一体がそう叫べば呼応する様に騒ぎ出す。

 それらを眺めながら縁は言葉を溢す。

 

「これだから紫は見切りをつけたんだろうな…」

 

 進歩しない妖怪なんてこんなものだ。始まる前から敗色濃厚かと思っている彼の近くに見るからに豪傑な妖怪が寄ってくる。

 金色に輝く髪に、大きな棍棒を担ぎスタイル抜群の鬼。

 

「よぉ!御大将。なーに、浮かない顔してんだ?」

 

「金童子か。いや、頭空っぽの連中は楽で良いなと」

 

 金童子。大江山四天王と言われた鬼の一体。雲隠れしているところを縁に見つかり説得の末、味方となった。

 人との真正面からの果し合いを望んでおりこの戦いで人間の強者を見掛ければ作戦とは関係なしに戦って良いという許可を得ている。

 

「カッカッカ!思うがまま本能の姿を振るうのが妖怪だから仕方あるまいよ。わしとて、この戦いに大義など見いだしておらんからな」

 

「暑苦しい……アレら凍らしても?」

 

「やめてくれ雪花。戦いが戦いじゃなくなる」

 

 金童子の後ろにいた白装束に白髪の女性。雪女らしく口元から冷気を発している。

 戦いに同行した理由は単純。縁に惚れたからというものだ。縁は想いは受け取れないと言ったが、そのまま着いてきた。

 

「……」

 

「君は開戦と同時に暴れてくれ。それだけで十分に先制になるだろう。期待しているがしゃどくろ」

 

「……」

 

 縁の着物を引っ張った和風人形の様な外見の少女。種族はがしゃどくろ。名は縁も知らない。

 縁の言葉に頷き、やる気を見せている。見た目相応の精神性である少女を連れてきてしまったのを後悔しながら縁は自軍の戦力を今一度確認する。金童子、雪花、がしゃどくろ。この三体が一番名のある強力な戦力だ。残りは木端妖怪と金童子が僅かに連れていた鬼のみ。

 先ほどふらりと見てきた紫の戦力相手には先の三体以外正直、足止めが限界だ。故に彼が取る手法はただ一つ。大将首を取ること。

 妖怪同士の戦いは殺しても決着がつかない。特殊な術で捕らえるか負けを認めさせるしかない。

 

「…そろそろか」

 

 百鬼夜行を率い、幻想郷の領域へと近づく。

 

「ヒャッハー!滅ぼしてぎゃーー!!」

 

 何も考えず駆け出した妖怪たちが消炭になる。

 紫の十八番、結界術だ。消炭になった妖怪達を哀れに思いながら縁が結界へと手を伸ばす。

 

「まず俺が結界を無力化すると言ったはずだが……覚えてないのかお前ら」

 

 縁が結界に触れると溶けて消える結界。縁が身にまとう妖力を流し込んだだけだ。

 ぬらりひょんという特性を生み出している彼の妖力は結界に対し無類の強さを誇る。拒んでも侵入できる。そんな妖怪である彼の前ではありとあらゆる結界は意味をなさず崩れ去る。普段、紫の元を訪れていた時は能力で結界を無力化しない様にしていただけだ。

 スルリと空いた結界の穴にがしゃどくろが飛び込み真の姿を解放する。巨大な骸骨の姿を。

 

『ーーーーー!!!!』

 

 空気を振動させる咆哮。

 人里に大きな被害を出せない紫は当然、このがしゃどくろを放置できない。

 

「まずは巨大兵器ってところかしら?頼んだわよ。天狗」

 

 暴れるがしゃどくろ目掛けて、数多の天狗が飛来する。巨大すぎるがしゃどくろに対し、軍隊として戦える天狗が対処に当たる。

 それらを眺めながら縁は突き進む。木端妖怪の大半はすでに自由に動き始めている。指示は出してあるが、どこまで従うか怪しいものだ。彼の頭上では天狗の起こした風とがしゃどくろの大きな身体がぶつかりあう。

 天狗の風は強力だが、大きすぎるがしゃどくろには余りダメージになっていない。しかし、大振りすぎるがしゃどくろの攻撃も素早い天狗を捉える事はない。完全な鼬ごっこだ。

 

「悪いけどこの先には行かせないよ。妖怪」

 

 紅白の巫女だろうか。少なくとも縁は初めて見る。

 しかし巫女が身にまとう霊力は強大だ。ちらりと金童子を見ると凶暴な笑みを浮かべて頷く。どうやらお眼鏡にかなった様だ。

 

「任せた」

 

「ははっ!!先に楽しませて貰うぜ御大将!」

 

 紅白の巫女に対して振り下ろされる棍棒。

 しかし、それは巫女の持つ大幣で受け止められる。

 

「…驚いた。鬼だねお前さん」

 

