僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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久しぶりでどんな風に書いてたのか忘れた…、あと記憶が怪しかったから単行本で復習しようかと思ってたけど(緑谷の性格とか諸々)時間がなくて無理でした。
なので、何かおかしいとこがあったら優しく教えてください。

いつも感想や評価、ブックマークありがとうございます。


第10話

僕が小五の終わり頃の話だ。まあつまり今から約一年ほど前の話でそこまで昔のことでもない。

その日、全力で帰って寝る気満々だった僕は、ちょうどランドセルを閉じたところで目の前に現れた明らかに厄介なその存在を月まで蹴り飛ばしたくなったがなんとか我慢した。

 

「轟、なにそれどうしたの?」

 

「よかった、速坂まだ帰ってなかったか。助けてくれ。ずっと泣かれて俺にはもうどうしたらいいのかわかんねぇ」

 

とりあえずビエビエ泣いているそいつを僕は力ずくで轟から引き剥がして椅子に座らせるのと同時に教室に残っていた数人に目線で圧力をかけて追い出す。少年に対する僕のやや乱暴な扱いを咎めるように轟が視線を送ってきたが無視して事情聴取を開始した。

 

で?なに?何事?泣いてるだけじゃわかんないよ。あーもう。僕帰りたいんだけど。ダメ?あ、そう。

 

泣きじゃくって話もまともにできないくせに帰っていいかと聞くと、不明瞭な声で喚いてブンブン首を横に振る。待って待ってあんた速坂先輩だろういかないでぇえ。

実に面倒くさい。仕方ないので轟に目をやると、困り顔で話し出した轟曰く、掃除当番のゴミ出しをしたあと教室に戻る途中で彼と会ったんだとか。そして彼は轟の姿を見るなり突然泣き出して泣きながら僕と会わせてくれと頼んで離れなかったらしい。

 

慌てた轟はなんとか落ち着かせようと試みたが効果はゼロ、かつ、とりあえず先生の所へ……と思い連れていこうとすれば、先生は嫌だぁあ!速坂先輩ぃいいと更に泣きわめく始末。

 

え、なに、何で?僕こいつと知り合いだったっけ。いや、そんなことはない。こんな奴記憶にないよ。大方一方的に向こうが知っているだけなんだろうけど、それにしても僕になんの用?

 

泣きながら僕の元へ訪れたクソガキの用件にそれなりに興味が湧きはしたものの、どちらかと言うと面倒くささの方が大きかった。早く帰って寝たい。

 

お前を呼んでるし、お前なら年下の扱いも上手そうだし。どうにかしてくれ。

 

なんてしれっと抜かす轟に僕は大きくため息をついた。

 

 

「いやいや、僕末っ子だから。年下とか無理なんだけど」

 

「俺よりましなんじゃねえか。とりあえずどうしたらいいんだ、これ」

 

「泣き止ませるか置いて帰るかの2択」

 

「置いて帰るのは可哀想だ」

 

「じゃあ泣き止ませるしかないじゃん」

 

「どうやって」

 

「僕に聞かれたってしらないよ」

 

 

無言で二人で中島を見つめる。いや知らないけど。つーかいつまで泣いてんの?干からびるまで?勘弁してほしい。……。あーもう!しょうがないなあ!

 

「ねえ、僕の声聞こえる?」

 

「うっ……ひっく、は、はひ……うぇっ」

 

そうか。聞こえるのか。良かった。じゃあ耳の穴をかっぽじってよく聞くといい。僕は泣きながらも何とか首を縦に振った少年の前の椅子にどかっと座って宣言した。

 

「とりあえずあと2分で泣き止んでくれるかな?まあ泣き止まなくてもいいけど話が出来る状態にまでなってほしいんだけど」

 

「え……?うぇっ……ひっ」

 

 

「お前さ、なんか僕に用があるんだろ。2分以内で復活したら話聞いてやってもいいよ。でも出来なかったら僕はとっとと帰るし、その場合は今後一切お前の頼みは聞かない」

 

 

あと2分以内に泣き止まなかったら、次の日泣き止んで僕のとこに来ようが土下座しようが何しようが一切交渉の余地はないということだ。要するに、僕になにかして欲しいならチャンスは今しかないってこと。少年の目にやや遅れて理解の色が浮かぶのを見てからカウントを開始。はい!じゃあ今からね。1、2、3、4、5……。

 

必死に泣きやもうとする少年。そして僕の横顔に突き刺さる轟の非難がましい視線。そちらに目を向けると人でなしを見る目を向けられたが、うるさいな。これでも僕は最大限譲歩はしてるんだよ。

 

