僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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もしかしたら後で修正するかも


第14話

ああ、そうそう。言い忘れていた。もう一つあったよ、誤算。折寺中での僕の最大の誤算。まあ正確に言えば忘れていたというか、あまりにも忌々しいので思い出したくなかっただけなのだが。あれに比べたら人畜無害な緑谷との再会なんて実に些細な問題である。

 

その“ 誤算 ” が自らこちらに向かってやって来るのを見て僕は眉間に皺を寄せた。一体どういう心境の変化だ?あれ以来当分僕には近寄ってこないものだと思ってたんだけど。

 

BOOM!!

 

「無視してんじゃねぇぞサイコ野郎ォ!!」

 

僕の机の周りには5人ほどの同級生が集まっていたのだが爆豪が机を爆破する直前、僕を含めた全員が素早く後ろに身を引いたため爆風に吹き飛ばされた者も爆破の瞬間の光で目にダメージを負った者もいなかった。ちなみに驚きや恐怖でひどく心をやられた者もいない。心身共に全員ほぼ無傷である。

 

爆豪が僕に絡んでくるのはこれが初めてではないので皆もう慣れたらしい。まあそれでも前回大問題に発展したこともあり、今日は周りの雰囲気が以前と比べてかなりピリピリしているけれども。

 

大きな焦げ跡が出来た机からはもくもくと煙が立ち上っていて、不運にもそれを吸い込んでしまった数人の女子がごほごほと咳き込んだ。

 

さあて、今回はどう対処しようか。それにしても懲りないよねコイツも。いや、一応懲りはしたのか。前回の絡みから数ヶ月ほど経ってる訳だし……。でもなぁ、それにしてもなぁ。きっと喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこういうことなのだろう、っておっと。

 

 

「避けてんじゃねぇよカス!」

 

腹いせに再び哀れな机を爆破した爆豪は机を蹴り飛ばして横にどけると、そのまま右手を振りかぶって僕を睨みながらそう吠えた。バチバチと手の平から火花が散って軽い爆発が起こり小さな爆音が幾度も教室に響き渡る。

 

 

「何言ってんのお前。避けてあげたんだよ、感謝しろよ」

 

「ああ゛!?」

 

 

しっかし相変わらずみみっちいなー、爆豪は。

 

変な所で小心者の彼は結局、爆破の個性を直接人に当てることはしないのである。彼が個性を使うのは手のひらで爆発を起こして人を威嚇する目的が主であり、酷い場合でも相手の体の近くで爆発を起こすことで、生じた爆風を上手く使い相手を軽く吹っ飛ばすレベルで留まっている。

 

それがセーフかアウトかと聞かれたら限りなくアウトに近い……というかぶっちゃけアウトなのだが、少なくとも相手に致命的な怪我は負わせていないので、最後の一線は越えていない。……おそらく。多分。きっと。

というよりも見る人が見たら完全アウトなのだが、まあ見て見ぬふりもギリギリ出来なくはないレベルだといったところなのだろう。

 

ただまあやはり威嚇の爆破でも爆風を利用した爆破でも、相手が心に傷を負うこともある上に一歩間違えば大変なことになるわけで、危険な行為であることには変わりはない。というか今まで何事もなくやってこれたのは奇跡だ。周りの大人は一体何をしていたのだろうか。働け。

 

 

高まる怒りに呼応して次第に大きくなる爆発音を綺麗に無視し、僕は後ろの机に軽く腰かけながらにんまりと薄い笑みを浮かべた。

いくら個性と怒鳴り声で脅したところで無意味だから。お前に直接人に当てる度胸がないことくらいもうとっくに知ってるんだよ。

 

爆豪に何か言う隙を与えずにすかさずそう煽ると、赤い瞳に宿る殺意が膨れ上がる。爆発音も大きくなる。でもそれだけ。爆豪勝己はそれ以上どうすることも出来はしない。だってみみっちいもんね!クラスメイトを爆破なんてしたら大問題だもんね!そんでもってお前は前回僕に絡んだ時にそれを身をもって知ったもんね!今の爆豪にできるのはせいぜいが威嚇目的の爆発だけである。それ以上は無理。

 

僕は心の中でそう嘲笑った。口には出していないはずなのだが顔には出たらしく、爆豪の顔が更に歪む。

 

 

「適当なこと抜かしてんじゃねェぞクソが!前みたいにテメェがピーピー泣き喚かねぇように気ィ使ってやってるだけだわ!」

 

