年明けにいくつかの棋戦をこなした後、一月中旬。
今日は朝日杯の本戦の日だ。
朝日杯は基本的に一日で2局終わらせてしまう。
つまり、今日ベスト16とベスト8の試合が終わってしまうので、あとは準決勝と決勝を残すのみ。
一回戦の僕の相手は辻井九段。
ダジャレをこよなく愛する、不思議なキャラクターを持つ方だけれど、相当な実力者だ。気分とその日の調子によって棋力にむらっけがあるのも悩ましいところだが……。
「おー、桐山おはよう」
「島田さん! おはようございます」
同じく本戦進出を決めていた島田さんも来ていた。
「今日は2戦やる珍しい日だからなぁ。おまえさんはまだ慣れてないだろうけど、とりあえずは1回戦勝つことだけ考えてやったらいいよ」
プロ棋士相手に2連戦……相当消耗する戦いになるだろうとは予想できた。
「はい。今日の初戦は辻井九段なので……、余力は残しておけないと思います」
「辻井さんなのか!? それはちょっとマズイかもな……」
僕の言葉に島田さんの表情が曇った。
「どうかしたんですか?」
「いや、さっき会ったんだけど雰囲気がな……。おそらく今日は良い辻井さんの日だ」
「良い……辻井さん……」
「あぁ。辻井さんは普段あんなんでも強いけど、時々別人かとおもうくらいの集中力で、鬼のように強い日がある」
僕にも覚えがある。凄い日だと宗谷さんに快勝するくらいの日もあるのだ。
今日が良い辻井さんの日だとしたら……
「すっごい運が良いですね。こんな機会滅多にないですよ!」
前回の将棋人生で、僕が良い日の辻井さんに当たれたのは片手で足りる。
その日だけに限定すれば、宗谷さんとの対局数よりもすくない。
ある意味とても貴重なのだ。そんな日に自分が対局できるとは。
俄然テンションが上がった僕をみて、島田さんはポカンとした後に噴出した。
「そうかー、桐山はそうだよな。良い対局にしてくるといい」
肩を軽く叩いて、そう言ってくれた島田さんに僕は何度も頷いた。
はやめに席について待っていた僕の前に辻井さんが座る。
「今日はよろしくお願いします」
「あぁ……よろしく」
軽く挨拶をした僕に、必要最低限の言葉を返した彼は、間違いなく良い日の辻井さんだ。
茶化さない、ダジャレを言わない、言葉数がすくない。
滅多にないんだけど、5割増しかっこよく見えて、なにか滲み出るオーラすら感じるのがその日の彼だ。
さて、気を引き締めなければならない。
朝日杯の持ち時間はたったの40分で、持ち時間を使い切った後は1手1分未満で指すことになる。
僕は早指しが苦手な方ではないけれど、うかうかしていたら、一瞬でふっとばされて終わってしまう。
先手は僕で、辻井さんが後手。
後手の辻井さんは、4手目に4四歩と角道を止める。
やはり、得意の四間飛車に持ち込む気だろう。
それに対しては、僕は一般的な対抗形といわれている居飛車に構えることにした。
持ち時間は短い。
定跡を踏まえつつ行くのが良いだろう。
辻井さんは、すぐに美濃囲いが見える形へと移行しつつあって、ぼくは慌てて、玉を囲われないように、3筋の歩をぶつける。
通常の居飛車急戦は左の銀が5七に上がる場合が多いけれど、今回は左の銀は動かさなかった。
飛車と桂馬を活用し、うまく牽制しながら主導権を握ってみせる!
71手目に2一龍。
良い具合にはまった。
辻井さんの一手一手も鋭いけれど、自陣にいる龍が気になっているのは間違いない。
一瞬のスキをつかれて、僕の角が押さえ込まれて、龍がとられそうになる。
でもただでは取らせない。
飛車交換が条件で角も担保にとれるように状況を追い込めた。
その後、お互いの龍を清算し、辻井さんはすぐに2九地点に飛車を投入する。
鋭い攻め手だ、成って再び龍が現れる形になる。
けど、まだ大丈夫予想の範囲内。
彼の持ち駒で有力なものはもうないし、あとはこれを上手くさばきつつ、詰ましにいくだけだ。
そして、97手目。僕の5三角のあと、辻井さんは投了した。
「ありがとうございました」
「お疲れ、良い対局だった。でもま、今日は君の日だったということだろう」
感想戦もそこそこに、静かに頷いた辻井さんは、次も是非頑張ってくれと激励してくれた。
まだモードは切れてないんだな、とそのカッコイイ後ろ姿をみて思った。
……流石に疲れた! 2時間ちょっとしか経っていないのに、6時間対局したのと変わらないくらいの疲労感だ。
お昼を挟んで、午後からは2回戦の対局が始まる。それまでに少しでも、持ち直さないと。
「勝ったみたいだなー桐山」
対局室を出てすぐのところで、柳原さんに肩を組まれた。
「あ、はい。一応」
「じゃ、次俺とだからよろしく」
柳原さんが勝たれたのか……これはまた、骨が折れそうだ。
「おまえさん、気づいてないのかもしれないけど、さっき辻井に勝ったので38勝目だからな? 分かってる?」
「あ、そうだったんですね」
「あーもう! 宗谷の最高記録に並んだんだからな! 次勝てば歴代一位なんだから、もっとこう……さぁ……なんかないの」
そう言えば、そうだったなぁとのんきに思っていたら、柳原さんに呆れられてしまった。
「連勝はいつかは止まってしまうものですし……僕としては、次勝ったら宗谷名人とあたれるから、勝ちたいけど柳原棋匠とだと厳しいなぁくらいの感想です」
「はぁ……本人はのんきなもんだなぁ。おまえさんのそういうところ、宗谷に似てるわ。今日こんなに記者が来てるなんて普通ありえないからね。皆朝日杯の本戦なんて二の次! お前さんの連勝記録がどうなるか、それを期待してきてるんだから」
柳原さんに言われて周囲を見渡してやっと気づいた。確かに見慣れないテレビ局まで来ているし、いつもより記者の数も多い……ような気もする。
「ま、目立たせてくれてありがとうよ。おかげで俺も良い目をみれる。未来ある若者が超えていくべき壁になれるのは、光栄なことだからな」
柳原さんは僕の頭をかきまわすとしっかり飯食って、コンディション整えろよーと言って去っていった。
2回戦目の先手は柳原さん、後手が僕となった。
柳原さんは3手目を6八銀とし「矢倉」を明示。僕はこれに乗っていくかどうか、少し迷った。
けれど、せっかくの機会だ。先の事よりは今はこの将棋を思いっ切り楽しみたい。
先手の駒組みに追随し、「相矢倉」となることを選択した。
先に僕が「矢倉囲い」の中に玉を入城させ、そのあとすぐに柳原さんも入城を完了させ、「相矢倉」が完成する。
最初に仕掛けてきたのは柳原さん。6筋の歩を突き出し僕の角頭を叩く。
とりあえず角を5筋に下げたけど、その後も柳原さんは、銀を繰り上げて圧力をかけてから、右の桂馬も跳ねて力を溜める。
ここまで、果敢に来るのは珍しいな……後手に回ってしまった。
僕も、6五桂とうった桂馬を基点とした次に、飛車先を決めたけれど、柳原さんは5四歩と角頭に歩をうって、着実に仕掛けてくる。
同銀として応じたものの、柳原さんはその後も盤の中央付近でこまをさばいて、軽快な指し回し。
この人本当に60歳超えてるの? ちょっと元気良すぎだよね。と思いながら、焦らずに丁寧に対応し続けた。
ここまでじっと我慢して、先手の攻めを丁寧に受け止め続けたけれど、そろそろ動かなければジリ貧である。
僕の反撃は、「矢倉」の急所へ手筋となる銀の打ち込み。
けれど、柳原さんはこれに構わず、金で角を取り囲みさらなる攻勢に出ようとした。
させない。
このまま押し切られるわけにはいかない!
