僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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第12話

**

 

「ああ疲れた。ちょっとそこの愚弟、なんか面白い話でもしなさいよ」

 

 

暴君(あね)が僕に無茶振りをした。どっかとソファーに腰を下ろして足を組み頬杖をつくその姿は実に偉そうである。だがまあ、今日に限っては僕は姉に文句は言えないかもしれない。借りは返さなくては。

 

目の前では遊び疲れた従兄弟が仲良くソファーの上で眠っている。僕と姉は従兄弟の正面のソファーに座ってお開きの時間を待っていた。

 

親戚……父の弟夫婦が息子2人を連れて訪問してきたのが数時間前。共に夕食を取ったあと大人は大人で積もる話があるらしく、子供は子供で遊んでいろとダイニングからリビングへ叩き出されたのでしぶしぶ僕と姉は小学校低学年のモンスターズもとい従兄弟の相手を務めたのである。

 

子供ってやつはなんでこんなに元気なんだろうか、と子供の僕がぼやくぐらいに元気すぎる従兄弟の相手を僕は早々に放棄して姉に全てを押し付けて逃亡した。そして従兄弟の方も僕よりも姉の方に懐いているので特に問題はなかったーーーーーー僕には。姉にとっては大問題だったらしいけどしーらね。今こそその無駄に培ったコミュ力を発揮するときなのではないだろうか。僕はぴょんぴょんはね回る従兄弟の相手に悪戦苦闘する姉の殺意の籠った視線が飛んでくるのをガン無視してリビングの隅で1人優雅に読書と洒落込んだ。

 

僕が自分の部屋に戻ろうとする度に従兄弟をけしかけてそれを妨害していた姉は、やがて遊び疲れて眠ってしまった従兄弟をソファーの上に放り出すと、うんざりした顔をしながら僕の隣に腰掛けて面白い話を要求した。これはつまり、従兄弟の相手を全部引き受けてやった借りを返せと言っているということであり、更に言えば貸し借りの話になっている以上生半可な面白い話では許されないということである。

 

面白い話……面白い話ねぇ。幸い今日は話題はあるからいいけどさ。面白くは無いかもしれないけど、珍しく姉とそこそこ興味深い話が出来るかもしれない。僕は今日あった出来事を踏まえて執念の鬼である姉にひとつ聞いてみることにした。……まあ、執念云々を除いてもこの話をする相手としては姉が最適だと思う。

 

 

「じゃあ、仮にの話だけど」

 

「うん」

 

「姉さんが無個性だったとしよう」

 

「はぁ?」

 

 

唐突に切り出した話に姉が胡乱な顔をする。まあまあ、最後まで聞いてよ。とりあえず先を促す姉に頷いて僕は続きを話した。

 

「それで姉さんが無個性ながらヒーローになるって夢を叶えたいって思ってるとする」

 

「無個性でヒーロー」

 

「うん。その夢を叶えるために姉さんは何をする?」

 

 

そんなつまんない話してんじゃないわよ!とか言われることも想定していたがそんなことはなく、姉はやや真面目な顔つきになって数秒首を傾げたあとふふんと自信満々な顔で笑った。よかった食いついた。どうやらこの話は姉にとってもそれなりに興味深かったらしい。

 

 

「そんなの簡単よ!基本的には今やってる事と変わらないわね」

 

「変わらない?」

 

「とぼけてんじゃないわよ、あんただって分かってるでしょ。個性があってもなくてもやることはほぼ一緒じゃないの。体鍛えて勉強するのよ。今私がやってるのは勉強して体鍛えて個性鍛えるこの3つだけど、無個性だったら個性を鍛える時間を体鍛える時間に当てればいいだけの話ね」

 

 

ざっくりいったな。まあそうなんだけど。目だけで先を促すと姉はひとつ頷いて続けた。

 

 

「つまりね、世の中には色んな個性の人がいるでしょ。で、プロヒーローになった人全員が戦闘特化型の個性の持ち主じゃないのよ。例えばワイルドワイルドプッシーキャッツのマンダレイ。知ってる?」

 

「誰それ」

 

「何で知らないのよ。ほんとあんたってヒーローに興味無いわよね。まあいいけど……。とにかくマンダレイの個性はテレパスなのよ」

 

