僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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中学生
第13話


長いようで短い春休みが終わり、僕は中学生になった。3校が1つに合併されたことでなかなかの大所帯となった折寺中学に入学してから既に約1年が過ぎ去ろうとしていて、

小学校での経験、僕と同じ桜庭小学校出身者、またこの地域でのちょっとした有名人である姉の知名度やらなにやらを上手く利用した僕はここでもカーストトップに上り詰めることに成功し、現状にそれなりに満足していた。

まあ少し誤算もあったが許容範囲内ではある。その誤算は何かと言うと、

 

BOOM!!

 

昼休み、突然廊下に響き渡った大きな爆発音に、僕の周りに集まっていた同級生達の肩が跳ね、一瞬の驚きから醒めると一様にうんざりした顔になって廊下へ目をやった。教室で彼らと話しながらスマホをいじっていた僕もまたかと思いつつそちらへ目を向ける。

 

案の定、そこには手の平から煙をたたせた金髪のツンツン頭に鋭い赤い目をしたガラの悪そうな少年が子分を2人従えて、目の前で尻もちをついている緑のモサモサ頭にいかにもインドア派な気の弱そうな見た目の少年を睨みつけていた。そう、彼らこそが僕の誤算である。

 

「チンタラ歩いてんじゃねえよデク!邪魔だどけカス!」

 

「ご、ごめん……!」

 

 

お察しの通り彼らは僕が春休みに河原で会った2人である。例のガキ大将と無個性くん。またの名をツンツン頭とモサモサ。本名を爆豪勝己と緑谷出久といい、なんと彼らは僕と同い年だったようで、中学が合併されたことによって僕の同級生になっていたのである。

 

入学して1週間も経たないうちに無駄に目立つ爆豪勝己のお陰で僕はモサモサの存在を発見しかなり驚いた。まじか。同級生だったのか。

 

それなりに衝撃を受けた僕は早速その日の帰り道でモサモサに接触することに成功し、驚くモサモサに笑顔で自己紹介をした。どうも、速坂統也です。

 

するとどうやらモサモサは去年の雄英体育祭を見ていたらしく、姉のことを知っており二重の意味で驚かれた。弟さんなんだ!どおりでよく似てるね!

やめろ、似てない。顔をよく見ろ。似てるのは雰囲気だけだ。

 

そういえばこの前言ってた幼馴染ってあの爆豪勝己のこと?と聞くと気まずげな顔で首肯され、もうかっちゃんのこと知ってるんだね、と言われたので、そりゃあね、有名だからね。と返しておいた。

 

嘘じゃない。実際爆豪勝己は有名だった。悪い意味で。

悪名高いとでも言うべきか、その一癖も二癖もある性格や傲岸不遜で粗暴な態度のおかげで爆豪勝己の校内での知名度は僕をも上回る勢いである。そしてついでにいうと目の前のモサモサもとい緑谷出久も別の意味で同じぐらい有名人であった。

 

これに関していえば彼は全く悪くない。悪いのは全て爆豪勝己だ。要するに彼は、悪名高い爆豪勝己が目の敵にする相手として、そして爆豪勝己が無個性のくそデクが!などと大声で罵倒するので、珍しい無個性の人間として、入学して間もなく二重の意味で有名になったのであった。

 

そしてそのふたつの理由によって彼は既にクラスメイトから遠巻きにされつつある。さすがの僕も同情するよ。踏んだり蹴ったりだな、緑谷。

 

帰り道、例の河原に緑谷を誘った僕は前回の続きの話をしたのだが、結論からいえば緑谷出久という人間はやはり興味深い人物であった。

 

ヒーローになりたい理由は小さい頃どんな困ってる人でも笑顔で助けるオールマイトに憧れたから。

 

ヒーローになりたい云々の話になると、緑谷の口は途端に重くなったが、彼は僕が無個性を馬鹿にしない心の広い優しい人間であったということを思い出したのか、その後何度も帰り道で接触して河原に連行して話すということを繰り返すうちに、時間が経つにつれて僕に心を開いたらしくポツポツと打ち明けてくれるようになる。

 

本当は分かってるんだ。と、彼は言った。無個性の僕なんかがヒーローになれる訳ないって分かってるんだよ。

 

彼は悲しそうに顔をゆがめて俯いて、ぽつり、とそうこぼした。

 

その姿は、春休みに爆豪勝己を馬鹿にした僕に腹を立てた勢いで高らかに最高のヒーローになりたいと宣言した力強い姿とはかけ離れたもので、全くの別人のようだった。

そのギャップは面白く緑谷出久は、そろそろこいつに構うのもやめようかと飽き始めていた僕の興味を再び引くことになる。

 

 

「分かってる。周りのみんなが正しい。見ないようにしてるだけで本当は僕だって分かってるんだ」

 

週に1、2回、河原で話すようになって半年ほど経ったある日、彼はうじうじとうずくまりながら小さく呟いた。僕は口を挟まずに黙って彼の独白を聞いていた。

 