直後の攻防で、僕は飛車先8筋へ桂馬を打ち込む。
大丈夫、読み切ってる。
これで勝負を決めて見せる。
さすがの柳原さんもこれは受けにまわるしか無くなった。
ここでなにか、予想外のことをされると僕も困っただろうけど。
その後の展開は僕の描いたとおりになった。
間違わず、逃さず、確実に先手玉を仕留め上げる。
そして、110手目で終局。
柳原さんが、笑顔でまいった! と告げたのが印象的だった。
対局室に記者がなだれ込んできたけど、僕は連戦ですこし疲れてしまってだいぶボーっとしてしまった。
ほとんどの質問は柳原さんが答えてくれてるけど、やっぱり僕にも質問がないわけがない。
「桐山四段、39連勝目おめでとうございます。一日で2局という過密日程でしたが、やはりこの偉業は意識されてましたか?」
「えーと……実はあまり……柳原棋匠に教えて頂いて、今日初めて知ったくらいで……。僕としては貴重なA級棋士と対局できる機会のほうに、気持ちが向いていました」
「今、改めてどうでしょうか? 歴代一位ですよ。次は40連勝という大台も見えています」
「大変光栄なことだと思いますし、自分でもこんなことになってるのは正直驚きです。
あまり記録は意識していないのですが……皆さんが喜んでくれたり、将棋に注目してくれるのは本当に嬉しいので、頑張りたいと思います」
「プロ入り後10カ月あまり負けなしですが、その秘訣がもしありましたら」
「そうですね……最初の数ヶ月は対局も少なかったので、一局一局にとても集中できていました。掛けれる時間が他の棋士の方よりも多かったぶん有利だったと思います。本当に難しくなったのはこの数ヶ月のことなんです。時間のやりくりが大変になってきました」
「今までA級棋士と4人ほど対局してきたわけですが、将棋界のトップクラスとの対局を体感してみて、どう思いましたか?」
「本当に接戦でした。毎回ギリギリでとどまっている感じです。大変勉強になっています。一局が終わるたびに新しい何かを掴めてる気がしています。今日の分の検討は後日になると思いますが、しっかりやっていきたいです」
流石に今日はへとへとだから、帰ったらすぐ寝る気がする。
というか、無事に帰れるのか若干怪しいくらいだ。
「さーさ、もういいかな? 桐山四段もお疲れみたいだから今日はこの辺で。この子は明日も学校あるからね」
切り上げさせてくれたのは、柳原さんで僕は少し助かった。
流石に年の功というかこの辺のやりようは敵わないなと思う。
「桐山、今日のお迎えは?」
対局室を出たところで、そう問いかけられたけど、僕も把握できてなくて首を傾げてしまった。
「おー桐山今帰りか。俺がおくっていきますよ、柳原さん」
ちょうど自分の対局が終わった島田さんが、そう声をかけてくれたのは助かった。
「んじゃ、島田頼んだ。俺はこのあと徳ちゃんと飲むからさ」
ひらひらと手を振って去っていく、後ろ姿に今日はありがとうございましたと声を掛けると、せっかくだからこのままどんどん、連勝伸ばしていってくれよーと笑って返された。
「お疲れさん。いやー2局はやっぱこたえるなぁ……。桐山も流石にぐったりって感じだな」
島田さんの言葉に、うんうんと頷くので精一杯だった。
エネルギー切れ寸前だ。
子どもの身体ってこういうところがある。
ハイになっているときは何でもできるし、いくらでも行けそうな気がするのに、プツンと電池がきれるのだ。
タクシーを捕まえないとなーという、彼に電車で大丈夫ですよ。ともごもごと伝えたのだけれど、俺も疲れてるから良いんだよと笑われてしまった。
すぐに捕まった、タクシーに乗ったとたんに、僕は、コテンと寝てしまったようで、気が付いたら自分の部屋の布団の上で朝を迎えていた。
慌てて起きて、お風呂に入って学校へいく準備をする。
朝食の席で藤澤さんに聞くと、おくってきてくれた島田さんが起こすのは可哀想だと、部屋まで運んでくれたそうだ……。
それを聞いてなんて、迷惑を! と頭を抱えてしまった。
起こしてくれていいですからと、何度も言ったけれど、藤澤さんは笑っていただけなので、おそらく次も危ない……。
寝落ちしないだけの、体力が必要だ。
将棋の方は順調だったけれど、学校の方ですこーしだけ困ったことがあった。
僕の欠席数は対局数に応じて当然多くなってくるのだけれど、担任の先生があまりその辺を理解してくれてなかったのだ。
冬頃から突然に欠席が増えてきたことで心配になったのだろう。
授業が終わったあとに個別に呼び出されてしまった。
「桐山くんがとっても将棋を頑張ってるのは知ってるんだけど、一応勉強が本分なわけだし……」
よくある感じに切り出された話題に、とりあえず答える。
「テストは問題ないですよね? 宿題もちゃんと全部提出してますし」
「うん、そうね。成績はとっても良いわ。そうなんだけどね。学校ってそれだけをする場所でもないから……卒業式の練習だってはじまるしね。ちょっと最近の欠席数の多さは気になっちゃって……」
僕の担任は、若い女性の先生だ。
クラスにもよく目を凝らしているし、一生懸命すぎるほどだとは思っていたけど、なるほど。僕が将棋にかまけすぎて、学校をおろそかにしてると思ったのだろう。
実際そうできるならそうしたいし、義務教育だから極論行かなくても卒業できるのだが……、青木くんたちに良くない影響があっても困るから、かなり頑張って来ていた方なんだけどなぁ。