「つまり念話?」

 

「そうね。正確に言うと……」

 

 

そこで言葉を切った姉は素早くスマホで検索すると、ヒーローファンサイトみたいなサイトを開いてその詳細を読み上げる。

 

 

「えーっと、他者の脳に直接語りかけることができる。遠方の複数人にも伝達が可能。必殺技は、戦いながらテレパスで相手に動揺を与えて攻撃すること。らしいわ」

 

「戦いながら?」

 

「そう。いい、マンダレイは身体能力的には凡人なのよ。ただちょっと念話ができるだけで」

 

 

念話ができる時点で有能だがな。まあ問題はそこじゃないか。姉がトントンと指でソファーの肘掛けを叩いた。

 

 

「でも彼女は鍛えて戦い方を身に着けて1人でもヴィランと互角にやり合うことが出来るようになってるってこと。まあ戦闘においてもテレパスを上手く使ってるけど重要なのはそこじゃなくて……」

 

「無個性でも戦い方を身につければヴィランと互角に戦えるってことか」

 

「その通り。私を見なさいよ。心の距離を弄れること以外は無個性同然なのよ。確かに相手との心の距離を弄れるのは大きいけど稀にあんたみたいにそれが通じない奴もいるし。じゃあ私は個性が通じない相手には手も足も出ないのかって、そんなことないわよ。その弱点を埋めるために合気道習ったり有用なサポートアイテムを考えたりしてるんだから。ワイルドワイルド以下略みたいにチームを組んでお互いの弱点を補い合うのも一つの手ね」

 

「言いたいことはわかるけどさ、それでも個性があるってのは大きいんじゃないの?マンダレイだって確かに対人戦も人並みにこなせるかもしれないけど、直接戦わなくたって個性で大きく貢献できるじゃないか。姉さんだって大抵の相手には個性を使って有利になれるだろ?プロヒーローってのは対人戦が出来るのは当然とした上でプラスアルファで何か光るものを持ってないとダメなんじゃないの」

 

対人戦が十分こなせることを前提とした上で個性を上手く使える者がプロヒーローになれるのでは。マンダレイにしたって姉さんにしたってなんだかんだいって有用な個性を持っている。

 

正直僕はそんなにヒーローに詳しい訳では無いので断言は出来ないけど、そういうもんなんじゃないの?

 

だがしかし姉はそんな僕に得意げに笑いながら首を横に振った。

 

「そうね。それは正しいわ。一般的にはそうだけど、中には例外もいるのよ」

 

「例外?無個性でヒーローになった人がいるってこと?」

 

「まあ……そんなとこよ。似たようなもんね。あんたいくらヒーローに興味がなくてもサーナイトアイくらいは知ってるわよね?」

 

「ごめん知らない」

 

 

誰だそれ中二病の人?右目が疼くとか言ってそうな名前だけど。けっと嘲笑う僕に姉がため息をついて、ヒーロー名なんてみんな恥ずかしいもんよ、と呟いた。そうかもしれない。それで?その人がどうしたって?

 

「オールマイトのサイドキックだった人なの」

 

「オールマイトの?じゃあ結構すごいヒーローなんだ」

 

「まあそうね。でも私が何がすごいと思ったかって、サイドキック云々じゃないのよ」

 

「へぇ。そいつの個性は?」

 

「予知。未来予知。他人の生涯を記録したフィルムを見られるみたいね」

 

 

何それ、強くね?めちゃくちゃ強個性じゃん。どこが無個性だよ。胡乱な顔で姉を見ると姉はちっと舌打ちをした。最後まで聞けって?はいはい。じゃあ続きをどうぞ。で、そいつが無個性の話とどう繋がるんだよ?姉は難癖つけようとした僕を一睨みで黙らせるとささっとスマホを操作して検索を始めた。

 

 

 

 

「サーの個性の詳細については置いておくわよ。重要なとこだけ読むわね、『 サーが一度見た未来は絶対変わらない。変えようと動いても最終的には"見た"通りの結果になる 』」

 

「……うん?」

 

 

ん?サーが予知した未来は絶対に変わらない?この文章がなんだかやけにしっくり来ない気がするのは気のせいだろうか。なんかおかしくね?姉が見ているサイトの信憑性はどれくらいのものなのか。ネット特有のガゼネタなのでは。

