小学生に逆行した桐山くん   作:藍猫

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第二十八手 吾輩はシロである

 

 我が輩は猫である。名前はシロ。どこで生まれたのか、分からない……。

 なんてね。これ、有名な小説家が書いた本なんだって?

 僕は賢いから、こんなことも知ってるんだよ。

 

 僕のご主人様はね。とっても優しい奥様。

 世間一般では、旦那の方が家主というらしいけれど、あの男は全然家にいなかったし、帰ってくる時間も遅いし、家に居たって、あの棋譜という紙切れに夢中で全然相手をしてくれないんだ。

 だから、僕にとってのご主人様は、和子の方。

 野良で家無しだった僕に居場所をくれた、優しい女性だ。

 ご飯もくれるし、自由にさせてくれる。干渉をし過ぎず、僕の意思を尊重してくれる良い女だよ。

 ほんと邦晴には勿体ない。

 あいつは、今でこそ落ち着いて、弟子という子どもたちも沢山いて、なんか出来る男みたいにみせているけれど、僕が幼い頃なんて、どうしようもない奴だった。人間の年齢ならいい大人だったはずなのに。

 将棋という、盤の上の駒遊びに夢中だ。

 和子はそれが、仕事だというが、それにしたって、本当にそれしかしない!

 あいつ和子がいなかったら、生きていけないんじゃないのか?

 まだ、僕の方が自立出来てるぞ。

 僕は、ご飯をもらえなくても、その辺で雀もカエルも捕れる。家がなくたって、雨風しのげる場所はいっぱい知ってるんだから。

 でも、この家の方が温かいし、落ち着くし、ご飯も美味しいからね。

 居心地が良いからここに居てあげてる。

 和子は、子どもが独り立ちしてから、寂しかったみたいで、僕がいると喜んだ。邦晴のやつは将棋ばかりでほとんど家にいないから。

 

 

 

 しばらくして、家の庭に小さい黒いのが迷い込んできた。

 母猫は死んだらしい。

 弱々しく、ガリガリで哀れなやつだった。

 僕の縄張りに、別の猫がいるのは気にくわなかったけど、まだ乳離れもしてないチビをいじめるような事はしない。

 案の定優しい和子は、その黒いのを助けてやった。

 黒いのは、和子を母親代わりにまぁなんとか大きくなって、クロという名前を貰ってこの家に居着いた。

 

 怖がりな性格であまり外にはいかない。いつも家の中をチョロチョロしている。人間に虐められたらしくて、人間も嫌い。

 和子だけ特別だった。邦晴はまぁ同居人だからね。怖くはないらしいが、好きでもないらしい。

 僕のことは兄ちゃんと慕って後ろをついてくる。仕方ないから面倒をみてやるし、余所の猫が庭に来たら追い払ってやった。

 まぁ、うちの家を守るついでに、こいつの事も守ってやろう。

 そんなこんなで、この家で暮らし始めて、季節も何度もまわった後。

 

 うちに人間のチビっこい奴がやってきた。

 

 最初に家に来たとき、和子に夏になったらうちに住む子だから、仲良くねと言われた。

 子どもは嫌いだ。

 近所のチビどもの騒がしさといったらない。分別というものが無いのだから。

 まぁでも和子が言うなら仕方ないかなと思った。

 

 でも、その子どもは、その辺のチビたちとは違った。

 よろしくと、僕の頭をそっと撫でた後は、無理に構ってはこなかった。

 うるさくもない。落ち着いていた。

 

 なんとなく変だなぁと思って、よくよく見ていると、このチビなんとちぐはぐだった。

 魂と身体が微妙に合っていない気がする。

 僕は賢い猫だから、その辺もちゃんと分かるのだ。

 人間は分からないらしいけど。

 こいつほんとに人間か? とだいぶ警戒したけど、中身がちょっと大人なだけで普通の人のようだった

 まぁこういうこともあるのだろう。微妙な違和感はあるけれど、波長は同一だし、無理に入ってる感じではない。

 大人と言っても、僕の精神年齢よりは下のような気がした。

 僕は人間で言ったら和子たちと同じくらいには、もうなってる筈だから。……たぶんね。

 

 零というチビっこは、暑くなる季節に、正式にうちにこしてきた。

 最初はちょっと慣れなかったけど、良い奴だったし、なんだかとても苦労しているらしい。

 ちぐはぐだから故の孤独もあるようだった。

 親もいないらしい。

 かといって、和子たちを親の代わりにしようともしていなかった。

 和子たちは、実の子どものように可愛がっていたけどな。

 

 クロは、零と波長があったのだろう。やたらと懐いていた。同じだからだと言っていた。

 分からんでもない。

 なんだか、苦労しているようだったし、零と仲良くしてると和子が喜んだから、僕も零のことは気にかけてやった。

 

 零が家にきてから、弟子たちもよく顔を出すようになった。

 幸田はまだいい。

 うるさくないし、威張らないし。

 後藤はあまり好きじゃない。

 なんか、雰囲気が威圧的だ。クロが怖がるし。

 この二人は、特に零と仲が良いらしくて、頻度が増えた。

 

 零も、邦晴と一緒で将棋が好きらしい。

 晴れた日も日向に当たりにもいかず、部屋の中で棋譜という紙切れをみている。

 楽しそうだから、良いけど。

 和子がご飯だと呼ぶのにも気づかないから、仕方ないから教えてやった。

 邦晴とふたりして、遅くまで将棋もするし、ほんと人間って仕方ないな。

 僕がしっかりしてあげないと。

 

 零がうちに来てから、季節が一回くらいまわった。

 

 その間、和子も邦晴も楽しそうだった。

 零は優しかったし、僕たちの事も好きらしいから、僕たちも零が好きになった。

 愛情にはちゃんと愛を返すのだ。

 

 外で怪我をさせられて、帰ってくることもあった。

 仕事の将棋で負けて、悔しそうな日もあった。

 後藤の奴に泣かされた日もあった。

 

 いつだって、側に居て、夜は一緒に寝てあげた。

 

 だから、邦晴がドジって足をやってしまって、この家を少し空けることになった時、僕は零について行ってあげることにした。

 本当はここが好きだし、縄張りが他の猫にとられるのは嫌だったけど、和子が零のことを心配してたから。

 クロは僕が一緒だったら、新しいとこでも我慢できるそうだ。こいつは零の事大好きだしな。

 

 新しい部屋は、川の側にあった。

 零が、窓辺に立って、川見ながら何か呟いたとき、なんとなくここがこの子の家だなってそう思った。

 藤澤の家も悪くなかったけど、この子にとってはこっちがしっくりくるのだろう。

 

 それから、ここは僕の新しい縄張りになるんだから、この家に入ってくるやつはちゃんと監視しないといけない。

 変な奴がやってきたら、僕が追っ払ってやらないと。

 零は、邦晴よりは家のこともちゃんと出来るみたいだけど、将棋に一生懸命になると他の事は頭から抜けるから、僕がしっかりしないとね。

 

 

 

 ほんと、人間って手がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 




シロは年齢を重ねたうえで賢い猫です。
そして和子さんが大好きなので、夫の藤澤さんやその弟子たちにアタリが少し強い笑
後藤さんの事は嫌いではなく、好きじゃないのです。
何故なら、そうしないようにも出来る筈なのにクロを怖がらすから。
懐に入れた守るべきものはちゃんと守るボス猫気質な猫さんです。
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