「えーと、先生もお忙しいから僕の棋戦の事とかはあまりご承知でないとは思いますが、欠席した日は全て対局の日です。仕事で将棋会館にいってます」
「仕事ってそんな……あなたまだ小学生よ。学校に来ることが仕事じゃない?」
「一般的にはそうでしょうけど、プロ棋士になった以上は仕事です。忌引以外の不戦敗はまずありえません。ただの試合ではないんです。将棋連盟に棋士として名前を連ねた時点で、給料として対局に対価が払われている時点で、僕にとって対局は何よりも優先しなければならない義務なんです」
一言、一言、噛みしめるように告げた僕の言葉に、先生は目を丸くしていた。
やはり、根本的な認識の違いがあったと思っていいだろう。
校長がこの辺はかなり詳しいし、融通していてくれたから、彼女への説明はそう言えば全くしていなかった。それは僕も悪い。
「そう……だったの。ごめんなさい。私は将棋には疎いから……桐山君がとても頑張ってるのは知ってたんだけど……」
「えーと、もしよければ校長先生がとても詳しいので聞いて頂けたらと思います。卒業まであと少しですが、僕にも変だなと思ったらまた声を掛けてくれて良いですから」
あの校長先生なら、嬉々として語りだすだろうし、任せておいて大丈夫だろう。
そうね、ちゃんと聞いてみるわ、と頷いた先生にほっとした。
「あと、もし正確な対局の日程表がいるならコピーして渡します。なにか正式な証明が必要なら、将棋連盟の会長に一筆もらいますし」
学生プロ棋士なんて、滅多にいないから、手を焼くのは当然だろう。
こちらとしても妙な軋轢は生みたくない。
卒業まで穏便に過ごせたらそれで良いのだ。
後日廊下で校長に会ったときに、呼び止められた。
うまく伝わってなかったようで悪かったと、あと数ヶ月来られる範囲で登校してくれていいから、棋戦と自分の身体も大事になと言われた。
担任の先生もあの後、僕にごめんねと声をかけてくれた。先生の方があまり良く知らないとクラスの子に伝わり、青木君をはじめとするやけに将棋に詳しくなってしまった一部の生徒から、大ブーイングを受けて、昼休みに突発的な将棋の常識講座が開かれていたのには、思わず笑ってしまった。
……熱心に僕がいかに凄いのかについても語られていたのは聞かなかったことにしよう。
校長先生から少し提案があったのもその頃だ。
急だけれど、私立中学を受験してはどうかという話だった。
「私立ですか? 僕はそれほど勉学熱心に取り組む予定はないのですが……」
「これだけの好成績の子に言われたら、立つ瀬がないがね。いやなに、この前のようなこともあったし、スポーツ推薦やら芸能推薦やら、その手のことに慣れている私立の方が、君の対局の時休みがとりやすいのではないかと」
なるほど、考えてもみなかったけれど、確かにそうかもしれない。
スポーツ推薦で入った子は、全国への遠征や凄い子だったら海外に行く子もいるし、特殊だけど芸能枠で入った子もこれまた、まとまって休むことも多いだろう。
そういう子たちを受け入れなれているところなら、僕のことも説明したらあっさり通る気がした。
もともと、前回の記憶で高校の時以外、学校によい印象が全くない僕だったけれど、環境を選ぶ努力もしていなかった。
まぁ……選びようもなかった現実もあるけど。
でも、今回は好きに出来るはずだ。藤澤さんは止めないだろうし。
受験は手間でしかないが、このあと3年先を少しでも良い環境で過ごせるように一考してみる価値はあるかもしれない。
「私立の中学受験って願書の受付いつまでですか?」
「だいたい、一月いっぱいだね……。もし、望むならすぐにでも候補を絞った方が良い。
書類に関しては、私も急ぎ、準備をするし」
「分かりました。1週間でどうするかは決めて来ます。こんな土壇場ですいません」
「私も、もっとはやく思い至ったらよかったね。この小学校から中学受験する子なんてめったにいないし、あまり縁のない話だったものだから」
こうも親身になってくれる校長先生には本当に頭が下がる。卒業の前に一回対局くらいは受けて恩返ししないとな。
帰宅後にパソコンで大急ぎで調べた。都内だけあって、学校の数もとっても多い。
別に大学進学に強い所じゃなくていいし、考えるのは学校が遠すぎなくて、学費もそこそこかもしくは、特待生が取れそうな所。
調べていて、ふと馴染みの名前が目にとまった。
私立駒橋中学校。
あれ?と思いよくよく検索してみると、私立駒橋高校の附属中学だ。
そういえば、高校にしか興味がなかったけれど、私立によくある中高一貫校だったな。
あまり縁はなかったが、スポーツ科もある。
進学校だったから、勉強は相当ハイレベルだろうけど、高校を出ている身としては今更中学校の勉強で手を焼くことはないだろう。
うん。いいな。
こういう中高一貫校は経営方針や教育方針はまるっと一緒なことが多い。
あの高校の空気は本当に良かったし、僕のことも随分と応援してくれたから、中学校も大丈夫な気がする。
ここだけ、受けてみよう。
駄目だったら、普通に公立に通えばいい。
藤澤さんは急な話で驚いたようだったけど、零くんが決めたならと、書類を書くのも手伝ってくれたし、昼間色々と時間がとれない僕の代わりに、受験費用の振り込みとかも全部すませてくれた。
事前に渡そうとした、お金はやっぱり受け取ってはくれなかった……。
校長先生も全力で応援してくれたし、欠席数が多いのは一筆書いておいてあげようといってくれた。
