転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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②マルクシュア王国

 

 リムルと俺、ヴェルドラ、ヒナタは、"魔塔"を目指すことになった。

 マルクシュア王国の沖合にある魔塔には外敵の侵入を防ぐ結界が張られ、その極大結界は海に突き出た大陸の一部にも掛かっている。王国の領土のうち結界に守られた範囲が王都サント・マルクシュア。"賢人都市"とも呼ばれる魔法師達の都だ。

 

 魔塔には王都の岬から飛行魔法で出発するため、王都門で審査を受けて正式に結界内へ入るのがお忍びとしての最適解となる。

 リムルと俺は自由組合(ギルド)に登録済だし、ヒナタも教会で用意された偽の身分証を持っている。問題はヴェルドラで、"ギメイ"名義の身分証を発行する案があったが──

 

「却下だ! 我は本名で冒険者登録し、ギルドでのイベントを満喫するぞ! 新人は先輩冒険者に絡まれるのが習わしなのだろう?」

「それは漫画のお約束ってやつで……なあレトラ?」

「一生に一度はやっときたいイベントだと思う」

「お前、こういう時は中二脳だよな」

 

 そんなわけでヴェルドラの冒険者登録が必要なのだが、マルクシュアでは西方聖教会の支部もギルドの支部も結界外の一般区画にあるため都合がいい。

 ヒナタの元素魔法:拠点移動(ワープポータル)で魔国から聖教会支部へ転移すると、責任者のニックス司祭が俺達を出迎えてくれた。

 

「しばらくお世話になるわね、ニックス司祭」

「ようこそヒナタ様、マルクシュア支部へ! どうぞ遠慮なさらないで下さい、聖騎士団の団長である貴女様には我々は常に守られているのですから……!」

 

 優しげな顔の男性で、ヒナタのことは信奉しているようだ。

 それに対して俺達には──

 

「チッ、邪竜が……何故、聖なる教会に魔王とその弟まで……」

 

 ひどい差別を見た。まあ仕方ないか……ほんの最近までは魔物の殲滅がルミナス教の教義で、"暴風竜"に至っては神敵だったんだから。

 

「ニックス、その態度は頂けないわね」

 

 だが、ヒナタが一言言ってくれたのだ。

 怒っている様子ではないが、キッパリとした口調で。格好良い! 

 

「ヴェルドラは邪竜だから置いておくとして、リムルとレトラは私の恩人で友人なの。色々と迷惑を掛けたしお世話にもなったわ。蔑ろにするのは許さないわよ」

「た、確かに……邪竜は除いても、神ルミナスの愛は平等に与えられるべきもの……わ、私が間違っておりました!」

「あれ? あれれ? 我も大事にすべきでは……?」

 

 除外されてるヴェルドラが可哀想……俺とリムルでまあまあと慰めておいたけど、これで怒らないヴェルドラはほんと性格良いよねって! 

 

 

 教会に宿泊部屋を用意してもらい、着替えたら一階の食堂に集合。

 ヒナタは革鎧、鋼の胸当て、手甲、足甲、細剣(レイピア)。リムルが改良してプレゼントした剣だな。

 リムルと俺は魔法使いの衣装で、シュナが張り切って似た感じに揃えてくれた。とんがり帽子にローブにマント。それと魔法の玉や刻印があしらわれた杖。

 ヴェルドラはカイジン作の剣士風装備。ヴィジュアル重視だが、本来"竜種"に防具なんて必要ないので見た目が格好良ければ充分だ。

 

「あら、いいじゃない。似合ってるわよ」

「そっちこそ、本格的に一般冒険者だな」

「それはそうよ。聖騎士団長が魔物退治の依頼を受けるのは外聞が悪いもの」

 

 ああ、ルベリオスは平等を謳っているから現金支給なしなんだよな……寄付金は教会に入るし、ヒナタなら国家予算を扱える立場でもあるけど、魔物退治なんかで個人的に報酬を得る時は身分を隠しているらしい。

 

「そうだ皆。俺の身分証は偽名だから、俺のことはトウマって呼んでよ」

「フム、トウマだな。お前は本名を名乗らなくて良いのか?」

「別人のフリするのも楽しそうだし──あと俺は、ちょっと見た目も変えるよ」

 

 砂色の長い髪がスルスルと短くなり、黒の短髪へと変わる。瞳も琥珀から黒へ。迷宮で指導員トウマをやる時とは違って顔は覆わない。リムル達は普通に顔出しするんだから、俺一人隠している方が浮くと思うんだよ。リムルには渋られたけど。