頬杖をついてカウントダウンを続ける。無理かなと思ったけど意外と根性をみせたソイツは、残り30秒の時点で何とか嗚咽を押さえ込むことに成功した。

 

「ご、ごめんな…っひぐっ、さい。うぇっ。…も、もう大丈夫です……」

 

「そう。よかった。話はできる?」

 

「……っ、はい」

 

「じゃあ用件をどうぞ。お前は僕に何をして欲しいのかな」

 

 

正直面倒だけど、泣きながら轟の腰にくっついて僕の元まで到達かつ2分以内に泣き止むという条件達成をした勇気と根性に免じて聞いてやろうじゃないか。

 

 

 

……と、僕は真実の過去を頭に思い浮かべながらモサモサに都合の悪い部分を除いてちょいちょい改竄した過去を話した。

 

友達がゴミ捨て場でいじめられてた中島を拾って泣き止まないって困って僕を頼ってきたから僕は親身になって彼を慰めて泣き止ませて事情を聞き出したんだ、ははっ。良い奴でしょ?

 

 

「へぇ…やっぱり君は頼りにされてるんだね。優しいからかな」

 

「そんなことないよ」

 

 

モサモサは感心した顔でうなずいている。僕が優しいだなんてそんなそんな。照れるじゃないか。

 

そして真実の過去の続きだけど、詳細はめんどくさいから省こう。

 

まあ要するに、聞き出した話によればだ。中島は今までクラスでもお調子者キャラで運動神経も顔もそこそこよくて人気者だったものの、小三になってからそんな中島に嫉妬した幼なじみとの関係が悪化、今まで暗黙の了解で黙っていたがもう知らん、おいお前ら同じ幼稚園じゃないから知らないだろ、なんと中島ってあいつ無個性なんだぜ知ってたかうわぁだっさぁ普段あんなにイキってるくせに実は無個性のカスだったんだぜぇ!ひゃっはー。

というわけで幼馴染と愉快な仲間たちにのせられた周囲から一斉に手のひら返しにあった哀れ中島は人気者から一転いじめられっ子に変身したんだそうな。

 

しばらく我慢していたもののもう限界。そうだ、2コ上に速坂統也っていう権力もってる人がいたはず。どうにかしてもらおう。

 

と、以上により中島は轟の腰にすがって僕のところまでやってきたと。

 

要するにお前は脱いじめられっ子が目的なわけ?との僕の質問に中島は頷いた。その目に縋るような色がある。希望の色がある。

 

僕は首を傾げて一瞬考えたあと、轟に頼んで少しの間外に出ていてもらう。鉄仮面みたいな無表情のくせに実は人がいい轟に口挟まれるのもやだし。

躊躇う轟に笑顔で相対する。酷いことはしないから安心して。

 

 

そして2人きりになった教室で、目に希望を浮かべた少年に次の質問をした。別に不可能じゃないけど、僕はそれをやることで何か得するのかな。

 

無償のボランティアなんか僕はしないよ。中島くん。

 

 

窮鼠猫を噛む、ということわざがある。ここで引用するのはちょっと違うかもしれないけどまあ大した問題ではない。何が言いたいかと言うと、人間死ぬ気になればなんでもできるさってこと。

 

意外と根性があって図太くてしたたかな中島くんは窮地に陥ってもなお諦めず僕と無事取引を成立させ、意外な結果に満足した僕は彼を助けてやることにした。

 

 

**

 

無個性は差別されている。このことは周知の事実である。そりゃあ表向きはそんなの無いことになってるよ、表向きはね。だけどそういう偏見の目はやはり社会にひっそりと蔓延しているのだ。皆それを表立っては言わないだけ。建前万歳。

 

個性を持ってないってだけでソイツは大なり小なり馬鹿にされるのだ。かっこつけていうなら、生まれながらに背負ったジュージカってやつ?かわいそー。

 

ついでに僕は個性がないからといって人を差別したりはしない。なぜなら僕の心は海より広いから……という冗談は置いておくとして、正直に言うと問題はそこじゃないからというかなんというか、僕にとって人の個性の有無なんてたいした問題じゃないからだ。

 

個性がない?ふーん、そうなんだ、珍しいね。じゃあそんな君が無個性を補うために身につけたことは?

