僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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第17話

「その前に1つ聞いていいですか。あなたは何故僕にそんなことを?貴方と話すのはこれが初めてのはずだ。いきなりこんな子供にそんなことを言い出すのはおかしい。不自然です」

 

「まあそうだろう。たしかに私は君と直接話すのは今日が初めてだが、私は君のことを入学当初から知っているし君の動向は常に気にかけていた」

 

「それは何故」

 

「私の個性に関係がある。私には人のオーラが見えるんだよ。まあオーラといってもただの色ではない。その人物の…なんというか、危険度というのかな。そういうのが色でわかるんだ。

そして君は……まあ、なんというか、凄いね。敵に回さない方がいいとひと目でわかる。ちなみに雄英体育祭で見た君のお姉さんも同じくらい酷い色……失礼、すごい色をしていたよ。ところで君のお姉さんは自分を不合格にした雄英に世間の非難を向けることで報復をしたね。つまりただの子供と侮っていては痛い目を見るという訳だ。同じ色をした君を私が警戒するのも当然だろう」

 

どこか感慨深げに校長はそう言うと、ふぅと小さく息をつく。それから今まで君のことは折に触れて観察してきたんだ。だから多少は君のことをよく分かっているつもりだ。どうだろう、私の君に対する印象は間違っているかい?

 

「間違ってないですね。なるほど、個性ですか。納得が出来ました」

 

「よかった」

 

「では続きをどうぞ。貴方は僕と、一体どんな取引をするつもりですか」

 

 

僕と校長は互いに油断ならない目付きで視線を交わした。

 

 

 

***

 

 

 

「君の本性を知る私は、今回のことは君が爆豪くんを陥れたものだと思っている」

 

「そんなまさかまさか。言いがかりはよしてください。僕は被害者です」

 

「ふっ、さすがに警戒心が強いね。だがまあ安心してくれたまえ。それをどうこういうつもりはないよ。ただ、取引をする以上、君に利益を提示しなければならないからね。君の目的を推測するのは許してくれ」

 

「………………」

 

 

僕は肯定も否定もせずに無言で先を促した。

 

「仮に君の目的が爆豪くんを潰すことだとしよう。ここは公立だから退学はないね。最も重い罰は停学だ。停学になれば内申書にかなり響き、彼に重いダメージを与えることは想像にかたくない。故に君は爆豪くんを潰すにあたって停学を狙ったわけだ。だが公立ではそう簡単に停学にはならない。仮に彼が個性を用いて傷害事件を起こしたところで初犯であり、また彼が普段の素行が酷いにも関わらず特にお咎めなしということで謎のひいきをされていることから考えると、情状酌量の余地ありとして厳重注意程度で終わってしまう可能性も十分にある。

そこで君は一計を案じた。

君は彼にわざと君を傷つけさせ、かつ、それを彼に示唆することで、陥れられたことに気づいた爆豪くんが騒ぎ立てるように仕向けたんだ。

そうすることで、ただでさえ悪い爆豪くんの印象は更に悪くなり、彼のことを普段から煙たがっている人間がここぞとばかりに彼に追い打ちをかけて罪を重くすることなど、全て計算した上で彼を停学に追い込もうとした」

 

「……………………」

 

 

「末恐ろしい子だね。だが私は今回の真相は今言った通りだと信じている。まあ今言ったことはなんの証拠もないことだし、私の推測が正しいか間違っているかは置いておこう。しかし仮に推測が正しいとして、本当に彼がこれで停学になるかどうかまでは君には確信が持てなかったはずだ。ということは君は次点で、厳重注意を狙っていたことになる」

 

「……どうやら僕は貴方を見誤っていたようですね。随分と頭がキレるようで」

 

 

言外に彼の推測が正しいと認めた僕に校長は満足気な笑みを浮かべた。それで?そこまで分かっていて僕に何を提示するつもりだ?