そのサイト信用出来んの?と聞くとかなり大手のサイトだし信用出来ると思うけど、と答える姉。……うん。疑わしい目をする僕に、微妙な顔をする姉。日本最大級のヒーローオタクサイトらしい。信憑性もかなりのものとのこと。ほぉん。まあいいけど。

 

 

「いいこと、色々言いたいことがあるのはわかるけどそれは一旦置いといて。とにかく今ので分かるのは、つまり彼が無個性同然ということでしょ」

 

「…………あー要するにそもそも未来が変えられないのに予知する必要も意味もないって言いたいの?」

 

「そうよ。どうせ変えらんないのに見ても意味ないじゃないの。サーに未来伝えられても心構えくらいしか出来ないでしょ。しかも1日1回しか使えないのよ。つまりサーの個性は全くの役立たずってことで……」

 

「待って、なんか色々おかしい気が……」

 

「変えようと動いても問題の先延ばしのようになるだけで結末は絶対に変わらないってサー本人が言っていたようね。ソースは確かなようよ。つまりサーが敵と戦う時に相手に負ける未来が見えたら何をどうしようが負けると」

 

 

スマホをいじる姉が疑問を口にしようとした僕をさえぎった。いや待て。それでもおかしいから。色々変だから。

 

 

「そもそも結末ってなに?他人の生涯が見えるんだろ?結末がどこかって誰が決めるんだよ。それに誰かが未来阻止しようとして動いたらその時点でもう未来は変わってるんじゃ」

 

「うるっさいわね!そんなん知ってんのよ!私だって最初に聞いたときおかしいと思ったわよ!君は明日日本で通り魔に殺される!って予知された人がその日のうちに荷物まとめてブラジルに引越したらどうなんのよとか思ったわよ!」

 

「その場合は飛行機のトラブルとかが起きてそもそもブラジルに行けないんじゃない?」

 

「じゃあその飛行機に乗るはずだった人たちも全員行けないわね。その人が予知を知らなければブラジルに行こうとしなかった。つまりサーが予知しなかったら飛行機トラブルで大勢の人が迷惑することもなかったのね。てことは大局的に見れば未来は変わってる上にめちゃくちゃ迷惑野郎じゃないの!」

 

「ていうかそもそもサーの個性って未来予知じゃないんじゃないの。自分が見た未来を確定させる個性とか?」

 

「はんっ、そうだとしたら余計にたまったもんじゃないわよ。どちらにしてもとんだ迷惑野郎なことには変わりないじゃない。いい予知ならともかく悪い予知なんてされた日にはサーを殺して個性を消すしかないわ」

 

「それはヒーロー候補生の台詞じゃないよ姉さん」

 

 

話がどんどん迷走していき、ついには僕の適当な推論に将来有望なヒーロー候補生のはずの姉がヴィラン顔負けの発言をかました。次いで、考え出したらキリがないからサーの個性の検証は置いておく!分かったわね!とドスの効いた声で僕を脅したので釈然としないながらも頷くと、姉は大きく息を吐いてソファーに座り直し脱線しかけた話を元に戻した。

 

「そもそもサーの個性は1日1回しか使えないのよ。使いどころが難しくて何にせよあまり役には立たなさそうだし……っていうかそれはいいとして、そんなサーがどうやってヒーローになれたのか、今までどうやってヒーローとして戦ってきたのか。今はそこが問題でしょ、違う?」

 

「まあそうだけど。……ん?…え!なに、まさかその人素手でここまでのし上がったとかそういう?」

 

予知したところで未来を変えることは出来ない。つまりサーは自分が戦う敵の未来を予知したところで、負けるという未来が見えたらどうしようもないということだ。

だがサーはプロヒーローとして第1線を張るどころかオールマイトのサイドキックまで務めて活躍してきたという。それはそんじょそこらのヴィランなんざ蹴散らしてきたということであり、例え戦いの最中で予知を使ったところでサーがヴィランに勝つ未来は確定していたという事だ。

 

要は予知なんざなくてもサーは素で大多数のヴィランに勝てるだけのフィジカルを持っていたということになる。いやいやいや。えぇ……まさか。

 

 