 

無個性と言われてぱっと頭に浮かぶのはこんなもん。

僕にとって人に個性があるかないかはあまり重要じゃない。重要なのは総合的なソイツの力だ。そしてソイツが僕に害をなすかどうか。害をなせるだけの存在であるかどうか。害をなす気があるのかどうか。

 

 

「それで、どうなったの?」

 

「ああ、うん。僕たちは……」

 

 

少し黙り込んだ僕にモサモサが声をかけて先を促したので、逸れかけた思考を引き戻す。おっと、そうだった。中島の話に戻ろう。僕が彼をいじめから解放するのになにをしたかって?質問と指示を1つずつしただけ。

 

お前なんか特技ある?ああ、声真似?そう、じゃあ今からそれ猛練習して極めて。

 

要領を得ない顔をする轟と中島をよそに僕は鼻歌交じりにことを進めた。別に大したことはしてない。ただ、中島がいい感じに声真似上手になった頃を見計らってちょくちょく絡みにいくようにして、僕と中島の親密さを周りにみせただけ。

 

すると学校の王様である僕が珍しく積極的にかまう相手に興味を持ち始めた周りが、速坂ってこいつと知り合いだったっけ?中島と仲いいの?とか何とか聞いてくるのに、最近仲良くなったんだ。こいつの個性知ってる?声コピーする個性なんだけどすごいよ。めっちゃそっくりで、目を閉じて聞くと芸能人が目の前にいるかんじで面白い。とぺらぺら嘘八百を並べ立てるだけの簡単なお仕事。あとは中島の演技力にかかってる。

 

 

え?中島って無個性なんじゃ……。という声は当然上がった。

 

それに対しても、発現が7歳で普通よりだいぶ遅かったんだって。だから幼なじみとかは勘違いしてるんじゃない?きっと彼らは中島が個性発現したの知らなかったんだねー。とかいう雑な理屈で封じ込める。勢いで押し込むのだ。

 

相手は小三で単純だ。まだ物事を深く考えることを知らない奴が多いわけで、学年を超えてたくさんの手下を抱える僕の敵ではなかった。所詮、こういうのは声が大きい方が勝つんだよね。よく考えればおかしい理屈でも周りがそれを正しいとして主張していると、それが正しいと思い込むのが一般的。集団心理って怖い。でもまあ、おかげで結構やりやすかった。

 

もちろんおかしいと主張する奴もいた。筆頭は、クラスの権力を握って中島イジメを主導していた幼馴染みくんとその愉快な仲間たち。彼ら5人は声高に、アイツは無個性なんだ!だまされてる!と主張したが、もはや学校の雰囲気がそういうのにノせられる雰囲気ではなくなっていたため無意味だった。ついでに必死になった彼らは教師に中島の個性について問い詰めたりもしていたが、事前に僕に中島のことについて相談されていた教師はさすが大人と言うべきか、やんわり上手く切り抜けたらしい。ははっ。

 

晴れて王様のお気に入りに昇格した中島くんにたかが1クラスのいじめっ子が物申しても、ほかのクラスや他の学年の奴らから白い目で見られるだけ。いやだから中島無個性じゃないっていってんじゃん。まだわかんないの?つーか無個性だから何?そういうのしってる!サベツっていうんだ!てか今時いじめとかダサくない?

 

そんなこんなで学校の雰囲気がそんな感じに流れていっていじめっ子たちは伸びきった鼻っ柱を叩きおられた訳なのだが、一件落着かと思いきやそいつらは意外と気骨がある奴らだったらしく、大人しくなるどころかあろうことかこの僕に真正面から喧嘩を売ってきたので言い値で買ってあげたのもいい思い出である。

 

学校の廊下でたくさんの生徒の前で、中島を庇うために無個性じゃないって嘘ついてるみんなを騙してる!つーか声真似が個性とかおかしくね?個性じゃなくてただ声真似してるだけだろ!とかなんとかいって僕を思う存分罵ってきた彼らの、まだ完全には折れていなかったらしい鼻っ柱を優しい僕は根元からへし折ってあげた。意外と真理を突いてきたことだけは褒めてあげる。

 

事前のリサーチによると主犯の幼馴染みくんの個性は天気感知。精度は天気予報と同程度であり、その日の天気が何となくわかる!というイロモノだったので、僕はみんなの前でそこをつついてあげた。

 

あーていうかさ、お前の個性なんだっけ、天気感知だっけ。ははっ、それホントに個性なの?ただ毎朝天気予報見てそれっぽいこと言ってるだけなんじゃない?実は無個性なのってお前の方だろ。

 

幼馴染みくんは顔を真っ赤にして言い返してきたが周りの人達はいっせいに僕の言葉に笑い、その笑い声に反論はかき消されてきえた。

公衆の面前で嘲笑われた彼らの鼻っ柱は見事に折れましたとさ!ちゃんちゃん。中島いじめ終了。なかなか興味深い結果だった。

 

ちなみに最後のその光景は逆に彼らに対するいじめのようになっていたが気にしない気にしない。ま、相手が悪かったってことで。

 

 

 

 


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