僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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見切り発車です


幼少期
第1話


僕は傍から見てあまり幸せな子供ではなかった。というのも、生まれた家庭の環境がよくなかったからだ。

 

僕には4歳年上の姉がいた。姉はお姫様だった。速坂(はやさか)家という狭い世界限定のお姫様ではあったが、幼い子供にとってはそれで十分である。

 

姉に極端に甘く姉の言うことをなんでも聞く両親に、ワガママ放題で横暴な姉。僕の役割はなんだろう。姉にとってはサンドバッグ、両親にとっては……特に興味もない子供ってところかな。

 

だが僕は別に自分のことを不幸な子供だとは思わなかった。なぜなら僕は親の愛こそ姉に全て取られたが、逆に言えば姉が僕から奪えるのはそれだけだったからだ。

 

とはいえ、傍から見た人が僕のことを不幸と断ずるのは理解出来る。なにせ、新品のものなんて身につけたことは無いし、誕生日?なにそれ?状態。今夜は貴方の好きな物よー、なんてセリフと共に僕の好物が食卓に上がったことは1度もない。

 

姉の意地悪で姉がしでかしたことを僕のせいにされてご飯抜きや引っぱたかれたりするのは日常茶飯事。姉が欲しがるものはなんでも彼女に与えられ、僕はそのおこぼれたともいえないカスにあやかるだけ。

ついでに姉は心が醜い人間だったので、特に欲しくもないくせに僕の持ち物を欲しがる癖もあった。

 

まあ、幸か不幸か姉は大層頭が悪かったので、僕にとって本当に大切なものを取られたことは無い。いや別に本当に大切なもの、なんてなかったけど。

 

僕の持ってる僅かな取るに足らない持ち物の中で、なくては少し困るものや、まあそれなりに気に入っているものなど、そういうのは取られたことは無い……というか、何度か取られて以降はない。僕は学ぶことができる生き物なのである。

 

そんなわけで5歳になる頃には、僕は姉という宇宙生物への対処法を完全に身につけつつあった。

 

基本的に姉が僕のものを欲しがるのは、僕の泣きそうな顔だったり悔しそうな顔だったり怒りの顔だったりを見て高笑いし、わざわざ奪い取ったものを両親のいない所で僕の前で壊しその壊した罪を僕になすり付け、そうすることで僕の心を踏みつけにしてズタズタに踏みにじりたいがゆえである。

 

まあ、そんな訳なので、姉が欲しがる僕のものは僕が好きなものだ。

 

と、いうことを理解してから、僕は1度も姉に負けたことは無い。姉は負けたことに気づいてさえないけどね。まあ話は簡単なのだ。

僕にとって欠片の価値も無いもの(例えばお菓子の付録のヒーローカードとか、短い鉛筆とか、珍しい形の石とか)を、後生大事にしているように見せかける。

 

そう難しい事じゃない。常にそれを携帯したり、姉の目から隠そうとしたり、姉が触れると焦った顔をしたりすれば済むことだ。これだけで簡単に騙せる。

そして、僕にとって価値のあるものはどうでもよさげな感じを演出してそこら辺にほっぽっておき、姉が見ようが触ろうが何しようが無視するのである。

 

 

結果、このような事態になる。

 

 

「ねえママ!統也(とうや)の持ってるあの鉛筆、欲しい!!」

 

綺羅(きら)ちゃん……、何であれが欲しいの?鉛筆が欲しかったらママと今から可愛いのを買いに行きましょう?もっといいのを買ってあげるわ。ね?」

 

「やーよ!綺羅はアレがいいの!」

 

 

目の前に広がるのは、小学校でクラスの女王としての地位を築き上げ家では姫として君臨する姉が、幼稚園生の弟の僕が持つボロボロの短くて汚い鉛筆を地団駄を踏んで欲しがるという爆笑ものの光景だった。

 

「仕方ないわねぇ……統也。お姉ちゃんに渡してあげて」

 

「嫌」

 

 

僕は端的に拒絶した。決してここで進んでその鉛筆(ガラクタ)を差し出してはならない。母親に、お姉ちゃんに渡しなさい!と重ねて言われても首を横に振って抵抗するのである。

 

そんな僕を見た姉は満足気ににんまりと笑いながら鉛筆(ゴミ)を要求し、僕は悲痛な表情でそれを差し出しながら、そんな姉を見て心の中で腹を抱えて笑った。

 

 

うーん、こういうとこだけ見ると似た者姉弟なんだよなって思う。

 

お互い性格の悪さだけはピカイチだった。まあ、そんな共通点に気づいているのは僕だけなんだけどね。なにせ、僕の方が姉より何枚も上手だから。

 

 

姉は僕を虐げているつもりで、実は逆に僕に利用されたりバカにされたりしていることには全く気づいていない。

 

 

 

 

 

 

5歳の誕生日に、個性が発現した。2ヶ月前の秋のことである。他と比べると平均より随分遅い発現だった。

 

 

僕の個性は、速度支配(スピードラプス)。まあ要するに、ものの速さを操ることが出来るという個性であった。

 

止まっているものを動かすことはできない。だが、既に動いているものなら何でも自由に速さを変えられる。というもの。

 

具体的な例をあげようか。

 

例えば誰かが僕に殴りかかってくるとしよう。僕はそいつの拳の速さを操って、ものすごく拳のスピードを遅くしたり、逆に早くしたりすることが出来る、というわけである。

 

変えられる速さは、僕が知覚した動いているものの速さのみ。“ 知覚した ” という部分が重要である。

 

つまり、見たもの、だけではないということだ。たとえば、姉が僕の悪口を言ったとしよう。統也のばかあほ!