「……でも。それでも。どんなに馬鹿にされても僕は……」

 

「ヒーローになりたいんだね」

 

 

途中で消えていった彼の言葉の続きを穏やかな声で引き取ると、緑谷出久は今にも消え入りそうな姿で俯きながら微かに頭を上下させる。

 

思うに、彼は中途半端な人間なのだと思う。もう少し弱く、またはもう少し強く生まれてくれば幸せになれたのかもしれないね。

 

緑谷出久は気が弱く常におどおどとしているが、ここ数ヶ月話しながら分析した結果、僕は彼が本来は意思の強い人間なのではないかという結論に至った。

 

だが彼には致命的に運がなかった。1つ目は無個性として生まれてきたこと。2つ目は無個性にも関わらずヒーローに強い憧れを抱いてしまったこと。3つ目は幼馴染みがよりにもよって爆豪勝己であったこと。

 

1つ目と2つ目は説明するまでもないので3つ目について詳しく語ろう。爆豪勝己。このツンツン頭の存在は緑谷出久という人間を語る上で欠かすことが出来ない人物だ。

 

爆豪勝己は才能には恵まれたが性格には恵まれなかった男である。僕とはまた違ったベクトルで性格が悪い。あー…いや、嘘嘘。やっぱり僕なんて奴の足元にも及ばないよ。ははっ、アイツに比べたら僕の性格の悪さなんてかすむかすむ。

 

まあそれはさておき、爆豪は確かに最低最悪な性格をしているが、ある意味裏表がない性格であると言いかえることも出来るかもしれない。

 

つまり絶望的なまでに世渡り下手なのだ。僕の姉に師事して世渡りのイロハを叩き込んでもらうといいよ、と言いたくなるくらい生きづらそうな奴であり、賢く世間の荒波をスイスイ泳ぐ僕のような人間からすると涙がちょちょぎれそうなタイプである。

 

そんな彼だが、緑谷出久との相性は最悪だった。

 

同い年で同じ夢を持つ少年である彼は飛び抜けて凄く、才能溢れるその姿は、緑谷出久にまざまざと自分との差を思い知らすばかりであるのに加えて最低の性格の持ち主であるので、緑谷は幼い頃から常に爆豪に酷く馬鹿にされ続けた。

 

ガキ大将であった爆豪にのせられた周りもそんな緑谷をバカにし続けたと、彼の話を聞き現状を見る限りではそう推測できる。

 

そんな環境で育った緑谷は自分を卑下しながら育ったのであろうが、幸か不幸か彼は通常より少し意思の強い人間であったようだ。緑谷の意思は完全には折れなかった。が、そこまで意志が強い訳でもなかったため、完全には折れなかったが中途半端にへし折れて燻っているのだろう。

 

それが今の緑谷の状態なのではないかと僕は推測する。だからさっき僕は、緑谷はもう少し弱くまたはもう少し強く生まれてくればよかったのに、と言ったのだ。

 

もう少し弱ければ完全に意思は折れてヒーローをキッパリと諦めて別の道へと邁進することが出来ただろう。

そしてもう少し強ければ周りの逆境を跳ね除けて夢に向かって全力で突き進むことが出来たはずだ。例えば僕の姉のように。

 

まあ姉と緑谷は環境からして違うが、おそらくもし姉が緑谷だったら爆豪勝己なんざ蹴り飛ばして我が道を爆走していたはずだ。

 

バカにされたり虐められたりしても周囲の人間を上手く味方につけて逆に爆豪を孤立させ、高笑いしながら批判を蹴散らして夢に向かって一直線に突撃する姿が目に浮かぶ。奴の意思の…執念の強さをナメてはいけない……、いや、姉の話は今はどうでもいいんだった。そうそう、緑谷だよ緑谷。

 

まあつまり、中途半端に強く生まれてきたおかげで現実とのギャップに苦しんでいるのが緑谷出久という人間ではないかと僕は思うのだが。

 

というか姉といい緑谷といい爆豪といい、なぜ皆揃いも揃ってヒーローになりたがるのだろうのか。何がそんなにいいの?僕には理解ができな……、

 

 

「おい速坂。速坂!」

 

 

「……え?ああごめん。どうしたの?」

 

 

長い回想をしながらボーッとしていた僕は、隣の奴に肩を揺すられてハッと我に返った。何かあったのかと隣を見ると、彼は嫌そうな顔で教室のドアの方に向かって顎をしゃくる。え?あ。

 

 

BOOM!!

 

 

「無視してんじゃねぇぞサイコ野郎ォ!!」

 

 

促されてそちらに目をやると、ズカズカと僕の教室に乗り込んできた爆豪勝己が怒りに燃える赤い瞳で僕を睨みながら勢いよく目の前で僕の机を爆破したのだった。黙れ蛮族。僕の優雅な昼休みを邪魔するな。

 

 

 

 

 


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