「そうよ。彼の凄いところは素の強さ。生身でヴィランをぶちのめすその圧倒的強さなの。巷ではフィジカルお化けと言われているみたいだけれど……、えーと、サポートアイテムは5キロのハンコ。それをぶん投げて巨体のヴィランを吹き飛ばしたり……」

 

「吹き飛ばす!?」

 

え、なに、ゴリラなの?予想の斜め上を行く馬鹿げた戦闘能力に僕は愕然とした。やはり世の中は広い。人間の可能性も無限大だ。どんだけ鍛えたんだサーナイトアイ。中二病とかバカにしてごめん。すごいな。まだまだ僕も世間知らずだったようだ。どんな世界にも達人はいるんだな。プロってすごい。

 

 

「強すぎじゃない?絶対その人個性なくてもやっていけるよ。むしろ個性の方がおまけみたいなものじゃないか」

 

今の話でサーの個性の謎とかどうでもよくなった。むしろ傍迷惑かもしれない個性を封印した方が世のため人のためなのでは。

 

「そうね、まあサーのレベルに達することは並の人にはできないと思うけど、ある程度才能があればそこそこはいけるはずよ。この前現役ヒーローの人の話を聞く機会があったんだけど、個性が弱くても体鍛えて工夫して個性が弱い分頭をうまく使ったりしてヒーロー免許を取った人も少数だけど居るみたいだし」

 

「じゃあ無個性でも頑張れば可能性はあるってことか」

 

「そりゃあね。でもまあやっぱりハンデは大きいわよ。なれる可能性は個性持ちに比べて圧倒的に低いし、たとえなれたとしても大して活躍は出来ないかもしれないし、なによりヒーローは命張った仕事だから個性持ちに比べれば危険も増すと思うわ。……サーナイトアイは例外中の例外だしね」

 

そう話をまとめる姉はそこでふと訝しげな顔で僕を見る。

 

 

「それなりに興味深い話だったわね。でも何でいきなり無個性云々言い出したの?」

 

「今日無個性でヒーローになりたがってる奴と会ったから」

 

「あら無個性。珍しいわね、まあ頑張れば可能性は皆無じゃないけど……」

 

 

そう言ったあと、姉はふと真顔で僕に向き直った。

 

 

「ああ、だからあんた、私にこの話をしたの」

 

「まあね。この話題を出す相手は姉さんが最適だろ」

 

 

 

そう、姉が自分の個性を心の距離をいじれるものであると把握したのはつい最近である。

それが分かる前までは、姉は言い換えれば他人に好かれやすいだけの無個性、みたいなものだった。つまり、姉がヒーローになれる可能性はとても低かったということだ。無個性並みに。

 

 

「そうねぇ。私は無個性みたいなもんだったし、可能性がすごく低いのも理解してたわよ。でも諦めたくなかったから必死に努力したの。もしかしたらなれるかもしれない、他の凡人にはできなくても私ならってね。ヒーローになるのに役に立たない個性だって分かってたけど個性の訓練だって手を抜かなかったわよ?私の個性の幅が広がったのは偶然なんかじゃないわ、私の努力の賜物よ」

 

「今の話、あれだけスラスラ答えられたのは昔姉さんが自分で調べたことだから?」

 

「そうよ。この私に1番ふさわしい職業をヒーローだって決めた時から、無個性同然でもヒーローになれるのかを必死で調べてたわ。人気ヒーローだけじゃなくてマイナーなヒーローも探して、弱個性でもヒーローやってる人がいないか探したの。で、私と似たような人達を見つけてその人たちがどうやって個性の優劣っていう弱点を補ってるのか分析したのよ。ママにお願いしてアポ取って話聞きに行ったことも何回もあるわ」

 

 

誇らしげな顔をして姉はそう力強く言いきる。僕はその姿を見て数秒黙り込んだ後、小さくため息をついて皮肉っぽい笑みを浮かべた。まあ。最低最悪の姉ではあるが、そこだけは認めている。

 

 

 

「…知ってるよ。僕は姉さんのことは大嫌いだけど、そういうとこだけは素直に尊敬してるんだ」

 

「あーら知ってたの。ついでに私はあんたのそういう、何もかもお見通しです、みたいなとこが大嫌いよ。いっつも涼しい顔しやがって」

 

 