 

 

「ですが1つ訂正を。僕は彼が停学になることにほぼ確信を持っていました。単純な彼の行動を読むのは難しくない」

 

「なるほど。さすがだね。まあそれはともかくだ。そこで私は考えた。教育委員会の言うことに従えば君を敵に回すことになり私の未来は危うい。だが従わなくても危うい。つまり1番いいのは爆豪くんに対する出席停止要請を取り消して彼の伯母の癇癪を抑え、彼に対する罰は君の次点の目的である厳重注意に留める。そうして全てを穏便に済ませることだと」

 

「良い判断だと思いますが。なぜそれが思い浮かんでいながら僕の所へ来たんですか」

 

「それはだね、もう既に学校側の意見は爆豪くんに出席停止を命じる方向に固まっているからなのだよ。それを突然私の一存で取り下げるのはさすがに状況からして無理があるんだ。普段から爆豪くんを嫌っている教師達はまず納得しないだろうし、彼らには反論材料が山ほどある。事件後の爆豪くんの態度やら普段の素行の問題やらなにやら、それを使って反論されるとこちらとしては何も言い返すことはできない」

 

「…………つまり貴方は僕に、出席停止要請を取り下げる判断ができる程度に彼らを抑え込むことが出来る言葉を言って欲しいと」

 

「そう。不必要に彼を煽りすぎた自分にも責任がある。実は自分は彼とは仲が悪く以前に喧嘩をしたことも何度もあるし、今回口論が始まったのも自分がつい出会い頭に彼を睨みつけて挑発してしまったのがきっかけだ。

つまり全ての責任が彼にある訳ではなく、半分は自分が悪いので彼が重い罰を受けることになったら罪悪感を感じてむしろ精神に負担がかかる。厳重注意程度で十分だ。あまり事を大きくしたくない。彼の両親には既に誠意ある謝罪をしてもらったので自分としてはこれで手打ちにしたい、と。

いささか無理もあるが、教師からの信頼が厚く公明正大な人物として好かれている君の言葉だ。なにより被害者の言葉だしね、そう無下にはできない」

 

「……まあ可能ではありますが、僕としてはかなり抵抗のある行為です。貴方もわかっていると思いますけど」

 

 

言いたいことは分かる。が、僕のプライドがそれを許すかといえばどうだろう。なんでわざわざ僕が頭を下げて爆豪を救わにゃならんのだ。それは酷く腹立たしい行為であり、絶対にそんなことはしたくない。

 

…………だが。

 

校長の提案は正直魅力的ではあるんだよね。このままだと僕まで停学になりかねない。そうなったらそうなったで報復として被害届を出して大事にしてやってもいいんだけど、さすがにそこまで大事になると僕にしても非常にめんどくさいことになる。

 

というかそれ以前に子供同士の喧嘩で軽傷だったのにわざわざ被害届を出すなんて普通はしない。僕の親もそうだろう。いや、もし姉が被害にあったのならもしかしたらありうるかもしれないが、あの両親がわざわざ僕のためにそんな面倒なことをするとは到底思えない。

 

まあ姉に頼んで両親を動かすという手もないではないが、その場合あとで姉にどんな要求をされるのか分かったものではないしそれ以外にも色々とリスクがある。

 

そしてそこまで考えると、わざわざ爆豪1人を追い込むためにそこまでやる価値はあるのかと疑問に思わざるを得ない。

 

まあもちろん校長が今夜うちに来ないで僕が裏事情を知らないまま爆豪と共に停学なんてことになっていたら、どんなに面倒くさくても報復していただろうが、現実問題、校長はいまうちに来て第三の選択肢を僕に提示しているのだ。

 

「そう言うだろうと思ってね。だからこその取引だ。君に利益を提示しようと思う。まず第一に内申書だ。この取引に応じてくれたら君の内申書に色をつけ、爆豪くんの内申書にはその反対のことをしよう」

 

「有難くはありますがわざわざ手を加えてもらえなくても僕の内申書は完璧です」

 

「だが爆豪くんの内申書にダメージを与えることは魅力的じゃないか?」

 

「警察沙汰にしてもダメージを与えることは出来ます」

 

「そうかな?君が知っているかは知らないが、君たちはまだ13歳なんだ。刑法第41条にはこうある。『14歳に満たない者の行為は罰しない』と。つまり13歳である彼は傷害罪として刑罰を受けることはないんだよ」

 

「補導歴はつくのでは。ヒーロー科への入学は不利になるでしょう」

 