「あーそうなんだー。じゃあお前も少しは成長したってこと?まあそうだよねぇ、だってこの前は当てるつもりなかったのに狙いが狂って僕に当てちゃって青ざめてガタガタ震えてたもんねぇ。個性のコントロール頑張ったんだ?前回よりは使いこなせるようになったんだね、おめでとう。祝電でも送ろうか?」

 

「ぁああ゛!!?何ほざいてんだテメェまじで殺すぞこのクソサイコ野郎!!俺が個性使いこなせてねェわきゃねェだろうが!!あれはテメェの……っ!」

 

 

ブチギレた爆豪が喚くのを遮って、僕はガツンと焦げた机を軽く蹴り飛ばした。個性をかけられた机は軽く蹴られただけとは思えない程の速度で爆豪までの短い距離を詰め、反射的に手をかざした爆豪が爆破しようとする直前で動きを止めて床に落ちる。ああ、僕も個性を大分使いこなせるようになったもんだ。

 

ちなみに僕の個性は動いていないものを動かしたりはできないし、逆に動いているものの速さは自由に操ることが出来るものの、速さをゼロにすることはできない。が、ゼロに限りなく近づけることは出来るので、こんな芸当も可能というわけである。

 

今の一連の出来事にただでさえ凍り付いていた教室内の雰囲気が更に緊迫する。警戒を高める爆豪の顔を見て僕は冷たく唇を歪めた。前回の出来事は爆豪勝己にとっても不愉快な記憶なのであろうが僕にとっても最悪に不愉快な出来事である。

 

 

「言いがかりはよしてくれるかな、見苦しいよ。お前が言うことには何の信憑性もない上に何をどう言い繕ったところで加害者はお前。ていうか僕に文句つけれる立場なの?停学になりそうなとこを救ってあげたのは誰だと思ってるんだか」

 

「ハッ、ほざいてんじゃねえよクソ!停学になりそうなのを救ったんじゃねェ、救わざるをえなかったくせに偉そうなこと抜かしてんじゃねェ!!この俺を陥れようなんざ100年早ぇんだよ!!残念だったな性悪腰抜け野郎!策に溺れた気分はどうだカス!」

 

 

……っ、ああ、腹が立つ。

 

瞬間、僕は体の奥から込み上げてきた激しい感情を理性で無理矢理抑え込み大きく深呼吸をした。落ち着け。ここで感情を爆発させたところで何の得もない。今は耐えるときだ。切り札というのは最大の効果が見込めるタイミングで切るべきものであり、残念ながら今はその時じゃない。

 

だが覚えておけよ爆豪勝己。僕は執念深いんだ。お前の弱みは既にいくつか握ってるし、しかもその数は今後さらに増えていくだろう。忘れた頃に爆弾を放り投げてあげるから、せいぜい10年後を楽しみにしていて欲しい。派手に演出してやるよ。

 

ふーっと長く息を吐き出し、荒立った感情を抑え込むことに成功する。一瞬の激しい苛立ちは表には出していないつもりだったがまだまだ僕も未熟だったらしい。瞳孔開いてんぞ、と爆豪が嘲るような声を上げた。こころなしか嬉しそうだ。そうか、思えば彼との絡みで僕がそういう激しい感情を露わにするのは初めてかもしれないね。ははっ、よかったね、満足した?

 

ふっと笑って僕は爆豪から視線を外した。あーあ、馬鹿らしい。時間の無駄だな。そんな態度に拍子抜けしたような間抜け面を晒す爆豪を無視して、僕は彼の足元に転がった自分の机を引き起こし元の位置へと置き直した。次いで、友人に声をかける。

 

「復原。悪いんだけどこれ直してもらえる?」

 

「……ああ、いいぜ」

 

 

強張った顔のクラスメイト達の中で1人どこか面白がるような表情を浮かべていた彼は僕の頼みに頷いて近寄ってくると、焦げた机を軽く撫でてから手をかざした。するとみるみるうちにぽわんと光った机が新品同様の状態に戻る。

 

復原涼介。個性は復元。無機物を新品同様の状態に戻すことが出来る。彼は別に時間を巻き戻している訳では無く、物についた汚れを完璧に落とすことができるとの事。彼曰くその“汚れ” の定義は広め。

 

幸いなことに “焦げ跡” は彼の中では汚れにカウントされるらしく、2度ほど爆破された上に持ち主に蹴り飛ばされるという凶行を受けた僕の机の復元は可能だった。ごめんね机くん、悪いのは全て爆豪なんだ。恨むなら彼を恨んでくれ。

 

ついでにいつの間にか倒れていた椅子も引き起こすと僕はそこでやっと爆豪に目を向けた。

 

 

「で、まだ何か用?何も無いなら自分の教室に戻りなよ。邪魔」

 

 

その言葉に何事か怒鳴ろうとした爆豪に先んじて僕はピッと時計を指さす。もうすぐ予鈴が鳴るよ。授業に遅れてもいいの?