桐山くんの成績や素行で引っかかるとしたらそこくらいだろうからと。
ついでに将棋会館の事務で、今年度対局した日のスケジュールを出してもらって、資料として付けておく。
たまたまその時傍にいた会長まで面白がって、間違いなく桐山四段はこの日は対局でしたと一筆くれた。
担任の先生が書く欄も多いのだけれど、この前の事を気に病んでいるのか、とても丁寧に書いて下さって有り難かった。
受験のことを青木君に伝えると、彼はだいぶ残念そうだった。
「そうかー中学も一緒だと思ってたんだけどなぁ。でも、桐山くんの将棋の事を考えたらしかたないね。来年はもっと忙しいだろうし」
「そうだね。来年は一つくらい挑戦権をかけるくらいの戦いをしたいと思ってるから」
「うん! 棋戦の様子をみてたり中継をみてたら、あんまり離れてる気もしないと思う」
「ありがとう。施設にも暇をみて遊びに行くからね」
「みんな待ってるよ! 桐山くんが引っ越してから来た子もいるけど、僕らが大騒ぎしてるから、みーんな君の事知ってる。桐山くんは僕たちの希望なんだよ。
でも! 僕も頑張るからね、最近やりたいこと見つけたんだ」
無邪気に笑う彼は、前よりもっと明るくなったし、自信もついたようだった。
ほんの少し、急に進学先が別れてしまいそうなことを悪いなとも思ったのだけど、この分なら大丈夫そうだ。
もう、立派に前を見て、一生懸命歩み始めてる。
ほんとに眩しくてしかたない。
2月頭にあわただしく受けた試験は、とりあえずは問題なかった。
算数で何問か、これは小学生の知識でとけるのかと思われる問題が出たけれど、その先の知識を使って解いた。
別の解き方がある気がしたけど、僕はこっちしか分からないので仕方ない。
面接も問題なかった。
というか面接官にいた教頭先生の一人がまた熱心な将棋ファンだったのだ。
高校の時の校長や教頭といい……この私立は将棋が好きな人多いなぁとしみじみ思った。
両脇にいた教師の人たちからは一般的な質問だったけど、その教頭先生からは明らかに私的な興味からの質問が多くて、ちょっと困った。
結果が分かるのはまだ先だけど、これなら期待しても良いような気がする。
2月の第二土曜日。
ついに僕が待ちに待った日がやってきた。
朝日杯将棋オープン戦の準決勝・決勝は毎年この日に、東京都千代田区の有楽町朝日ホールでの公開対局となる。
生中継されるし、対局場と別のフロアで解説会の公開収録も行われるそれなりの規模のものだ。
「おー桐山よく来たなぁ。お前のおかげで大盛況だよ。例年の3倍の記者の数だ」
「おはようございます。ほんとに凄い人ですね。流石にちょっと緊張してきたかも」
「え? お前さんそんなデリケートな性質だったか?」
「指し始めたらそんなことはないんですけどね。対局前とかは、こう雰囲気が違うと少しはそわそわします」
「ま、対局に影響しないならたいしたもんだわ。あいつもやる気みたいだし、期待してるぞ」
会長が顎でしめした先をみると、宗谷さんが到着したようだった。
まっすぐこちらに歩いてくる。
「桐山くん、今日はよろしくね」
良かった。今日も耳は調子が良さそうだ。
「はい! 楽しみにしてきました。全力でお願いします」
「僕も……正直公式戦であたるのは一年はかかるとおもってたから。……予想以上だった」
この朝日杯での対局を逃してしまったら、そうなっていただろう。宗谷さんに挑むには挑戦者になるくらいしかタイミングがない。
僕の目の前に座って、駒を並べはじめた宗谷さんをみていて思った。
なぁ二海堂、やっぱりこの世界ってすごいよな。
ラスボスがこんな風に目の前に座ることがあるんだから。
先手は宗谷さん、後手が僕だ。
宗谷さんの初手は角道を開ける7六歩、僕も対して、2手目に同じく角道を開ける3四歩と返して対局はスタートした。
戦局としては、たぶん横歩どりになるなと思った。
予想通り最初は定跡にそって対局は進んだ。「横歩取り」の特徴の一つでもある双方の角が直接向かい合ったまま駒組みは進行していく。
僕は30手目で7六飛とし、飛車を突進させ先手陣に圧力をかけた。
この手に対して、宗谷さんは7七角。飛車先を角で受け、このタイミングで角交換を要求する。
僕は迷ったけれど、あまり時間も使えないから、32手目に7七同角成。角交換に応じた形になった。
角交換成立後に、僕は飛車を3筋に振ると、左の桂馬を跳ねて先手の浮き飛車を追う形をとる。
ここまではほぼ狙い通りの指し回しで主導権を握れたはずだ。
だが、宗谷さんの応手も強気だった。
2四飛と指して、飛車を下げるのではなく、前に出してきたのだ。
この場面一般的に、先手は2八の地点に飛車を引き下げ我慢の展開が普通なのだけど……。
僕に呼応してくれたのか、はたまた試されているのか、なんとも悩ましい手だ。
中盤の戦局はどちらに傾くか微妙なところで、僕たちはお互いぎりぎりところで指し合っていた。
あぁぁもう! もっと持ち時間があったら、色々考えて丁寧にさせるんだけどと惜しくも思いながら、軽快なテンポで指し続ける。
早指しの応酬だ。
終盤への気配がし始めたころ、お互いに呼応するように、玉の囲いへと入っていった。
玉を囲ったとはいえ、僕は端歩を突いていない「片美濃囲い」になってしまって少し頼りないあまり無理はできない戦況だ。
宗谷さんはそこを突こうと、7五角と自陣の角を僕の陣へと突きつけてきた。
大駒の侵入を許すわけにはいかない。