嫌味混じりの言葉を交わして、僕と姉の目が合った。互いに静かに相手の顔を見つめる。姉の青い瞳は凪いでいた。思えば、姉とこういう話をするのは初めてかもしれないな。こんな機会はそうそうないだろうし、昔から気になっていたことを聞くことにした。

 

 

「たとえヒーローになれたとしても人気ヒーローになるのは難しい。それが分かってたのに何で姉さんはそれでもヒーローになろうとしてたの?」

 

そう、姉の目的は、皆から尊敬されて高収入高ステータスなヒーロー兼芸能人になって世間の憧れの存在になりたい!である。なのに何故だろうか。昔からそこが地味に謎だったのだが。

 

そんな問いに姉はふっといつもの自信に満ちた輝くような笑みを浮かべて自慢の艶々な金髪をファサァッとかきあげる。

 

 

「ふんっ、そこらへんの凡人共と一緒にしないで欲しいわね!ヒーローとしてやっていける最低限の力さえ身につけれたら例え戦闘面で他に劣っても上にのしあがることは、この私なら可能よ。色々とやりようはあるんだから。戦闘で劣る分、作戦立案とか指揮とか敵の分析とかの能力を磨いて、そういうのが苦手だけど戦闘は得意っていう脳筋とチームを組めば活躍できて人気になれるわ!頭を使うのよ頭を!!ついでに私は可愛いのよ、他と比べて人気も出やすいはず」

 

「へぇ。そういうのって事務所の人とかがやるのかと思ってた」

 

「まあ事務所の人に任せる人も多いわね。でも別にそうしなきゃいけないわけじゃないのよ。そういうのを自分でやってるヒーローもいるし、周りが了承してくれれば問題ないわ。それに私の個性は『魅了』だったわけだし。説得には自信があったのよ」

 

「なるほどね」

 

 

なるほど。よく調べている。そこまで言い切ると姉は少し皮肉っぽい笑みを浮かべて僕を見た。

 

 

「そういえばあんたは個性に恵まれてるわよね。ヒーロー目指しても十分やっていけるはずよ」

 

「まあね。だって僕だし」

 

「はんっ。これだから昔からあんたが嫌いなのよ。同じ親から生まれたのに何であんただけ強個性なのかってずっと思ってたわ。弟のくせに生意気なのよ」

 

 

僕を敵視するのってそれが理由だったの?そう聞くと姉は僕を鋭い目で睨みつけて短く肯定する。そうか。そうだったのか。僕は姉の瞳を見つめ返して軽く息を吐いた。

 

 

「いや嘘だよね。僕の個性が発現する前から僕のこと嫌いだったよね。僕が物心つく前から嫌がらせしてたじゃないか」

 

なにを被害者面をしてるんだ。お前の性格が悪いのは自前だ。僕のせいにするな。鼻で笑うと姉はチッと軽く舌打ちをして唇の端を吊り上げた。

 

「よく分かってるじゃない。でも完全に嘘じゃないわ。これはあんたが嫌いな理由のひとつよ」

 

「それはそれは。光栄だね」

 

 

姉と僕は静かに睨み合った。

 

 

 

 

 

「綺羅ちゃん、統也!カズくんたちを起こしてちょうだい。子供はもう寝る時間よ。寝支度させなくちゃ」

 

リビングに顔を出した母の声が僕たちの睨み合いを中断させた。時計を見るといつの間にかかなりの時間が経っていたようだ。次いで叔母がリビングにやって来て仲良く眠る従兄弟を見て、あらあらと相好を崩す。

 

「いいのよ、綺羅ちゃんたち。あとはおばさんに任せて、あなた達も部屋に戻りなさい」

 

 

それではお言葉に甘えて。僕は大人しく2階へと引っ込み洗面所の使用権を巡って姉と争ったあと、目覚めたらしい従兄弟が叔母に叱られながらも騒ぐ声を聞いて、モンスターが襲来する前に急いで自室へと引っ込む。

 

そして寝る前にスマホで調べたサーナイトアイが僕が想像していたオールマイトみたいなムキムキマッチョではなく、むしろかなり細身のインテリ系の男だったことに驚愕して、自分の中の常識が1部破壊されたのを感じた。

 

 

 

 

 




姉は努力型。弟は天才型。

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