気だるげな雨の日の過ごし方。

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ようやく梅雨が明ける地域がちらほらと。遅いよ。おかしいですよ…


雨の日は気だるげで

 

雨の日は気だるげでどこにも行きたくなくなる。それが大雨であれば特に。

時期はもう夏の手前。つまりは梅雨。雨期であるこの時期は雨も多い。

今日も雨が降っていた。今日で3日連続だった。どんよりとした雲が空を支配する。

今日は特に酷い。地面や窓を叩く雨の音も昨日に比べて大きい。窓の中からも大き目の雨粒が見える。というか雨粒で遠くが見えない。大雨というより豪雨だ。

こんな日だと外出するのは躊躇われる。普通の雨ならまだしもこの天気なら傘を差したって服が濡れるに違いない。

だからまあ、こんな日は家でのんびり過ごすのが一番なのだ。

 

「でもだからと言って、寝転びながらお菓子を食べるのは自重した方がいいと思うんだけどな」

 

目の前の少女を見ながら言う。ひまりはベッドで寝転んで漫画を読みながら、誰もが知っているチョコレートがコーティングされた棒状のお菓子を食べていた。彼女の近くにはお菓子のストックがおいてあり、ベッドの下にはお菓子のゴミが纏められていた。

朝からだいたいこんな感じで今がちょうど昼過ぎなので4時間ぐらいは寝転んでいた。もちろんお菓子を摘まんでいた。だらだらしすぎである。俺もお菓子は食べていないものの似たようなものだが。

 

「えー、だってだるいんだもん」

 

「知ってる」

 

俺だって同じだから、こうして一緒にだらだらしてる。

 

「それはお菓子をパクパク食べる理由になってないぞ……。あとそこは俺のベッド」

 

「知ってるよー」

 

「なら起きてくれ」

 

「え~、でもでも可愛いカノジョの匂いがたっぷり染み込んだ方が後々幸せになれるよ?」

 

自分で可愛い言うな。いや可愛いんだが。でもこういうのは本人が言うとうざい。

 

「染み込むのはお菓子の匂いだろ……とりあえずお菓子をそこで食べるのを止めろ」

 

「えーなんで」

 

「いくらこんな天気だからってそんな風に過ごしてたら太るぞ」

 

「………………」

 

あ、固まった。

もしかして今更気付いたのか。躊躇なくボリボリ食べてたし多分そうだな。

と思っていたらすぐに動き出した。口にしようとしていたお菓子を箱の中に即座に戻していた。

 

「酷いよっ、女の子に太るって言うなんて」

 

「食べた事実をなかったことにしようとするな」

 

「鬼っ、人でなしっ、デリカシーなしっ、現実逃避させてよっ」

 

残念ながらその事実は消えないのだ。お菓子はやがて脂肪となってお腹をぶよぶよにするのだ。

 

「うわーん、どうしよう……」

 

「言っとくけど俺はお前のダイエットには付き合わないからな」

 

「可愛いカノジョの女の子としての危機だよ? 彼氏なら普通付き合うよね?」

 

「面倒なんで付き合わない。せめてその脂肪が胸に行くことを祈れ」

 

これからの季節はダイエットするにもキツそうな時期なんで。運動するのも断食するのもご免被る。

 

「うわぁ変態発言。男の子って本当に変態だよね」

 

ここでいう『男の子』とは一体誰のことなんだろうね。俺にはわかんないなぁ。

 

「そうだよ。男はみんな変態だ」

 

「私が言ってるのは君のことなんだけどね」

 

寝転んだ体勢のまま、俺を指差すひまり。

 

「その変態の俺に卑猥なことされる前に起きてくれ」

 

「やだ」

 

間髪入れず拒否された。え、これエロいことしていいってこと?