ここは4二金でじっと受けるしかないだろう。
指した瞬間にピリッとはしった指先の感覚に覚えがあった。
その瞬間に気づく。
違う。
ここは手堅くいってはいけなかった。
宗谷さんは、すかさず3六歩と僕の3筋の銀を歩でたたいて追撃をしてくる。
あぁぁこれは不味い。
とってもまずい! 戦況は一気にあちらに傾いてしまった。
あわてて、4六銀とまえに出すものの、宗谷さんは持ち駒の飛車を4筋に投入して、4四飛。
あっというまに、激しい攻め合いとなってきた。
劣勢の中、先に持ち時間を使い切ったのは僕のほうで、それでも必死に宗谷さんの玉へと食らい付き、先に詰めろを掛けた。
けれど、すでに読み切っていたのだろう、宗谷さんは次の瞬間、飛車を走らせて、僕の玉を仕留めに来た。
全129手。
僕はプロになってから初めて、負けましたと相手に頭を下げた。
とても集中していたのだろう、おわった瞬間周囲の音が一気に入って来て、びっくりしてしまった。
「楽しかったよ。でも、今度はもっと持ち時間が長い対局でもやってみたいと考えてしまうな」
しみじみとつぶやく、宗谷さんの言葉が嬉しかった。
「僕も……そう思います。終わったばっかりなのに、またすぐ次はって。
あぁ……でも悔しいです。終盤に差し掛かった頃失着したのは僕です」
指先を触りながら、つぶやいた。
それほど悪くない手ではあったが、普通過ぎた。宗谷名人に指して良い手ではない。
僕の失着。公式戦でこれほどはっきりと感覚があったのは今日が初めてだ。
久しぶりで驚いたほどに。
「分かるよ。そういうものだから。君はやっぱり僕と似てるね」
頭で考えるよりも感覚が先にくるこの不思議な感じを、分かってくれる人は少ない。
でも、やっぱり宗谷さんは同じなんだなって少し懐かしかった。
感想戦もはずんだけれど、記者の方々はそわそわしてるし、宗谷さんは決勝戦もあるからと早々切り上げなければならなかった。
すれ違いざまに、彼は小さく、
「タイトル戦の上座で、君が奪いにくるのを待ってるよ」
僕にだけ聞こえるようにそうつぶやいた。
「必ず、その場に行ってみせます」
彼だけ、聞こえるように僕もそう答えた。僕たち二人だけの約束だった。
その後、休憩をはさんで行われた決勝も見ごたえがあった。
宗谷さんと隈倉さんの対戦カード。
やっぱり優勝をもっていったのは宗谷さんだった。何十回と見返したい対局だったのは間違いない。
楽しかったし、内容は悪くない対局だったと思う。
分かってるんだけど……でもやっぱり負けるのは悔しい!
久々すぎて、忘れてしまっていた。
この内臓が引っくり返るような悔しさを。
当たり前だ。
だって、僕たちは勝つために対局をしてるんだから。
次は絶対に負けない。
宗谷さんにだって勝ってみせる!
朝日杯将棋オープン戦、今年の僕の成績はベスト4。
そして、プロ入り後の連勝記録は43勝で止まった。
おまけ ニコ動コメ風
[ついにこの日がやってきました]
[待ってた]
[タイムシフト予約余裕]
[この日のためにプレミアム会員になってしまった]
[桐山くんの朝日杯!!]
[この一日で宗谷さんに追いつき、そして追い越せる可能性がある]
[連勝記録に関してはな]
[それにしたって、ドラマティックすぎる]
[もう桐山四段が勝ち数を重ねて行くたびにこっちは大騒ぎだわ]
[しかし今日の相手は二人ともA級]
[いや彼ならやってくれる]
[そう、上手くはいかないんじゃない?]
[最高の相手じゃん!]
[これで勝ったら、対戦のマッチが良かったとか文句はつけられん]
[お! 桐山くん席に着いた]
[落ち着いてるなぁ]
[この子が緊張してそうなのみたことない]
[こんなに周りカメラとか記者がいるのにね]
[すごい集中力]
[あれ? 今日の辻井九段]
[ん? なんか雰囲気が……]
[今日のダジャレはどうかな?]
[さぁ桐山くんのペースを乱すのだ!]
[ん? これひょっとして……]
[違う! 今日は良い辻井さんの日だ!!]
[マジかよ!]
[来ちゃったよっ]
[よりにもよって今日かよ……]
[ウッヒョォォォ! テンションあがる]
[これは……桐山くん厳しいぞ……]
[ちょいまち、どういうこと?]
[なんだ、なんだ。辻井さんがどうかした?]
[あぁ知らない奴もいるのか……]
[まぁ桐山四段目当ての視聴者も多いからな]
[辻井九段には波がある]
[本人に自覚はあるのかしらんがな]
[時々、鬼のように強い]
[ダジャレも言わない]
[しゃべらない]
[無駄に目立とうともしない]
[なんかオーラが出てる]
[そんな辻井さんがあらわれたら、それは……]
[良い辻井さんの日なのだ!]
[へーそんなことあるんだ]
[普段も強くない?]
[面白いし、好き]
[そりゃ、普段も当然A級だし強いさ]
[ただ良い日の辻井九段は、宗谷名人に快勝することすらある]
[伝説の棋譜が生まれる日も多い]
[桐山四段、こりゃあっさりふっとばされるかもな……]
[ん? でもなんかめっちゃ嬉しそうだぞ]
[うん。辻井九段が前に座ってから目の色変わった]
[いつも楽しそうだけど、今日は一層目に輝きが……]
[ひょっとして? 喜んでる?]
[つっよw流石小学生プロ]
[いや、辻井さんの事知らないだけじゃね?]
[桐山くんに限ってそれはない]
[彼、かなり対局相手を研究するからね]
[間違いなく、知ってる]
[面白くなってまいりました!]