 クスッとヒナタが笑う。

 

「その外見だったら、私の弟に見えるかもしれないわね」

「は? 俺の弟だが」

「貴方はどうしてそう余裕がないのよ」

 

 リムルが光の速さで反応し、ヒナタは呆れてこの話題を流した。

 面白そう、旅行中は俺達で姉弟(きょうだい)やる? ──と、ヒナタに提案する暇もなかったな……いやそれはリムルが拗ねそうだから……うん、提案しなくて良かったかもしれない。

 

 

 

「空腹感?」

「ああ。お前もやってみるといいぞ」

 

 教会で出された微妙な味のランチを美味い美味いと食べていたリムルが、ギルドへ向かう途中でこんな主張をしてきた。『名物にうまいものなし』とされるように、旅先で並以下の飯に出会うことはよくある。そんな雑飯を極上の味に感じさせるのは"空腹感"であり──それがバカンスの醍醐味なのだ、と。

 

「『空腹は最高のスパイス』ってやつ?」

「そう、それだ! 俺は一定時に"擬似空腹感"を発動させて万全のコンディションを……」

「興味ないわ。私は美味しいご飯の方がいいわね」

「我も同感だな!」

「…………」

 

 ヒナタもヴェルドラも非情だった。

 チーン、とリムルが敗北感に包まれた顔をしている。

 

「えー……子供の頃、海に連れてってもらった感じ、なかったか? ラーメンとかオデンとかヤキソバとか……やたらとウマかっただろ?」

「そんな経験ないから、知りようもないわ」

「あ、俺もない。実家は山の方だったし」

 

 それに、じいちゃんとばあちゃんは旅行する習慣のない人達だったからな……まあ各家庭には色々あるので、リムルも深くは追及しない。

 

「じゃ、これから経験すればいいさ。王都で海水浴だ!」

「ふふっ……そうね」

 

 リムルが笑うと、ヒナタはつられて雰囲気を和らげた。

 あ、良い空気。ここだけの話、俺は知っているのだ……このバカンスのヒロインがヒナタだということを! せっかくの休暇だし、こういう時くらいは俺もそのつもりでいよう。

 

 やがて俺達はギルドに到着した。「クク……ここからは我のターンだ」と、ヴェルドラはすっかりギルドの洗礼(新人イビリ)を受けるつもりでいる。

 

「ヴェルドラ、あまり期待するなよ? 筋骨隆々の大男に絡むバカなんてそういないぞ」

「何事も諦めてはならん。そうであろう? やってみてダメなら諦めも付こうが、挑戦せぬのは我の性分ではないわ!」

「言ってることは立派なんだけどな……」

 

 先陣切って扉を開けるヴェルドラに、俺達も続く。中には同じグループらしい冒険者が五人と、受付の職員が一人いた。ヴェルドラが肩透かしを食ってガッカリしなければいいんだけど──という心配が要らないのが、この国の凄いところである。

 

「おやおや、新人とは珍しいじゃねーか」

 

 五人のうち、テンプレ台詞とチンピラの笑みで絡んできた騎士風の若い男は、ヴェルドラが求めていた先輩冒険者そのものだった。

 サイラス来た──! 

 俺が解説しておくと、マルクシュア王国第一王子でありながら魔法の才能がなく、王家では冷遇されている。父王には冷たく当たられ、弟の第二王子からも軽んじられ、少人数の仲間と共に王都外で活動している人だ。

 

 漫画のようなチンピラの登場に噴き出しそうになっているリムルとヒナタ。ご満悦なヴェルドラがズイッと進み出て、サイラスの「何だテメエは?」という問いに威勢良く答えた。

 

「フッ……我が名はヴェルドラ! 今から冒険者としてデビューする超期待の新人である!」

 

 ヴェルドラが楽しそうなので俺はそれでいいです。

 室内は一瞬静まり返り──そして、爆笑の渦に呑み込まれた。

 

「ギャハハハ、何だよ見掛け倒しかよ! 仲間に入れようかと思っちゃったじゃねーか!」

「坊っちゃん、笑わせんで下さいや!」

「暴風竜の名を名乗るなんざ、頭オカシイんじゃねーのか?」

「いるんだよなァ、邪竜や魔王の名を騙るバカがよ……まさか、そっちのガキの名前は"リムル"じゃねーだろうな?」

 