 

「エッチなことしちゃダメだよ」

 

と思ったらこれだよ。じゃあさっさと起きてくれよ。一体なんでだ。

 

「……だって君のベッドに私の匂い付けたいんだもん」

 

頬を桜色に染めて小声でひまりはそう言った。尖らせた唇が愛しい。思わずときめいてしまうのは仕方がないことだと思う。顔が暑い。

 

「……ともかく、どいたどいた」

 

俺はベッドのひまりを無理矢理退かそうとする。空気を変えようと大げさにわざとらしく。顔の火照りを誤魔化すように。彼女の細い腰に触れる。

 

「きゃー、えっち、変態、すけべー」

 

なんて彼女はわざとらしく言いながら足をばたつかせて抵抗する。ただその抵抗も本気ではないように思えた。

 

「そんなこと言ってると本当にそういうところ触るぞこら」

 

冗談めかして言った。本気ではない。

もちろん本音では触りたい。彼女の身体は出るとこ出てるので触りがいがある。触っていいなら喜んで触りたい。

 

「きゃー襲われるぅー」

 

言葉と裏腹に、嬉しそうに彼女は言う。そんな態度だと触るぞマジで。

子供みたいなじゃれ合い。さっきまでの火照りはどこかへ消えていた。彼女の頬も赤みが引いていた。

と油断していたのがダメだった。気の緩みが予想外の動作を引き起こす。ぐらりと俺とひまりは縺れ込む。

 

「――あっ……」

 

気がつけば俺がひまりを押し倒すような体勢になっていた。第三者から見たら俺が今にも彼女を襲おうとしてるように見えるだろう。

酷いのは手の位置だ。片方は彼女の顔の横、ベッドに体を支えるようにしていた。問題なのはもう片方のほうだ。彼女の胸部、その大きな膨らみを掴んでいた。手のひらから零れそうな膨らみだ。少し固いような感触はおそらく下着か。唐突にドリームキャッチという単語が浮かぶ。どうしようもないスケベな脳みそだ。

ひまりの顔が近い。その目に、鼻に、唇に、頬に視線が飛ぶ。どこに定めるべきか俺にはわからなかった。それは彼女も同じようで、瞳が右往左往していた。

 

「………………」

 

「………………」

 

時が止まる。

俺が何か言おうと言いあぐねているとひまりは口を開いた。

 

「…………その……揉む?」

 

彼女は一体何を言っているのだ。頭が真っ白になる。

ひまりの言葉を反芻する。揉む? 確かに彼女は『揉む?』と言った。何を? ……もしかしてたわわに実ったメロンのことを指しているのか?

彼女は一体何を言っているのだ。……考えてもわからねぇ。

 

「……退くわ」

 

考えてもわからなかったので俺は聞かなかったことにした。ゆっくりと身体を引こうとした。

 

「ちょっと待った! 退かないで! スルーしないで!」

 

ひまりは顔真っ赤にして慌てて捲くしたてる。なんで?

とはいえ、俺は身体を引くのを止めた。というか反射的に止まった。つまり、片手は彼女のメロンを掴んだままである。んで、四つん這い。片手は幸せだが、体勢キツ……。

 

「なんでだよ?」

 

訳がわからなかった俺はひまりに尋ねる。

 

「もしかして、触られたいとかか?」

 

もしそうなら痴女だ。

 

「違うからっ! 痴女じゃないもん!」

 

声を張って彼女は否定する。痴女じゃないならどんな理由だよ。

 

「……君が私の胸揉みたいのかなぁ、って思って」

 

俺はそんなに揉みたいオーラ出してたか?

 

「だって今日一日胸に目がよく行ってたし」

 

「…………まじ?」

 

「まじ……へんたい」

 

おおう……。自分ではまったく気がついてなかった。

 

「いやまあ、男だからね。自然と目がね」

 

悲しき男の性なんです。仕方がないんです。不可抗力なんですよ。

 

「えっち」

 

俺の言い訳に短い返答。否定できねぇ。ひまりの視線が軽蔑のものじゃないことが救いだ。

 

「だからね……えっと……そのぉー…………揉む? それで……する?」

 

小さな囁くような声で彼女は言う。随分と曖昧な言い方だが意味は丸わかりだ。

 

「君がしたいなら……いいよ? ……他の娘で発散されるのはやだし」

 