・
・
・
[桐山君が先手か……]
[朝日杯はサクサク進むから、見てるとあっという間]
[長時間対局みなれてると余計な]
[持ち時間少ないから、そうせざるを得ない]
[やっぱ辻井さんお得意の四間飛車]
[桐山くんは居飛車か]
[妥当だな]
[最初はお手本みたいな展開]
[お、辻井九段はやいなもう囲いか]
[やっぱキレが違う今日は]
[いやー負けてないよ桐山くん]
[すかさず、歩で牽制]
[桐山四段、居飛車なのに、左の銀動かさないの?]
[ちょっと珍しいな]
[これでいけると踏んだんだろ]
[この辺が柔軟というか]
[時短も含めてだろな]
[自分に自信があるんだよ、強さの証]
[辻井九段が抜けた穴を攻めたくても、飛車と桂馬の動きが良い]
[桐山くん、相手の次の動きをしっかり読んでる]
・
・
・
[今のところ辻井さんが優勢?]
[いやーこれはどっちにもとれる]
[俺は辻井さんだとおもうけど]
[だなー上手くしのいでるだけっていうか、桐山四段はもう中盤なのに決め手にかける]
[うっわ!]
[これは強烈]
[いつから狙ってたんだ?]
[71手目2一龍……]
[辻井さんは気づいてなかったのか]
[いや、気づいてたけど後手に回った感じだな]
[これは、形勢桐山くんに傾いたな]
[今日の辻井九段はまだやれる]
[お! 龍とるか!]
[いや、でも結局飛車交換だ]
[桐山君側に痛手はほとんどない]
[むしろ、角もとられた辻井九段のほうがやや不利か]
[持ち駒多いとなぁやれることの幅がちがうから……]
[上手く使えたらな]
[桐山君は上手くつかえるから]
[辻井九段すぐ龍使ってきたなー]
[桐山くん見事な受け手]
[ゆらがねー]
[自陣を攻められてもこの落ち着き]
[ほんとに小学生なの?]
[大物だわ]
[見劣りしないもんな]
[良い日の辻井さん相手に気圧されてる感じもない]
・
・
・
[あぁ……この感じは詰ましに来てる]
[もう、読み切ってんのかよ]
[おれ、さっぱり分からん]
[俺も、ただ桐山四段の指し方的にもう本人はよめてる]
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[97手目で辻井九段の投了―]
[888888888888888888]
[888888888888]
[お疲れ様でしたー]
[888888888888888888888888888888888888]
[いやー途中までは辻井さんの優勢だと思ったんだけどなぁ]
[888888888888888888888888]
[88888888888888888]
[初めての本戦、テレビもきてる、観戦者も多い、それでも揺らがず……か]
[桐山くんの安定感は本物だわ]
[これで38連勝目]
[宗谷名人の記録と肩をならべた]
[まだ一年目の新人がこの偉業]
[満を持して二人目の神の子降臨だな]
[あー前から言われてたやつね]
[これで、誰もケチはつけれない]
[感想戦が……いつもの辻井さんじゃないみたいにすっごいマジメ]
[……それを言うな]
[えーいつもの辻井九段の感想戦も楽しいじゃん!]
[楽しいけど、こうはいかないw]
[桐山くんも真剣にこたえてるね]
[まわりにいる記者の様子は目にも入ってない]
[インタビューあるのかな?]
[いや、勝者は次の対局があるから2回戦目が終わるまで遠慮するように通達があったはず]
[あー大事。何よりも次へ備えてほしい]
[そういうとこ管理しっかりしてるよな]
[神宮寺会長はそのへん信頼できる]
[桐山くんちょっと疲れてる?]
[そりゃぁそうだ。短いとはいえ一戦終えたんだから]
[大丈夫かな……]
[次は柳原棋匠とか……]
[こりゃまた削られそうだな……]
[いやーでもみたいよ!ここまで来たら!]
[新しい記録を将棋界に刻んでほしい]
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[はい、時間ですよー皆さん]
[朝から引き続きの人、お疲れ]
[誰よりも桐山くんと柳原棋匠がおつかれだよ]
[柳原先生は元気ぽいよ?]
[割とこういうの好きだからな]
[自分が記録を作るのよりも、それを阻むのとかな]
[年寄りの楽しみって前なんかのインタビューで言っていた]
[桐山くんもちょっとは持ち直してる]
[お昼ちゃんと食べたのか]
[それ、この子おやつとかもほとんど食べないよね]
[レモン水とお茶]
[いや、それが最近なんか和菓子持ってきてることある]
[うそ!? どんな奴?]
[なんとか焼って書いてた]
[おい、ちゃんと観とけよ三日月焼だ]
[でた、ガチ勢]
[絶対いるよな、桐山くんのもってるリュックとか服の特定とかさ]
[三日月焼? ご当地のお菓子なのかな]
[三月町にある三日月堂という和菓子店のものらしい]
[へーオレ、都内いるし今度探してみよう]
[今日は持ってきてないんだぁ]
[桐山君のおやつ持参はとてもレアだ]
[俺たちの調査では、いままで5回三日月焼をもちこんでいる]
[しかもそれが始まったのは、年末のころからなので、常連になったのはそのころぽい]
[こわいわw俺たちってだれやw]
[居るんだよー桐山くんの事を保護者目線でみまもる良く分からんガチ勢が……]
[ファンの中で一定数な]
[……見守るだけにしろよ]
[その辺はそこらの、一般人や記者よりもずっと弁えとるわい]
[はいはい。対局はじまりますよー]
[お! 桐山くん後手じゃん]
[まじか、また厳しくなったな……]
[柳原棋匠矢倉だね]
[桐山くんのる?]
[のったー!! さっすが桐山四段]
[将棋の純文学、相矢倉きました]
[ほんとこういう時、裏切らないよなぁこの子]
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[柳原棋匠がんがん攻めるな]
[いつもは受け手が多いのに珍しい]
[のらりくらりと交わすのが得意な人だよな]
[桐山くんちょっと対処おくれた?]
[いや、まだ桐山四段の終盤の力があれば全然巻き返せるレベル]
[にしても、上手く受けるな]
[柳原さんそうとうエグいところついてるのに]
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[お! 桐山くん銀打ちきた]
[待ってたねーこれは、よく我慢してた]
[え? 柳原棋匠かまわずいっちゃう感じ?]