「しかし警察沙汰にすると君も色々と大変だと思うのだがね。可愛い息子の頼みといえどさすがにご両親も難色を示すのではないのかね?」

 

可愛い息子……。いや、彼は僕の家庭事情なんて知らないのだから仕方がない。だがものすごく違和感がある響きだ。

 

「というかその前に暴力による警察沙汰1件、しかも補導歴が付く程度の事件で貴方の定年後が危うくなるっておかしくないですか」

 

「ただの暴力事件では無い。個性を用いているね。調べれば彼が個性を用いたいじめなどの常習犯であることも分かるはずだよ。そうなると事はそれなりに大きくなる。つまりその場合どうなるかは分からないが、確実に私にはリスクが生じるね。その上大事な甥の一大事だ。それを防げなかった私に彼の叔母が八つ当たり気味に制裁を下さないとは限らない。というか彼女なら絶対にやるね。断言できるよ」

 

「なるほど。いいでしょう。補導歴の代わりにそれと同程度のダメージを貴方が爆豪の内申に与えてくれると」

 

「そうだ。そして2つ目。こう見えても私は人脈が豊富でね。かなり幅広いんだ。取引に応じてくれた場合、君は私の平穏な老後を救ってくれた救世主だね。そして私は救世主の頼みなら大概のことはきこうと思う優しい心の持ち主だ」

 

「つまり僕はこれから先必要な時にあなたに頼めばその豊富な人脈を使うことが出来ると」

 

「そういうことになるね」

 

 

それは魅力的だ。素直に魅力的だ。ふーむ。だがひとつ疑問がある。

 

「そんなに人脈が広いなら爆豪の叔母ひとりくらい誰かに頼んで何とかできるんじゃないですか」

 

「彼女をナメない方がいい。ああ見えて凄いところのお嬢さんなんだ。実家の権力はかなりのものだよ。事を構えるのは得策とは言えないね」

 

「そうなんですか」

 

「あとはまあ、君が卒業するまで様々なことで便宜を図ってあげよう。以上の3つだ。どうかな?あまり時間が無いのでね、この場で返答してくれると助かる」

 

 

校長は全てを言いきって満足した顔でソファーに身を沈めた。

 

僕は今の話を十分吟味したあと、取引に応じることにした。腹立たしいが仕方がない。一応の目的、爆豪に制裁する。制裁を下すことで僕に近付いて来ないようにする。というのは達成したし、校長との取引には旨味が十分にある。停学にしてやれなかったのは残念だが仕方ない。問題は校長に取引を守る気があるかということだが、僕はこの会話を全て録音している。応じない場合はそれで脅してやればいいだけの話だ。

 

 

 

 

それから僕は約束通り爆豪嫌いの教師たちを抑え込み、校長は無事出席停止要請を取り下げることに成功した。教育委員会の方々から言われた通りよく調べた結果、様々なことを考慮すると少々処分が重すぎましたので云々かんぬん。校長はうまいことやったらしい。

 

爆豪は厳重注意を受けるだけに留まり、帰国して事情を聞いた僕の両親もそれに異存はなかった。爆豪の親が菓子折り持って謝罪し慰謝料を払ったので、それでこの件は手打ちになったのである。

 

爆豪側には、本来なら出席停止ものだが相手方のご厚意でこの程度で納まった。感謝するように、と校長は伝えたらしい。

だが爆豪伯母は爆豪親子に、僕が策を練って爆豪を停学にしようとしたが策がバレかけて一緒に停学になりそうになったため、慌てて学校側に爆豪の処分を軽くしてくれと申し入れたのだ!と偏見に満ちた裏事情を伝えたらしい。これは校長から聞いた。

 

ついでに爆豪が幼い時から続く彼の叔母の裏工作については爆豪親子は多分何も知らない。なぜなら、彼らがうちに謝罪に来た帰り、窓を開けて帰宅する彼らの姿をなんとなく見送っていた僕の耳に爆豪母のとんでもない発言が耳に飛び込んできたからだ。

 

 

「全くカツキ!あんたって奴はほんとに乱暴者なんだから!すーぐ個性に訴えるからこんなことになんのよ。はぁー、何でこうなっちゃったんだか。…………まあ、私ら両親以外の大人は、なまじ才に恵まれたアンタを盲目的にもてはやすばかりでさ、悪い所を見ようともしてくれなかったし、それでここまで来ちゃったんだろうね」