いじらしい言葉が愛おしく感じる。ひまりの瞳が潤んでいて、誘うようにこちらを見る。彼女の吐息が色っぽくて流されそうになる。速まった心臓の鼓動が煩い。

 

「……いや、しないから」

 

その言葉を発するのにはすごくエネルギーを使った気がする。

 

「……なんで?」

 

「だって、ここんところ毎日してただろうが」

 

そう。ここのところ雨の日だったり休日だったりで家に二人で居る時はほぼほぼ盛っていたのだ。酷く爛れた生活である。お年頃だからしょうがないと言い訳したとしてもこれは酷い。今日ぐらいは自制すべきだと思う。したいけど。

 

「だから今日はのんびりしてようぜ。さっきまでみたいにさ」

 

「……うん、わかったよ」

 

「というわけで退くわ」

 

俺はひまりの魅力的な身体から離れようとする。

 

「ちょっとストップ」

 

がひまりのその言葉でまたも動きを止める。今度はなんだよ……。

 

「なんで」

 

「ふっふっふっ、それはね……こうするからだよっ」

 

その声とともにひまりは俺の両手首を掴んで引っ張る。反応できない。一瞬の浮遊感。俺の身体は支えを失って彼女の身体へともつれ込む。柔らかな感触。

 

「重いっ」

 

「そりゃそうだ」

 

男一人分の体重なんだから重いに決まってる。

ひまりは一体全体なんでこんなことをしたのか。彼女は口を開いて俺の疑問に答えてくれた。

 

「どうせのんびりするなら二人でベッドの上でごろごろしようよ」

 

ひまりの提案は魅力的だった。ただ問題があるとしたら。

 

「こんなにくっついてると俺が我慢できそうになんですが」

 

ひまりの身体に触れて俺の理性が保てるわけがない。色々と元気になってしまう。

 

「そこは我慢」

 

「すっごい無茶振り」

 

「頑張れ♪ 頑張れ♪」

 

「それはやめろ」

 

別の部分が頑張っちゃうから。それとも頑張らせたいのか。そう思ってしまいそうになる。

 

「だって、そこは君に頑張ってもらうしかないし」

 

「……まあ、努力するわ」

 

できるかどうかはわからないけど。今日はのんびりだらだら過ごすと決めたのだ。

ごろりと体勢を変える。お互いに横向きで抱き合う。ひまりの身体は俺の身体にちょうどいい感じにすっぽりと収まっていた。その身体の感触は小さくて綺麗で柔らかくて瑞々しくて。仄かに香る少女の匂いをもっと嗅いでいたくなって。どうしようもなく感情が溢れ出そうになる。

我慢なんてできるかっ、ボケ! と叫びたくなる。なんてとかして気を紛らわせないと。

ふっと外の音を意識した。雨の音。ぽつりぽつりざあざあという音。相変わらずの大雨。そのリズムは規則的なような不規則なような……。その音に耳を澄ませると少し気が紛れた。

 

「どお? 我慢できそう?」

 

俺の胸の辺りに顔を擦りつけながらひまりは聞いてきた。おかしい。明らかに我慢させる気がないのでは。

 

「……ところでなにしてるんだ?」

 

「えーと……マーキング? この人は私のだよーって」

 

恥ずかしいこと言ってる自覚はあるらしい。顔が赤い。彼女も俺も。

またかよ。ひまりはなんでマーキングをしたがるのか。俺やら俺のベッドやらにすりすりして。とっくに俺はひまりのものなのに。

 

「我慢できなくなるから止めてくれ」

 

「えー」

 

ぶーぶーとひまりは抗議してくるが、そこは本当に止めてほしい。またも爛れた生活へGO TOしてしまう。

 

「あのね」

 

「なに」

 

「こうやってくっついてるだけで私、結構幸せかも」

 

「俺も」

 

降り続ける雨の音を聞きながら、俺たちはいつまでもとりとめのない話を続けた。尽きることない、くだらない、中身のない話だ。今日夜何食べようとか、そんなこと。

気だるげな雨の日はそれだけで幸せになれた。ひまりと家の中でだらだら過ごす、そんなことで幸福だった。

 

 




こんな馬鹿な話ですいやせん


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