[すっげぇ……でも、流石にこれは]
[桐山くんの次の桂馬も効いたな、守りに入らざるを得ない]
[ここで、攻め切れる何かがあったらちがったんだろうけど]
[こう、時間が短いとな]
[お互い持ち時間使い果たしてるもんな]
[桐山くん、サクサクさしてる]
[きまったな]
[まじで? まだ手ありそうだけど……]
[この感じは、読み切ってるときの雰囲気]
[うん。俺もそう思う]
[マジかーということは……]
[歴史的瞬間くるぞ]
[お前らちゃんといろよ]
[トイレとかいくなよ。いやむしろ今行っとけ]
[やべぇオレ、そわそわしてきた]
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[110手、柳原棋匠の投了―]
[すっげぇぇぇ]
[888888888888888888888888888888888888]
[88888888888888888888]
[マジでやりやがった]
[88888888888888888888888888888888]
[8888888888888888888]
[88888888888888888888888888888888888888888]
[お疲れ様、桐山四段]
[88888888888888888888888]
[柳原棋匠、良い笑顔だったな]
[888888888888]
[8888888888888888888888888888888888]
[やべぇなんか泣けてきた]
[8888888888888888]
[39連勝だよ……]
[人間業じゃない]
[まさに将棋の神様の子供]
[桐山くんつかれてるな]
[うん。珍しくぐったりしてる]
[いつも感想戦は楽しそうなのに]
[2戦はやっぱりきついんだって]
[もう夜も遅いし……]
[柳原先生が元気なのがすごいわ]
[なれじゃない?体力の配分とかも分かってるだろうし]
[自分の限界よく知ってそう]
[桐山四段はそのへんはまだ難しいだろうな]
[子供って体力無尽蔵そうにみえて、プッツンって寝たりするよな]
[あー分かる。たぶん集中してるときとかは、わかんないんだろうな]
[インタビューでも来るよね]
[うっわ……長そう]
[え?桐山くん連勝記録気づいてなかったの?]
[まじかよ、めっちゃ意識しそうなもんだけど]
[てか、柳原棋匠に教えてもらったってそれw]
[柳原先生、プレッシャーかけにいっただけじゃんw]
[全く動じてなかったけど]
[そうかーつぎ40勝目になるのか]
[もうここまできたら是非いってもらいたいね]
[ここで逃したら、そうそう見れないだろうからなぁ40連勝目]
[桐山くんの自分の将棋を通して多くの人が将棋に興味をもってくれてるのが嬉しいって言う言葉好き]
[ここにもいるぞー。君の対局をみるために将棋のルールを覚えた]
[俺も]
[私も]
[次の対局もみるからな!]
[お! 柳原先生が締めたな]
[もう、良い時間だろ?]
[うん。桐山くん眠そう]
[そっか。明日も……学校なんだね……]
[大変だー]
[こんな日の次の日、俺なら休む]
[しっかり寝るんだぞー]
[お疲れ様]
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[うわー今日ついに神の子対決じゃん]
[朝日杯準決勝]
[公開対局でしょ? 観に行きたかったなぁ]
[例年よりひと凄そう]
[中継してくれるのはホント嬉しい]
[桐山くんちょっとそわそわしてる?]
[名人と指すんだから流石に緊張するか]
[おもったより早かったなぁまだ当たってないA級いるなかで、宗谷名人とか]
[チャンスすくないのに、ものにしたね]
[気のせいか? 宗谷名人楽しそうなきがする?]
[そうか? いつもと同じじゃね?]
[相変わらず無表情だな]
[いや、絶対これは楽しみにしてた]
[ずっと見て来た俺らには分かる]
[明らかに違う]
[桐山くん今日も後手か……]
[頑張ってくれ]
[横歩取りか……]
[桐山四段の方がさきに動いたな]
[飛車うごかしてきたねー]
[宗谷名人角交換を要求っと]
[応じたな桐山くん]
[からの桂馬、ほんと見事な指しまわし]
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[主導権は桐山四段側……?]
[うっわ、名人強気だ。ここで飛車を下げないとは……]
[これ、悪手じゃない?]
[いや、普通は下げるけど……宗谷名人ならこれでも充分だろ]
[むしろ好戦的な良い手かもしれん]
[自滅しなければな……]
[あの人に限ってそれはないから]
[高度なやなりとりなのに、テンポいいな二人とも]
[持ち時間じっくりの戦いもみたかったなぁ]
[桐山四段がまったく見劣りしないどころか、対等に指し合ってるだけで賞賛にあたいする]
[宗谷名人と早指しなんて、普通の若手じゃなむり]
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[終盤の気配……]
[囲い始めたな]
[桐山くん側はちょっと薄いな]
[んー仕方ないけどこれは弱いか]
[名人すかさず7五角]
[桐山君は4二金]
[手堅いなーしっかり指してる]
[うっそ、3六歩。これは痛い]
[うわー名人強烈な一手]
[これは、厳しい]
[全然みえてなかった]
[桐山四段4六銀か……こうするしかないけど完全に後手にまわったな]
[ここで名人飛車投入っすか]
[うわー猛攻に入った]
[しのぎきれるのか?]
[いや、これは流石に無理だろ]
[良くさばいてるよ。普通なら投げる]
[まだ、分からんぞ]
[詰めろは先に桐山くんがかけたな]
[あ!だめだ]
[あーそうか、そっちがあるのね]
[流石名人としか言いようがない]
[残念だけど……]
[そうだなー大健闘だった]
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[129手目 桐山四段の投了―]
[初めての負けました、だ]
[888888888888888888888888888888888]
[888888888888888]
[うわー初めて聞いた]
[こう、なんか胸にくるな]
[88888888888888888888]
[88888888888888888888888888888888888888888888888]
[両先生方おつかれさま]
[8888888888888888888888888888]
[桐山くんすごかったよ!]
[888888888888888888888888888888888]
[やっぱり初黒星をつけたのは宗谷名人になったな]
[A級の誰かではあってほしいと思ってた]
[大健闘だよ]
[43勝だよ?]