 

不良ぶってるくせに変な所でみみっちい彼は、僕の言葉を裏付けるようにして鳴り始めたチャイムの音にグッと言葉を飲み込んで、覚えてろよクソが!と捨て台詞を残すと鼻息荒く去っていった。その姿に慌てたように、待てよ勝己!と、子分ふたりが追いかけていく。まったく、捨て台詞まで芸のない男だ。

 

爆豪が消えてから数秒経って、凍りついていた周りが漸く我に返ったらしく周囲に喧騒が戻ってきて、そこかしこから爆豪の悪口が聞こえてくる。声をかけてくる周りを適当にかわしながら席に着くと、復原がにやにや笑いながら僕の隣の席に腰を下ろした。

 

 

「災難だったな」

 

「まあね」

 

珍しく苛立ってるみたいだけど?とからかい交じりにかけられた声に鼻を鳴らして肯定する。そうだね。それは認めよう。でもお前はその理由を知ってるだろ。

 

「まあでも」

 

ピカピカに輝く机の上に教科書を引っ張り出して復原に笑いかける。

 

「最後に笑うのは僕だよ」

 

はいはい、分かったよ。こえーからその顔やめろ。復原は呆れたように首をすくめて両手を軽く上げた。

 

 

 

***

 

 

 

祖母と二人きりで暮らす復原の家は、余計な邪魔が入ることを心配せずに好きなことをするにはうってつけの場所だった。

放課後、復原の家によった僕は彼の祖母に挨拶をしたあと、持ち込んだパソコンを開きながら彼の部屋のクッションの上で胡座をかく。

 

復原涼介は折寺中で出会った僕の友人である。まだ知り合って1年も経ってはいないが、かなり付き合いやすい奴な上に利害関係が一致したというのもあり、現状では1番仲が良いといってもいい。

 

観察眼の鋭い復原はその慧眼で様々なことを見抜いてはいるが、だがしかし何を知っても自分に害がない限りお節介を焼いたり他人の事情に土足で踏み込んだりしない。つまりは賢い奴であり、また余計な正義感も持ち合わせていないドライな性格の彼は妙に僕と馬があった。

 

そしてここ最近僕と復原はある目的を達成するための下準備を彼の部屋を拠点として行っている訳なのだが、今日は作業開始前に彼に聞いておきたいことがある。

 

 

 

「昼間、爆豪が僕に絡んできたよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

「正直前回ああなったわけだし爆豪は僕にもう近づいて来ないと思ってたんだけど、何で今日絡んできたかお前知ってる?」

 

「……まあ、心当たりがないことも無いが」

 

 

そう言って復原が呆れたような顔で目を眇めた。お前もよくやるよな。と言われたので、僕は売られた喧嘩を買っただけ。と返すと、まあ前回は災難だったとは思うけどな。としみじみとした調子で頷かれる。

 

 

「ほんとだよ」

 

「いや、災難だったのはお前もだけど、爆豪もだよ」

 

 

可哀想に。呆然としてたじゃないか。

 

全く可哀想だと思っていない口ぶりで復原がそう言った。

 

 

 

 

 

 

約半年前の話だ。そう、あれは確か緑谷出久が僕に本音を吐露した少しあとの頃だったかな。緑谷出久という人間に対する分析を粗方おえた僕は彼に対する興味を失いつつあり、河原に誘うこともほぼ無くなっていた。その代わり校内で見かけた時はちょくちょく声をかけたりしていたのだが、まさかそれがきっかけでこんな事になるとは思っていなかったのである。

 

公然の場で緑谷と関わる以上、爆豪に目をつけられる可能性は想定はしていないこともなかったが、もしそうなった場合でもどうにでもなるだろうと高を括っていたのが間違いだったか。まあある意味僕にとっても人生経験を積むいい経験となったとも言えるかもしれない。

 