 げっ、とリムルが怯む。本名なのに名乗るわけにはいかなくなったという珍しい展開だ。その時、一人だけ笑うこともなくテーブルに着いていた壮年の剣士が立ち上がった。

 

「ようアンタ……身上に合わねぇ重い名は身を滅ぼす元だ、その名前は変えな。今日のところは見逃してやるから、とっとと出て行け」

 

 元は王国騎士で、サイラス王子の剣術指南役だった人。サイラス一派の中では一番強いだろう渋いオッサン、グレイブだ。

 揉め事が起こって嬉しくて仕方ないらしいヴェルドラがイキイキと反応する。

 

「クックック、この我に名前を変えろだと? 死んだぞ貴様!」

「おいヴェルドラ。殺すのはダメに決まってんだろ!」

「う、うむ。そうであったな……クックック、この我に名前を──」

 

 そこからやり直すんかーい!! 

 ストップを掛けたリムルやサイラス達の声まで一つになった、コントのような一幕だった。

 

 

 そんなことをしている間に、ヒナタがギルド職員からサイラス達のことを聞き出してくれていた。相手が王子では、ギルド側も従うしかないようだと。

 そこまでは良かったが、ヒナタもまたギルド員に(偽の)身分を伝えてしまっていたのだ。

 

「サ、サイラス様、この男以外のお三方は組合員でした。こちらのリムルさんがB+ランクで、ヒナタさんは何とAランクです! 無下には出来ませんよ……!」

「Aランクだと……!? サギ師じゃねぇのか!?」

「おいおい待てよ、こいつマジでリムルって名乗ってんのか! ぎゃははは!」

「じゃあ何か? もう一人のガキはまさか、魔王の弟の──」

 

 大笑いされるも反論出来ず、悔しそうに顔を赤らめているリムル。

 腹を抱えて笑っていた一人が、俺のことも指差した。ヴェルドラにリムル、と来たらレトラか……残念、今日の俺は違うんだよな! 

 

「俺はBランク冒険者、魔法使いのトウマです!」

 

 サイラス達が目を丸くした。

 予想もしていなかったことを言われたかのように。

 止まった空気は、再び沸き起こった大爆笑によって弾け飛ぶ。

 

「あーっはっはっはァ! やられたぜ、こりゃ傑作だ……!」

「トーマだってよ! コイツ、よりによってトーマを騙りやがったぞ!」

「ひゃっひゃっ、最後の一人でそうくるかよ……!」

 

 え。

 

「おいチビ! 魔道士トーマを名乗るには十年早ぇんじゃねえのか?」

「坊っちゃん、言っちゃ悪いですぜ! 英雄ゴッコしてるだけなんだから……ハハハ!」

「未だに人気あんだなァ魔道士トーマ、懐かしいぜ……!」

 

 え…………えっ何!? 

 魔道士? トウマ……いや、トーマって言った? 誰!? 

 混乱する俺に、そっとヒナタが教えてくれる。

 

「千年以上前の英雄、魔道士トーマのことよ。数百年間各地で活躍した記録が残っている"聖人"で、今日までの魔法理論の発展に貢献した偉人ともされているわね」

「そういや俺も聞いたことあるな。フューズが言ってた」

「ちょうど名前も似てるし、黒髪だと伝えられているし、魔道士トーマを知ってて真似ているのかと思ってたわ……」

 

 へ、へえー……そんな人いるんだ。知らなかった。ということは今の俺は……英雄のコスプレして得意満面になってる子供……! 

 カーッと顔に熱が集まり、両手で杖を握り締めて縮こまる。

 そんなつもりじゃなかったとは言え恥ずかしい……! 

 

《告。主様(マスター)への侮辱行為を感知──》

(いや攻撃はダメ)

《案。敵性個体への精神操作を──》

(全部ダメ)

《……了。主様の御意思に従います》

 

 ウィズって二回止めなきゃ止まらないような奴だっけ……? そうか、俺が気にしてなければウィズもそこまで固執しないけど、俺が嫌な思いをしてると話が変わってくるってことか。あー、笑われても動じなかったヴェルドラを見習いたい……

 

「じゃあそのヒナタって女は、聖騎士団長の聖人ヒナタ様!? バカか!?」

「ハハッ、ちょっと美人だからって田舎者を騙すのは調子に乗り過ぎだぜ……!」

「──はあ? うるさいわね」

 