[すげーよ充分]
[いつかは負けるもんな]
[相手が宗谷名人だったていうのがもう一年目の人には凄すぎ]
[桐山四段が小学生なのも、まだプロ一年目なのも、忘れそうになる]
[だよなー将棋をみるに全く、こう危うさとか不安定さがない]
[感想戦軽くやるぽい?]
[この後、大盤解説場にも顔出すだろうから、軽くだな]
[あーきたきた]
[桐山くんすっげー勢いで駒並べてる]
[お、とまった]
[そこ? そこが問題だったの?]
[4二金? でも、それしかないんじゃ……]
[お! 5六角!]
[確かに! これは良い!]
[おぉっと、名人もちょっと考えてるな]
[せめてあとひと呼吸でも、桐山四段に考える時間があれば変わったのかね]
[しゃーねーだろ。これはそう言う対局だったんだから]
[宗谷名人は? 5二歩?]
[だったら、おれはこっちに指すけどってことか?]
[お! 桐山くんすかさず応手]
[この二人の感想戦ってほんと言葉ないよな……]
[あぁそれな]
[前チラッっとみたテレビの対局の時もそうだった]
[なんでこんな無言で、意思疎通できんの]
[あぁ? どっか動いたぞ盤面]
[こんどはそこが気になるの?]
[しゃべってーーーw]
[俺らには分からんぞw]
[駄目だ。完全に二人で楽しんでる]
[大盤解説を期待しよう]
[なんなの? テレパシーでもし合ってんの?]
[やっぱりこの二人、人間じゃないんだって]
[なんだよw将棋星人ってか?]
[それだ! だから二人には分かるんだよ]
[やばいw納得しそうw]
[楽しそうに指しちゃってまぁ]
[盤面わけわからんけど、二人をみてるのが楽しい]
[お! ちょっと宗谷名人笑ってない?]
[口角あがってるこれは!]
[レアだ。激レア]
[そんなに楽しいのか……]
[次二人が当たれるのはいつかなー]
[桐山四段が頑張ったらすぐ]
[一応どのタイトル戦も今のとこ予選残ってるからな、おそろしいことに]
[中1でタイトル挑戦者って充分にありえる]
[え?じゃあ来年度このふたりのタイトル戦みられるかもしれんの?]
[桐山くんがA級に阻まれなければ]
[やれるだろ、彼なら]
[棋匠は本戦を勝ち上がれば、宗谷名人と当たることもありえるしな]
[柳原棋匠が頑張ってくれてるから、あれだけはタイトルもってないからなー]
[というか、名人戦がそのとき忙しいからだろ]
[6つもって維持してるだけでも偉業]
[来年度もこのカードには期待したい]
[お! 移動する?]
[ていうか、また会長きたなw]
[このまましゃべらず、指し合われてても、放送事故なみの案件だからなw]
[大盤解説前でしっかりやれってことか]
[カメラ切り替えてくれる?]
[どうだろ、あっちのチャンネルにのりかえた方がいいのか?]
[お! 良かったちゃんと見せてくれた]
[よしよし]
[誰もいない盤面うつされてもこまるからな]
[盤の前に立つと桐山くん小さい]
[ん? あれ、あの台はひょっとしてww]
[ちいさな踏み台が置いてあるw]
[絶対桐山四段用じゃんかww]
[あーーまえ、なんかの解説に呼ばれてた時、上に届かなかったことあったからな]
[オレ、それ知ってる! ランドセル事件のときのでしょ?]
[あwwあったあった]
[なにそれ、気になるw]
[桐山四段、ランドセルで検索してみろ]
[面白かったから、誰か絶対あげてる]
[お、はじまった]
[この名乗って、ちょこんってお辞儀するのほんと可愛い]
[いつ台にあがるのか]
[必要になるまでかたくなに使わなさそうw]
[負けちゃいましただって……]
[おぉ……めっちゃ悔しいんだ]
[あんまり勝ち負けに拘りないのかとおもってけど]
[やっぱそんなわけないんだな]
[自分の敗着からだったから余計にって、なんかそんなミスあった?]
[お! 駒動かしてくれる]
[あwのぼった]
[照れてるw]
[可愛い]
[横にいる解説の横溝さんが落ちないようにちょっと気にしてるの分かる]
[それなww]
[面倒見がよいから]
[あーやっぱり4二金が駄目だったのか]
[悪手ってほどでもないけどな]
[解説されるとなるほどって感じ]
[宗谷名人、5六角と指されてたら負けてたのは自分かもだってさ]
[それくらい、ギリギリの戦いだったんだな]
[名人側の上の方には届かないから、名人が駒うけとって動かしてあげてるの良い]
[宗谷名人が大盤解説で淡々としてないの初めて見た]
[桐山四段のこと気にいってるよね絶対]
[宗谷名人もやっぱし、強いひと好きだからな]
[嬉しいだろうな。こんな若手が出てきて]
[おーもう終わりか]
[もう片一方の対局もあるし仕方ないね]
[名人はこれから午後、決勝だし]
[この勢いでたぶんとるだろ今年も]
[これで何連覇目?]
[朝日杯ならそろそろ5連覇]
[うわー来年は桐山くんに阻止してほしいな]
[是非それを期待してる]
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桐山くんの連勝記録は43連勝で途切れました。
宗谷さんの記録は超えた感じ。
この話の初出は2017年の12月。
某先生の朝日杯初優勝フィーバーが2018年の2月……。
まさか初出場で全棋士参加棋戦を最年少優勝すると思わないじゃないですか!?!?
あの後に書いてたら桐山くんの優勝もあり得たけど……そんな事考えもしなかったし、流石に負けさせとくかって思ったらその2ヶ月後に、現実に負けた次第です。
そういえば、おまけに出てきた「将棋星人」という言葉ですが、有名なコピペ発祥?とも言われていたり、もし将棋星人が攻めてきたら……。いや某先生が将棋星人なのでは?……みたいなやつ。
元はリアルで使われていた将棋ネタを、某ラノベも使った感じですね。あの本は色々メタい、将棋ネタ使ってるので。
なので私もどちらかといえば現実の方を意識して入れた感じ。
次は掲示板。密着系テレビ番組を皆んなで観てる回です。