 

すると、統也の、と、が僕の耳に聞こえた瞬間僕はその、言葉(音)の伝わる速さ、を操ることが出来るのである。……これはかなり難しいので最初に個性が発現した時の暴走時以来、なかなかできないのだが。

 

 

まあ基本的に今の僕が操れるのは、視界でとらえた動くものの速さが精一杯であり、また、1度に操れるのは2つ。鍛えれば何個も一度に操れるようになるかもしれない。

 

あ、でも自分の体に関しては今の時点でも凄く自由に操れる。理由はよく分からないがやはり自分の体だからなのかなんなのか、自分に関しては常に知覚しているからなのか、自分の足の速さから始まり発する言葉のスピードさえもスムーズに、いくつでも同時に操ることが出来る。

 

 

 

ちなみに最初に発現したのは2ヶ月前、幼稚園にいる時でクラスメイトの誰かが危ないことをしていて、それを見つけた先生が注意しながら走っていくのをぼんやり眺めていたときに、唐突に僕の個性は発動した。

 

 

不幸にも僕の個性の初めてのターゲットにされた結果、先生の左足は突然ものすごい勢いで地を蹴り、彼女は前のめりに数メートルびょいんと飛んでバランスを崩し地面に顔からダイブした。

 

個性を使ったのは初めてだったけど僕はこれが自分の仕業なのだとハッキリとわかって冷や汗をかき、どうしようかと真剣に悩んだ。やばい。

そしてあたふたと周りを見回したところ、丁度隣に氷の個性の子がいたので、閃いた僕はその子が無意識に生み出していた氷塊を引っ掴んで先生がコケたところに落としておくことにした。

 

 

すると、先生は走っている最中にその子の氷塊を踏んで滑った勢いで吹っ飛んで転んだ、ということになり、その子は無闇矢鱈と氷塊を出さないように!と厳しく指導を受けた。紅白頭のそいつを迎えに来た父親らしき偉丈夫は「そろそろ訓練を開始した方がいいか……」などと謎の台詞を呟きながら先生に謝罪して息子を連れて帰っていった。

 

それを見ていた真犯人である僕は、世の中ちょろいな、と腹の中で高笑いしたのを覚えている。

 

 

 

 

***

 

 

まあなにはともあれその日の帰り、僕は近所の誰もいない空き地に足を踏み入れた。何だか昼間から体の中をモヤモヤしたものが駆け巡るのを感じるのだ。ずっと落ち着かなかったんだよね。謎のエネルギーが駆け回っている感じ。モヤモヤする……。

 

無理やり感覚で押さえつけていたそのもやもやを、そーっと、解放してみることにした僕は、とことこ歩きながら大きく息を吐いた。ふぅっ……。

 

 

「うお゛ぁっ!!……っ!!っ!!」

 

 

その瞬間、ぐにゃりと世界が歪んだ。

 

気軽に踏み出した僕の片足は凄まじい速さで地に埋まり、もう片方は宙に振り上げられて僕はバランスを崩して仰向けに、不自然にゆっくりとした速さで倒れ込む。

 

反射的に振り回した手に当たった小石が弾丸のようなスピードを得て飛んでいき、空を飛んでいた不運な小鳥に命中した。そして僕の視界に映ったその鳥の死体はやけにゆっくり、ゆっくりと地面に落ちる。

 

その時ちょうど町内に流れた、夕焼け小焼けで日が暮れて〜という歌とともに聞こえてくる、外で遊んでいる子供はおうちに帰りましょうという町内放送は、僕の耳に入った瞬間ものすごい勢いで緩急が付けられ、意味不明なものに早変わりした。

 

ガンガンと痛む頭を押さえながらとりあえず起き上がろうと、地面にぶっ刺さった足を抜き、上半身をあげようとしたが何故か体がスローモーションにしか動かなくなり、半身を起こすのに普段の2倍の時間がかかる。かと思いきや、立ち上がろうと足で地面を踏みつけようとした瞬間、突然足の振り下ろされる速さ上がって僕はそのあまりの勢いに宙に浮いた。

 

 

「うわぁあああ!!」

 

 

ドスンと地面に落ちて、僕は再び無様な悲鳴をあげて地面にダイブする。ごめんなさい先生!!これは痛い!!バチが当たったのか!!いった!いったい!ごめん!ほんとにごめん!罪をなすり付けてごめんなさい!!

 

なんだ、なんなんだ!一体何が起こって……っ!!!!

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「ぜーっ、ぜーっ…………」

 

 

体力が尽きかけたことにより個性が止まったあと、ボコボコと地面に穴が開き、鳥や動物などがバタバタ気絶したり死んだりしているその場の惨状に僕は慄いて家に逃げ帰った。

 

それから気絶するように寝て朝起きて幼稚園バスに乗りおはようの挨拶をしご飯を食べ、お昼寝の時間に布団に潜り込んだことによって、やっと落ち着いた僕は必死に頭を回してその日の夜、何とか情報を整理することに成功する。

 

どうやら僕がもてあましていたモヤモヤしたものは発現したばかりの個性だったようで、暴走した個性によって僕は自分や音を含めた、その場にあるありとあらゆるモノの速度を変えてしまっていたようだ。と。

 

そしてそれから自分の個性について考察をしてちょっと実験して、今に至る。

 

 

「統也ー!!」

 

 

階段から大声で自分の名前がよばれた。

 

 

僕は大きく息を着いてベッドから起き上がった。

 

 

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