そんな彼女が、本当の意味で子供らしくなれる。そんなお話です。
※pixivに投稿した作品の加筆・修正版になります。
「指揮官、似合う?」
「し、指揮官……今日のために新調したんだが、ど、どうだ?」
「特別に許してあげるから、この私の高貴な水着姿をしっかりとその目に――って、ベル!フッド!あなたたちが横に立つと私が目立たないじゃない!」
「目立たないどころか、悲惨なことに……」
「青葉、うるさいっ!」
「お兄ちゃん、イラストリアス姉ちゃんと一緒に選んだんだよ。似合ってる?」
指揮官の前には水着姿のKAN-SEN達。
今、彼らはつい先日オープンしたばかりのウォーターランドに来ている。
とあるKAN-SENの希望で一緒に行く約束を指揮官がしていた時に、本部から報奨としてウォーターランドのチケットを全員分入手。スケジュールを調整し、友人の学園に応援を頼んで1日だけ全員で遊びに来る日を設けた。
「おう、みんなバッチリ似合ってるぞ」
彼女達に囲まれながら、指揮官は笑顔でそう言った。
それぞれの魅力が十分に見て取れるKAN-SEN達の水着姿。指揮官も一人の男であり、女性の魅力的な水着姿を見られて嬉しくないわけがなかった。
「ん~、ありきたりなセリフで面白味がないなぁ」
指揮官の横で青葉が不満そうに首をひねる。
「別にいいだろ。みんな似合ってるのは本当なんだし」
「そこはもっと自分の欲望に素直な感じでさ。なんかこう、目をギラギラさせながら……そうそう、あそこのアーク・ロイヤルさんみたいに」
青葉が指さす先。そこには血走った眼をしながら水着姿の駆逐艦を物陰から凝視しているアーク・ロイヤルの姿があった。誰がどう見ても不審者にしか見えない。
「ベル、駆逐艦の安全のためにアーク・ロイヤルを別のところに連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
既に察していたのか、予想していたのか、ベルファストの動きは速かった。ベルファストの合図とともにメイド隊がどこからともなく現れ、アーク・ロイヤルが抵抗する間もなく彼女を担ぎ上げ、どこかへと連れて行った。
「……というわけで、指揮官もあんな感じに」
「なるか、アホ」
指揮官と青葉がそんなやり取りをしている頃、少し離れた場所でZ19ことキュンネは見るからに落ち込んでいた。
「うぅ……まさかみんなで来るなんて……事前にちゃんと言わなかった私、0点です……」
このウォーターランドに行きたいと希望したのは彼女だった。常日頃から指揮官と遊びに行きたいと考えていた彼女は、ウォーターランド開園のチラシを見て良い機会だと思い、勇気を振り絞って指揮官に「一緒に行きませんか?」と尋ねたところ、あっさりとOKを貰うことができた。
キュンネは「指揮官と2人きりで遊びに行ける!」と喜んでいたのだが、その直後に指揮官が全員分のチケットを奇跡的なタイミングで入手。更には指揮官がキュンネと「2人きりで」と考えていなかったために、結局全員で一緒に来ることとなった。
「……確かに私も2人きりで、とは言いませんでしたけど、少しは察してくれてもいいと思うんです」
多くのKAN-SEN達に囲まれる指揮官を見ながら、キュンネは頬を膨らませる。
指揮官がそういう人だというのは重々承知していたはず。それなのに、浮かれすぎて確認と念押しを怠ってしまった彼女のミスもあるだろう。しかし、それでも気付いてほしいと思ってしまう複雑な思いもある。
「キュンネ、どうした?」
落ち込んでいるキュンネの様子に気付いた指揮官と青葉が、彼女の傍に寄る。
「あ、指揮官……」
「なんか元気ないけど、人混みで疲れたのか?」
「……私は大丈夫です」
気にかけてくれた嬉しさ、だけど肝心なことには気付いてくれない腹立たしさで、思わず拗ねたような返事になってしまう。指揮官は「なんか怒らせたか?」と困惑する一方で、青葉はキュンネの態度から何となく察し、興味津々といった様子で眺めていた。
「ちょっと、庶民!何してるのよ、さっさと私に構いなさい!」
「わっ、ちょっちょっ!引っ張るな、エリー!キュンネ、無理はするなよ!」
「あ、指揮官……」
指揮官はエリザベスに引っ張られて人混みの中へと消えて行ってしまった。
そして、その場にはキュンネと青葉だけが取り残された。
「フィーゼ、2人はいたか?」
「どこにもいない」
「まったく、カールとヴィルはどこに……ん?どうした、キュンネ」