 

 

何とも頭に花が咲いた意見を堂々と述べる彼の母に、僕は爆豪がこうなった原因の一端を垣間見た気がした。なるほど。

 

 

こうして僕の対爆豪戦は終わりを告げた。

 

 

***

 

「はいはい、校長先生。どうしました?……ええ、はい。ああ、今日爆豪が僕に絡んで来ましたね。……ああ、彼に学校側から警告を出したんですか。ありがとうございます。これで当分は僕に近寄ってこないでしょうね。助かりました。……はい、こちらこそ。これからもよろしくお願いしますよ」

 

 

通話を終えた僕は復原の部屋に戻った。

 

 

「やっぱ今日爆豪が僕に絡んできた理由はいいや。近づかせない工作は終わったからもう興味無い」

 

「そうかよ。……つーかお前さっき目的は半分しか果たせなかったって言ってたけど、爆豪はあれでお前の生活から消えたんだ。目的は充分果たせたんじゃないか?」

 

「まさか。爆豪はね、馬鹿だからね、僕がアイツを救ったのは僕が策に溺れたせいだって思ってるんだよ。つまり失敗した僕をアイツはバカにしてんの、わかる?許せないよね。なにはどうあれ個性を使いまくってる自分が悪いとは思ってないんだよ。前回のはただの事故で卑劣な僕が自滅しただけだって思ってる。自分は被害者だってね。ざまあみろって思ってんだよ、ありえないでしょ?つまりさ、僕はバカにされてなめられてんだよね。マジでムカつく」

 

「でも効いてるにはきいてんじゃねぇ?だってあれからアイツ人を爆風で飛ばすことはしなくなったぞ。誘導されたとはいえ実際に人を傷つけたのは初めてなんじゃねぇか?だからたぶん怖いんだ。つまりお前は一応アイツの精神に傷を与えることには成功したわけだな。まー威嚇の爆破と器物損壊は相変わらずだけど。つーかどうせお前他にもなんかしたんだろ?爆豪が気づいてないだけで」

 

「まあね。アイツには大打撃かも」

 

 

「じゃあそれでいいじゃねえか。なんにも知らずに馬鹿なヤツって腹の中で笑ってりゃいいだろ」

 

「そうなんだけどね、そうじゃないんだよ。何も知らずに1人道化を演じてるのを見るのもまあそれはそれでいいけど、欲を言えば全てを知った上でダメージを受けてほしいかな。つまり何が言いたいかっていうと僕は何も知らないとはいえ爆豪に馬鹿にされてるって事実が我慢できないんだよ。いや我慢するけどさ、それでもやっぱ気に入らない」

 

 

そう言って舌打ちする僕に復原が意外そうな顔になった。なんだよ。

 

 

「お前ってそういうとこは子供っぽいよな」

 

「他が大人びてるから釣り合いが取れてちょうどいいだろ?あーあ、やっぱりムカつくなぁ!来年まで待ってもっと大怪我すればよかったかなあ!!」

 

「14歳以上は刑罰を受けるって?つーかお前さ、よく躊躇いなく自分を傷つけさせることが出来るよな。怖くねぇの?」

 

「怖くないとはいわないけど、必要経費なら仕方ないよね。なんの犠牲もなしに物事は変わらないのさ。それに腕1本火傷したとこで死にはしないだろ。痕残っても別に気にしないし」

 

「そんなんだから爆豪にサイコ野郎って言われんだよ」

 

 

やかましい。僕は手に持ったクッションを復原に投げつけた。

 

 

「まあ爆豪のことはもういいよ。今は計画に集中しよう」

 

「いや爆豪のこと言い出したのはお前だろ。まあいいけど。あと少しだな」

 

「そうだね、大分慣れてきたし、準備ももう終わるね」

 

 

僕は大きく息を吐いて頭を切りかえると、パソコンを開き直してキーボードに手をかけた。さて、爆豪のことは一応片付いたし、今はこっちに集中するとしよう。

 

 

 

 




伯母云々はオリ設定。爆豪にはUA行ってもらわにゃ話の都合上困るんや…

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