「ならなんだってんだい!」

 

「全力を出す必要があるってわけさ!」

 

 戦い始めた金童子と紅白の巫女の横を通り過ぎてさらに進む。

 すでに縁と共にいるのは雪花のみ。道中邪魔されないのは、適当に暴れてる木端供が仕事をしているのか紫の策略か。どちらでも良い。勝とうが負けようが滅びるのが縁の軍だ。自分たちの命など心配する必要などない。

 

「…来ましたか。縁さん」

 

「確か藍と言ったか。なるほど、お前がいるなら紫はこの辺りにいるんだな」

 

 八雲藍。紫の式神であり紫が信頼をおく従者。

 九尾の狐を式神にしたとも言われる存在だ。それに対するは雪女の雪花。

 

「では、私が凍らせましょう。先にどうぞ縁」

 

「正気か?お前と私では格が違うぞ?」

 

「黙りなさい」

 

 ゴォォォと周囲に吹雪が吹き始める。天候をも弄る力。藍は目の前の妖怪の強さを再定義する。

 雪女としては規格外に強いことを知っている縁はその背を見守り意識を集中させる。ここまできたが紫の場所を特定しきれていない。場所さえ分かれば全てを無視して移動できる能力だが、肝心の場所が分からない。雪花と藍の戦いを見つめながら、周囲に妖気を張り巡らす。策を考え実行するのは得意だが、心配性なところがある紫の事だ。スキマで必ず見ている筈だ。

 張り巡らした妖気が乱れる。そこに視線を向ければ極々小さなスキマが開いていた。

 

「見つけた」

 

 霞の様に消えた縁。

 直後、彼は紫の目の前に姿を現していた。

 

「よぉ、紫」

 

「…来たわね縁」

 

 三日しか会っていない筈だが二人の立ち位置は変わっていた。

 友ではなく敵対者。悲しいほどに入れ替わっていた。

 

「改めて聞くけどどうしても協力はしてくれないのかしら?」

 

 縋る様に出された言葉。しかしその言葉を受けても縁の表情は変わらない。

 

「あぁ。運命に逆らう気はない。お前が理想を叶えたければ俺を倒せ。

俺が負ければ幻想郷は生まれる運命にあったという事だ」

 

 縁は変わらない。彼は幻想郷を認められないのだ。理想が合わず話し合いも無理となれば戦うしかない。

 両軍の大将同士の戦いだ。どう足掻いても決着がつく。ましてや、縁には時間がない。幻想郷の戦力を無理やり数で押さえ込んでいるだけなのだ。時間をかければかけるほど不利になるのは縁だ。この場所に増援が来てしまうのだから。

 

「…この、分からず屋!!」

 

 紫から大量の光弾が縁目掛けて放たれる。しかし、霞消えると同時に紫の背後に縁が現れる。

 妖力で形作った剣を無防備な背中へと突き刺そうとするが、紫がスキマに消えた事で避けられる。

 

「互いに手の内は知ってるからまぁ、こうなるよな」

 

 紫は遠距離主体。縁は近距離主体。しかも、互いに即座に距離を離したり詰めたり出来る。

 組み手をした事もあるのでどう戦うかある程度分かっている。泥沼化待ったなしである。

 

「どうして…どうしてなの?」

 

 スキマがたくさん開かれる。その中に光弾を打ち込んでいく紫。開かれるスキマは縁を包囲している。

 妖力の流れから全てのスキマから光弾が出るわけではない様だ。追撃に取ってあるのか?と考えながら再び消える縁。

 現れる場所は紫の真横。

 

「なんで、貴方はいつも私と一緒に生きてくれないの!?」

 

「…そういう流れだったからな」

 

 自爆すらしかねない位置に開かれたスキマから光弾が飛び出す。しかし、それを予想していた縁は容易く避ける。

 避けている間に紫は完全にスキマの中に隠れてしまう。

 

「人を愛した時も!今こうしている時も!なんで貴方は私の隣を選んでくれないの?」

 

 スキマから現れ縁を抱きしめる紫。そこだけ見れば縁が羨ましいだけだが、彼を覆う様にスキマが開かれている。

 物理的に拘束し攻撃を当てる算段なのだろう。

 

「…俺はあいつを選んだ事に後悔はない。それに、こうしてお前に歯向かった以上お前の隣に俺が立つことなんて出来はしないさ」

 

「そんなの!」

 

「自分の力で黙らせるか?自惚れるなよ八雲紫!!