はぐれてしまったカールとヴィルヘルムを探していたれーべとフィーゼは、先ほどよりも落ち込んでいるキュンネの姿を見て駆け寄ってきた。
「あ、レーベちゃん、フィーゼちゃん」
「青葉、キュンネはどうしたんだ?」
「んー、まぁ多分なんだけど……」
「あー、そういやキュンネ、指揮官と一緒に遊びに行くんだって言ってたな。元々はこれのことだったのか」
「んで、指揮官と2人きりのつもりが、全員で来ちゃったから落ち込んでいる、と」
「わ、私は……」
真面目で自分には厳しくを信条とする彼女である。「こうなったのは指揮官のせいである」とは考えたくはないようだ。それに、「指揮官に構ってもらいたいから」と認めるのも恥ずかしいのだろう。
「指揮官は気持ちさえしっかり伝えれば向き合ってくれる。あの人はそういう人だ」
「逆に、ちゃんと伝えないといつまで経っても気付いてくれないんだよなぁ」
「そうだよ、キュンネちゃん。だから、指揮官にはハッキリと言わないと」
「で、でも……今更指揮官にそんなこと言ったらご迷惑になるのでは……」
「大丈夫大丈夫。迷惑をかけられてでも、頼ってもらえた方が指揮官は喜んでくれるよ」
長年指揮官の側にいた青葉の言葉には、指揮官への確かな信頼が込められていた。
「頼る……」
キュンネの頭の中に指揮官の顔が思い浮かぶ。
自分の力で頑張らなきゃいけないと思い続けていたキュンネが、初めて「頼りたくなる」と思えた人。側にいれば、何をしていなくても安心してしまう、思わず甘えたくなる。キュンネにとって、指揮官とはそういう人だった。
「それに、指揮官の周りの人を見てごらんよ。指揮官に迷惑かける人多いでしょ?それでも指揮官はちゃんと面倒見てくれてるんだから。素直に気持ちをぶつけたぐらいじゃ、指揮官にとっての迷惑にはならないよ」
「迷惑か。青葉がその筆頭なのだな」
「……フィーゼちゃん、指揮官にいらんこと教えられたね。とにかく!あのニブチン指揮官にはストレートにぶつけるのが大事なの!大体、指揮官は鈍い上にヘタレだからどうしようもないんだよ」
何かのスイッチが入ったのか、青葉は指揮官に対する愚痴を言い始めた。
「前々からヘタレだとは思ってたんだけどね、今日も私含めたこれだけの綺麗どころの水着を見て無難な感想しか言わないし、グイグイ行っても全然反応しないし。今日に限らずそれ以前からも、ロイヤルネイビーの人達みたいなすっごく綺麗な人達から迫られても間違い一つ起こさないし、指揮官。いや、指揮官の問題なんだからあんまり深くはツッコみたくはないんだけどさ、さすがに見ててモヤモヤするというか、さすがに『さっさと襲われるか襲うかぐらいはせんかい!』って思っちゃうね。じゃないとそろそろ指揮官同性愛者説の記事作っちゃうよ、マジで。実際若干疑ってて、記事の準備はしてるからね、実のこと言うと」
「ほう、そんな記事を準備してたのか」
「うん、バッチリ。あとはタイミングを見て出すだけ……」
聞き慣れた声。青葉が恐る恐る振り向くと、そこには仁王立ちする指揮官の姿があった。顔はにこやかなのだが、纏っている空気が明らかに怒気のそれだった。
「……えーっと、指揮官。どの辺りから?」
「お前が俺のことを好き放題言い始めた辺りかな」
「……逃げるが勝ち!」
「逃がさん」
逃げ出そうとした青葉の首根っこを、指揮官は素早く掴んだ。
「……俺も自分が出来た人間だとは思っていない。だから、好き放題言われるってのも分かるっちゃ分かるんだ。ただ、出来た人間じゃないからこそ、好き放題言われて、はいそうですかで済ますことも出来ないわけでな」
「さて、青葉には一つ罰を与えようか」
「お、お手柔らかに……」
「あっちでフレッチャー達と睦月、如月、エルドリッジが遊んでる。お前はその相手をしてこい」
「え、それだけでいいの?」
「あぁ、それだけでいいぞ」
「やったぁ、ラッキー!それじゃ、行ってくる!」
楽な罰だと思った青葉は、スキップしながらフレッチャー達が遊んでいるという場所へと向かっていった。
「……楽に済むといいな、青葉」
指揮官は、まるで食肉加工場へ送られる牛を見るような目で青葉を見送った。
「……さて、何の話をしてたんだ。やたら盛り上がってたみたいだが」
指揮官はキュンネ達の方を見た。
「あ、実は……」
「ね、姉さん!」
「モガッ!?」
何か言おうとしたレーベの口をキュンネが慌てて塞ぐ。
(えっと、その……私が自分で言いますから!)
