空が暗くなって、わかったこと。



Arcadiaのパスワードが分からなくなったので移設しました。

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調理法は何が良い

 唐突ではあるが、私がこの世界に生まれ変わってから、すでに十七年の月日が経っていることをお伝えしたい。

 

 生まれたばかりの赤ん坊の頃には、すでに自我というか違う人間として生きていた記憶があり、読み書き計算も一般常識並みには出来ていた私。

 

 『強くてニューゲームよしきた!これで人生勝ち組よ!ヒャッハー!』という考えが脳裏を過ぎらなかったというのは嘘だが、元がそれほど頭が良いわけでもないことは自覚していたので、のんびりと絵本や本を読み漁ることを続けていた。

 

 おもちゃや外で遊びまわる事もなく、ほぼ本にしか興味を向けないので、周りの大人の認識が「変わった子」になってきて十年近く経ったこの頃。

 

 ある日、昼間だというのに突然空が真っ暗になった。

 

 部屋の外から眺める景色は、どう見ても暗い色ばかり。夜であれば見える星も、暗雲に遮られて一つも見つけられない。家の外からは混乱したご近所住民の悲鳴や怒声が聞こえてくる。気持ちは分かる、どう見ても天変地異ですね。

 

 私といえば叫ぶでもなく、呆然と立ち尽くすのでもなく、ただ珍しい景色を眺めていた。何分、転生なんてことを体験した人間である。広い世界なんだ、行き成り昼から夜になることだってあるさ。

 

 暢気に空を眺めること数分。突然暗くなった空は同じように突然明るくなった。

 

「まぶし……」

 

 視界にあふれた光に目潰しされ、慌てて日陰に移動する。どうやら外にいた住人は見事に食らったようで、先ほどとは微妙に異なる悲鳴が聞こえてくる。うーん、元気で何よりだ。

 

 しかし珍しいものを見た。しばらくはテレビでも話題になっているだろう。誰か謎を解明するといいな、と明日からのテレビを楽しみにしながら、乾いているであろう洗濯物を取り込もうとしたとき、下着が一枚ないことに気がついた。

 

 そう──空が突然暗くなる前までには、其処に干してあったはずのパンツが。

 

 

 その瞬間、電撃のように私の脳裏にとあるシーンが浮かび上がった。

 

 

 前世で人気だった漫画の話。物語の題名となった願いを叶える龍玉がはじめて使われた場面。

 敵に奪われた龍玉から現れた神の龍に、邪悪な願いを叶えさせないための、とっさの願い事。

 

 

『ギャルのパンティおくれー!!』

 

 

 さて、ここでおさらいをしよう。

 ギャルというのは若い女性を指すガールの俗語だ。ちなみに私は十七歳の性別は女性。十二分に当てはまることは言うまでもないだろう。

 パンティとはそのまま女性の下着のこと、つまり私のなくなったパンツも同じだな。

 

 つまり、私の考えが正しいものならば。

 

 この世界はドラゴンボールの世界で、物語の序盤、ピラフ一味の野望を阻止するために、咄嗟に言ったウーロンの願い事によって、私の下着は消えたということ。

 

「……そぉかぁ、はーん、なるほどねぇ?」

 

 まあ、その部分は非常にどうでもよい。地味に死亡率が高い世界だが、まあそこは今は置いておく。

 現在の最重要案件は唯一つ。

 

 あの豚、手に入れた下着を「頭に被って」いやがったという事のみ。ならば。私が取る手段は決まっている。

 

 消ス(コロス)

 塵も残さず存在を抹消してくれる。

 

 急いで荷物をまとめ、いつか世界旅行に行こうとバイトの給料や小遣いをためて買ったバイクのカプセル等をポケットに入れる。

 

「ちょっとアンタ、なにをゴソゴソしてるんだい?」

 

 母さんが不審に思ったのか部屋のドアから顔をのぞかせる。私はまとめた荷物を背負うと、まっすぐ母さんを見つめた。

 

「旅に出ます」

「へ?」

「しばらくしたら戻ります」

「た、旅ぃ!? なんだい行き成り!」

「ちょっと豚を絞めてきます」

「なんで豚!?」

 

 面白いほど混乱している母さんの横を通り抜け、玄関から外に出る。カプセルを投げてバイクに変形させ、荷物を括り付けて跨る。

 

「はぁ、まったくお前って子は……どこに行くつもりだい?」

 

 呆れた声で行き先を尋ねる母さんに、ヘルメットを被りながら答える。

 

「西の都」

 

 

 

 精々首を洗って待っていろ豚。出会う時が貴様の命日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃ!?」

「? どうしたのよウーロン」

「い、いや……なんか悪寒が」



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