 お前は確かに強いが、全てを自分の手中に収められると思うな。理想を貫き通したければ俺を倒せ!そうしなければ、お前な自らの理想に殺されるぞ」

 

 スキマの中へと移動する縁。

 時間がない最大の一撃を持って終わらせる。縁の放った光弾それは返し手として放たれた紫の一撃と拮抗する。

 ぶつかり合う二つの強大な妖力。

 

「…ぁぁあ!もう分かったわよ!私はやり遂げて見せますわ。貴方を倒し幻想郷を、妖怪と人間が共存できる場所を作り守り通してみせますわ。だから、貴方は残された時間をゆっくり過ごしてくださいな」

 

 口調が変わるのは覚悟の現れか。

 友の覚悟に縁は笑みを浮かべそして悟る。こうなれば自分に勝ちはないと。拮抗していた光弾は縁が力を弱めた事で縁に向かい飛んでくる。それを避けもせず縁は食う。

 

 ここに一つの争いは終結した。

 

 紫達幻想郷は勝利を収めた。縁が率いた木端妖怪達は跡形もなく消しとばされた。

 

 金童子は紅白の巫女との戦いで敗北。戦いに満足し自害。自ら消滅を選んだ。

 

 がしゃどくろは天狗達と引き分け、彼らに気に入られ妖怪の山に定住する事になる。

 

 雪花は藍に敗北。争いが終結すると同時に何処かへ姿を晦ました。

 

 そして、縁。幻想郷へ二度と立ち入らない事を条件に生きて外の世界へと放たれた。

 

 そして月日は流れ、人が宇宙に進出した時代。

 もはや山奥の奥深く、人が寄らなくなった限界集落。そこでしか活動出来ず消滅するその時を縁は待っていた。

 

「……何しに来た。紫」

 

「看取りに。限界でしょ貴方」

 

「よく分かったな。消滅するってのは不思議な感覚だ。ゆっくりと自分が無くなっていく」

 

 もうほとんど手足が動かないんだと笑う縁に紫は悲痛な顔を浮かべる。

 

「…そんな顔するなって。分かりきっていたことだろう?

 あぁ、そうだ。これやるよ」

 

 紫に扇子が投げ渡される。

 長い間、手入れされず所々色褪せた扇子だ。

 

「良いの?大事にしていたものでしょう?」

 

「良いやる。形見ってやつだ。人間は亡くなった奴にの私物でそいつを回顧するらしい。

 暇な時にでもそれを見て俺を思い出すと良いさ。覚悟が揺るぎそうな時とかな」

 

 星が輝く。これから消えゆく者を祝福する様に。

 縁は輝く星々に手を伸ばす。

 

「…なぁ、紫」

 

「…何かしら?」

 

「俺も行ってみてぇ……今、あそこにもいるんだろ?人間は」

 

「ッッ…行けば良いじゃない。貴方の能力なら容易でしょ」

 

「はっ、ははっ!確かにな……んじゃ……ちょっくら行ってくるわ………あばよ紫…」

 

 限界が来た縁の身体が消えていく。

 もはや消滅に争わないその身体は驚くほど一瞬に。その場には彼が着ていた着物だけが残された。

 その残された着物もスキマへと消える。最期に残ったのは水滴の跡だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、紫。いつまでその扇子使ってるのよ?」

 

 時代は移ろい紅白の巫女もとい、博麗の巫女である霊夢は境内に来た紫の扇子を見て言う。

 かなり色褪せた扇子だ。買い換えた方が良いだろう。

 

「んー…そうねぇ〜私が自分に素直になれるまでかしらねぇ」

 

「あんたほど素直な奴もいないっての…ってあれは小鈴?」

 

 境内に駆け込んでくる少女を霊夢は見つけた。

 一冊の本を持っている。霊夢と紫を見つけた彼女はより全力で駆け寄ってくる。

 

「はぁ、はぁ、これ!」

 

「何よ。また厄介ごと?」

 

「違いますよ!本の整理をしてたら、全く見たことのない本が出てきたんです。中身を読んでみたら、幻想郷で起きた起きた大戦。

その名も『幻想大戦』ってのが書かれて…挿し絵があったんですがこれ、この扇子!」

 

 小鈴が指差した挿し絵。

 着崩した着物を着て扇子を煽っている姿。その扇子はどう見ても紫が持っているものだった。

 

「この妖怪は妖怪大戦の敗軍大将。つまり、紫さんの敵対者だった者らしいんです」

 

 小鈴と霊夢の視線が紫に集まる。

 その目は扇子を持ってる理由を話せと悠然と物語っている。その目を見てため息をついたあと扇子を開き、ある日の縁と同じように自分を煽る。

 

「今から話すのは、それはそれは残酷なでも優しい賢者が生まれた話ですわ」

 




主人公設定
名前:縁(案は紫が出した)
種族:ぬらりひょん
能力:ありとあらゆる場所にいる程度の能力。
外見:着崩した着物を来たヒョロっとした見た目。しっとりと濡れた様な黒髪が特徴的なイケメン。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。