小声でレーベにそう言うキュンネ。レーベはコクコクと頷く。
そしてレーベを解放すると、キュンネは緊張したように指揮官の前に立つ。
「し、指揮官!そ、その……」
「どうした、キュンネ」
「え、えーっと……」
中々言い出せないのか、キュンネはしどろもどろになってしまう。
「……もしかして、さっき元気がなかったことと関係があるか?」
指揮官に言われ、キュンネは頷く。
「なんだ、俺に何か言いたかったのか。遠慮せずに言っていいんだぞ」
指揮官が笑いながらキュンネの頭を撫でた。それだけで、キュンネは心が落ち着くのを感じた。
「実は……えっと、本当は……その、私は今日は指揮官と2人きりで遊びに来たくて……」
小さい声だったが、キュンネは自分の本音を口にした。
「……もしかして、前に遊びに行きたいって言ったのは、2人で遊びに行きたいってことだったのか?」
キュンネはまた頷く。指揮官は「あっちゃー」というような表情をした。
「わ、悪かった、キュンネ。深く考えもせずにみんなを誘ってた……」
「い、いえ……ハッキリと言わなかった私も悪いんです!指揮官は、ただみんなを喜ばせてあげようとしただけで、何も悪くありません!私のただのワガママです……」
しょんぼりとしてしまうキュンネ。
「あー、キュンネ?……今日は今日で楽しもう。で、次の俺の非番、その時は2人でどっかに遊びに行くか?」
キュンネはパッと顔を上げる。
「い、いいんですか!今日もお願いを聞いてもらったのに!」
「あぁ、構わない。元々キュンネは俺と2人で来たかったんだろ。なら、せめてそのお願いは叶えてやらんと。場所にもよるが、行きたいところに連れて行ってやるよ。だから、これからは遠慮せずに言いたいことを言ってくれ。俺、鈍いみたいだからな」
指揮官は若干恨みがましくそう言った。先ほど青葉に言われたことをまだ根に持っているようである。
「日程は分かり次第連絡するから。今日は今日で思いっきり楽しんでくれよな」
「はい!ありがとうございます!」
「んで、俺は今からまたエリーのところに行くんだが、キュンネはどうする?」
「では、ご一緒させていただきます」
「レーベとフィーゼは?」
「俺はカールとヴィルヘルムを探さないと……」
「迷子センターに声かければいいんじゃないか?」
「……あ」
それから1ヶ月後
「キュンネ、本当にここで良かったのか?」
キュンネと指揮官は今、母港から少し離れた海岸に来ていた。
少し暖かくなってきたとはいえ、まだシーズン外。海岸にはキュンネと指揮官以外誰もいなかった。
「はい、ここでいいんです。遊ぶというよりも、指揮官と2人になりたかったので」
あの日から、キュンネは以前よりも指揮官に対して素直になっていた。
言いたいことがあれば言うし、甘えたい時には遠慮なく甘える。以前まではどこか「大人になろうとしていた」のだが、今ではある意味で「歳相応」になっていると言える。
「指揮官、私はまだ子供です。いくら背伸びをしても、それだけはどうやっても変えることはできません」
指揮官と一緒に海岸を歩きながら、キュンネは語る。
「今の私は、まだ40点ぐらいです。満足のいく自分には全然辿り着けていません。ですが、いつか私自身が満足のいくような、100点の自分になれた時に、また指揮官と一緒にこの海岸に来ようと思います。その時に……指揮官に伝えたいことがありますので。今日はそれを指揮官に言うためにここに来ました」
「なんだ?今言ってくれればいいのに」
「いえ、その言葉を伝えるには、今の私ではダメなんです。納得ができないんです。ですから……自分に納得がいくその時まで……指揮官には待っていてほしいんです」
その時のキュンネの顔は、思わず見惚れてしまう程に「綺麗」だった。
「あぁ、分かった」
指揮官は少しドキドキしながらも、そう返事を返した。
「……それと、指揮官にはもう一つお願いがあるんです!」
急にキュンネが子供のような「可愛らしい」顔に戻った。
「何だ?」
「えっと、私が出撃してMVPを取った時のご褒美は、一緒にお出かけでお願いします!」
「構わんぞ。MVPを取れた時はどこにでも連れて行ってやるよ」
「やった!」
キュンネはぴょんっと跳ねて喜んだ。
今はこれで良い。子供らしく甘えればいいのだ。
でもいつか……自分が納得のいくような、100点の大人になれた時。
その時は、指揮官に――。
「うううう……体が悲鳴を上げてるのが分かる……」
「何をしたらこんなに体がガチガチになるにゃ」
「指揮官の命令でチビッ子達の相手してたら……」
「あー、それはそれは……ほとんど罰だにゃ」
「最初は楽なお仕置きだと思ってたのに……しかも途中から何故かシムスちゃんまで参戦していつの間に仕掛けたのか、色んなトラップに引っかかるし……」
「子供のパワーに振り回されるぐらい、青葉も歳ってことにゃ」
「失礼な!私はまだまだピッチピチだし!」
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