 ヴェルドラとは別のメンタル強者も存在した。

 ヒナタである。

 

「群れなきゃ何も出来ないような雑魚が……私にタメ口叩いてるんじゃないわよ」

 

 切れ長の目元を鋭く吊り上げた、凶悪な眼光。子供が見たら夢に出るしチビるぞっていうか、ヒロインがしていい顔じゃないな……ヒナタだしまあいいか……

 ヒナタの相手に名乗りを上げたのはグレイブ。本物は本物を感じ取ってしまうということなんだろうけど──こればかりは相手が悪かった。

 

「こ、この女の強さ……本物のヒナタ・サカグチだ……!」

「そんな、グレイブさんが一方的に……!」

「バケモンだ! 聖人ヒナタは噂以上の、冷酷極まりない魔女だったんだぁーっ!」

 

 決着までの時間は短かった。剣を握れなくなり血塗れの両手を下げたグレイブを庇いつつ、サイラス達はギルドから逃げ出した。恐怖で裏返った悲鳴と共に。

 ヒナタはグレイブのロングソードを躱しながら細剣(レイピア)を振るい、全てを斬り落としたのだ。何をって……指を。全部。綺麗に。

 

 相手の指を十本斬り落とす系ヒロイン…………

 う、うーん、うーん……ヒナタにしかない個性だからアリにしよう……! 

 

「ヒナタ……流石にやり過ぎじゃないか?」

「大丈夫よ。貴方が完全回復薬(フルポーション)を渡して恩を売ればいいんだから」

「なるほどね、次は俺のターンか」

「我のターンは……?」

「もう終わったじゃねーか。じゃちょっと行ってくる」

「あっリムル、俺も行くよ」

 

 ヴェルドラの冒険者登録はヒナタに任せてギルドを出ると、サイラス達はまだ下の道にいた──が、そこで事態が急変した。村人がサイラスに助けを求めて駆けてきたのだ。海岸で子供達が魔物に襲われている、と。

 サイラスは医者へ連れて行くはずだったグレイブを置いて行くことを躊躇ったようだが、当のグレイブの訴えで、他の三人を連れて走り出した。

 

「レトラ、海岸には俺が行く。グレイブにポーションを渡してやってくれ」

「わかった。人手が必要だったら呼んで」

「ああ。それと気付いてるとは思うが……俺達を見張ってる奴らがいる」

「全員人間だね」

 

 俺達には有能な先生がついているので、あちこちの窓、木の上に潜む不審者については既に報告があった。目的は不明だが、危害を加えられる可能性は低いとの見解だ。

 まあ気を付けろよお前なら大丈夫だろうけど近付いてきても相手にするんじゃないぞ精神操作してお帰り頂けと言い残して(長い)リムルが移動した後、俺は下の道へ降りる。

 

「グレイブさん」

「お前は……」

「先程はヒナタがすみませんでした……」

 

 ヒェェ、両手に巻かれた布が真っ赤に染まっていて、つい腰が引けてしまう。俺は砂になってからは血と縁がなくなったからなぁ……

 道端に蹲ったグレイブは痛みで脂汗を掻きながらも、口元は笑っていた。

 

「いや……俺がドジを踏んだんだ。まさか本物のヒナタ・サカグチ殿とはな……だが最強と称される聖人と戦えたんだ、悔いは無い。まだ縫合の見込みもないわけじゃない……あの高みを目指してまた精進するさ」

 

 格好良すぎるだろ……と俺は心密かにグレイブのファンになった。原作を読んだ時からグレイブが渋格好良いオッサンなのはわかってたけどさ! 

 瞬間造形でパッとポーションを作り出し、丸い容器に入ったそれを差し出す。

 

「お詫びに、リムルから完全回復薬(フルポーション)を預かってきました。どうぞ使って下さい」

「ポーション……? そうか、聖人ヒナタが本物だったなら、魔王リムルも本物か……"暴風竜"ヴェルドラも本物…………」

 

 ふうと溜息を吐くように笑い、グレイブが止まる。

 そして、訝しげに俺を見上げた。

 

「……ということは君も、本物の魔道士トーマなのか?」

「違います違います! 俺はトーマじゃないんです……!」

 

 俺だけが偽物っていうか詐欺師っていうか、成り済ましたつもりがないのに成り済ましたことになっててホントややこしいな……! 

 っていうか魔道士トーマって誰なんだよ、もっと詳しく教えてくれよ! 

 

 

 

 




※お前です


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