ここまでいえば分かるだろうが、お察しの通り僕が爆豪と絶妙に嫌な関係を築くことになった原因は緑谷出久だった。

こういうと緑谷が悪いみたいな意味にも取れるがそんなことは無い。例によって彼は被害者であり悪いのは爆豪である。

 

全ては、休み時間の廊下で僕と立ち話していた緑谷を爆豪が見つけたことから始まった。正確に言えば爆豪が見つけたのは廊下の端の方で立っている緑谷の後ろ姿であり、宿敵に気を取られた彼の視界に僕は入っていなかった。僕、緑谷、爆豪の順で廊下に一直線になる形だったと言えば分かりやすいだろうか。

 

廊下で突っ立ってる緑谷を見つけた爆豪はどうするか。因縁をつけるに決まっている。例によって例の如く彼は威嚇目的で個性を使用しながら緑谷の体すれすれに大きく振りかぶった腕を振り下ろし、そしてその腕は緑谷の前に立っていた僕に襲いかかった。つまり僕に気が付かなかった爆豪の不注意によるミスである。

 

ボサっと突っ立ってんじゃねェ!邪魔だデク!という罵声によって僕が緑谷の背後の爆豪に気付いた次の瞬間の事だった。目の前で突然強い光が閃いたかと思うと、次いで発生した爆風によって緑谷が僕の視界から消える。

 

横に吹き飛んだらしい緑谷をかえりみる間もなく、巻き込まれ事故にあった僕は眼前に煙と共に迫った爆豪の腕を咄嗟に下から蹴り上げ、個性によって強化されたスピードで蹴られた爆豪の腕は勢いよく上に持ち上がった。

結果、ものすごい勢いで挙手する形になった爆豪は大きく仰け反ってバランスを崩し、そこをすかさず足払いをした僕によって彼は地に伏せた。

 

仰向けに倒れ込んだ爆豪勝己は、だがしかしすぐに身を起こすと、一瞬何が起こったのか分からないという顔をしていたが流石に状況判断は早い。どうやら緑谷の傍に立っていたらしい僕が反撃をしたと悟ったと同時に口汚く罵りながら素早く立ち上がって体勢を整える。

が、彼が僕に何かする前に教師がやってくる音がして僕と爆豪の1回目の邂逅はここで終わった。

 

人通りの多い廊下である。固唾を飲んで見守っていた周囲の人間の誰かが教師を呼んだのだろう、爆豪勝己は盛大に舌打ちをしながらその場を去って行き、去り際に僕に肩をぶつけようとしたが僕は余裕でそれをかわした。

 

 

 

 

2回目の邂逅は案外すぐにやってきた。これもきっかけはまたもや緑谷である。あーいや、そうでもないのかな。まあいいや。

なにはともあれあの後、廊下の端にしりもちを付いたまま混乱していた緑谷に僕は声をかけずにその場を立ち去ったため、緑谷は僕を巻き込んでしまったと謝罪する機会を窺っていたらしい。

 

週末を挟んで月曜日、駅から学校までの道のりでどこか不安そうに佇む緑谷を発見した僕は彼に声をかけ、謝る彼に気にするなと言ったあと、共に登校した。その際彼に、週末にかっちゃんに速坂君のことを聞かれたんだ。と打ち明けられた僕は、特に意外でもなかったが情報提供には感謝した。

 

そもそも僕は定期テストの順位で爆豪を負かしたこともあり強個性の持ち主としても有名であったため、緑谷が言うにはどうやら爆豪は僕の名前には聞き覚えがあったようである。

まあそれはともかく、先週の出来事によって顔と名前が一致した僕が彼に目をつけられたのは間違いない。と、そこまで話した所で僕達はその張本人と交差点でばったり鉢合わせした。

 

流石に先週のような一触即発な事態にはならなかったが、一方的に敵視してきた爆豪のおかげで雰囲気は最悪を通り越しており、僕と爆豪はそこで初めて言葉を交わした。

 

いや、あれを言葉を交わしたと言っていいのだろうか。出会い頭に罵倒してきた爆豪に、朝っぱらから耳元で大声を出されてイラついた僕が皮肉や嫌味を返したため、段々と会話はヒートアップしていき最終的には爆豪が掌を爆破させながら怒鳴って僕が冷笑しながら皮肉を返すという罵りあいに発展し、僕は自分とこの男の相性が最悪だということを知った。

 

そんな記念すべき初会話は校門の前まで続きそこでお開きになったわけなのだが、それからというものの僕は自分が爆豪を見誤っていたことを身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 

 


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